Twitter Nobel log 13

601.
どのような行為にも「君の為に」と言い訳を付加すると、途端に押し付けがましくなる。結局は自己満足なのだと、私は黙って二人分の重荷を背負う。きっと彼女が背負うのも、同じ十字架。分かち合うどころか増える枷も不器用な我々の証かと、疲れた背中を見て私は苦く笑う。

602.
ぽっかりと莫迦みたいに大口を開けて、夜空を見上げる彼の隣に立つ。ああ、今夜は満月だったのだ。そんなことすら気にする余裕のない日々に、自分が振り回されていることに気付く夜。少しだけ、歩く速度を下げてみる。並んで歩く夜の楽しみを見失わないように。

603.
本来の防寒の意味で使われることのない私の手袋の代わりに、私の手を覆うのは彼女の小さな手。冷え性の指先を暖めながら、私は暖まる己の胸の内をもて余す。

604.
「嘘吐き」それで丸く収まるのなら、そういうことにしておけばいい。そう考える私も嘘吐き。

605.
『卒業したら、また』『大人になったら、また』幾度も再会の約束を交わし、私たちは生きてきた。どんな別れの時も、どんな酷い状況でも、ただの一度も私たちは『さよなら』を言わなかった。それが、結局は私たちが最初から決めていた答えなのだと、これだけの時が過ぎてから気付く春。

606.
嘘をついてもいい。泣いてもいい。勿論、怒ったって、殴ったって、喚き散らしたって構わない。だから、そんな顔で笑うな。

607.
命令という形の懇願。狡い男が哀しくて、私は笑う。貴方は私の鏡だというのに。

608.
色気のない武骨な指先が、私の唾液に濡れた途端に夜の領分に踏み込んで、爬虫類の舌のように蠢く。何にでも上手に火を点けるサラマンダーの紅い舌が、ゆっくりと私に絡み付く。灯が点る。指先に、夜に、私に。

609.
命令と敬語。私たちの間で交わされる言葉を飾るもの。太陽の下、私たちのけじめのラインを引く為に。闇の中、私たちのちょっとした遊びを彩る為に。命令と敬語。私たちはこうやって、言葉に魔法をかける。

610.
新しい遊びに夢中になる子供みたいに、陰謀の策略を巡らす横顔。汚れた大人の世界のルールに則って、正々堂々と卑劣な罠を張り巡らせる。命懸けのゲームだと笑うその清々しさに惑わされる私も、既にゲームの盤上の駒。それで構わないと、私は彼と同じ黒い笑みを浮かべる。

611.
正直に言ってしまおうと思っても、いざとなると何も言えなくなる。その言葉が相手を切り裂く刃になると知ってしまったからには、黙って己の胸を己の胸を切り裂く方を私は選ぶ。正直が美徳だと信じる程、私たちは子供ではない。

612.
美味いものを食べると、彼女の顔が浮かぶ。食べさせたいなと思う。ほんの少し綻ぶ表情を思う。惚れているのだなと思う。美味いものを食べると浮かぶ笑みの理由は、一つではない。

613.
下らない接待で食べたランチが、如何に美味しかったかを彼は熱弁する。何をしに行ってきたんですかと咎めると、悪びれもせずデートの下見と言ってのける強かさが憎めない。仕方のない人。奢りなら、付き合って差し上げなくもないですよ?

614.
「うっわ。珍しいな、中尉の素っぴん。寝坊か?」「シッ、黙っとけ。半殺しにされるぞ」「誰に?」「分かってて、言わすか? お前」「いやぁ、お約束だろ?」

615.
「【素っぴん】化粧をしていないこと。または、その顔のことをいう」「それって、結構ケンカ売ってますよね」「素っぴんでもお綺麗なら構わないのでは?」「それって、やっぱり半殺しコースですよね」「【沈黙は金、雄弁は銀】ですかね」「それって、真理ですよね」

616.
「男の人へのプレゼントって、悩むわよね」「あら、そんなの簡単よ。首にリボンでも巻いて『プレゼントは、ア・タ・シ』ってやりゃ良いのよ」「何、そのオヤジ臭い発想!」「でもきっと、物凄く喜ぶわよ?」「……否定出来ないのが、ムカつくわ」「誰に?」「言わせないで、情けなくなるから」

617.
一人で泣く時よりも、背中に大きな手を感じながら泣く方が、沢山泣けるのは何故だろう。“手当て”という言葉が浮かび、駄洒落じゃないんだからと、私は少し泣き笑う。こんな効能を持つ手は、彼の手だけ。強い私も、弱い私も、どちらも知っている彼の手だけ。

