2011-01-01から1年間の記事一覧
参ったな。 人気のない倉庫街を歩きながら、ロイは前を歩くリザの後ろ姿を見つめ、ひとり溜め息をこぼした。非番だったはずのリザから連絡を受け、わざわざ町外れの倉庫街まで出向いた彼が目にしたものは、信じられないものであった。 死んだはずの死刑囚の…
ロイが彼女のその習慣を知ったのは、ほんの偶然の事だった。彼らの管轄内で起こったテロ事件が、解決の糸口を掴めぬまま膠着状態に陥ったのは二日前のことだった。 立てこもった犯人達の要求を飲むことなどできぬ軍内部では、早期の解決を目指して強行突入作…
「確かにアインシュタインは、相対性理論が破綻することを前提に全ての仮説を打ち立てていたとは言え、まさかそれが立証される可能性が出てくるとはね」 熱いエスプレッソのカップを置いた増田は、そう言って子供のように目を輝かせて遙か窓の外の青空に視線…
451.猫じゃらしの花束を作っていた少女が、いつしか薔薇の花束の似合う女になっていた。それでも、紆余曲折を繰り返し、あの懐かしい日々から一歩も前に進めぬ我々には、薔薇よりもそちらの方が似合いなのかもしれないと私は笑う。揺れるふわふわの穂で彼女…
人の住まぬ町は朽ちていくものだと言うが、破壊と殺戮の痕跡というものは風化しないらしい。 乱雑に鉄条網が張り巡らされた区画の向こうは、あの日のまま時を止めていた。 リザは自分の記憶とそう大差のない、昔彼女たちが破壊し尽くした街を、足早に歩いて…
401.塩と胡椒がセットであるように、いつも一緒にいる二人。どちらもクセがあって、どちらも主張が強い。そのくせ互いを補い合えば、更に深い味を醸し出す。そんなスパイスの効いた人生は、いかが?402.「勝手に殺さないでくれ」そう言って彼は笑う。例え満…
リザとの僅かなやり取りをした翌朝から、ロイは髪型を変えた。始めは何となく物珍しいものを見る目で迎えられたロイの小さな変化は、特に大きな反応もなく直ぐに周囲に受け入れられた。 とりたてて目立った事柄と言えば、たまたま雑貨の納品ついでに傷痍軍人…
もちろん、最初から何もかも順風満帆に進む訳はないことは、分かっていた。 だがしかし、これ程までに最初から何もかもが多事多難に満ちているとは。「ここまで話を進めておいて、また振り出しに戻るのか。これは参ったな」 そう言って涼しい顔をしながら恐…
web再録の為にweb用→書籍用の加筆修正してる中で、いつの間にか文章量二倍になってた「硝煙」。リライトしてもほとんど変わらないのもあるし、1.5倍くらいになるのあるし、自分でも基準がよく分かりません。(笑)流石に五年前の文章だから、でしょうか。 内…
顔を洗おうと寝室の扉を開けたら、目の前に上官が落ちていた。リザは寝起きの目を擦り、いったん扉を閉め、もう一度開けてみる。 男はやはり、先程と同じ体勢で俯せに廊下に横たわっている。 気持ちよさそうに眠る男の後頭部を眺め、リザは昨夜の男の予定を…
どうも皆様、100万回転御礼兼Blog五周年リクエストにお付き合い、ありがとうございました。いろいろな面白そうなお題をいただき、すごく嬉しいです。 いただいたコメントにも、感謝です。お祝いのお言葉も、リクエストの詳細な希望もガッツリ受け取らせてい…
351.歯磨き粉の奥に微かなニンニクの香り。そういえば昨夜、彼はお肉を食べていたっけ。きっと匂いを消そうと、一生懸命歯磨きしたのだろう。男の人って、変なところで可愛い…なんて私がキスの最中に考えているとは、スーツ姿をビシリときめた彼は想像もしな…
獣がいる。ザラリと堅い色気の欠片もない軍服の生地に頬をなでられながら、リザは頭の中をかき回されるような衝撃と共にそう思った。 斜め下から仰ぎ見る角張った男の喉仏が、それ自体が生き物のように艶めかしく動いた。 目の前の青い軍服に染みた汗が、テ…
『池袋鋼ジャック』、一人ではなかなか行き難いのでどうしようかと思っていたところ、大好きな空中歩行のスウコウライ様が「行きたい」と日記で呟いていらしたのを発見。勇気を出して「ご一緒して、ロイ語りさせて下さい!」と、デートに誘わせていただきま…
長々時間がかかってしまいましたが、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。 リクエスト募集から一年半、鋼の連載終了から一年、リクエストを下さった方の中には既に鋼から離れてしまわれた方もいらっしゃるかと思います。その方々には、大変…
