Twitter Nobel Log 50

2451.
無精髭。寝癖。酷い隈。本日の式典に臨む准将閣下には似つかわしく無いもののオンパレード。銃の代わりに櫛を手に、私は本日の敵の各個撃破に取り掛かる。誰にもこんな舞台裏を想像させない程に立派な礼装姿を作り上げるのも私の仕事と嘯き、私は偉い男の駄目な可愛らしい姿を独占する。

2452.
指を舐り、骨までしゃぶる。我々は軍人、マナーは不要。滴る甘露を舌ですくい、軟らかな肉を食む。腹一杯に満たされるまで、欲し、貪る。軍服の隙間から零れ出る欲を、互いの前でだけは隠さない。我々は共犯者。

2453.
指を舐り、骨までしゃぶる。我々は軍人、マナーは不要。大口を開けて肉を咀嚼する君の勇ましさに破顔する私は、君に倣い二つ目の骨付き肉へと手を伸ばす。食べることは生きること。それを体現する君の強さを頼もしく思いながら、私は肉塊をゴクリと飲み込んだ。

2454.
指を舐り、骨までしゃぶる。我々は軍人、マナーは不要。フォーマルな席でのお行儀の悪い行為すら、叩き上げの軍人ならではの野性的な魅力に変えてしまう貴方。あの唇が夜の闇の中で貪るものを思い出し、私は密やかにフォークの先に残るグレービーを舐める。

2455.
この国で一番偉い軍人になった私は今から“ちょっとした”組織改革を行う為の演説をするわけで、開口一番“民主国家”なんて単語をぶちかます予定だったりする。そんな私を舞台袖から見る鷹の目は、悪巧みをする策士のように不敵な笑みを浮かべている。嗚呼、確かに君は私の副官。まったく頼もしいことだ。

2456.
貴方を止めるより暴走列車を止める方が余程容易い事です、と君は言う。君なら数発の弾で暴走列車を止めるなんて朝飯前だろうが、私は君が撃鉄を起こす音だけで震え上がって止まっているよ。そんな私の答えに君は笑う。肝心な局面では何も譲らないクセにと。分かっていて付いてきてくれる君は最高の副官

2457.
柔らかなオレンジの読書灯の下でお行儀悪くソファに寝転がって本を読む大佐の上に中尉が乗っかってきて、二人平和に互いの体温をぬくぬく貪りながら眠気に負けてうつらうつら眠りに落ちる狭間の幸福を堪能すれば良い。ハヤテも居て二人と一匹で幸せだと尚良いと思う。

2458.
手紙を書く。出す宛のない手紙を。口に出せないこの想いはせめてこの青いインクに乗せペン先から吐き出さぬ事には、いつかうっかり零れ出して君を困らせないとも限らないから。書き終えた手紙はしっかりと封をして塵へと帰す。君が与えたこの焔で。全てを塵に帰すこの焔で。

2459.
貴方の瞳は漆黒の夜の色だと皆思ってるけれど、私だけは知っている。私が預けた焔を彼の指先が生み出す時、あの人の瞳が深紅の焔を映し言葉では表現できない色に燦めくことを。そんな近さで貴方を護る私の瞳もまたその焔を映し揺らめくことを、貴方は知らない。

2460.
恋なんてそんな可愛らしいものじゃないわ。煤と硝煙に塗れた命がけの、面倒臭くも拗れた感情よ。薔薇だとかプレゼントだとかそんな甘ったるいものは不要。人生賭けた男の焔がこの身に焼き付いていると言うのに、これ以上欲するものなんて無いわ。出直していらっしゃいな、可愛い坊やちゃん。

2461.
この手で焼いた背中を抱くとは我ながら悪趣味だとは思うのだが、これ程私の感情を揺さぶる美しい背中の持ち主は彼女以外に存在しないものでね。愛だとか恋だとか笑わせないでくれ。私の人生を語る背中を持つ彼女を、そんな言葉で表せるわけがないだろう? 何を今更。

2462.
ベッドに辿り着くまでに力尽きて眠る副官を発見。直ちに救出の上ソファへと搬送、後、優秀な護衛官である黒い仔犬に託し帰宅。模範的な上官の行動としては申し分のないもの。ただひとつ模範的でない男の行動として馴染みの花屋のふりで花一輪を枕元に。彼女に指一つ触れられぬ男のささやかなアクション

2463.
目覚めれば副官姿の私がひとり。堅苦しい制服のままひとり。どうせならいっそ楽にしてくれれば良いものをそこがまた彼らしいと独り苦笑し、私はバレッタを外す。残された一輪の花がただひとつのよすが