618.
闇の中交わす口付けを、月が覗き見る。彼女と私の秘密だよ、と私は笑って彼女の頬に添えた手を滑らせる。覆う口元、落ちる影。それすらも、誰にも見せぬ秘め事。

619.
この腹の中に、血塗れの獣を飼っている。否定したところで、それもまた私の一部であるのだから、私は結局その本能に突き動かされ、彼の人を喰らう。喰えば喰うほど虚ろになるのは、この理性のせいか。人にも獣にも成りきれぬ切なさを忘れようと、私は二人きりの世界に溺れる。

620.
単語しか喋らぬような無口な父と二人の世界に、彼は私たち親子が話す倍の言葉をもってやって来た。彼とてお喋りという訳ではないけれど、家の中の空気が明るくなった気がして、私の言葉も倍に増え、思わぬ相乗効果に父の小言も増える。言葉で溢れる我が家、私の夢だった賑やかな家。

621.
思いがけない場所で、思いがけない人を見かけた。別に声は掛けない。その背をただ視線で追う。それだけで嬉しい。それだけで。

622.
ちらりと私を見上げ、何かを確認するように小さく頷く彼女が視界の端に映る。何を肩に力を入れすぎているのかと、私は苦笑する。「男前過ぎて見惚れたか?」「莫迦おっしゃってないで、前だけ見ていて下さい!」ああ、そのくらい脱力していた方がいいさ。さぁ、戦いを始めよう。

623.
理性と本能秤にかけて、男と女で揺れ惑う。どうせ表裏は一体と、辻褄合わせの朝と夜。喰ったつもりが喰らわれて、満たす空虚に穿つ穴。絡めた指と反らす顔、好きを嫌いと言いながら、嘘に真を忍ばせる。

624.
走れ、走れ、走れ。立ち止まると見ないようにしていることを、うっかり見てしまうから、走れ、走れ、走れ。 「君は何から逃げている?」その言葉を聞かない為に、走れ、走れ、走れ。

625.
サボリ癖のある上官の操縦術は、意外に簡単。むしろ難しいのは、猛獣使いの手綱捌きが必要になる時。暴走の暴力を操縦すること、それが私の使命。そんな瞬間が来ないことを祈って、今日も私は怠惰を装う彼の尻を叩く。

626.
その笑顔の下に修羅が住んでいる。非情になりきれぬ修羅が。目的の為ならと振るう刄で己の心の臓を斬る修羅が。共に流す血が忠誠の証なら、どうか私を貫いて。共に流す体液すら混じり合う、朱に染まる世界を見せて。

627.
そこに私が知る男の姿はなかった。背中を丸めた後ろ姿なんて、見たくない。だから私はその背に覆い被さり、彼の腹に手を回す。そうすれば、私の視界からその背は見えなくなるから。さぁ、見ないふりしてあげますから、さっさと立ち直って下さいな。

628.
そこに私が知る男の姿はなかった。背中を丸めた後ろ姿なんて、見たくない。だから私はその背に覆い被さり、彼の腹に手を回す。「太りました?」「……腹を掴むな」

629.
息も絶え絶えになる程に笑い転げる彼女というのも珍しい。彼女の楽しげな姿は、見ていて嬉しいものだ……、が。何故、私を見て笑い転げているのか。何故だ? 何故なんだ! 「ぷフッ、アハハハハハ」「だから、何なんだ! 教えたまえ! 君!」「何でもありません」「えーッ!」

630.
こんな時こんな余裕のない顔をしているなんて、知らなかった。眇める眼差しの艶が美味しそうなんて、ふしだらな笑みで舌なめずり。灯りを点けたことで追い詰められたのは、私じゃなくて貴方。上下関係なんて闇の中に置き捨ててしまったわ。

631.
「嘘をついても良いですか?」その後に囁かれた言葉に、私はただ目を伏せる。私をねじ伏せる嵐のような嘘。嘘には嘘で返すのが礼儀だと、触れるだけの口付けを君に落とす。都合の良い言葉を利用して、私たちは『嘘』に塗れる。

632.
ピアスをつけ忘れると、なんだか裸でいるようで落ち着かないと彼女は言う。柔らかな皮膚に開く穴。確かにエロチックかもしれないなと笑う、週末の余韻の残る朝。

633.
「元気がないな」と気付くくせに、「元気を出せ」と無理には言わない。立ち直るには、時間薬が必要だと知っている。そういう人だから、彼は私の元気の薬。

634.
流行りの色の口紅を贈られた。どんな顔して買ってきたのかしら。泰然と? 照れながら? スマートに? ぶっきらぼうに? 彼の百面相を連想しながら、私は唇の上に春を載せる。

