Twitter Nobel Log 49

2401.

失うことが怖いから盾になる。そんな臆病な理由で前線に立つ私を他人は勇敢だと評する。認識の差に苦笑する私を彼だけは苦い顔で見る。この人にだけは見破られているのだと私は少しだけ幸福な苦笑を重ね、頑固な副官の顔で彼に視線を返した。

 

2402.

欲しいものはと問われても、私の欲しいものは他人から与えられるものではない。自分で手に入れないと意味がないものですからと答えれば、貴方は微苦笑を浮かべて肩を竦める。きっと君と私の欲するものは同じなのだろうなと答える言葉が、今の私にはもらって一番嬉しいものかもしれない。

 

2403.

肩書きを必要としなくなった時、私は貴方を何と呼ぶだろう。それ以前に私は今と同じように日常的に貴方を呼ぶ位置にいるだろうか。私達の目指す未来のその先を考えた時、漠然と浮かぶのはその程度のこと。そんな曖昧さに己を置く私の狡さを見逃す貴方は、潔く私の名を呼ぶ狡い男。似た者同士の私達。

 

2404.

私達を表す言葉。上司と部下。父の弟子と師匠の娘。伝承者と継承者。背中を預ける者と背中を預かる者。焔と鷹の目。男と女。皆好き勝手に私達の関係に名前を付けるけれど、そんなものには何の意味もない。ただ二人共に在る今だけが、私達のすべて。

 

2405.

首筋に掛かる吐息が静かな寝息に変わる。少し残念に思う気持ちと僅かな彼の休息に安堵する思いを綯い交ぜに、私はクセのない彼の黒髪を指に絡める。

 

2406.

雨の日は心配事が絶えない過保護な君を苦笑で見つめ、私は予備の手袋をポケットに隠す。本当は両手に刺青でも刻めばすべて解決する問題だが、君の背を灼いた私にはそれはなかなかに難しい選択だ。敢えて不便なこの手袋に 様々な想いを 共に隠す。

 

2407.

厚く切ったトーストにベーコンとハムを載せて、濃い珈琲と共に胃袋に納める。朝日の中、滴る脂を舌先で舐め取る肉食の逞しさを眺め、私は笑いながら指先で己の口角に残る油を拭き取る。小鳥のように美食を啄む淑女より、背を任す君の気持ち良いほどの健啖家ぶりを愛す。

 

2408.

正直なところ。きっと貴方なら一人でも目的を果たすだろうという信頼はあるのだ。それでも『この人は私が傍に似ないと駄目なのだ』と貴方は私に思わせる。狡い男だなと思う。それに便乗する私も狡い女だと思う。お互いを手放さない私達の生き方。

 

2409.

一つの国の行く末を背負うことと私の人生を背負うことは彼の中では同等のことであるらしい。部下を困らせることにかけては右に出る者のいない我が大総統閣下の今年一番の世迷い言。誰にも聞かせられぬ私だけの小さな機密。

 

2410.

砂礫の大地で見上げた夜空はあまりに暗く、地上の焔だけが唯一の光源に見えた。イーストシティの夜空に見える夜空は街に明かりにぼんやりと霞み、あの日の焔の記憶を褪せさせようとするようだ。抗う想いを指先の焔に灯す貴方の背を追い、私はあの日の夜空を償おうと未来へと手を伸ばす。

 

2411.

美しい歴史を紡ぎたいわけではない。血塗られた過去に蓋をしたいわけでもない。ただこの手が犯した事をこの手で償いたいだけだと彼は言う。歴史はいつだって生き残った者が主役。紙上の過去を書き換えることさえ容易な立場にいる彼のそんな愚直な背中を、私は愛おしさと敬意をもって守り抜くことを誓う

 

2412.

マスタン組で記念写真撮る機会に一枚目はしれっと皆普通の顔で写真に収まって、念のためもう一枚って時にカウントダウンで真ん中二人除く全員が脱兎の如く離脱してツーショット撮らせて二人ぽかーんとしてる場面が浮かんで萌え。ブレ子まで捨て身の猛ダッシュで腹スライディングとかしてると尚萌え萌え

 

2413.

