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851.
うたた寝の幸福。自堕落を許される平和を噛みしめること、そっと毛布をかけてくれる彼女の情を確認できること、時々隣で眠り込む彼女の重みを受け止めること。

852.
密やかに忘れられて死んでいく。その程度の存在の軽さは、幸福であり、恐怖でもある。ただその中で、私を人生に刻んでくれる唯ひとりの人がいる責任と幸福。その重みが私の背を糺させる。

853.
美味しいご飯に釣られるほどには単純でいてくれる彼に安心する。食欲は生きる為の欲。だから、私は台所に立つことに喜びを感じる。

854.
仔犬とベッドの占有権を争った挙げ句、「私の方が放熱面積が広い」と真面目な顔で言う貴方が可笑しい。私が欲しているのは、湯たんぽではありませんよ?

855.
Q.お菓子も悪戯も好きではない彼女に当世風のイベントを仕掛けるには、如何したものだろうか? A.真面目に仕事をすればいいと思います。「君、つまらんな」「だから、仕事をして下さい!」

856.
Q.意外に甘党な男を餌で釣って、悪戯を諦めさせる方法はないものでしょうか? A.目の前にお菓子以上に美味そうなものがあるのに、それは無理と思われる。諦めるべし。「最低ですね」「何を今更」

857.
何が君の琴線に触れるのか、時々分からなくなる。ただ、ほんのくだらない私の言葉が君の笑顔を作るなら。理由が分からなくても、結果だけでも、それでも幸福だと思う。

858.
完璧主義の君は満面の笑顔を期待するのかもしれない。だが、人の心を動かすには意外な程のエネルギーが必要で、たとえ僅かな苦笑程にも私を動かす君は、それだけで私にはとてつもない存在であることを知っていて欲しい。ただ、それだけのことなどと言うな。

859.
幸せというルールに縛られ、右に倣えをして生きることが“私の”幸せと誰が言えるのか。たとえ莫迦だと不幸だと他人が決めつけても、傍らに彼がいる限り、そこが世界に流されぬ私の幸せの在る処。

860.
寒い夜、夜道をひとり部屋に帰る。出迎える人の気配もなく、冷えたベッドが肌を刺す。これが日常。私が選んだ人生の、彼女の体温に触れぬ道を選んだ私の、日常。

861.
夜に吐き出した想いを朝には飲み込む。黒いタートルネックで、青い上着で、厳重に一欠片も溢さぬように包み隠して。また夜が私の梱包を解くまで、私の想いは彼の手さえ開けることの出来ない機密になる。

862.
昼間、私の為に扉を開けるのは副官である彼女の仕事。夜、彼女の為に扉を開けるのは男である私の仕事。そんなことにも表れる我々のライン。さぁ、この扉はどちらが開けようか。

863.
ガサガサに荒れた手を君は恥ずかしがるけれど、私や師匠を思って働く手を恥じることはない、だなんて。乙女心の分からない唐変木は父と同じですねと口では言ったけれど、冷えた指先が温かくなったのは私だけの秘密

864.
何があっても、最期の時は隣にいることを信じていられる。私の幸福がそんなところにあると言えば、あなたは怒りだすか、笑い出すかのどちらかだと思っていた。真面目な顔で「鋭意努力する」だなんて。不意打ちにも程がある。

865.
それを勝ち負けだと思っている時点で、貴方の負けですよ? 彼女はそう言って唇の片端を上げてみせる。そんなことを言われてしまう時点で、私の負けは決まっているのだがね。そう答えるしかないのが、私の最後の悪足掻き。

866.
孤独というものを知らずに生きてきた、常に彼の傍らにいたから。それでも常に全てを秘めて生きてきたから、私の心は孤独だったのかもしれない。一歩の距離が地の果てよりも遠いことを知る、そんな秋の夜。

867.
この手が地に落としたと思っている。理想も夢も、使命も肉体も、彼女の中の綺麗なものを、全てこの手で傷つけたと思っている。自意識過剰でしょうと呆れてみせる彼女の優しささえ壊せば、彼女は私を憎んでくれるだろうか。

868.
真綿で首を絞めるように、優しさで貴方を殺す。罪悪感という鎖で縛り付け、その苦しげな表情に欲情する。こんな女を綺麗だと言う自分が莫迦なのだと、いつか貴方が気付く日を、震えながら待っている。

869.
そんなに嘘ばかり吐いてどうするんですか、と彼女が問う。どれが嘘でどれが本当か分からなくする為さ、と私は答える。彼女は首を傾げて、少しだけ笑った。まるでそんなことは無意味だと言わんばかりに。鷹の目相手に無駄は承知、それでも隠したいものはあるのだということだけ伝われば、いい。

870.
美しい世界なんて、何処にもないと思う。それはまだ、彼の理想の中にしか存在していないのだから。その美しい世界の中に私の居場所が無かったとしても、私はきっと満足するだろう。美しい世界を夢見て、私は彼と共に立つこの不完全な世界を愛す。

871.
彼の傍から離れないのは、大きな肩幅が強い木枯らしの盾になるから。握られた手を振りほどかないのは、手が冷たいと仕事に差し障りが出るから。腕枕から逃げ出さないのは、朝の空気が冷たいから。沢山の言い訳を作らせてくれる冬は、意地っ張りな私の味方。

872.
ベランダで犬が鳴く。私より先に、待ち人の気配を嗅ぎ付けた犬が。「待て」と「伏せ」をさせたのは、逸る私の心を映す鏡を見せつけられるようで、少し気恥ずかしかったから。お前、忠犬なのはいいけれど、忠実過ぎるのも考えものよ?

