2007-01-01から1年間の記事一覧
アパートの前に車が停まった音がした。 大佐がやって来たのかと一瞬期待し、私は首を振ってその可能性を否定する。 先刻、花を買い過ぎたと莫迦な電話をしてきた彼に、花瓶がないからと嘘をついて断ったのは私の方だ。 ここに来させないために、素っ気なく電…
「君が撮ってきた帳簿と密会現場の写真の鑑定が終わった」 ロイの言葉に、リザは微かに身を乗り出した。 「結論から言おう。リットナー商会のドラクマへの兵器横流しは疑いようのない事実だ」 リザは“やはり”といった表情で、ロイの次の言葉を待つ。 「予定…
「鷹目先生!入ってもいいですか〜?」 元気な声と共に、ガラリと生物室の引き戸が開けられた。 「いらっしゃい、ウィンリィちゃん」 ホーローのカップを手にシンクの前に立っていた白衣の梨紗は、顔だけ教え子の方を振り向いて答える。 「ちょうど良い所に…
「大佐、もう出発しないと遅れてしまいます!何をしていらっしゃるんですか?」 リザは、ロイが自室から出てくるのをイライラと待っている。 先刻から何度も呼んでいるのに、返ってくるのは生返事ばかり。 だいたいが身支度に時間がかかるのは、女の専売特許…
目覚めると窓の外は既に明るく、小鳥たちが騒々しく鳴いている。 しまった、またやってしまった。 ロイは寝癖のついた頭をガシガシと掻くと、先刻まで自分が枕代わりに頬の下に敷いていた紙に目をやった。 昨夜、師匠と議論するうちに涌いてきたイメージを何…
overcommitment :【名】 積極的な介入、越権行為 * 「何故ですか? 理由をお聞かせ下さい」 リザが私の副官になってから初めて、対テロリストの実戦命令が出た日。 本部で待機するようにという私の命令を聞いたリザは、不服そうな顔を隠そうともせず反論した…
over the phone : 電話越しに * RRRRRR RRRRR ガチャ 『はい、こちら東方司令部、、、』 『いよぉっ!リザちゃん、相変わらず良い声してるねぇ。うちのエリシアちゃんも可愛らしい声にますます磨きがかかって、、』 「大佐、ヒューズ中佐からお電話です」 『…
overindulgence:【名】わがまま、甘やかし過ぎ、耽溺、放縦 * 「レベッカ」 正門を出た所で名を呼ばれ、レベッカは振り向いた。彼女の目の前には、私服のリザが立っていた。 「リザ、どうして……」 あの無能大佐はリザが家を出るまでに間に合わなかったのか…
overtalk :【名】 話し過ぎ、しゃべり過ぎ、饒舌 * 「お父さん、お久しぶりです」 リザは墓前に跪き小さな花束を供えると、そっと手を合わせ墓石に語りかける。 「命日にも来られなくて、ごめんなさい」 答える声はなく、代わりに風がびょおと鳴った。 リザ…
overindulgence:【名】わがまま、甘やかし過ぎ、耽溺、放縦 * 午後の射撃訓練場でリザに声をかけられて、レベッカは顔をあげた。 「ごめん! 聞こえなかった。なんて言ったの?」 防音具を外したレベッカの耳元に口を寄せ、リザは同じ科白を繰り返した。 「…
overindulgence:【名】わがまま、甘やかし過ぎ、耽溺、放縦 * 「俺はイヤだ。ぜってーヤだぞ、ってか、無理!」 猛烈な勢いで煙を吐き出しながら、ハボックは叫ぶように言った。 「ハボー、お前が一番中尉と接点あるだろ。射撃訓練中にこう、ちょっとだな」…
overindulgence:【名】わがまま、甘やかし過ぎ、耽溺 * 扉を開けば、そこは闇。 冷たく静まり返った部屋がロイを出迎える。 我知らず小さな溜め息をつき、ロイは軍服の襟元を寛げてダイニングの椅子に座り込んだ。 昔はこれが普通だったのに、一度花の彩り…
私が洋服を選ぶ基準は、 非常に単純だ。 『首の秘伝の紋様が隠れるか』 その一点に、尽きる。 後はまぁ、動き易いかとか、銃を内蔵し易いかなど、およそ色気のない理由ばかりだ。フリルだとか、レースだとか、花柄だとか、そんなものが必要な理由が全く分か…
騙されてあげる程度には 優しいつもりでいるけれど * 深夜に近い頃、何食わぬ顔で大佐が私の部屋を訪れた。 私も何事もなかったかのように、彼を迎え入れる。 いつも通りの彼の訪問に、一筋の緊張の糸を感じているのは、私だけだろうか。 酷薄に微笑む大佐の…
滴り落ちる、赤。 また、今月も私の身体が女を主張する。 そう言えば数日前から、そんな気配があるとは思っていたのだ。 鈍痛に蝕まれ、私は洗面台の戸棚から鎮痛剤を探し出し、規定量を服用する。 鎮痛剤が効くまでおおよそ30分、それまでの我慢だ。 そう自…
