if【case 08】

もしも、過去が彼らを追うならば § イシュヴァールの英雄。 七年に及ぶイシュヴァール地方から始まった東部の内乱を終結させた立役者の一人。イシュヴァール最後の砦・ダリハ地区を陥落させた男。その指先から生む焔でテロリストたちを薙ぎ払い、多くの部下…

Twitter Nobel log 22

1051.それは私にだけ見せる顔なのか。それは私にだけ伝える言葉なのか。イライラする。ムカムカする。腹立たしいのは嫉妬のせいだと分かっているから余計に。私だけのものになってはくれないなら、私はただの副官でいい。1052.君の足の爪に色がついているこ…

overprotective

「言っておくが、私は怒っているのだよ?」そう言いながらロイはキュッと水道の蛇口を閉めると、濡れタオルを手に彼女の元へと歩み寄ってきた。 返す言葉を持たぬリザの目の前で、オールバックの髪をついでのように濡れた手で撫でつけたロイは、大将閣下の貫…

甘い言葉は血に満ちて

ハプニングはいつも、不意打ちでやってくる。 「ふざけるな! この偽善者め!」 警備の隙を突き壇上に駆け上がった男の叫びが、広い会場にこだました。続いてパンパンという小さな二つの破裂音がその場にいる者全員の耳に届いた。 「准将は! 准将はご無事か…

SCCありがとうございました!

早いものでスパコミから、もう一週間経ってしまいました。毎度遅い御礼で、申し訳ありません。 GWの貴重なお休みの日に、当サークルまでお運び下さった皆様、どうもありがとうございました。何時も何時も、沢山のお差し入れやお手紙、お言葉頂き本当にイベン…

café

ロイ・マスタング准将の一日は忙しい。東部を統べる長となった彼の職務は多岐に渡る。 イシュヴァール政策に専念したいのは山々であっても、それを実行する足元を固める為にその他の仕事が彼を拘束する。 そんな准将の傍らで、リザは相も変わらず彼の副官と…

Twitter Nobel log 21

1001.街角の何の変哲もない電話ボックスが、彼の視線を下げさせる。何の力も持たない私は、ただぼんやりと還らぬ人の笑顔の重さを思う。あの笑顔が暖めていた彼の心の一部に触れることを望む私は、何も出来ぬまま、彼とは違う意味で目を伏せた。1002.夜の中…

軍帽十番勝負! サンプル

この『軍帽十番勝負!』は、一四〇字SSS *「大佐、軍帽のつばが、おでこに当たるのですが」 「ああ、すまない」 「大佐、帽子を脱がれると、髪がぺちゃんとして変な頭になっていて気持ち悪いのですが」 「君は私にどうしろというのかね!」 *より派生し…

gloss over

「大佐!」 暖かな午後の昼下がり、東方司令部に呆れたリザの声が響いた。 心地好い午後の日差しの中、良い気分で船を漕いでいた彼女の上官は薄ぼんやりと目を開けると、面倒そうな様子を隠そうともせず彼女の呼びかけに答えた。 「何だね、中尉?」 「何だ…

Twitter Nobel log 20

951.言葉より雄弁な彼女の眼差しが欲するものを探して、今日も脳細胞を酷使する。言ってくれれば簡単なものを毎度推理しろだなんて、実はとんでもない我が儘だと彼女は分かっていないのだろうか。なぁ、すました副官の顔をした、困った私のお姫様? 952.彼に…

不可侵領域 ー ソファーのある風景 番外 ー

彼の部屋の明かりは、点けられないままであった。 ただ一灯、いつもは彼の穏やかな時間を照らしている筈の読書灯が、広いリビングに薄ぼんやりとした陰影を落としている。 薄暗い照明はリザに少し頼りない思いを抱かせたが、彼女はその感情を表に出すことな…

Dawn purple 番外

「よぅ、早いな。ロイ」 「何か用か? ヒューズ」 瓦礫に腰掛けた黒髪の男は声の方を振り向くことなく、遠く大地を遠く眺めていた。 夜明け前の荒野に吹き荒ぶ風に起こされ野営地をさまよっていたヒューズは、偶然見つけた悪友の背中に向かって近付きながら…

Twitter Nobel log 19

901.仕事に行きたくないな、と思う。行かなかったら上官がサボるだろうな、と思う。仕方ないから起きようか、と思う。隣でサボりたいな、と寝惚けた声がする。少し腹が立って、毛布を全部奪い取ってみる。間抜けな叫びが上がるのを、笑いをかみ殺して聞く。…

真夜中の駆け引き

「大佐、もう少し……」 真夜中の路地裏に、恥じらいを含んだ女の声が聞こえた。 ほんの小さな声で囁かれた筈のそのたどたどしい声は、本人の意思に反して夜の静寂にこだまし、女は恥じ入るようにそこで口をつぐんでしまった。その代わりに堪えきれぬように漏…

インテ御礼

インテから早くも一週間。毎度、お礼が遅くなってしまって申し訳ありません。 当日寒い中、会場までお運び下さった皆様、どうもありがとうございました。大阪はまったりゆっくりお話し出来る余裕があったり、コミケとはまた別の楽しみがあって嬉しいです。い…

