discursive prose

死んだ親友の夢を見た。
内容は覚えていない。
ただ、ひどく怒られた気がする。

「偉くなられても、相変わらず居眠りでいらっしゃいますか? 准将閣下」
執務机に書類を置きながら小言を言う彼女に、虚ろな視線を向ける。
午後の強い日差しに金色の短い髪が眩しい。
最初にあいつが彼女と会った時、彼女はやはりこんな髪型をしていた。

あの日、あいつと再会したのだ。
久々の再会の笑顔を思い出す。
その眼鏡の奥に人殺しの目を隠した笑顔。

死んだ人間は、笑顔だけが残る。
思い出のフィルターというやつだ。
あいつの笑顔以外、覚えていないと思っていた。

嘘だった。
学生時代の青い憤りを隠さぬ顔も、
子供が生まれたと泣いた顔も、
仕事の時の阿呆のように生真面目な顔も、
人を殺した時の感情の抜けた顔も、
全て私の中にあった。

「閣下?」
白昼夢に歪む私の思考を彼女が覚ます。
少し心配げな、何もかも見通すような鷹の目が私の瞳を覗き込む。
不意に夢が鮮明に目の前に甦った。

『あんまり彼女に心配かけてんじゃねぇぞ? バカ野郎』

夢の続きがこだまする。
この土地には思い出が詰まり過ぎている。
死んでまでお節介な男の優しすぎる怒り顔が痛い。

「なんでもない」
彼女にそう答えた私は、苦い笑いで痛みを隠す。

まだ何も始まっていない。
まだ何も終わっていない。
だから私は答えを出せない。
だからもう少し、まだもう少し

おまえは私の中で笑っていろ。