Twitterノベル09

401.
塩と胡椒がセットであるように、いつも一緒にいる二人。どちらもクセがあって、どちらも主張が強い。そのくせ互いを補い合えば、更に深い味を醸し出す。そんなスパイスの効いた人生は、いかが?

402.
「勝手に殺さないでくれ」そう言って彼は笑う。例え満身創痍でも、私の為に彼は笑う。人の気も知らないで。だから、私は泣いてなんかやらない。この手が彼の血に塗れようと、二度と。

403.
黒のコートの胸元を開く。一番の特等席にお迎えするのは君だけ。

404.
「毎日顔をつきあわせていても、飽きないものだな」「面白いですから」「え? 何がだね」「……フッ」「ちょ、君!」

405.
二日酔いの原因が本当は誰のせいか。プライドが邪魔して言えないでいる私は、きっと明日も二日酔い。ああ、飲み込んだ言葉が腹の中で発酵している。

406.
顔を上げ髭を剃る顎のライン。喉元を押さえる指。真剣に鏡を見る伏し目がちの瞳。流れ落ちるシェービングクリーム。全てにうっとりと喉が鳴る。私がどんな淫らな眼差しで彼を見ているか、朝の支度の最中の彼は決して知らない。

407.
怖いのです。でも何が怖いかを口に出してしまうと、それが本当になってしまうから、蓋をしておくのです。彼の姿を見て心に浮かぶ想い、その底に沈む恐怖、私の中に潜むものに蓋をして、私は何も見ないふりで生きていくのです。恐怖に雁字搦めになって、動けなくならないように。

408.
心なんて遥か昔に殺した筈だったのに、何故未だに痛みを感じるのか。それは、彼の心の中に生きている私がいるから。そう気付かされる、彼の指先の熱。

409.
私がタバコを止めた理由。彼女の小さな眉間の皺と、キスの匂いの修正と。

410.
起きた瞬間に忘れてしまう夢なんて、見ても見なくても同じ。そう思っているクセに、夢の中でなら真っ直ぐに彼の瞳を見る事が出来る気がして枕を撫でてみる。明日の朝には忘れてしまうから。だから、お願い。

411.
「今、会いたい」が好きということ、行為とキスが痛い、甘い。
(いまあいたいがすきということこういときすがいたいあまい ←回文! 頑張った、自分!)

412.
冷蔵庫に入っているプリンの蓋に、彼女の名前が書いてある。信用がないなと笑いながら、私はそのプリンを食べてしまう。後に同じプリンを置いておくから、私が君の好物を食べてしまった報復をすればいい。勿論蓋には、私の名を書いておくから。

413.
彼のいない部屋で、彼の名の付いたプリンを食べる。いつもより甘いカスタード、いつもより苦いカラメル。莫迦みたいとスプーンに八つ当たり、真夜中のおやつ。太ったら、貴方のせいですよ?

414.
朝起きたら、廊下に酔っぱらいが落ちていた。どういう経緯でこうなったのか、さっぱり分からないけれど、とりあえず拾っておくことにする。遺失者がいなければ、拾得物は私ものになるのかしら。そんな莫迦な事を考えながら、重たい酔っぱらいを引き摺る日曜の朝。

415.
たまには押し倒す側になるのも乙ですねと嘯く唇が、微かに震えている。この形勢を逆転するのは容易だけれど、必死な彼女が可愛くて、私は大人しく俎板の上の鯉になる。君の下で、君の思うままに。私は君のもの。

416.
髪をアップにした刹那、うなじから放散される熱。仕事の顔を作る筈が、撒き散らされる何かに雄性が反応する。未練を残した身体を引き留める手、振り切る手。意地悪な夏の我慢比べ。折れるのは、どっち?

417.
思いもかけぬ表情を見せられて、所詮、彼女もただの女なのだと思い知らされる。そんな彼女に心揺らされる己も、所詮、ただの男なのだと思い知らされる。目指したものの裏に隠した影が、ひょこりと顔を出してしまう。そう、例えばこんな夜には。

418.
「貴方の幸福とは何ですか?」「プライベートに限るならば、君が幸福であること、かな」「困りましたね」「何が?」「それでは、二人揃って幸福にならなくてはなりません」「仕方ないな、善処しよう」「よろしくお願いします」

419.
腹這いに寝転がったベッドの上から、きちんと揃えられた二足の軍靴を見下ろす。明らかなその大きさの違いは、彼女の華奢な肉体を思い起こさせた。オンとオフとのギャップの愛らしさを求め、私は傍らにある温もりへと手を伸ばす。

420.
昨日まで綺麗に片付いていた執務机の上が、ほんの数時間で混沌に飲み込まれる。出張からの帰還の証を、そんなところにまで刻まなくても良いものを。手の掛かる上官に苦笑いの体で、緩む頬を隠す一週間ぶりの再会。

421.
怖がっているふり。尻に敷かれているふり。駄目な上官のふり。遊び人のふり。興味のないふり。からかうふり。嫉妬するふり。見ないふり。口説くふり。嘘の中に少しだけ本当を混ぜる。さて、どれが本当?