873.
「マフラー一本をシェアってのも冬の醍醐味だな」「止めておけ。首が締まる」「…さては、マフラーに構わずさっさと歩く中尉に引き回されたな? お前。不憫だなー」「そ、そう言うお前は、どうなんだ!」「わはははは、手を繋いで歩くオシドリ夫婦の俺に不備はない!」「燃やしていいか? お前」

874.
白黒つけたがるのは、君の悪いクセ。こんな曖昧で確固たる感情にはっきり輪郭を持たせることが出来るくらいなら、君はこんな私と揃いの青い軍服に袖など通していなかっただろう。だから夜の闇が下りる直前の淡いグレーの世界で、私に触れるその指先を君自身が赦せ。

875.
彼が仲間内でだけ見せる笑顔がある。己の部下だとか、親友だとか、手の掛かる庇護者の兄弟だとか。むさ苦しい男どもを相手に、らしくもない嫉妬をしたくなるほどの笑顔は、私を振り向く時には消える。彼が私にくれるのは、懺悔と悔恨の表情。独り占めできるのなら、それも悪くないと嘯いてみる。

876.
いつだって傍若無人な貴方の自由を奪って、その唇に手作りのスープを注ぐ夢を見る。舌を出して強請るのは、私ではなく、貴方。そう思うだけで身体の奥底が震える。食欲は性欲に繋がっているだなんて、貴方は蘊蓄を垂れるけれど、そんなことは当たり前のように台所に立つ女たちは知っている。

877.
ひとくちかじったビスケット、冷めた珈琲、伏せた本。机上に残った日常は、午後の平和の残り滓。ひとすじ残す金の髪、乱れたクッション、残る染み。ソファーに残った享楽は、午後の秘密の落とし物。

878.
凍えた指先に暖を取ろうと、ぬるい水に指を浸す。上がる悲鳴のような吐息が私の体温を上げてくれるから、私は更に深く溢れるぬるい水に指を沈める。冷えた指先から掌までが堪えきれぬぬるい水にゆっくりと暖められる心地好さ、私が冬に手袋をわざと忘れる理由。

879.
私がフォローするもの。書類の遅れ、遅刻の理由、流す浮き名の後始末、情報処理、背後の敵、遠距離射撃の作戦支援。可能な限りのことは何でもしてきた。だからその眼差しの行方の後始末だけは、私に任せないで。プリーズ、サー。すべてのフォローを失いたくないのならば、どうか。

880.
整理整頓の上手な彼女がこの関係を切らないのは、憐れみか義務か職務だと思っておく方が、この手が迷わないのは何故だろう。きっとその方が酷いことをしても失うものが少ないと、思えるからだろう。また許される、ここまでは。まだ赦されぬ、これ以上。

881.
怖くないと言えば嘘になる。義務だとか使命だとか言えば、大仰で偽善的。懺悔だとか贖罪には程遠い。ならば、この背に触れる温もり一つを消したくないのだと、卑小で個人的な我が儘だけ抱え引き金を引く方が、余程莫迦莫迦しく、余程潔く、私には丁度いい。

882.
子供の頃には簡単だったことが、大人になると出来なくなるなんて、考えたこともなかった。大人になったら、なんでも出来ると思っていた。目と目を交わすことが、手と手を取って笑い合うことが、こんなに難しいことだなんて。子供だった私は知らずに大人になってしまった、貴方の隣で。

883.
無駄な知識をひけらかす暇があったなら、黙って口付けをしなさい、お莫迦さん。肝心なところで意気地無し、だから私が足払いを掛けて押し倒すなんて莫迦な自体が発生するんですよ? いくら雨が降っているからって、そんなに甘えないで下さい。ほら、そんな嬉しそうな笑い顔をするなんて。ああ。もう!