2464.
神にも匹敵する力を手にした時、それが美しさだけでなく恐怖をも破壊をも生むものであることを思い知った。美しい少女の背を焼いた。それが全ての始まり。何処とも知れぬ闇に堕ちていかぬ為、私は私の焼いた背をこの掌に確かめる。毎夜の儀式は彼女にも私にも痛い。

2465.
世界は美しいと信じていた。父は全能だと信じていた。彼は夢を叶えてくれる人だと信じていた。信じていたものが全て消し炭と化した時、私は私の世界を手に入れた。この手が切り開く未来を。夢は叶えてもらうものではなく共に見るものだと。信じたものを取り戻す未来を私は私の手で彼と共に切り開く。

2466.
追伸、と書いて消す。この唇で綴らなかった言葉を指先に綴らせて何になるというのだろう。この胸に収め続けた言葉は私たちの焔より熱くて危険。伝えるのならその目を見て、その耳に刻むのが礼儀。今はまだその時ではないのだとペンを置く、真夜中の執務室。

2467.
私がいなくてもこの人は文句を言いながらでも本当は何でも出来てしまう人なのだと思いながら、私には隙を見せるそのだらしなさを少しだけ愛おしく思うのよ……と自らモノローグを入れながら副官以上の仕事をする親友を感心しながら日々眺めている。射撃の腕以上に感心するわ、その無意識の惚気には。

2468.
優しい声で名前を呼んで。階級ではなく名前を。眠られぬ夜には少しだけ過去の扉を開けることを赦して。焔の色も硝煙の臭いも届かない幼い時代の名残を少しだけ、貴方と私の間に持ち込むことを。優しい声で名前を呼んで。ただそれだけのことで、私は明日もまた前を向いて歩いて行ける。

2469.
一個人の私ではなく一個の軍人として私を呼んで。名前ではなく階級を。対等に貴方の背を負うために必要な魔法の呪文。凛と前を向き、背筋を伸ばし、どんな時も平静を保つ優秀な副官を貴方は必要としているのだから。それは私の覚悟であり、貴方の覚悟でもあるの。だから、その甘い声でただ私の階級を。

2470.
仕事に始めも終わりもない我々の1月1日は特別なことは何もなく、いつもと同じ顔でいつもと同じ貴方といつもと同じ一日を過ごす。いつもと違いがあるとすれば、カレンダーを新しいものに掛け替えることと、この日常がまた一年続くことを密やかに胸に祈る程度のこと。ただそれだけのいつもと同じ日常。

2471.
紅を塗る。殺風景な食堂での昼食のあと、見えないほどに淡くそれでもきちんと紅を塗る。常に共にある彼の前では一部も乱れぬ私でありたいと、密やかな想いを隠す武装のように。紅を塗る。

2472.
紅を塗る。彼の指が。私の唇の上で愛撫のように滑る指が。彼の唇の上に移った淡い紅の色をぼんやりと眺める私に彼は微かな笑みを見せ、随分と乱れたものだと小さな揶揄を落としてみせる。密やかな時を彩る魔法のように、貴方の指が紅を塗る。

2473.
二一〇七。突発の事件の報に逸る私がドアの向こうに見たものは、いつも通りに冷静な彼女の姿。「報告をよろしいでしょうか?」待ち構えているクセに動じないその姿は如何にも頼もしく、私は笑い出しそうになりながら歩を緩める。「ああ、頼む」そう、彼女はクールに私の導火線に火を点ける名手。

2474.
「どれだけ成長したか見せてさしあげます」そう言って彼女は上着を脱いだ。「触って、ください」躊躇いがちに言う彼女に私は指を伸ばす。「確かに」頷く私に彼女は微笑む。「筋トレ、倍に増やしましたから」彼女の成長した上腕二頭筋と成長しない幼いままの笑顔に困り果て、私はそっと溜息を零す。

2475.
自称・手先の器用な男が私のバレッタをもてあそぶ。「クルッと上げてパチンと留めたらお終いですよ」「分かっている」そう答える彼の指先からスルスル逃げ出す私の髪は離れがたい後朝の私の心を読むようで、不器用で無骨な指先に後ろ髪引かれながら、私はわざと冷たい声で「不器用ですね」と言い放つ。

