Twitter Nobel log 14

651.
咄嗟の判断力と決断力は素晴らしい癖に、春の新作ケーキのチョイスに悩む彼女を可愛らしく思う。どちらも食べてしまえば良いさ。食後の運動なら、付き合うから。

652.
誕生日や記念日や、そんなものを一緒に祝う関係ではない。ただ密かにその日を己の中に刻む。来年のこの日も彼の背を守っていられるように、ただその一事を祈りながら。

653.
職務上の世話をかけたお礼がしたいから。明日の仕事の打ち合わせがあるから。誘いをかける本当の理由を隠し、彼女がYesと言い易いカモフラージュの言葉を探す。実は彼女だって知っている、本当の理由。だけれども、面倒な大人であるところの我々は、素知らぬ顔で見せかけのまやかしを弄ぶ。

654.
「美味い店を見つけた。是非君に食べさせたい」「よく恥ずかし気もなく、そこまでストレートに言えるものですね」「それ以外に何か必要な情報が?」「……」「抵抗の余地無し、かね?」「……ワインリストとドレスコードを」「Yes.Ma'am.喜んで」

655.
得意なこと、家事全般、射撃、サボる上官のお目付。苦手なこと,素直になること。人事考課表に書けない彼女の評価。他にも口に出せない評価は色々あるけれど、とりあえずはその辺りで。

656.
忙しくて、無謀で、ワーカホリックで、研究好きで、サボリ魔で、読書家で、過去を忘れられなくて、野心家で、独りで何でも出来てしまう貴方。せめて、その背に手が触れられる距離にいて。私が必要だと思わせて。

657.
多分どれだけ言葉を尽くしても、君は「何を今更」と言って笑うのだろう。だから、私はこの唇を喋る以外の目的に使おう。君がいつもの口癖を、言えなくなるように。

658.
起こしてくれと言えば愚直に私を起こし、眠らせてくれと言えば素直に放置してくれる君。眠らないよと言えば、どんな反応をしてくれるだろう。夜は長い、試してみるか。

659.
意外なことに、彼の写真をほとんど持っていない。生きている間は目の前に本物がいるから不要だし、いなくなる時はきっと同じだろうから、やっぱり不要だろう。なんだ、意外でも何でもないじゃないかと、私は笑って空のアルバムを閉じる。

660.
並んで座る列車。触れぬ膝、指二本分の距離。たとえコンパートメントでも、詰めぬ距離。二人の縮まらぬ距離。

661.
うっかり寝過ぎた休日の朝。何かを焦がした、あまりありがたくない臭いが漂ってくる。何か思い立った彼が、朝食の準備をしてくれているのだろう。後片付けが大変なだけなのにと考えながら、私は嬉しくて綻ぶ顔をクチャクチャのシーツの海に隠す。

662.
溜め込んだ洗濯物の山を素通りし、まず銃の手入れを始める。それが病んだ行為だと言われても、それが私の生きる道。

663.
髭をあたった後の彼の頬に残る、薄い傷。あの安全な剃刀の刃ほどにも、彼に爪を立てられぬ私は、臆病な彼の懐刀。

664.
皆が幸せになる未来を作りたいと思う。その「皆」の中に自分が混ざっても良いのだと思える日が来たら、私はこの軍服を脱ぐことが出来るのだと思う。その時に変わらず、隣にこの手の持ち主がいてくれることを願う。ささやかで、大それた私の願い。

665.
もしも魔法使いが願いを一つ叶えてくれると言ったなら、私は何を願うだろう。未来は彼と共に叶えるものであり、過去が忘れてはならぬ枷であるならば、自力で叶えねば意味がない。それならせめて、彼の夜が悪夢に彩られず、平和である事を願おうか。眠れぬ夜、苦悶の寝顔を見つめ、独り遊びの夜。

666.
笑顔の安売りも仕事の内さ、と彼は笑う。その反動を受け止めてくれる場所があるからね、と言われて私は笑う。困った人、でもそれすら喜びと感じる私の方が、困った女。

667.
歴史に刻むロイヤルウェディングのような恋よりも、二人の胸の中にだけ刻む秘めた恋が、我々には似合う。いつかその日が来たら、あの日のあの墓前で、あの時は言えなかった思いを告げよう。いつになるか分からぬけれど、ささやかに密やか。きっと、それが我々には似合う。

668.
私は弾丸。トリガーを引く意思は、彼に預けた。私に意思が必要になる時、それはその銃口が彼の背を撃つ時。私は弾丸。その日が来ないことを祈りながら、私は彼の前に立ち塞がる全てを排除する。