泣きたい時に泣けない女ならまだいい。己が泣きたいことすら自覚しない女は厄介だ。厄介ついでに啼かせてしまえと考える己に嫌気が差すと同時に、無意識にそれを待つ彼女の手の中に落ちていく己に苦く笑う。絡め取り、絡め取られる、火蜥蜴の巣の中で。

 

2414.

「ご冗談は程々に」
澄ました顔で言うリザの手が作った拳には、傍目には分からぬ程僅かに力が入っていた。ロイにしか分からぬその変化は彼にとっての明確な彼女からの答えであった。
「すまない、からかいすぎたか」
彼は様々な意味を込め呟く。
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2415.
交わした視線が合図だった。
二人の軍靴が同時に地を蹴った。
彼女の銃口が火を噴くのと彼の指先が焔を生む瞬間にさえ僅かのタイムラグもなかった。リザ自身が惚れ惚れするほどの同時攻撃が、バリケードの一角を崩す。
「GO! GO! GO!」
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2416.
静かな吐息が彼の耳元を掠める。
「お誘いかな?」
静かに囁けば「莫迦なことを」と小さな笑みを含んだ答えと共に、更に甘やかな吐息が意図的に彼の耳朶をくすぐる。
「誘わせたいのか?」
そう答えれば、彼女のくすくす笑いが更に大きくなった
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2417.

だが不思議と意識は冴え、目の前の男の顔が徐々に近付いて来るのを彼女はじっと見つめる。どんな敵と向き合う時よりも男は真剣な顔をしていた。
互いに目は閉じなかった。 見開いた漆黒の瞳の持つ熱量がそのまま彼女の唇の上に灯った。
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2418.

彼の目尻には小さな雫が浮かんでいた。親友の葬儀以降一度も見せたことのない彼の涙にリザは微かな充足と幸福を感じ、そっと耳元で囁く。
「本日は快晴ですが」
彼女にからかわれ、ロイは苦笑した。
「花嫁の父親代理を完璧に全うしているだけさ」
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2419.

もうもうと煙る砂埃が視界を遮る。だが、ロイはそれすら気にすることなく指先から焔の紅い舌を伸ばす。
「風は北北西から。目標までの距離2200」
「上等だ」
スポッターを務める彼の副官の声を耳に、ロイは不敵な笑みを浮かべた。だが、次の瞬間。
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2420.

「怖いですか?」
「ああ、勿論怖いさ、怖くて手が震えるほどに」
茶化した口調でロイは彼女の言葉に答える。1枚の毛布にくるまるロイの表情は彼女からは見えない。だが、組んだ彼の指先がキンと冷え切っていることだけは彼女にも分かった。
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2421.

パシッ。
思っていた以上に大きな音が立った。振り払われた己の手を見下ろすロイの瞳には、夜より深い色の諦念の色が浮かんでいた。当然のことなのだと彼は思っている。一瞬の後悔とこれで良いのだという想いが綯い交ぜになり、リザは目を閉じた。
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2422.

緩やかな微熱が彼女の肉体を蝕んでいく。
このままでは駄目なのだと理性が泣き喚く。
それでも、彼女の指先は吸い付く様に汗ばんだ男の背中に回されていた。
嘘吐き。
嘘吐き。
嘘吐き。
誰に向けたものか分からぬ呪詛が彼女の頭をぐるぐると廻る
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2423.

「さようなら」
いつも口にしているはずの言葉がリザの頭の中で大きく響く。
ああ、父のお弟子さんはもうここには帰ってこないんだ。
そう思った瞬間、リザは思わずマスタングに向けてその指先を延ばしてしまった。
「リザ?」
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2424.

「それで?」
「それだけよ?」
きょとんとした様子のリザに向かい、彼女の親友はやってられないと言わんばかりに大仰に肩を竦めてみせる。
「それだけ? それって惚気以外の何ものでもないの、あんた分かってる? ほんとやってらんないわ」
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2425.

銃声の枯れた音が砂礫の大地に響く。何度も起こし続けた撃鉄は熱く、赤銅色の砂の様に彼女の指を灼いた。
これは夢だ。
頭はそう理解する。だが眠りの世界は彼女を逃がしてはくれない。
視線を上げれば遠く火炎が上がった、見慣れた色の彼の焔が。
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2426.

「きゃ!」
背後で小さな悲鳴が上がった。ロイは構わず自転車を漕ぐスピードを上げる。
マスタングさん!」
抗議の色を載せたリザの声が今度は耳元で聞こえる。だがその声は楽しそうな笑いの気配を含み、もっと速くとせがむようでさえあった。
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2427.