422.
昼と夜とで彼の唇は違う生き物になる。命令を下す唇は同じ、下される命令は真逆。言葉の代わりに私の中に注ぎ込まれるもの。いたづらに私を惑わすいけない舌が紡ぐもの。ああ、惑う前にいっそ塞いでしまおうかしら。あの薄くて甘い唇を。昼と夜とで私を変える唇を。

423.
嘘はつかないという嘘。二人の間にある嘘。掴めないなら嘘にしてしまえば。そう言って笑う笑顔すら嘘。

424.
残業の朝、白む群青の空に消えそこねた淡い月を見上げる。言い損ねた言葉を消え行く月に向かって吐き出せば、今日もまた素知らぬ顔の強い女の出来上がり。

425.
ムードだとか色気だとかそんなものは無くても、抱き合えばそこが二人の居場所。無いならば作ればいい、互いの存在意義。ちっぽけな我々の居場所なんて、この程度で十分なのだと噛みしめる。この腕で作った円環程度の大きさ。

426.
「おはよう」と当たり前に挨拶を交わす朝が来ることが、当たり前ではないと知ってしまった。喪失の恐怖を知った今、ただの挨拶の温もりの大きさを知る。その笑顔の温もりを。だから、雨の日も人殺しの日も、ただ笑顔で挨拶を交わす。「おはよう」

427.
難しい顔で書類仕事に没頭する彼女の眉間の皺を、指で伸ばしてみる。顔を上げキッと私を睨み付ける彼女の眉間の皺は、更にくっきりと深く刻まれる。しまった、作成失敗か。

428.
ポーカーフェイスが憎らしく、また思ってもいない言葉が口をつく。鋭い剣は己の胸をも突くと知りながら止まれないのは、通う血を、体温を確認したいから。たとえ傷付けても。たとえ傷付いても。

429.
指を切ったら血が出るように、心にも目に見える何かがあれば良いのに。酷い言葉を吐き続ける彼の胸は血塗れ。そんなことも見えない私だとでも思っているのかしら。ああ、莫迦な男。それでも彼の望む言葉を吐けない私だと分かられているのだろう。ああ、莫迦な私。

430.
「軽蔑するわ」そう言って女は笑い、私の前から去って行った。「心が此処に無いことは、先に言っておいたじゃないか。酷いな」そう言って私は笑い、派手な女の背中を見送る。肩のラインと髪の色が彼女とよく似た女は、振り向くことなく去った。あの後ろ姿に振り向いて貰えないのには、慣れている。

431.
「大人しく執務机に座っていられないのですか?」「うむ。腹を壊して、尻の穴が痛い」「どなたかに掘られたので?」「……君ね、女性が何ということを」「まぁ、軍で男に揉まれてますし、女性に向かって尻の穴なんて言う上官にも恵まれたもので」「……あ、すまん」「何を今更」

432.
美味いものをたらふく食べた彼女は、今にも喉を鳴らし始めるのではないかと思わせる体勢で、ソファの角で丸まっている。美味い食べ物より彼女を幸福にする力を持たない私は、せめて彼女が銃を手放し無防備でいられる時間を守ることが出来る幸福を享受し、喉を鳴らす。

433.
「おい、いいのか? 彼女、行っちまったぞ?」「構わん」「お前、案外冷たいのな。愛妻家の俺を見習えよ」「私の想いなんて、全て彼女は知っているさ。何を今更だ」「……お前、案外可哀想なのな。奢ってやろうか?」「やめてくれ、哀しくなるだろう!」

434.
「行かなくて良いの?」「だって、私はプロで、これは私の仕事だもの」「振られても、知らないわよ?」「任務放り出した方が、確実に振られるわ」「案外いい男じゃない」「何を今更」「……ったく、やってらんないわ。行くわよ!」「ラジャー!」

435.
無口な彼女の雄弁な眼差しに翻弄される。人殺しの眼差しで見つめ合えば、共犯者。遠く未来を臨む視線で見つめ合えば、同志。濡れた瞳で見つめ合えば、男と女。全てが彼女と私の間にあるもの。全てが私と彼女。

