2006-01-01から1年間の記事一覧

13.花一輪【03.Side.Roy】

手折っても良い花が あるのだろうか * 「マスタングさんが夢中になってしまう程、それだけ父の研究が凄かったという事ですよね」 リザはそう言うと私に向かって笑ってみせたが、その笑顔は強張っていた。無理をしているのだろう。 私は、心から自分の軽はず…

13.花一輪【02.Side Riza】

胸の奥深く 私だけの花が咲く * しまった。 泣いてしまった、どうしよう。 私は内心焦っていた。 きっと、あの人は困っている。早く、いつもの私に戻らなくては。 しかも、私の涙は絶対に誤解されているに違いない。それでは困るのに。 そうは思うのだけれど…

13.花一輪【01.Side Roy】

私だけが知っている 君の背に咲く大輪の。。。 * シュルッと衣擦れの音がして、彼女の肩からボレロが落ちた。 彼女の首筋に向かって伸びる円の様なものと幾許かの文字が、既にその 襟首から覗いている。 ゴクリ、と音を立てて私の喉が鳴った。 早く秘伝を見…

overcoat

overcoat 【名】 オーバー、外套 * 待つ事は苦痛ではないが、この寒さはどうにかならないものだろうか。 リザはそう思いながら、狙撃銃のスコープから目を離した。 身体を包んだブランケットを一層きつく身体に巻きつけるが、効果はあまりない。 かじかんだ…

over-under

over-under 【名】〈米〉上下二連銃 何だかんだと話を続け、なし崩しに泊まっていこうと目論む男を追い出すと、私はベッドの上に座り込んでしまった。 ああ、吃驚した。まさか、指輪なんて持ってくるなんて。 飼い主の様子がおかしいのを察したらしいブラッ…

overaction

overaction 【名】 演技過剰 * 練りに練った作戦を決行するのは今夜。 今までのどんな作戦の時でもこれほど緊張した事はなかった。 今日の相手は手強過ぎる。色々考えた結果、結局私は軍服のまま出掛けることにした。 奇をてらわないのが一番の得策だと言う…

02.集中豪雨 【04.Side Roy】(完結)

永久に止まない 雨だとしても例え傘さえ 持たぬとしても * 「今でも諳んじて言えるよ、片時も忘れた事はない」リザの背中から書き写した後、夢にまで見るほど解読に没頭した。あれから何年も経った今でも、一字たりとも忘れられない。アメトリスの言葉に訳せ…

02.集中豪雨 【03.Side Riza】

雨に濡れて立ちすくむ私を見つけてくれたのは 貴方 * 「私は向こうを向いているから、服を脱いでこちらに背を向けてくれ」優しい瞳が私をじっと見つめる。恐慌状態から自分を取り戻しつつあった私は、言葉を発する事が出来ずただ頷いた。マスタングさんが、…

02.集中豪雨 【02.Side Roy】

降る雨が君を濡らす 傘になれないならばせめて傍らに * 「私が私の意志で父の秘伝を伝えたのです、何を今更!」リザは叫ぶようにそう言うと、自分の声の大きさに驚きハッとしたように目を伏せ、黙り込んでしまった。まじまじと彼女の俯いたままの姿を見つめ…

02.集中豪雨 【01.Side Riza】

雨が降る 私の中に 雨が止まない雨が 降り続く 永久に * 戦いの終わった野営地は、奇妙な高揚感と、少しの明るさと、幾ばくかの諦念と、大きな哀しみと、吹き荒れた狂気の残滓に満ちていた。既に家路に着いた兵もいれば、残務に追われている将校もいる。いく…

16.レーゾンデートル

貴男が生きろという それが私の存在理由 * いつもの昼下がり、いつもの東方司令部。いつもの通り、マスタング大佐は仕事をさぼって執務室から逃亡している。ただ1つ、いつもと違うのは。逃走した大佐を誰も探しに行こうとしない事。 * 「親友に死なれるって…

15.大佐のご趣味

そりゃもう、命掛けても構わないと思える女(ひと)だよ、彼女は * カランカラン 「あら、ロイさん。いらっしゃい!」「お久しぶり、ヘレナ」「おや、ロイ坊。随分とお見限りだねぇ」「相変わらず手厳しいなぁ、マダム・クリスマス。ここんとこ立て込んでた…

05.硝煙

例え道は違っても 硝煙の匂いを纏い 私は貴男の後を追う * とりあえず今日の教官の報告書には、『リザ・ホークアイ、士官学校の実地訓練中に戦闘に巻き込まれ行方不明』と書かれることは間違いない。自分の名がそこに刻まれるなんて。私は天を仰いで自分の不…

04.ミステリー

昼は淑女、夜は娼婦 月並みなだけに、古今東西変わらぬ魅惑なんだよ *「君の髪は、夜見ても美しいな」 リザに腕枕をしながら、空いた右手でロイは金色の髪をつまみあげて玩んだ。 ロイの腕から胸にかけて散ったリザの長い髪は、ベッドサイドのライトに映えて…

01.優しい人

一瞬の乾いた音が、一つの命を奪うそれが、戦場 * 「全く、ハクロ将軍もやってくれるね」ロイ・マスタング大佐は、自分の留守中に起こったテロ事件の報告書に目を通しながら苦笑した。「尉官クラスの者に指揮を執らせるなんて、下手をすれば軍規に触れるスレ…

11.傷痕

二人が享受した悪夢は、同じ。誰も知らない共犯者の地獄。 * 「……っ!!」声にならない叫びを上げ目覚めると、そこはまだ未明の闇の中。一瞬夢の続きかと鳩尾が締め付けられるような感覚に襲われたロイは次の瞬間、時計の秒針が静かに刻む音に現実を知り、ほっ…

06.上官命令

私は貴男の手のひらの駒 * 「10時の方角から銃声!」「先発隊の所在を確認。救護班は準備して待機を。本部部隊は、まだ動かない様に!」「了解!」 イーストシティ南部で起きたテロリストの立て籠り事件は、まるでロイ・マスタング大佐の留守を狙ったかの…