藤丸しゅんさんより、オリキャラバトンなるものをいただきました。 オリキャラバトンンなのに、ロイアイ指定とはこれ如何に!?(笑) というわけで、答えさせていただきました。たぶん、あんまり面白くない回答です。すみません。 【オリキャラバトン】Ver.…
映画感想、無頓着にネタバレしてます。 まぁ、牛先生の原作一筋の私の感想なので、辛めだと思います。話半分でよろしくお願いします。 原作ともアニメとも完全に別物と割り切って見に行ったので、楽しかったです。中だるみもなく、テンポよく、ストーリーは…
ダンスのレッスン。乗馬のレッスン。 様々な理由の元、自分は何度この手に触れてきたことだろう。 マスタングは、己の肘の上に行儀良く添えられたリザの手の微かな重みを感じながら、胸の中で一人ごちた。そう、彼らはあまりに近付きすぎたのだ。 たとえ手袋…
「で、どうかね? あれの様子は」 キングでポーンを阻み、ビショップの自由を得たグラマン男爵はコトリと駒を動かしながら、何気ない口調で言った。 「あれとは、何のことでしょうか」 神経戦の最中に気を乱されまいと、マスタングは黒のマスに足止めされた…
if【case 07】:もしも、彼らが『彼』に会ったなら。(未来ねつ造) 扉の前でロイを待ちながら、リザは静かな廊下の椅子に腰掛け、手元の手帳を開きスケジュールを確認する。 今回の出張でロイが出席せねばならない行事は、非公式のものも含めてこれが最後だ…
死んだ親友の夢を見た。 内容は覚えていない。 ただ、ひどく怒られた気がする。「偉くなられても、相変わらず居眠りでいらっしゃいますか? 准将閣下」 執務机に書類を置きながら小言を言う彼女に、虚ろな視線を向ける。 午後の強い日差しに金色の短い髪が眩…
Cat in the Box 「シュレーディンガーの猫、というものを知っているかね? 要は観測者が居て初めて事象は存在する、ということなのだが」 「何のお話ですか?」 「要は愛だとか罪だとか、我々が名前を付けるからそう言ったものは発生するんだ」 ロイの言葉に…
301.惑わぬように下界の雑音を遮断する。私に今必要なのは、彼の言葉。私を必要とするただ一人の、私が必要とするただ一人の、その人の言葉。愚かだろうと、盲目的であろうと構わない。私の心が必要とする慈雨は、それ以外にないのだから。302.霧雨に湿った…
彼女が彼を見つけたのは、本当に偶然のことだった。この日、ようやく休日を取れたリザは、イーストシティへの引っ越しの準備に追われていた。 イーストシティからセントラルに来た時のままに荷解きされなかった段ボール箱を積み上げ直し、僅かな暇を見つけて…
4日のプチオンリー、お疲れ様でした。予想以上に沢山の方にお会いできてお話し出来て、本を手にとっていただけて、すごく嬉しかったです。ありがとうございました。 お声かけてただいたり、お心遣いいただいたり、心から感謝いたします。いつも読んでます、…
aqua: 水色、アクアブルー * 【Side R】 ほんの数分の短いやり取りで、電話は切れた。 後には、何も語らぬ信号音だけが虚しく響いている。 私は釈然としない気持ちで、使われなかった小銭を乱暴にポケットに突っ込んだ。 「わざわざ声をかけていただき、あり…
次の日の朝、朝食の席で、リザは全くマスタングの方を見ようとはしなかった。 ただ朝食のサーブを行うためにマスタングが近付く度、彼女の細い肩は風に震える雛菊のように震えた。 執事の給仕にも最低限の会話にもならぬ返事だけをし、小鳥のように僅かな食…
251.「こんな時間にいらっしゃるなんて、非常識ではありませんか?」そんな言葉と共に差し出された熱い紅茶を口にすれば、体から外気の寒さが抜けていく。言葉と裏腹の気遣いに甘え、私は彼女をこの手に抱き締める。私を芯から温めてくれるのは、君だけ。 25…
重い閂をガチャリと下ろし、屋敷の戸締まりを終えたマスタングは、オーク材の扉に手をかけたまま、小さく溜め息をこぼした。まったく、この屋敷にはお節介が多すぎる、人の気も知らないで。半ば恨み言になる愚痴をブツブツと口の中で転がしながら、マスタン…
別アニメの映画感想ですが、もしお好きな方がいらしたら。ネタバレ全開、基本シェリル好きです。 えーと、TV版見ていたのでいろいろ覚悟して行ったのですが、まず思ったのは、なんでTV版でこれが出来なかったの、監督! でした。(笑) アルトはきちんと主人…