436.
彼女が電話を抱えて泣いている気がした。それでも、そこに行けない私だから。それでも、この夜はきっと明けると伝えたくて。ポケットの中の小銭は、彼女の夜を破る為にいつだって520センズ。

437.
泣いても良いよと言われる日を待っている。その日が来たら、彼を頭の天辺から爪先までずぶ濡れにしてやるまで泣いてやる。だから、今は私は泣かない。泣いてなんかやらない。

438.
待ち合わせ場所で、人待ち顔の彼女を見つける。少し緊張したその表情が私を見つけて僅かに緩み、ポーカーフェイスを保とうとすぐに口角を引き締める。隙を見せまいとする彼女の小さな百面相を愛で、私は遅刻のお小言を素直に頂戴する。「ん、すまない。私が悪かった」

439.
彼の眉間に刻まれる険しさを、その眼差しの強さを愛す。苦悩も悲哀もその表情に閉じ込めて、莫迦みたいに前だけを見ているその黒い瞳の先に、たとえ私の姿が無くとも、私はその眼差しに恋い焦がれる。

440.
どんなことがあっても、彼が平気な顔で大口を開けてご飯を食べている姿を見ると、不思議と私まで落ち着いてくる。だから私も彼に倣って、豪快にホットドッグにかぶり付いてみる。腹が減っては戦は出来ぬ!

441.
目覚めた目の前にある、彼の大胸筋に指を這わせる。着痩せして見えるけれど、しっかりと生き抜く為のストイックさは、彼の身体のパーツに具現されている。私の頭の下にある上腕二頭筋がしなやかなに動き出し、私は彼の鍛えぬかれたパーツたちに包み込まれる贅沢を味わう。

442.
そのボールは、私の子犬の為に投げたもので、貴方とキャッチボールをする為に投げたものではありません。そう言ったら、だって君が私の方へボールを投げたんじゃないかと返された。投げて下さいと言ったら、ボールは子犬に向かって投げられた。あの笑いは、きっと確信犯。ああ、ホントに腹の立つ!

443.
点滅する信号に走り出す私。追いかけて貰えることを疑いもせず走り出す私。捕まるにしても、逃げ切るにしても、背後に彼の足音がない世界なんて知らない私。甘やかされた私。狡くて汚い私。

444.
あの背中が追いかけて貰いたがっているうちは、まだ我々には様々な選択の余地があるということ。可能性の芽を潰したくないから、私は彼女の甘えを受け入れる。もう少し楽な甘え方をしてくれれば、私も楽なのだがね。そう考えて駆け出す、真夜中の鬼ごっこ

445.
水に砂糖を溶かすと粘度が増すように、我々の間の甘さが増したら分かるものがあれば良いのに。唇を交えて体液を交わしても、たらたらと流れ出るそれは何も教えてくれない。もっと濃厚な熱い体液を交わしたら、君の身体はそれを教えてくれるのだろうか。ねぇ、試してみないか?

446.
こうやって英雄だとか何だとか祭り上げられて、己の輪郭だけが独り歩きしていってしまう恐怖を感じる時。彼女が呼ぶ私の名が、私に私を認識させる。私は私、ただの一人の男。それを知らしめる彼女の声の重みが、私を地面に繋ぎ留める。

447.
「今ここで起こったことを無かったことにしてしまうのも、冗談にしてしまうのも、真剣に受け止めるのも、全て君の自由。さぁ、好きな未来を選んでくれ、私はそれに従おう」自由という名の酷い仕打ちにさえ、自分の判断で人生を選ぶ彼女の強さに、きっと私は救われている。

448.
時折、投げやりを装って私を試すのは、弱った彼の悪い癖。その程度で傷付く程、ヤワには出来ていませんよ?

449.
硝煙弾雨が垂れ込めて、彼の姿も見えなくなった。それでもあの背を探すのは、雨の嫌いな彼ならば、この弾丸の雨すらも、晴らしてくれると思うから。この空の下に紅く立つ、焔を求めてひた走る。それが私のサダメだと、 ただ我武者らに駆け抜ける。

450.
運命も宿命も信じない。他人任せの責任転嫁には都合の良い言葉だが、そんなものに己の生き様を決められては、堪ったものではない。痛みも悦びも彼の人も、この手で掴まえたもの。私が選んだ全てを粛々とこの胸に抱き、私は明日へと手を伸ばす。

Twitterにて20110726〜20110914)