2012-01-01から1年間の記事一覧

Forget me not 後編

「全てを覚えていないわけではないのですが」 リザは前置きのようにそう言うと、ロイの腕の中に包まれたまま覚悟を決めた表情で口を開いた。 「大佐が士官学校に入られる為に我が家を去られた前後から、特に父の葬儀の日の前後の記憶が部分的に曖昧で」 そこ…

Twitter Nobel log 18

851.うたた寝の幸福。自堕落を許される平和を噛みしめること、そっと毛布をかけてくれる彼女の情を確認できること、時々隣で眠り込む彼女の重みを受け止めること。852.密やかに忘れられて死んでいく。その程度の存在の軽さは、幸福であり、恐怖でもある。た…

smooth over おまけ

まったく、どうしてくれようか。この男は。 眉間にしわを寄せたリザは、何とも複雑な思いでソファーで眠り込んでしまった男の姿を見下ろした。 部屋履きを脱いだ足を肘掛けの上に乗せたロイは、反対側の肘掛けを背もたれに本を読みかけたまま眠ってしまった…

Twitter Nobel log 17

801.貴方と私は同じ言語を話している筈なのに、時として二人の言葉は通じあわなくなる。それは私が私であり、貴方が貴方である限り、永遠に通じない言語であるのだろう。ハロー、ハロー、聞こえますか。届かなくても言葉にします。目の前の貴方に届かない言…

SPARKお礼

SPARKにお運び下さった皆様、どうもありがとうございました。 秋のまったりイベントの筈のSPARKなのですが、今回の私のテンションはちょっと凄かった。 何と言っても大好きな「空中歩行」のスウコウライ様と、恐れ多くも合同サークルでイベント参加させて頂…

smooth over

眠るつもりはなかったのだ。 ただ、夕食を食べ腹がくちくなると、どうにも瞼が重くて仕方なくなってしまった。 ほんの半時ほど。 そう思った筈が、もう時計は二三〇〇をさしている。 参ったな。 ロイはポケットから取り出した銀時計の蓋をパチリと閉めると、…

SSS集 14

himself 錬成物に創造主の個性が出る、というのは彼の錬成した物を見ていると、何となく納得がいく。彼の作るものは、不思議と豪放な中にどこか品がある印象がある。 例えばこのグラス。非常に分厚い硝子で出来ていて、ずっしりと重みがあるクセに、多面的に…

Twitter Nobel log 16

751.扉の中で、多分、この辺りに彼女は額をつけて、様々な感情を堪えているのだろう。扉の外で、私が触れられぬ彼女の代わりに扉のこの辺りに手をつくことを、彼女は知っているだろう。一枚の板の遮るもの、伝えるもの。私達はそんな微かなものにすら、すが…

真夜中のライン

夜の空気は、冷たく澄んでいた。 リザは闇の隙間を縫うように静かに歩く男の背中を間近に見ながら、人気の無い公園を歩いていく。 スリーピーススーツの上着の前を開けた男は、いつもより少しだけ隙のある空気を漂わせ、リザはその雰囲気に寄り添うように、…

インテ、ありがとうございました!

さて、今年の夏は東奔西走で、頑張ってインテにも参加させて頂きました。 前日のすさまじい雷雨から一転、晴天のイベントになってホッとしましたが、暑い中お運び下さった皆様、ありがとうございました。 前日は、新幹線が止まる程の悪天候の中、大好きなサ…

夏コミ、ありがとうございました!

夏コミ、暑い中お運びくださった皆様、どうもありがとうございました。 いつもコメント下さる皆様、本を手にとって下さる皆様、いろんな方と直接お会い出来る機会は、いつも緊張します。そして、とても嬉しいです。お心遣い、お差し入れ、お手紙、本当に沢山…

overeating

「だから、今回の件は俺が悪かったって言ってるじゃないッスか」 「莫迦か、お前は。お前一人に責任が取れる問題だったとでも思っているのか。あの時、フュリーのフォローがなかったら、どうなっていたと思っている」 「いや、れも、僕は、当然のことをした…

Twitter Nobel log 15

701.「なんだか久し振りに、君とキスをした気がする」「昨日お会いしたばかりですよ?」「ああ。多分、生きて戻れた安堵感のもたらす錯覚だな」さらりとそんな風に言ってのける男の存在に身を切られ、私はその軍服の煤けた襟元を掴み、何度でも彼の望む幻を…

over again and again

目覚めると、部屋の中は真っ暗だった。 ソファーの脇の読書灯の淡いオレンジの光だけが、ぼんやりと部屋を照らしてる。 どうやら自分は彼の部屋で、座ったまま肘掛けにもたれて眠り込んでいたらしい。 不自然な体勢でうたた寝をしたせいで痛む首を押さえなが…

1811 On the sofa

彼は満ち足りていた。 何故ならそこには、彼が穏やかに休日の午後を過ごすための全てが揃っていたからだ。 お気に入りのソファー。 うず高く積み上げられた書籍の山。 愛用の万年筆。 贔屓の珈琲屋のオリジナルブレンド。 そして、同じ屋根の下には彼女がい…

overanxious

コツコツと遠慮がちなノックの音と、遠慮なく扉を開く音がほぼ同時に狭いバスルームに響いた。 「どうかなさいましたか?」 リザはシャワーカーテンの陰でわずかに身構えながら、カーテンに映る男のシルエットに問いかける。 だが、彼女の問いかけに返事はな…

SCCありがとうございました!

