2010-01-01から1年間の記事一覧

お気に召すまま 2

キン! 鋭い金属音をたてて、マスタングの手に重い衝撃が走った。 彼はハッとして体勢を立て直すといつもの調子を取り戻し、すっと手を引く。 続けて彼に向かって繰り出された鋭い刃を半身でするりと受け流したマスタングは、俊敏な、それでも手加減した一撃…

Twitterノベル04

151.研究者の脳に切り替わった彼の思考回路は、常に私の理解の範疇を越える。「進化に於ける生存本能の…」そう呟きハムスターを前にナッツを頬張り続ける姿は、正気の沙汰とは思えない。まぁ、そんな光景に慣れ愛しさすら感じる私も、端から見れば正気とは思…

sand beige

チン。静かな夜の静寂に、受話器を置く音がやけに大きく響いた。ロイは電話の内容を噛みしめながら、微かな溜め息を飲み込み、再び傍らのソファにドンと勢いをつけて座り込んだ。傍らに置かれた新聞の一面の見出しには、グラマン将軍が大総統の地位につく式…

お気に召すまま 1

3分21秒、22秒、23秒。パチリと懐中時計の蓋を閉めカウントアップを唇の中で呟きながら、マスタングは銀のワゴンを止めるとドアをノックした。「どうぞ」カチャリと扉を開き、マスタングは彼を一瞥する涼やかな声の主に対し一礼をしてみせる。「お嬢…

Twitterノベル03

101.「キスを」「命令ですか? お願いですか?」「許可申請でどうかね」「棄却します」「じゃ、命令なら?」「拒否します」「お願いなら?」「却下で」「では、実力行使でいくとしようか」「受けて立ちますよ」「まったく、素直じゃないね」 102.胸の谷間を…

サルベージ

今日はもう、来ないのだろうか。放課後の生物学準備室で一人、梨紗は両手に一匹ずつ蛙を鷲掴みにしたまま、ぼんやりと視線を扉の方へとさまよわせる。彼女の記憶が確かなら、日曜日に陸上部の予選会があるので、今日は部活が休みだと彼は言っていた筈だ。だ…

イデアの剣【後編】

「どなたかとお間違いではありませんか?」無駄な事とは知りながら、リザは悪あがきを試みる。だが、ロイは彼女の予測に反して、驚くほど切羽つまった様子で彼女に詰め寄ってきた。「さっきの笑顔で確信したんです、貴女はリザ・ホークアイですよね? どうか…

SSS集 11

目の前にあるもの 「目の前にあるものだけを信じればいい」 そう言ったロイはリザに背を向けると、彼女の目の前でキュッと音を立てて発火布の手袋をはめた。既に遠方では爆煙が上がり、戦闘が始まったことを告げている。 目の前にあるもの。 リザは手の中の…

イデアの剣【中編】

一般回線から軍への電話を終えたリザは、再びロイの病室に向かいながら、今後について考えを巡らせていた。ロイが作戦において受傷したことはまごう事なき事実であるのだから、一週間程度なら時間を稼ぐことは容易だ。実際、軍部内への連絡と手配は比較的簡…

イデアの剣【前編】

リザがその連絡を受けたのは、丁度昼休みが終わろうとする頃だった。早朝の突入作戦を終え事後処理に追われていた彼女が、遅い昼食をとる為に食堂に行こうと席を立った瞬間、一本の電話が彼女を呼び止めた。同じ作戦に参加し、現在は別行動でロイの護衛を務…

Twitterノベル02

051.壊れたラジオを前に途方に暮れる私を「妙な所で女の子なのだな」と、彼は笑う。ラジオなど一瞬で直せる術師のクセに、嬉々としてドライバー片手に分解を始める彼の方こそ男の子なのだと私は思う。音楽を受信する魔法の箱の前で額を付き合わせ、我々は童…

time over

手の中の鍵は、ガチリと存外に大きな音を立てて回った。微かな引っかかりを感じたのは、おそらく鍵穴の方に少し錆が出ているせいだろう。リザは前回いつこの鍵を使ったか思い出そうとし、無駄な努力に苦笑すると、鞄の中に大切に鍵を仕舞った。細く扉を開き…

嘘吐きな黒猫

怒ったように無言で梨紗の前を歩く少年の背中は、それでも歩幅の小さな彼女の足音を気遣う余裕を持っていた。いつの間にか、彼もそのくらいには大人になったということか。梨紗は少々感慨深い想いで、振り返りもせず緩やかな坂道を上がっていく彼の後を追う…

if【case 06】

Caution!!:超未来ねつ造、ご注意下さい。 if【case 06】:もしも、彼が大総統にならなかったら その日は、朝から風が吹いていた。穏やかな晴天の東方司令部を吹く風は、痛いほどに乾燥した砂漠の風とは違い、柔らかく心地良いものだった。リザは目を細めて…

Twitterノベル01

001.いつもの習慣で彼のカップに珈琲を注いだ所で、私は気付く。そうだ、彼は出張で中央司令部に行ったのだった。用意したものが勿体無いから。そう自分に言い訳した私は、躊躇いながら彼のカップに唇を付けた。白いカップに残った自分の紅の色が淫らに見え…