2476.
触れる。火傷の痕に。貴方の視線がどうしようもない温度で撫ぜるそれを、指先で見る為に。でこぼこと引き攣れたそれは、共に歩いた日々と同じくらいには私の一部であるのだと思う。私自身が選んだものなのだと思う。貴方もそう思ってくれればいいのに、と思う。触れて。火傷の痕に。

2477.
恐ろしいほどに美しい夕焼けに、あの燃える空を思い出す。紅蓮の焔が何もかもを焼き尽くす、あの日を。美しいと恐ろしいは紙一重の裏表にあるのだと思いながら、私は夕景を背に立つ男を見つめる。憎らしいと愛おしいは紙一重の裏表にあるのだと思いながら、私は再び燃えるような残照に目を眇めた。

2478.
「君は強いふりをするのがとても上手だな」出会ってまだ数日の父のお弟子さんは、そう言って静かに微笑んだ。失礼な人だと腹を立て部屋に戻った私は、少しだけ泣きそうになっている自分に気付く。『泣けばいいんだよ』あの人ならそう言ってくれそうな気がする。そう考えた瞬間、胸の奥が甘く痛んだ。

2479.
「世の中にはやって良い事と悪い事があるんです。お分かりですか?」そう言って彼の手を躱そうとした私の耳元で彼は囁いた。「世の中にはやらないと始まらない事があるのだよ。分かっているだろう?」至近距離で瞬く彼の瞳があまりに真剣だったから私はうっかり絆されてしまう。始めてはいけない秘め事

2480.
「世の中にはやって良い事と悪い事があるんです。お分かりですか?」そう小言を続けようとする私に彼は不敵に微笑んだ「世の中にはやらねばならない事とやってもバレなければ良い事があるんだ。分かっているだろう?」反論の言葉を見つけられない私はうっかり上官の共犯者に成り下がる。邪道も時に王道

2481.
「世の中にはやって良い事と……」やると面白い事がある」
副官は撃鉄を起こす。上官は逃げ出した。いつも通りの茶番劇。
世の中には言うと自動的にコメディが始まる言葉があるらしい。

2482.
『殺される相手が選べるなら君が良い』なんて道を踏み外す事が前提になっている莫迦な男に溜め息をつき、私は静かに撃鉄を起こす。『殺される相手を選ぶ暇もない程度には、私が全てから貴方を守り抜きますよ』そんな私の言葉に彼は苦笑し『よろしく、我が副官殿』と言った。返す言葉は一つ『何を今更』

2483.
その瞳に夢を見ていた、漆黒の闇の中にも強い意志の力が瞬くのだと。どんな真っ黒に塗り潰された夜の中でさえ、挫けず前を見る光が宿るのだと。私の勝手な希望を託された彼の眼差しは、時々私を振り返りふわりと笑う。その落差に惹き込まれ、私は何度でも彼の視線野崎を確かめたくて彼と同じ未来を見る

2484.
「甘やかさないで下さい。勘が鈍ると困ります」現役時代の口癖が抜けない君に苦笑し、私はわざとらしい溜め息をこぼしてみせる。「ようやく次世代にこの国を任せられる時が来たと思ったのだが、君はそうではないのかね」返答に困る君を見て私は苦笑を微笑に変える。変わらない君も悪くはないのだがね。

2485.
世界を変えようなどと大それた事を考えているわけではない。昔守れなかった約束を、きちんと果たしたいだけなのだ。そう言えば君は『未だ青臭い夢をお持ちなのですね』と辛辣に笑ってくれるだろうか。預けた背中越し、変わらぬ君の眼差しの熱量に我々の過去と未来を思う。

2486.
私が背負って生まれたものを全部貴方に押しつけた。父の期待も背中の秘伝も、焔が生んだその罪も。もしも私が錬金術師であったなら、私は全てを自分で背負うことが出来ただろう。それでも、私はどれだけの罪を背負っても、貴方と出逢う人生を選んでしまうだろう。許されぬことと知りながら。

2487 .
触れた背中のケロイドに貴方の指が躊躇う。私はそれを赦さず、貴方を抱く指先に力を込める。やがて貴方の指先は私の爛れた肌を舐め、そして全てを飲み込むようにその掌で包み込む。静かに見上げれば貴方は黙って頷く。共有する全てを確かめる儀式のように、我々は密やかに肌を交わす。(お題:背中)

2488.
タルトを作るレシピと同じように、母を錬成するレシピを作った子らがいた。「こんな簡単なレシピでさえ失敗することがあるんですよ。ましてや人間なんて」私は彼女が作った禁断の果実を焦がして作る、苦くて甘い不思議な菓子に視線を落とす。禁断だからこそ美味なものがあるのだと錬金術師は知っている(お題:「タルトタタンのレシピ」「中佐少尉時代エルリック兄弟訪問後の会話」)