884.
「君!その蛙が潰れたような格好は何だ?」「ストレッチです。邪魔しないで下さい」「だが、それも服従のポーズのまま落とし穴に落ちた犬みたいだぞ?」「…」「お!次は群れに置いていかれてショボくれる鶴のようだ!」「…新しい表現力の探求ですか?」「端的に言うなら、『構え』ということだよ」

885.
お菓子の仕上げに粉砂糖を振るように、私の人生に秘伝をトッピング。貴方の為に父が用意した、至上の甘露。甘い甘いお菓子が劇薬だと、貴方が気付くのはいつかしら。私と一緒に人生懸けて摘まんで。私は貴方の為にもう食べてしまったの。

886.
運命の女神に喧嘩を売った。撃鉄を起こし、過去の私を撃ち抜く。何者にも膝を屈さぬと決めた。あの背中を護ると決めた日から。

887.
復讐の女神と決別を誓った。彼女から受け取った焔を振るい、過去の私を消し去る。何者にも惑わされぬと決めた。あの背中に護られた日から。

888.
眠ったふりをしているのは、分かっている。それでも気付かないふりで、そっとその髪を撫でる。私たちが私たちに許すプライベートな接触は、どちらかが目を閉じていないと成り立たない、どこか歪な二人芝居。誰も見ていないというのに、止められない理由は互いの胸の中に。

889.
スカートの裾を摘む仕草が、奇妙に大人びて見えた。昨日までただの女の子だった眼差しが、何か尊いものを見据えた。背を庇う彼女は何を見つけたのか。私を見る彼女の眼差しが眩しい理由を、私は知らないまま、この家を去る。軍人になる夢を叶える為に。その二つが重なる意味を知らぬままに。

890.
彼女が見ている夢を、私は知らない。その夢の隣で起きて現実を見る私は、せめてその夢が彼女に笑みを浮かばせるものであることを祈るしかないわけで。焔を生むこの手では触れることも叶わぬこの静寂の隣で、私は死を生む為に立ち上がり戦場を目指す。現実と夢が交わるその日を迎える為に。

891.
煙草を持つ手、スプーンを持つ手。私に与える手を間違えないで、酔っぱらいの上官殿。苦い煙は貴方の口に、甘い果実は私の口に。ただし、口付けの時だけは両方味わうのもやぶさかではない、貴方の唇から香る匂いだけは嫌いではないから。甘い口付けのスパイスは、夜の貴方の小さな秘密。

892.
机上に置かれたメモには、メッセージと言うには長く、手紙と言うには短い文章が綴られていた。決して私の家には泊まらない彼が、釈明というには素っ気なく、言い訳と言うには甘い文章をどんな顔で綴ったのか。睦言の熱に負け起きていられなかった私は、ただそれを想像し、シーツに再び潜り込んだ。

893.
たった二文字の言葉が、私を貴方に呼びつける。それは私の名前だったり、簡単な代名詞だったり、「来い」という端的な言葉だったり、シンプルで単純なものである。だが、そこに込められる彼の感情を聞き分けられる程度には、私たちの付き合いは長い。だから、どうぞ御覚悟を。

894.
朝焼けの薔薇色の雲がまぶしい。夜明けが遅くなったな、と彼が白い息を吐きながら笑う。鼻が赤いですよと笑う私に、困った顔で鼻を擦る少年の横顔。様々なことがあったけれど、まだこうして笑っていられる。夜明けの移り変わりを共に見つめた一年がもうすぐ終わる。

895.
ブーツを拾い上げた彼はまるで当たり前のように私の足にそれを履かせ、上までファスナーを上げた。「寒いから今日はもう帰りなさい」紳士に見せかけたジゴロの罠に、私はもう一度ブーツを脱ぎ捨てる。「足を温めることは靴には出来ません」「足だけで良いのか?」そう答える悪い笑顔に体温が上がった。

896.
シーツの隙間から覗くフサフサの黒いしっぽを、一房の黒髪と見誤る。胸を高鳴らせた自分に腹を立てながら、私はお行儀の悪い仔犬を叱りつける。八つ当たりの罪悪感がないわけではない、でも男も犬も躾は最初が肝心。今度は、これ程までの侵食を許す前に。

897.
深夜二時、いきなり「良い子」と頭を撫でられ驚きに目が覚める。多分、寝ぼけた彼女に飼い犬と間違われているのだろう。何とも面はゆいというか、照れくさいものだと思いながら、彼女の手が頭を撫でるに任せる。どうやら今夜は、しばらく眠れそうにない。

898.
ピアスの穴を開けた理由は覚えていない。ただ、彼に贈り物をされる口実を与えてしまったと、困ったことだけは覚えている。思い出など自分に都合の良いものだと、様々なことを彼に関連付けて覚えている自分の単純な頭を笑う。そんな私は、今年をどんな風に思い出すだろう。そう考え、広い背中を見る。

899.
何百キロの距離を繋ぐ頼りない程に細い電話線が、今夜は遠く二人を繋ぐ。普段の二人を繋ぐのは、もっと儚く頼りないものだというのに、何故今夜はこれ程切なさを感じるのだろう。指に巻き付けるコードが彼方に繋がるようで、私はそっと受話器に頬を寄せる。

900.
ヒールの踵が折れたのは、彼女の所為ではない筈なのに、困った顔で謝罪されると私も一緒に困ってしまう。身近に一人、錬金術師がいると便利なのだよ、気安く使ってくれればいい。その程度の気軽さが、本来の私の役目。戦場で人を焼くよりも余程、私の本質に近い筈の、過去に見た夢。

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