後書きに代えて

半月も経って本当にもう何を今更なのですが、言ったからには書いておく、後書きのようなものです。自己満足と備忘に。 えー、今回の611祭り、正直なところ体力的には死ぬかと思ったけど(笑)、この疾走感とお祭り気分は死ぬほど楽しかったです。お付き合い…

10’07月号ネタバレSSS&感想

最終回ネタバレですよ〜。 ■SSS 道ポタポタと落ちる点滴を眺め、私は病室の窓から外の物音に耳をすませる。飛び交う怒号、行き交う足音、瓦礫の崩れる音。表の喧噪は未だ収まる事を知らず、崩落に巻き込まれた者の探索や死体の搬送が忙しなく行なわれている…

上司としての顔、部下としての顔

「私は、この女を生涯の伴侶とし、共に生きることをここに誓います」「私は、この男を生涯の伴侶とし、共に生きることをここに誓います」 二人は爽やかな青空の下で高らかにそう宣言すると、目と目を見交わして幸福そうに笑った。わっと参列者の間から歓声が…

異動辞令

元々内定していた上官の中央司令部への異動が正式な文書として通達されたのは、水曜の午後のことだった。ちょうど射撃訓練の真っ最中だったリザが教官に呼び出され執務室に行くと、そこには既にいつものメンバーが勢揃いしていた。ジャン・ハボック少尉。ハ…

夜・オフィス・山積みの書類

「ああ、疲れたな」「同感で」青い軍服に身を包んだ二人の男は、すでに発車した夕刻のイーストシティ行きの汽車の中でドカドカと大きな足音を立てながら、自分たちの席を探していた。ドアの上部に書かれた番号を確認しながら、ロイは溜め息混じりに愚痴をこ…

少し言い過ぎたかも

まさか現状がこれほどまでに酷いとは。報告の打電と現実のあまりの解離に、リザは愕然とした。砂漠に一晩放置されていたらしき負傷兵のうめき声は、五〇〇メートル離れた位置にいても聞こえてくる。「総員待機!」スコープを覗くリザの頭上で、ロイの鋭い小…

ご褒美

「で、エリザベスちゃんは元気なのかい?」「ああ、おかげさまで」ロイは手に馴染む重厚なグラスを傾けてチロリとバーボンを舐めると、にっこりとよそ行きの“良いお顔”を作ってマダムの問いに答えてみせる。彼の養母は細い紙巻き煙草をくゆらせながら、ロイ…

追う者、追われる者

ぽかぽかと気持ちの良い陽射しが、主のいない席を温めている。リザはしばらく黙って空っぽの上官のデスクを眺めていたが、無表情のまま胸に抱えた書類の束をトンと置いた。しんと静まり返った部屋に、慌ててガサガサと書類をいじる音が立ち始め、背後でマス…

望まない確執

「承服致しかねます」リザは直立不動の体制で、上官のデスクの前で明確な拒絶の意志を表した。とりつく島もないリザの返答に、ロイは苦虫を噛み潰したような顔をすると「理由を述べたまえ」と、こちらも簡潔な返答をして寄越した。「それが私である必要を認…

…少しくらい敬いたまえ

何故、こんな事になっているのだろう?グルグルと酩酊した頭で、考えたところで埒のあかないことを考えながら、ロイはズキズキと脈打つ己のこめかみを押さえた。カップを持つ手すら、既におぼつかなくなってきている。現時点で何杯飲んだか、いや、もう“何本…

サボタージュ

哀しむ暇がないほど、忙しいのは良いことだ。 ロイはそう思い、今朝方送られてきた紋切り型の脅迫状に関する報告書にざっと目を通すと、即座に解決済みの判断を下し傍らの決済箱に放り込む。 続いて現れた書類はひとまとめに提出された部下の休暇申請書で、…

少しばかり有能すぎる部下

白昼堂々の市街地のど真ん中で、派手な銃撃戦が始まったのは一四〇六の事だった。かねてから目を付けていた武器の密輸組織の一斉摘発のため配備していた一部隊が、偶然組織の者と行きあってしまい、双方予期せぬ偶発的な戦闘が始まってしまったのだ。おかげ…

SSS集 10

手当て「どうかされました?」 いつもなら食後にはソファで読書に勤しんでいるはずの男が、ぶすりと不機嫌な顔で頬杖をついている。何か悪いものでも食べさせてしまっただろうか? リザはソファの背もたれに手をつき、背後からロイの肩に手をかける。「どう…

10’06月号ネタバレ感想

■何はさておき、ロイアイ 萌えじゃなくて、燃えました。「ぎゃ〜!」って拳を握る感じじゃなくて、「ああ……」って満足して瞳を閉じるような、そんな想いです。 このBlogを開設した当初から「共闘する二人が好きだ」と、ずっと主張を続けてきた私ですが、まさ…

tempest

カーテンの向こうで、ガタガタと窓が鳴った。日暮れ頃から吹き出した風は、夜半過ぎには家鳴りがするほどの凄まじい暴風となり、その夜はまさしく春の嵐と言って差し支えない荒れた天気となってしまった。こまめに修理をしているとは言え、元々古いホークア…