崩れる様にロイは執務室の己の椅子に座り込んだ。長い長い一日がようやく終わったのだ。
「終わりましたね」
彼同様疲労困憊の筈の彼の副官は、それでも清々しい笑みを浮かべてみせる。
「ああ、何とかね」
労いの言葉を探し、ロイは視線を上げた。
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2428.

鎖骨の辺りに鈍い痛みが起こる。噛み付かれた肌にはきっと血が滲んでいるだろう。だがロイはリザを咎めることなく、彼女の為すがままに身を任せる。
柔らかな舌がザリと彼の傷を抉り、ロイは思わず呻き声を上げる。
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2429.

汽車は既に走り出していた。
「飛び乗れ!」
「Yes,sir!」
打てば響く心地よさで返る言葉と共に彼女の体は宙に飛んでいた。一切の躊躇無くホームから飛んだ彼女の肢体をロイは全身で受け止める。殺しきれなかった勢いに彼の肉体は床に転がった。
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2430.

柔らかなオレンジの読書灯の光が彼女の金の髪を照らす。ロイは彼女のバレッタをパチリと片手で外すと、その指先で彼女の髪を梳いた。
読書の片手間に如何にも無意識に行われる彼の行動がくすぐったくも幸福で、リザはそっと彼へともたれ掛かる。
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2431.

レダの小声の叫びにハボックは本能的な危機感を覚え、その場で身を堅くする。
「ハボック少尉」
恐ろしいまでに優しいボスの副官の声が彼の背中で反響した。
「Yes,mam!」
ダラダラと冷たい汗をかきながら、彼は反射的に最敬礼の姿勢を取った。
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2432.

煤塗れの顔で彼女は笑った。
「酷い格好ですね、大佐」
「色男が台無しだ」
そう嘯いてみせたロイは彼女の頬へと指先を伸ばす。
「君も人のことを言えないぞ」
「存じております」
澄ました顔で答えるリザは、彼の指先が頬の汚れを拭うに任せた。
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2433.

君が泣いているように見えた、と貴方は言う。それは貴方の願望だ、と私は思う。思っても口に出す言葉は別のもので、貴方は納得のいかぬ顔で私に背を向ける。泣きたい時は一人で泣くわ。貴方にだけはけして見せない、私の中のもう一人の私。

 

2434.

少しだけ眠い目をこすり、ベッドから抜け出す。君が目覚める前に立ち去る、それが私達のルール。シャツを羽織りながら見下ろす寝顔はあどけなく、私は君の仔犬を私の代理にベッドサイドに送り込む。手の届く場所に小さな体温を残す。たとえそれが私以外のものであっても、君の朝に温もりを。

 

2435.

星の名を教えてくれたあの人と、夜空を見上げて一晩中はしゃいで過ごした。見上げた星に手が届きそうで、夜が明けなければいいのにと思った。あの人と今、共に見上げる夜空は同じ色をしているけれど、あの星々は遠過ぎて手を伸ばすことさえ出来ない。私達は今、この夜を終わらせる為に生きている。

 

2436.

「どうされました?お疲れですか?」そう言って副官が差し出した夜食は士官学生向けかと見紛うボリュームで、いい加減おじさんになった私を君は何だと思っているのかと笑ってしまう。ああ、まったく君の思うつぼだと、深夜に分厚いベーコンサンドを食べながら私は草臥れた背中を真っ直ぐ伸ばし前を向く

 

2437.

ピアスを開けたのは自分の為。貴方の為じゃない。それなのに、このピアスは貴方に贈り物をさせる格好の口実になっていまっている。何とも困ったものだと思いながらも、今日も私は貴方から贈られたピアスでそっと自分を飾り付ける。この矛盾に付ける名を私は知らない。

 

2438.

意外にロマンチストな君の呟きを、聞かなかったふりをする。きっと私が気付いていたと知れば、君が困ることが分かりきっているから。その呟きを叶えることが出来る日が来たならば、何食わぬ顔でそれを実行して君を驚かせる為に、私はそっと君の独白を胸の奥に仕舞い込む。

 

2439.

