04.ミステリー

昼は淑女、夜は娼婦
月並みなだけに、古今東西変わらぬ魅惑なんだよ

   *

「君の髪は、夜見ても美しいな」
リザに腕枕をしながら、空いた右手でロイは金色の髪をつまみあげて玩んだ。
ロイの腕から胸にかけて散ったリザの長い髪は、ベッドサイドのライトに映えて、まるで小さな金色の海のようにうねっている。
「大佐の黒髪も素敵ですよ。夜間の作戦では目立ちませんから」
「だーれがそんな色気の無い話をしている」
指に絡めたリザの髪をクイと引っ張って、ロイは苦笑する。
眉間に皺を寄せ軽い抗議の意思を示しながら、リザが返す。
「どなたかと違って、真面目な軍人なもので」
「ふむ。では、誰が不真面目な軍人なのかな?」
「提出期限が明日までの書類を、まだ半分も終わらせていない方でしょうか」
にっこり微笑んで答えるリザに、ロイはわざとらしくお手上げのポーズをとってみせる。
「まったく。優秀な副官殿を持つのも考えものだな」
「あら、お困りでしたら移動願でもお出ししましょうか?」
「勘弁してくれ、リザ。君には敵わない、降参だ」
笑い出しながら、ロイはリザを抱きしめその髪を撫でる。
唐突にこんなことされたら、こっちの方が降参なのに。
そう思いながら、リザは男の胸に無言で頬を寄せた。

「本当に君の髪は綺麗だな」
抱き寄せた頭を撫でていたロイはそう言うと、おもむろにリザの顎に手をかけると自分の方を向かせた。
下から見上げる榛色の瞳をまじまじと見つめ、不思議そうにロイは続ける。
「睫毛も金髪なんだよなぁ」
「当たり前です」
漆黒の瞳に間近で見つめられ、リザは淡く頬を染める。
「君の瞳に良く似合っている」
近づいてくる唇に思わず目を閉じたリザは、瞼の上に柔らかい口付けを受けた。
「気障ですよ、大佐」
「そうか?」
かまわずにもう片方の瞼にも口付けを落とし、ロイはさらに爆弾を落とした。
「そのうえ、君、下も金髪だし」
「な、なな、な、何を突然!?」
甘い気分をいきなり飛ばされて、リザは思わず赤面した。
「だって不思議じゃないか。そんな淡い色の毛じゃ隠れるものも隠せない」
「なにを、ばかなことを!」
「上司に向かって、莫迦とは何だ、莫迦とは」
「……ンッ!!」
リザの唇を己のそれで塞いで、ロイは右手をリザの下腹部に泳がせていく。

「ここも綺麗なんだけどな、なかなかじっくり拝ませてもらえない」
クルクルとあらぬ所の毛をまさぐられ、こそばゆい様な感覚に身を捩るリザを焦らすように、ロイは彼女の腿の付け根をなぞっていく。
いつの間にか腕枕をしていた手はリザの腰を掴み、彼女の動きを封じるようにその身体を固定していた。
触れるか触れないかの危うさで肌の上を滑っていく指に、リザの息はたちまち上がってしまう。
「……大佐っ、人の身体でっ! あ……遊ばないで、くださ、いっ!」
息を切らせながら抗議する身体を更に熱くさせようと、指は行動範囲を広げていく。
わき腹へ、腿へ、腰へ、しかし一向に肝心なところには触れようとしない。
「大佐っ!」
悲鳴のような声を上げるリザに、嬉しそうにロイは囁く。
「本当に不思議だよなぁ、リザ。君の身体は全て美しい。この世のミステリーだ」
また気障な事を、と思う暇も無く、いきなり2本の指がリザを最奥まで差し貫いた。
既に泉は溢れ、金の毛を濡らし、進入してくる男の指もぐっしょりと濡らしてしまっている。
節のたった男の指に体内を掻き混ぜられ、リザは高い声を上げロイの腕の中でその細い身体を痙攣させた。
不意の奇襲に意識を飛ばしそうになるリザを意地悪く焦らして、一瞬で引き抜かれた指は動きを止めず次の標的に向かう。
感じやすい蕾を露出させ指の腹で強く撫で上げると、また指はふわりと離れ、脇や腿を羽のように軽く執拗になぞっていく。
一度火がついた身体は、全身を針のような鋭い感覚器に変え、全ての快感を貪り始める。
先ほどの指の感覚を覚えた体内が、更なるモノを欲してヒクリヒクリと悶える。
悪戯な指に何度も上りつめさせられ、全身をガクガクと仰け反らせリザの意識は何度もブラックアウトしてしまう。

舌と舌とを絡ませて濃厚な口付けを交わし、潤んだ瞳で惚けたようなリザを弄りながらロイは囁く。
「昼間の君から、誰が今の君の姿を想像できるだろう。このギャップがたまらないね。まさに女性はミステリーだよ」
そういう彼方こそ、さっきまでの莫迦みたいな可愛らしさと、今の悪魔のような冷たい笑顔とを入り混じらせて、私を翻弄するのだから。
本当に敵わないわ。
また落ちていきながら、リザは男の酷薄な唇に刻まれた笑いに溺れていった。

 Fin.
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【後書きのようなもの】
 ピロートークのはずが、エロ突入。色んな意味でギャップの大きい人は、魅力的に見えるというお話。ロイは軽くSだと思うのですが、いかがなものでしょう。

 ちなみに下も金髪ネタは、吉◯秋生さんの『B◯NANA F◯SH』より拝借。名作です。