669.
くしゃみの連鎖、欠伸の連鎖、仲が良いにも程がある。否定するのは当人達だけで、周囲はみんな知っている。

670.
五、珈琲を淹れる。四、ラジオをつける。三、目覚ましを鳴らす。二、階級を呼ぶ。一、銃口を突きつける。優しい彼女の朝のカウントダウン。キス一つで飛び起きるものを面倒なと笑うと、そういう発想が鬱陶しいですとノーカウントで突きつけられる銃口。毎日がスリリングで、堪らないね。

671.
「欲しいものを三つあげてみて下さい」「健康、時間、金」「随分と即物的ですね」「当たり前だ、自分の手で手に入れたいものを得るのに必要だからな」「随分と回りくどいですね」「他人に与えられて満足するものなど、無意味だからな」

672.
たとえば。哀しみや苦しみを焼き尽くす焔があるならば、目の前の焦土を生み出す焔より、きっと美しく私の目には映るだろう。きっと彼女はあんな顔をせずに済んだだろう。埒もない思考に犯されて、私は今日も赤い、紅い焔を生む。己の良心を焼く焔を生み続ける。

673.
幸せなんて、自分が決めるもの。銃を手に血の河を渡ろうと、天涯孤独だろうと、彼の背が目の前にあれば、それが私の幸せの基準。

674.
愛しているとありがとうを同じ重さで言えたなら、多分世界は今よりも少し平和になる気がする。その片方しか吐けぬ私の世界は、未だ歪なまま過ぎる。世界を完全にする為に、さぁ、今日も一日を始めよう。

675.
優しい男の優しい嘘が、今日も私を抱き止める。キスよりハグより的確に、落ちる私を救い出す。その白い悪夢のような手袋をはめた手で私に触れる事を怯える優しい貴方に甘え、私は冷たい眼差しと酷い言葉で貴方を抉る。好きよ。

676.
出張の帰り道。目的地までの切符は、彼女に預けた。眠り込んだ彼女の横顔に、遠い道中を思う。きっとこの人生の行く先の二人分の切符は、私が預かっているのだろう。二人揺られるコンパートメントを月が照らす。踏み外せぬ私の道を何処までも照らしてくれる事を祈り、私は深夜の月に手を翳す。

677.
黄信号が『注意深く迅速に突入』を意味する彼女とのドライブは、スリルの連続。無意識に架空のブレーキを踏む私は、目的地に着くまでに筋肉痛。「君、もう少しブレーキを早めにだね」「ノンブレーキの人生を突っ走る方に言われたくありません」悪戯な瞳に反論出来ぬ私は、帰りも筋肉痛を覚悟する。

678.
「何処に触れたいのですか?」「髪」「他には?」「頬」「それから?」「唇」「そういうところは、訊かずに触れるものでは?」「ならば、心なら?」「分かっていて、お訊きになるなんて酷い人ですね」「ここまで許しておいて、そう言う君の方が酷い女だよ」「仕方ないんです」「ああ、知っているよ」

679.
サイドテーブルの上で混じり合う、私のピアスと貴方のカフス。床の上で混じりあう、私のローヒールと貴方のラバーソール。ソファの上で混じりあう、私のガーターと貴方のセーター。ならば、ベッドの上で交わり合うのは、あぁ。後は吐息に隠して、秘め事。

680.
「背中のファスナーを上げて頂けますか?」「Yes,Ma'am.喜んで。だがね、君。目の前にそんな美味そうなうなじを差し出されては、ファスナーを上げる暇はないと思うのだがね?」「……ぁ」「ファスナーに髪を食われる代わりに、君が私に食われておきたまえ」

681.
シーツの中から覗く黒い頭。ベッドの下から覗く黒い頭。もうすぐお腹が空いたと騒ぎ出すであろう一人と一匹の為に、私は一足先にベッドを抜け出す。黒い頭が二つ並んで私のベッドを占拠する光景は、私の小さな幸福の象徴。

682.
目覚まし時計の喧しいベルの音ではなく、ベーコンの焦げる匂いで目覚める贅沢。『あまり甘やかすと図に乗るよ』と独り言ち、私は眠りの余韻を楽しみながら、寝そべったままベッドの下で鼻を鳴らす同胞の頭を撫でる。ベーコンの上の卵は、サニーサイドアップが良いのだが、さて、この贅沢は叶うかな?