パラレルSSS

Valentine's day 二月十四日という日付に期待を抱かない彼女持ちの男が、果たして世の中にいるだろうか? いいや、いるわけがない。 その日の部活の前の僅かな空き時間、増田はいそいそと生物学準備室へと足を向けた。 例年なら青春の麻疹にかかった女子高生…

冬コミ御礼

皆様、明けましておめでとうございます。気付けば一月も一週間以上が過ぎ、今年もあっという間に時間が過ぎそうで、今から怯えています。ひぃ。 本年も、どうぞよろしくお願い致します。 さて、遅くなりましたが、冬コミにて当スペースにお立ち寄り下さった…

SSS集 15

Out of territory 台所という場所は、常にリザのテリトリーである。例えそれがロイの家の台所であろうと、彼一人の時は珈琲を淹れるくらいにしか使われぬ台所を本来の意味で活用するのは彼女だけであるのだから、やはりそこは彼女のテリトリーであった。 し…

Forget me not 後編

「全てを覚えていないわけではないのですが」 リザは前置きのようにそう言うと、ロイの腕の中に包まれたまま覚悟を決めた表情で口を開いた。 「大佐が士官学校に入られる為に我が家を去られた前後から、特に父の葬儀の日の前後の記憶が部分的に曖昧で」 そこ…

Twitter Nobel log 18

851.うたた寝の幸福。自堕落を許される平和を噛みしめること、そっと毛布をかけてくれる彼女の情を確認できること、時々隣で眠り込む彼女の重みを受け止めること。852.密やかに忘れられて死んでいく。その程度の存在の軽さは、幸福であり、恐怖でもある。た…

smooth over おまけ

まったく、どうしてくれようか。この男は。 眉間にしわを寄せたリザは、何とも複雑な思いでソファーで眠り込んでしまった男の姿を見下ろした。 部屋履きを脱いだ足を肘掛けの上に乗せたロイは、反対側の肘掛けを背もたれに本を読みかけたまま眠ってしまった…

Twitter Nobel log 17

801.貴方と私は同じ言語を話している筈なのに、時として二人の言葉は通じあわなくなる。それは私が私であり、貴方が貴方である限り、永遠に通じない言語であるのだろう。ハロー、ハロー、聞こえますか。届かなくても言葉にします。目の前の貴方に届かない言…

SPARKお礼

SPARKにお運び下さった皆様、どうもありがとうございました。 秋のまったりイベントの筈のSPARKなのですが、今回の私のテンションはちょっと凄かった。 何と言っても大好きな「空中歩行」のスウコウライ様と、恐れ多くも合同サークルでイベント参加させて頂…

smooth over

眠るつもりはなかったのだ。 ただ、夕食を食べ腹がくちくなると、どうにも瞼が重くて仕方なくなってしまった。 ほんの半時ほど。 そう思った筈が、もう時計は二三〇〇をさしている。 参ったな。 ロイはポケットから取り出した銀時計の蓋をパチリと閉めると、…

SSS集 14

himself 錬成物に創造主の個性が出る、というのは彼の錬成した物を見ていると、何となく納得がいく。彼の作るものは、不思議と豪放な中にどこか品がある印象がある。 例えばこのグラス。非常に分厚い硝子で出来ていて、ずっしりと重みがあるクセに、多面的に…

Twitter Nobel log 16

751.扉の中で、多分、この辺りに彼女は額をつけて、様々な感情を堪えているのだろう。扉の外で、私が触れられぬ彼女の代わりに扉のこの辺りに手をつくことを、彼女は知っているだろう。一枚の板の遮るもの、伝えるもの。私達はそんな微かなものにすら、すが…

真夜中のライン

夜の空気は、冷たく澄んでいた。 リザは闇の隙間を縫うように静かに歩く男の背中を間近に見ながら、人気の無い公園を歩いていく。 スリーピーススーツの上着の前を開けた男は、いつもより少しだけ隙のある空気を漂わせ、リザはその雰囲気に寄り添うように、…

インテ、ありがとうございました!

さて、今年の夏は東奔西走で、頑張ってインテにも参加させて頂きました。 前日のすさまじい雷雨から一転、晴天のイベントになってホッとしましたが、暑い中お運び下さった皆様、ありがとうございました。 前日は、新幹線が止まる程の悪天候の中、大好きなサ…

夏コミ、ありがとうございました!

夏コミ、暑い中お運びくださった皆様、どうもありがとうございました。 いつもコメント下さる皆様、本を手にとって下さる皆様、いろんな方と直接お会い出来る機会は、いつも緊張します。そして、とても嬉しいです。お心遣い、お差し入れ、お手紙、本当に沢山…

overeating

「だから、今回の件は俺が悪かったって言ってるじゃないッスか」 「莫迦か、お前は。お前一人に責任が取れる問題だったとでも思っているのか。あの時、フュリーのフォローがなかったら、どうなっていたと思っている」 「いや、れも、僕は、当然のことをした…