2489.
夜遊び上手な不実な男。それが貴方の世間の名。でもそれが貴方の隠れ蓑だと知っている。木を隠すなら森の中、恋を隠すなら恋の中。1000人の女と浮き名を流そうと、嘘を重ねた先の真実は私ひとりが知っている。(お題:プレイボーイ)

2490.
軍服の下に隠された数多の悪意をくぐり抜け、出世の道をまっしぐら。魑魅魍魎の上層部、能なし上司に妬まれて、男の嫉妬の恐ろしさ、針の筵も気に留めぬ。プレイボーイの顔をして女の嫉妬は怖いよと、嘯く貴方に苦笑する。本当は怖いものなんてないくせに。(お題:男の嫉妬)

2491.
夜明け前の空の色を、何度貴方と見たことだろう。
草臥れきった執務室の窓から。
殺気立った塹壕の底から。
居眠りの車窓越しに。
憔悴しきった焼け野原の満天に。
柔らかなシーツの隙間で。
 
夜は必ず明ける。
貴方となら、必ず。

2492.
標的から本陣に視線を向けた瞬間、スコープ越しの彼の視線に射貫かれた。こんな遠距離でさえ私の視線を捉え、ニヤリと笑ってハンドサインでGo!を出す色男。直近で目が合うよりも心臓に悪い。困ったものねと苦笑し、私は視線を戻し一撃で的を屠る。冷静な副官の顔を保つのも仕事の内と嘯いて。

2493.
引き出しに古い写真を見つけた。二つに裂いて、また丁寧にテープで貼りあわせて修復した跡のあるそれは、二人で撮った数少ない写真だった。たった一枚の写真の中にさえ過去の葛藤と想いと複雑に重ねた我々の歴史が垣間見え、私は静かに苦笑する。そして、それを笑えるようになった自分に安堵するのだ。

2494.
「すまない」と言うと彼女は微かな切なさをその瞳に浮かべる。だから私はなるべく悪い顔をして「諦めたまえ」とベッドに残る彼女の髪を梳く。金の髪を透かした彼女の榛の瞳が安堵したように現状を受け入れるのを見届け、私は彼女に背を向ける。夜が全てを隠してくれている間に、この場を立ち去る為に。

2495.
煤と硝煙に塗れた身体を洗い、二人適当に作った食事をかき込み、互いを貪りあい、泥のように眠る。本能のすべてを満たし、生きて帰ったのだということを確認する儀式。二人が揃わなければ意味のない儀式。

2496.
「お行儀が悪いな、つまみ食いだなんて」呆れた貴方の声を無視して、私は彼が剥いた不格好な林檎をつまむ。皮に残った実の方が多いんじゃないかしらと思う程に不器用な貴方が私の為に剥いた林檎が愛しくて、私は禁断の果実のなれの果てを舌の上に転がす。

2497.
カリカリと扉を引っ掻く音がする。「お前のご主人は風邪っ引きだから、残念ながら今夜お前は私と一緒に寝るんだよ」そんな声と共に遠ざかる気配に、私は独り寝の冷たい毛布の中に自分以外の体温を求め、指をさまよわせる。本当に欲しい温もりはどちらなのか、判り切った答えは見ないふりで。

2498.
軍人になり故郷を出た時、もう私には帰る場所は無いと思っていた。貴方と共にある今、人には帰る場所ではなく、帰りを待ってくれる人のいる場所があることを知った。這いずってでも、汚泥を啜ってでも、私が帰るべき場所は貴方の隣。願わくは、貴方にとってのその場所が私であればと密やかに願う。

2499.
「おかえり」と言われる、のんびりと満腹の猫みたいに人の家のソファーで寛いだ男に。困った男だと思いながら微笑んでしまった時点で、私は絆されてしまっている。心地好い私のテリトリーで眉間の皺を解いている私の男を愛でる。一日の終わりに見るには悪くない光景を噛みしめ、私はただいまを言う。

2500.
この焔の持つ意味の重さも、私がこの焔を欲した理由も、全てを知る彼女がこの焔を導く射手であることに安堵し、私はこのままこの国を守る為に路傍で塵の様に果てても構わないとさえ思う。この国の存亡を賭けた『約束の日』は、私にとっても約束の日となった。彼女とのあの日の約束を果たす日。

(20181024~20190413)