683.
「嫌いだと、言ってくれたら信じるよ」軽い口調でそう言った彼の瞳があまりに真剣で、だから私は笑って「嫌いです」と言って彼の安心を買う。代価は良心だとか想いだとか、柔らかで甘やかな私の女のパーツ。彼の払う血の代価に比べれば、随分安い等価交換。

684.
幼い頃、庭に咲く蛇イチゴを食べてはいけないと教えてくれた貴方は、どうして他にも摘んではいけない果実があることを教えてくれなかったのだろう。だから、あの日、私は手を伸ばしてしまったのだ、貴方という名の運命の果実に。

685.
多分、   に向かう『愛おしい』と『狂おしい』という感情はとても似ている。だから、胸がこんなに苦しいのだ。

686.
信号待ちのルームミラーに、交わす視線三秒。素の私達の束の間の逢瀬。信号が変われば、またもとの上司と部下。真実を映す小さな魔法の鏡で今度は安全を確認し、私は軽やかにアクセルを踏む。

687.
酔った勢い、という言葉の意味が分からないままに杯を重ねる。酔えば酔うほど無口になる我々は、偶然を装ってただ指先を重ねるのに二本のワインを必要とする。

688.
長く伸ばしたところなど想像も出来ない彼女の貝殻のように小さな爪が、紅い三日月を夜に散らす。夜が明ければ消えてしまう幻の月を愛で、私は眠らぬ夜に飽かず興ずる。

689.
傘がないと走り出す彼に、差し出す傘を持たない私。ならば、この手の中にある長物は、一体何と呼べば良いのだろう。傘という名を失くした無用の長物を手に、私は独り冷たい雨を頬に受ける。

690.
欲しいと思う心。暴走する欲。たとえ、それが傷付ける行為だと分かっていても、止まらない手。私が暴いた傷さえ、舐めて、癒して、また暴く。そうして傷付いた顔をする君が、それでも私から離れていかない事に安堵する。そうだ、私は狂った道化師。

691.
すれ違い様に触れた指先が意図されたものか、否か。そんなことを考えさせられる程に、彼は私の中に住んでいる。指先の熱を手の中に握り締め、思わず振り向く。絡む眼差しは偶然か、必然か。真実は見えないまま、急に風が止まった。

692.
好きよ、貴方にしか言えないわ。仔犬相手に独り戯れ言。夜の静寂に嘘を隠して。

693.
ポケットを探る彼が、不意に私の掌に一枚の硬貨を乗せた。「何ですか? これ」「送迎の駄賃だ」「子供じゃありません!」「怒るところは、そこなのか」そう言って、彼は笑う。「じゃあ、子供扱いしないから、おいで」ポケットから取り出されたのは、彼の部屋の鍵。ああ、今日も私は彼の掌の上。

694.
「嘘をついても良いよ」という嘘。うっかり鵜呑みにしたら、きっと頭から丸呑みにされてしまう。だから、目を閉じて、心を開いて、私から口付け。

695.
口紅をひく前に口づけをする習慣。うっかり口紅をひき忘れ出かけることはあっても、口づけの前にうっかり紅ををひくことはない。自分の中の分かり易い優先順位に私はひとり笑い、今朝もお早うのキスを交わす。

696.
彼女から移る色なら何でも気にならないというのに、律儀に口紅を拭う彼女が愛おしい。そう、秘密は無色透明に、ただ糸を引くだけで私と彼女を繋ぐのだから。

697.
押し倒した筈が引き寄せられて、いつの間にか白い肌が露わになっている。仕方ないな。君が望むなら、その蜘蛛の巣に自ら飛び込む蜂にもなろう。だが、雁字搦めに喰われるほどに、私の針は柔じゃないことは、君が一番良く知っているだろう。覚悟は良いかね? Ready, set, go!

698.
乙女心等と言われても鼻で笑ってしまうような私を、不意にセンチメンタルに突き落とすのは、彼の背中と独り言。見えない表情に、私は何を思えばいいのか。教えてくれなくていい、振り向かないで。そうでなければ、私は。

699.
舌を噛みそうな長ったらしい名前の菓子を、嬉しそうに食う彼女を愛でる。彼女の中では、銃の構造理解と同列でその可愛らしものが存在するらしい。悲哀と恋情に絡めとられ、私は苦い珈琲を一息に飲み干す。

700.
誰もいない部屋に帰る。真っ暗な部屋。冷たい部屋。本当はあったかもしれないものに手を伸ばし、ただ空を掴む。何も掴めない掌に、心に、闇。

Twitterにて20120318〜20120515)