over again and again

目覚めると、部屋の中は真っ暗だった。
ソファーの脇の読書灯の淡いオレンジの光だけが、ぼんやりと部屋を照らしてる。
どうやら自分は彼の部屋で、座ったまま肘掛けにもたれて眠り込んでいたらしい。
不自然な体勢でうたた寝をしたせいで痛む首を押さえながら、リザはゆっくりとソファーから身を起こした。
確か夕食の準備をして、ロイが帰ってくるまで少し休憩しようと思って、ソファーに腰を下ろしたのが二一〇〇を少し過ぎた頃だった。
今、何時だろう? いや、その前に自分はいつ部屋の明かりを消して眠ってしまったのだろう?
そう思いながら、リザは自分の膝にブランケットがかけられていることに気付く。
ひょっとして。
そう思って首を巡らせた彼女の視線の先には、彼女とちょうどソファーの真ん中で綺麗に線対称になる姿勢で、黒髪の男が眠っていた。
やはり。
謎が解けた彼女は、苦笑して立ち上がると彼の元へと歩み寄った。

軍服の上着を脱いだロイは、腕組みをしたまま傾いてソファーに沈んでいた。
すよすよと穏やかな寝息をたてる油断しきった彼の姿を微笑みと共に眺め、リザは自分の膝にかけられていたブランケットを彼の肩に掛けた。
男は目覚めることなく、ウンと小さなうなり声をあげるとブランケットにくるりとくるまった。
人の世話ばかり焼いて、自分のことは放ったらかしだなんて、困った男だ。
リザはそう思いながら、さっき自分が座っていた位置に再び陣取ると、頬杖をついて男の寝顔を見つめた。

きっと、帰宅した彼は眠り込んでいる彼女を見つけて、起こすに忍びなく、そっと部屋の電気を消しブランケットを掛けてくれたのだろう。
手元が見えるように読書灯だけは点けたものの、穏やかな暗闇は彼の睡魔も誘ったらしい。

起こしてくれればいいものを。
そう思いながら、リザは少しだけ疲労を滲ませた彼の寝顔を見つめる。
イシュヴァールにいた頃は少しの物音にも飛び起きた彼が、こうして穏やかに眠っている姿は、彼女にとって一つの幸福の象徴であった。

願わくは、この平穏が今しばらく続かんことを。
彼女はそう祈りながら、飽きず男の寝顔を眺める。

       §

目覚めると、奇妙に身体が暖かかった。
はて、いったいどうしたものだろう。
ロイはウンと伸びをしようとして、自分がブランケットにくるまっていることに気付く。
しまった、私まで眠ってしまったか。
ロイは己の失態に苦笑しながら、むくりとソファーから身体を起こした。

帰宅してみれば、鍵を渡して彼の家で待っている筈の彼女はソファーでぐっすりと眠り込んでいた。
台所を覗けば、美味そうな二人分のムニエルがフライパンの中で彼の帰りを待っていた。
疲れているのに、また無理をして、困ったひとだ。
ロイはそう思いながら、彼女を起こさないようにそっと部屋の電気を消し、彼女にブランケットを掛けてやったのだった。
読書灯の光の下、穏やかに眠る彼女の平穏を守る場所が自分の部屋であることを誇りに思いながら、ロイは彼女と反対側のソファーの端に陣取った。
ささやかな幸福を噛みしめ、ロイは彼女の寝顔を見つめていたはずだったのだが。

さて、自分はいつの間に眠り込んでしまっていたのだろう。
ロイは起き上がると、彼女に掛けたはずがいつの間にか自分の掛けられていたブランケットを手に彼女の元に歩み寄る。
彼女はいったん目を覚ましたものの、また眠り込んでしまったらしい。
こんなすれ違いもあるものか。
ロイは苦笑する。
しかしまた、これ程気持ち良さそうに眠っているものを起こすのも忍びない。

仕方ない。
ロイは今度は彼女の隣に座ると、自分と彼女の両方に等分にブランケットがかかるように大きな布を広げた。
こうしておけば、今度どちらかが目覚めれば、自動的に二人とも目覚めるに違いない。
それから、フライパンの中で待ちぼうけを食らっている白身の魚を救出し、二人で遅い夕食をとることにすればいい。
そう考えたロイは彼女の肩に手を回すと、穏やかな読書灯の下で大きな欠伸をする。

願わくは、この平穏が今しばらく続かんことを。
彼はそう祈りながら、彼女の白い額に口付けを落とした。

Fin.

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【後書きのような物】
 日付が変わってしまいましたが、Blog6周年でした。こんなに長く続くとは、自分でも思ってもみませんでした。おつきあい下さる皆様、どうもありがとうございます。7周年目指して、ぼちぼち頑張りますので、またお付き合い頂ければ幸いです。
 夏コミ原稿中なので、とても短いですが、お付き合い下さる皆様に御礼代わりに『静かな優しい夜』シリーズを。

お気に召しましたなら。

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