スパコミ御礼さて、気付いたらもうGW終了から2週間が経ってしまいました。レポートを、と言いながらすみません。 当日はすさまじい雨の中、沢山の方にお運び頂いて、本当に感謝感激です。今回も「前日までコピー本作り、コンビニのコピー機に原稿を喰われ…

Twitter Nobel log 14

651.咄嗟の判断力と決断力は素晴らしい癖に、春の新作ケーキのチョイスに悩む彼女を可愛らしく思う。どちらも食べてしまえば良いさ。食後の運動なら、付き合うから。652.誕生日や記念日や、そんなものを一緒に祝う関係ではない。ただ密かにその日を己の中に…

oversleep

静かな朝の空気を破る、鳥のさえずりが聞こえた。 微かな音にロイは眠りの渦から引きずり出され、眉間に皴を寄せながら薄目を開けた。 カーテンの向こうには眩いばかりの太陽が輝き、夜明けから随分と時間が経っている事を彼に知らせている。 ああ、もう少し…

frosty gray

定刻を半時遅れて出発した列車は、漆黒の夜の中を静かに滑っていく。 ロイは汽車が出発してからずっと、車窓の風景を眺めていた。 彼の副官に少しの無理を押し通し、初めて乗った砂漠の汽車の旅はまるで夢の中を走っているようだった。 夜の砂漠は仄かな月明…

Forget me not 前編

「本当に、覚えていないのか?」 「ええ。本当に覚えていないんです」 ロイの問いかけに、リザは少し俯いて彼から視線を逸らすと、困ったような顔で笑った。 淡いオレンジ色の読書灯がリザの上に濃い影を落とし、彼女の表情を曖昧にする。 ロイは錬金術を探…

Twitter Nobel log 13

601.どのような行為にも「君の為に」と言い訳を付加すると、途端に押し付けがましくなる。結局は自己満足なのだと、私は黙って二人分の重荷を背負う。きっと彼女が背負うのも、同じ十字架。分かち合うどころか増える枷も不器用な我々の証かと、疲れた背中を…

だらだら若ロイ考

若ロイ考察というほどのものでもないですが、ちょこっと愚痴というか(笑)、備忘的な。今回のHARUコミ新刊は若ロイ仔リザ本なのですが、難産だった理由は若ロイにありました。 ここのところ、准将(と書いて「大人の男」と読む)に夢中で、若ロイ(最後に書…

rose pink

おろしたてのダークグレーのスリーピース。 ルームミラーできっちりと櫛を通した髪を確認して、ロイは車のエンジンを止めた。 洗車したての車、貢ぎ物はジャケットの隠しに。 完璧なデートの装備を整えた彼は、駆け寄って来る待ち人の姿を見つけ、相好を崩し…

Twitter Nobel log 12

551.見慣れたスーツ姿のくせに、オールバックで正装を気取るだけで、私の心を騒がせる。新年からやっぱりニクい色男、今年は負けませんから。どうぞよろしく。552.彼女の荷物持ちをしてみたい私は、彼女の後ろを歩かせてもらえない。背中をまかせるとは言っ…

dawn purple 3 おまけ

新しい太陽が地平に姿を現すのを見届けた彼らは、名残惜しく美しい朝焼けに背を向けた。 忙しい彼らに、ゆっくりと夜明けの余韻を楽しむ時間はなかった。 本来なら今、ここでこうしている時間も、残業明けの貴重な睡眠時間に充てられるべき時間なのだ。 我が…

dawn purple 3

もう何度、この夜を繰り返してきただろう。 夜明けに向かって走る自転車の荷台に揺られながら、リザは感慨深い想いで目の前で揺れる広い背中を見つめた。 明け方の冷たい空気の中で息を切らして、この地方で一番偉い筈の人物は必死の形相で彼女を乗せた自転…

インテお礼

昨日インテにお運び下さった皆様、どうもありがとうございました。沢山の方とお会い出来て、お話出来て、とても嬉しかったです。遠方から来て下さった皆様、いつもコメント下さる皆様、いつもうちの本を手にとって下さる皆様、本当にありがとうございます。…

Twitter Nobel log 11

501.瞬きを一つ。気配を感じて振り向けば、不自然に視線を逸らす彼女の存在。瞬きを一つ。薄目を開けて、見逃さないように。今度は君が油断してくれるかい?502.「逃げ出しても良いかな?」「何からですか?」「デスクワークから」「駄目です」「なら、君か…