2020-01-01から1年間の記事一覧

黎明 Side Roy

「ああ、終わった!」 ロイは愛用の万年筆を置くと、うんと伸びをしながら言った。早朝からずっとサインを続けたせいで怠さを覚える腕の筋肉が、軋みをあげてほぐれていく。読み終わったらしい書類の束を膝の上でまとめたリザは、生真面目な表情で彼に視線を…

黎明 Side Riza

軍人であるリザの朝は早い。 東方司令部で一番偉い人になった上官の増えていく仕事を効率よく処理するため。 突発の変更に早めに対応するため。 そこに様々な理由をつけることは出来るが、単純に彼女は誰もいない朝の司令室の凛とした空気が好きだった。 い…

其の十四 犬だって食わない ― バカップル  ―

重い銃声が式典会場に響いたのは、一五二〇を過ぎた頃だった。「手を上げて、武器を捨てろ! 抵抗しない者には危害は加えない!」 オリジナリティのない、だからこそ効果のある脅迫の声が場の空気を揺らした。 一瞬の静けさが場を満たし、次の瞬間、悲鳴と怒…

軍帽二十番勝負 其の四 礼装軍団 ― チーム・マスタング ―

「おい、お前、襟曲がってるぞ」「あ、すみません」「やっぱり、礼装は動き難いよなぁ」「なんと言っても、礼装ですからね」「久しぶりに持つと重いんですよね、サーベルって」「なんせサーベルだもんなぁ」「しっかし、俺、礼装着るの自体、ものすげー久し…

軍帽二十番勝負 其の十二 彼女という名の光 ― 共闘する二人―

「五時の方角、三〇メートル。二人!」 小さな礫のように鋭いリザの声が飛んだ。狙撃手である彼女の指示が的確であることは、誰より長く彼女の傍にいるロイが一番よく知っている。思考より先に動くロイの身体はその言葉に弾かれ、彼は振り向きざまに指を二つ…

軍帽二十番勝負 其の十一 サーベルアーチ   ― 夜の綻び ―

他人の結婚式というのは、基本的に退屈なものだ。ましてや、それが自分と直接関係の無い人間の結婚式であるなら尚更。 リザは長い長い退屈から解放された安堵の溜め息をつき、硬いコンパートメントの椅子に身を沈める。ずっと立ちっぱなしだったせいで、ヒー…

軍帽二十番勝負 其の一 ストイック・ステーション―切なめストイック―

わっ、と群衆の間から歓声が上がった。 駅周辺の高い建物の位置をチェックしていたリザは、人混みに揉まれながら大きな声の上がった方を振り向いた。彼女の視線の先には、綺麗にデコレーションされた御成列車が駅に到着する姿と、それを取り囲む民衆の姿が映…

Twitter Nobel Log 50

2451.無精髭。寝癖。酷い隈。本日の式典に臨む准将閣下には似つかわしく無いもののオンパレード。銃の代わりに櫛を手に、私は本日の敵の各個撃破に取り掛かる。誰にもこんな舞台裏を想像させない程に立派な礼装姿を作り上げるのも私の仕事と嘯き、私は偉い男…

Twitter Nobel Log 48

2351. 貴方が作った法で、貴方が裁かれる。私たちが目指した民主国家の皮肉。戦争が終われば英雄はただの人殺し。そう言って笑う貴方は満足そうで、私は軍人の狗として吠える言葉を探しながら、青空に吸い込まれそうな透明な笑みをただ見つめるしかなかった…

Twitter Nobel Log 49

2401. 失うことが怖いから盾になる。そんな臆病な理由で前線に立つ私を他人は勇敢だと評する。認識の差に苦笑する私を彼だけは苦い顔で見る。この人にだけは見破られているのだと私は少しだけ幸福な苦笑を重ね、頑固な副官の顔で彼に視線を返した。 2402. 欲…

pp

2009年に初めて出した書き下ろしオフ本のウェブ再録です。今では解釈違いでこんな甘い(当社比)お話は書けないし、稚拙な文章ではありますが、大体6万字くらいあるのできっと時間つぶしにはなるはず。(笑)ひとときでも、読んで下さる方の無聊を慰める事が…