身体の奥に焔が点る 導火線は貴方の指 * まったく、残業とは『する』ものではなく、『させられる』ものだということを、あの男は分かっているのだろうか? 胸の内で悪態をつきながら、リザは夜道を歩いていた。 何が「絶対に残業は許さん」、だ。 オリヴィエ…
触れた指先の焔に私は焼き尽くされる 胸の奥底まで * 指が、絡んだ。 どちらから求めたのか、そんな事はどうでも良かった。 が、互いの指先が触れ合った時、一瞬ビクリとした相手が、控え目にその温もりを伝えてきた。 指の腹で爪の生え際をそろりと撫でてや…
届かぬ想いを足枷に 我々は歩き続ける * 「中尉、この後少し付き合ってくれないか」 そう上官に言われ、リザは少し驚いた顔で振り向いた。 セントラルに来て数日。 何だかんだで休みも暫くは取れそうも無い激務が、東方から来た彼らを待っていた。 引っ越し…
あの人の足枷になるくらいなら 私は * ザァザァと激しい音をたてて雨が、蒸気機関車の汽笛をかき消す程に降り続く。 まだ人影も疎らな早朝のイーストシティ駅のターミナルで、リザは待ち人と巡り会った。 「いよう!リザちゃん、お出迎え感謝するぜ」 「ご無…
君と言う名の枷は 私を現実に繋ぎ止める * 「出来るだけ早く帰ってくるつもりだけど、先に寝ててくれて構わないよ、グレイシア」 「いいのよ、ゆっくりして来て。マスタングさんと会うの、久しぶりなんでしょ?」 そう言って、甲斐甲斐しくヒューズの世話を…
自由を奪う枷がある だからこそ私は強くなる * 空には満天の星が、血生臭い地上を見下ろしていた。 砂漠地帯であるイシュヴァールは、昼夜の温度差が激しい。 野営の焚き火の傍らで、兵士たちは温もりと暫しの休息を貪っていた。 ロイはその輪には加わらず、…
overflow 【名】あふれること、氾濫 * 「ホークアイ中尉、第一二九四号案件の書類は出来ているかね」 シュトルヒに呼ばれて、リザは処理の済んだ書類を差し出した。 無言でそれを受け取り、立ち去るシュトルヒの姿を見送ると、リザは文献を持って別棟へと向…
crossover :【名】交差路 * バシュッ ロイの頬を銃弾が掠め飛んだ。 リザは、はっとしてロイの腕を掴んで彼を地面へ引き倒した。 バシュッ 二発目の弾は、さっきまでロイが立っていた空間を引き裂いて、生垣の向こうへと着弾した。 植え込みに顔を突っ込む形…
overtime :【名】 超過時間、延長時間、〈米〉《スポーツ》延長戦 * 「大佐ぁ、まじヤバイっすよ」 俺、ジャン・ハボックは急カーブをドリフトしながら、危うく落としそうになった煙草をくわえ直した。 「何を言っている、そのためにお前がここに居るんだろ…
over dinner :夕食をとりながら * ロイが仕事を終え司令部の門を出たのは、日付が変わるか変わらぬかの時間だった。 セントラルに出向いた数日の留守の間に溜まっていた、山のような仕事を半ばヤケになってやっつけていたら、こんな時間になってしまった。 …
switch-over: 【名】 切り替え、転換、変更 * 「中佐、お待ち下さい! 中佐」 足早に司令部の廊下をズンズン歩いていくロイを、リザは追い掛ける。 怒り狂っているロイは歩調を緩めるどころか、リザの声さえ耳に入っていないらしい。 山のような資料を抱えた…
こんな思いはもうこりごり そう思って避けられるなら こんな思いはしないものを * 莫迦だ莫迦だ莫迦だ莫迦だ。 呪文のように胸の内で悪態をつきながら、リザは傍らに瀕死の重傷で横たわる男の顔を見つめていた。 その言葉がこの男に向けたものなのか、自分に…
ソレは秘密 あの人にだけは知られてはならない秘密 * どうやら今日は日付が変わる前に帰れそうだ。 佐官会議から戻ったロイ・マスタングは、机の上の書類の山が増えていない事を確認し嘆息した。 今日は中尉が非番なので、彼女の机の上で止まっている書類が…
oversensing:【名】 過剰感知 * 押し当てられた唇は、冷たく乾いていた。 温々とベッドの中に暮らす私に外気の冷たさを思い知らせる口付けは長く、息苦しさを感じる程だった。 握られた手首に伝わる男の掌の温もりだけが火のように熱く、私に彼の二つ名を思…
oversensing:【名】 過剰感知 * あれから四日。 私は闇の中にいた。 ある事件の最中、化学薬品プラントの爆発に間近で巻き込まれ、大佐を庇ってガラス片と揮発性ガスを浴びてしまった。 怪我は大した事はなかったものの、ガスに目をやられ、私は目に包帯を巻…