眠ったふりの私の顎に彼女の指が触れた。生え始めた短い髭が彼女の指先でゾリゾリと鳴る。無精髭の何が面白いのか私にはさっぱり分からぬが、まぁ、彼女が楽しそうなのでよしとしよう。休日の朝、シーツの狭間、白い指先をくすぐったく受け止めながら、私は朝の微睡みを楽しむ。

 

2440.

嘘を吐く。貴方がきちんとそれを曝いてくれることに安堵する。嘘を吐くのは貴方を騙すためじゃ無い。自分を騙してしまいたいだけ。それを赦さぬ貴方の存在に甘えて、今日もまた私は副官の顔で私の中の女を隠す嘘を吐く。嘘を吐く。

 

2441.

「夜が来たなら、嘘を吐くよりもう少しマシな唇の使い方を教えよう」なんて気障な言い種で、優しい昔語りを始める貴方は酷い男。期待した私が莫迦な女であることは百も承知。真綿で首を絞められるようなその優しさに包まれる、拙い嘘のしっぺ返し。

 

2442.

「夜が来たなら、嘘を吐くよりもう少しマシな唇の使い方を教えよう」なんて気障な言い種を実行する貴方に抱かれ夜を過ごす。重ねた嘘の数だけ唇を重ね、夜を重ね、それでも私は貴方が目的を果たすその日までは、きっとずっと嘘を吐き続けるだろう。見破られることの分かっている嘘を。

 

2443.

「私を口説いても無駄ですよ」副官の顔で私はそう言った。「だって私は貴方の副官ですから」
『私を口説いても無駄ですよ』女の顔で私は密かにそう思う。『既に私の想いは全て貴方のものなんですから』
だから二つの意味を込めて私は貴方に言う。
 「私を口説いても無駄ですよ、大佐」

 

2444.

痛いの痛いの飛んでいけ。子供にするようなおまじない。父のお弟子さんが私を見る眼差しが優しいほどに、自分がこの人にとってただの子供でしかない事を思い知らされる。痛いの痛いの飛んでいけ。小さな呪文が胸に痛い。

 

2445.

闇に光る目 獣の目。夜さえ見通す鷹の目は 心の内さえ見透かして 私の行く末見定める。故に背中を預けたと 言う言い訳すら見透かして ただ傍らに共にある 副官という名の下に。全てを見透かす鷹の目に 全てをさらけ出したとて 恥ずべき事なき生涯を 国の未来に捧げよう。闇に光る目 獣の目。

 

2446.

闇に光る目 獣の目。夜と見紛う黒い目は 心の内さえ見透かして 私の女を暴き出す。父の秘伝を授けたと いう言い訳すら見透かして ただ傍らに共にある 上官という名の下に。全てを見透かす黒い目に 全てをさらけ出した時 生涯懸けて秘す想い 黙って受け取る彼に酔う。闇に光る目 獣の目。

 

2447.

日記を付けるほどマメなたちではない。過去を懐かしむ暇などあれば明日の予定を組む。そんな私が唯一捨てられないもの、それは副官になってから今日まで彼のスケジュールを綴り続けた手帳。予定調和のスケジュール、殴り書きの突発事項、喜びも怒りも全てが記憶に刻まれた彼と私の歴史。

 

2448.

「君の得意料理が私の好物だったとはまさに奇遇だった」なんて、幼い少女だった頃の私の嘘を未だ信じている彼はプレイボーイ失格だと思うけれど、少しだけそれを嬉しく思う私も存在する。偶然知った貴方の好物を一所懸命に練習した過去の私に、十年以上経った今も彼が騙されていることを教えたい。

 

2449.

私の贔屓の花屋は、私の都合に関係なく花を届けに来る花屋。電話一本の連絡があることもあれば、突然やって来ることもある。支払いなんて一度もしたことはなかったけれど、今夜の電話と花には今までの分のツケも合わせてお返しをしなければ。影に付けられた頬の傷を撫で、私は黒髪の花屋を想う。

 

2450.

ペンの動きを追う君の眼差しは真剣そのもの。もし私が職務に関する何かを書き付ければ、君は副官の顔をするだろう。もし私が新たな構築式を描けば、君は師匠の娘の顔をするのだろう。私の指先が君の過去と今を繋ぐ分岐点になるとは様々な意味で皮肉なものだと苦笑し、私はメモに大きくもへじを描いた。

 

(20180523~20181024)