15.大佐のご趣味

そりゃもう、命掛けても構わないと思える女(ひと)だよ、彼女は
 
          *
 
カランカラン
 
「あら、ロイさん。いらっしゃい!」
「お久しぶり、ヘレナ」
「おや、ロイ坊。随分とお見限りだねぇ」
「相変わらず手厳しいなぁ、マダム・クリスマス。ここんとこ立て込んでたんで、申し訳ない」
「最近、セントラルも物騒だからね。軍人ばかり狙っている奴がいるそうじゃないか」
「いやん、怖いわぁ。ロイさんも気をつけてね」
「はっはっは、ありがとう。キミみたいな美人に心配してもらえるとは光栄だ」
「相変わらずお上手ね」
 
「何飲む?」
「いつものを。ダブルで」
「あいよ」
 
「最近どうなの?あんまり噂聞かないけど」「だから、忙しかったんですよー。東部の田舎から出てきた新参者は、色々大変なんだから」
「あんたその年で大佐なんかやってんだから、ちったぁ苦労しなくちゃ」
「はは、マダムには敵わないな」
「ところで、エリザベスちゃんは元気かい?」
「おかげさまで。彼女も忙しいようでなかなか」
「忙しいって、あんたが忙しくさせてんじゃないの?」
「仕事熱心なんで、彼女は」
「男が甲斐性なしだと、女が苦労するんだよ」
「耳が痛いな。肝に銘じておくよ、マダム」
 
「ねぇ、ロイさん。いつもお名前だけお伺いするけど、エリザベスさんってどんな方なの?」
「そうそう、大佐のご趣味に合う女性ってどんな方か前から気になってたの」
「どんなって、難しいなぁ」
「例えば髪の色は? ブルネット? ブラウン? それともゴールド?」
「ああ、金髪だよ」
「まぁ、やっぱり男の人って金髪碧眼の美人がお好きなのね」
「そんな事ないよ、彼女の瞳はヘイゼルだし、それに君のブラウンの髪も綺麗だ。ヴァネッサ」
「まぁ! ありがとう、ロイさん」
「ねぇ、ロイさん。他には?」
「そうだね、背は私より10cmほど低いくらいかな」
「あら、小柄で可愛らしい方なのね。妬けちゃうわ」
「キミの方が可愛らしいさ、ヘレナ。彼女は、どちらかと言えばクールなんだ」
「クール?」
「常に冷静沈着で、あまり感情を表に出さない方だね。でも、結構情熱的だしね。それに仕事熱心だ」
「あら、私たちも仕事熱心よぉ」
「はっはっは、知ってるよ。だから、こうやってここに来てるんじゃないか」
「ありがとう、ロイさん。じゃぁ、もう一本ボトルキープ入れて下さる?」
「本当に仕事熱心だね。参ったな」
「エリザベスさんに負けていられないもの」
「勝ち負けじゃないし、君には君の魅力があるじゃないか。彼女は無口な方だし、営業じゃ君の方が勝ってるよ」
「でも、クールで無口な女(ひと)って、この業界じゃ珍しいわね」
「そうかな、そうかもしれない。……そうだね。お陰でちょっと誤解されやすいけど、本当はとても優しい人なんだ。それに話さなくても伝わる事もあるから」
 
「ああ、やだわ。もう惚気られてあてられちゃう」
「ほんと、ロイさんったらとっても優しい顔になっちゃってるし」
「いや、そんなことは」
「やだ、ロイさん顔が赤いわ」
「少し飲み過ぎたかな。ああ、マダム、助けてよ」
「その優しい子を放ったらかしにしてるのは誰なんだい?」
「痛いところを、また」
「女は構わないと逃げてくもんなんだから」
「承知してますよー」
「どうだか」
「ああ、でも、今度彼女と釣りをするつもりなんだ」
「……あんまり危ない事するんじゃないよ」
「肝に銘じておくよ」
「おや、急に真面目な顔になったね」
「たまにはね」
 
「もう一杯どうだい?」
「じゃぁ、もう一杯、同じものを」
「あいよ」
 
 Fin.
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【後書きの様なもの】
 「エリザベスちゃんは他の男に取られてしまいましたよー」萌え記念。(笑)バー・牛小屋での一コマってところです。彼女と一緒にする釣りは、もちろん66号が餌のアレですね。
 
 マダム・クリスマスみたいな人はとても好きです。リザさんの事も、全て承知の上で付き合ってくれるマダム。そして、その前でうっかり惚気ちゃう増田なぞ妄想。
 しかし、行きつけのバーがあるって大人だね。<増田