635.
ラブレターだなんて、そんな証拠を残すようなものはいらない。キス1つで伝わるもので十分さと嘯き、二人で完全犯罪を目論む。だから、そのルージュは拭って裸のキスをしよう。

636.
無い物ねだりの駄々っ子のように、私を欲する貴方を笑う。貴方が欲しい幻は、父の書斎に永遠に置いてきた。知っているくせに、この背に指先を滑らせるなんて。酷い男、まるでカサノヴァ。

637.
足の爪を切る為に、椅子の上で片膝を抱え込むように小さく身を丸めた姿が、何だか可愛らしい。そのくせゴツゴツと骨ばった大きな手足のパーツで、自分の雄を主張するのだから、私は困って目を伏せる。その足元に跪き、あの爪を優しく摘みたいと思う衝動、私はふしだらな彼の狗。

638.
脱ぎ散らかした靴も靴下も青い上衣も青いズボンも、みんなみんなお揃いだから、どちらの物か分からなくなって、床の上でこんがらがって溶けていく。まるで私たちそのものだと笑い、我々はベッドの上で互いが判別できなくなるまで、重なり合って溶けていく。まるで甘美なバター、掬って舐めて味わって。

639.
きつく結い上げた髪のうなじに残る後れ毛が、彼女が自分に許す女の領域の象徴のようで、私は彼女の隙を突き、その後れ毛に指を絡める。こじ開けて、曝き出す。きっかけは、そんなささやかな君の隙。

640.
晴天を恐れている。己の力を知るが故に。彼女の愁いを恐れるが故に。ギラギラと照る太陽が、己の一番の敵に見える。私を無能にする雨に恋い焦がれる、私は干からびた火蜥蜴。

641.
目覚ましを、コンマ五秒で止める技。私への彼女の気遣いに応え、狸寝入り。ささやかな朝の幸福。

642.
どんな優秀な戦果を上げても眉一つ動かさぬ彼女が、完璧な半熟卵が出来たと相好を崩す。そんな日常を恒常にしたいと、私は密やかに願う。

643.
懺悔の迷宮に迷い込んだ私を、探しだしに来たひとの手を掴む。共に惑うことを厭わぬその強さに背中を押され、私は確固たる足取りで、自分が前だと思う方向へ進む。このたったひとつの温もりが、私の人生の指針。

644.
その行為が君にとって無駄だと言うのなら、この世はすべて無駄だらけ。意味付けが必要なんて、ナンセンス。心地好いだとか、嬉しいだとか、感情に任せることを忘れるなんて莫迦のすることさ。だから、ほら。私と試してみないか、この感情に任せた行為を。

645.
職場が同じなら、帰る家も同じ。食べるものも同じなら、当然、腹を壊すタイミングも同じ。全てが同じせいで、まさか己のレディファーストの精神が崩壊の危機にさらされる日が来ようとは。脂汗を滲ませ、私は様々な危機を堪え忍ぶ。「中尉、そろそろ……」「無理です!」嗚呼! 頑張れ、私!

646.
職場が同じなら、帰る家も同じ。食べるものも同じなら、当然、お腹を壊すタイミングも同じ。全てが同じせいで、まさかこんなことで私の忠誠心が試される日が来るなんて。目に涙を浮かべ、私は様々な苦しみを堪え忍ぶ。「中尉、そろそろ……」「無理です!」無理なものは無理なんです、嗚呼!

647.
「大丈夫ですか?」「……ああ、何とか諸々全て死守した」「あの、ちょっとキュンと来ました」「……うん、まぁ、今ので惚れ直されるのは、流石に私もちょっと複雑だ」

648.
この青い軍服に袖を通している限り、得ることのない家族という関係の真似事。それだけで満ち足りた顔をする彼の優しさは、身を切る様に痛く、狂おしい程に愛おしい。

649.
珈琲のドリップが落ちきる前に、帰ってくるかしら。おはようと、おやすみと、ただいまと、いってきますのキスを一度にする時間くらいはあれば良いのだけれど。夜勤と日勤、すれ違いの朝の待ちぼうけ。

650.
少しだけ酸味の強くなった珈琲と、まだ仄かに暖かいフライパンの中のサニーサイドアップ。彼女のタイムアップを告げる様々な遺留品を眺めながら、私は寝不足の顔で彼女の作ってくれた太陽に「おはよう」を告げる。すれ違いの朝の独り言。

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