少しばかり有能すぎる部下

白昼堂々の市街地のど真ん中で、派手な銃撃戦が始まったのは一四〇六の事だった。
かねてから目を付けていた武器の密輸組織の一斉摘発のため配備していた一部隊が、偶然組織の者と行きあってしまい、双方予期せぬ偶発的な戦闘が始まってしまったのだ。
おかげで現場は一時乱戦状態に陥り、指揮系統の壊滅した軍部隊は混乱の極みにあった。
この騒ぎの第一報はすぐさま東方司令部に届けられ、この大捕り物の元々の責任者であったロイは、好むと好まざるとに関わらず、現場に急行しなければならなくなる。
かくして、平和だった彼の午後の仕事は、硝煙と弾幕にまみれた血生臭い不穏なものに取って代わってしまった。
 
「相変わらず東部は派手だなぁ」
ロイの隣で、ヒューズが感心したように呟いた。
たまたまセントラルから査察の帰りに東方司令部で道草を食っていた彼は、ロイに睨まれながらも事件の現場へと同行していた。
悪友の暢気な呟きを頭痛のする思いで聞き流し、ロイはそれでも矢継ぎ早に己の支配する部隊へと命令を出していく。
「お前、段取り良いな」
「当たり前だ、何年この東部で指揮を執っていると思ってる。セントラルにいると、こういう光景はなかなかお目に掛かるまい」
「ああ、さすがに大総統のお膝元だからな。滅多な事じゃ、事件は起こらん。それが良いことか悪いことかは、分からんがな」
「どういうことだ?」
「中央軍の弱体化が懸念されるってことだ」
「剣呑だな」
どうでも良いような会話に紛らせ、微妙な情報をふる親友に内心ひやりとしながら、ロイは話の腰を折り、己の副官を呼びつけた。
 
「少尉!」
「何かご用でしょうか? 中佐」
忠犬よろしく短い髪を揺らして走ってくるリザに向かい、ヒューズは場違いな笑顔で手を振った。
「よぅ! リザちゃん。久しぶりだな」
「あ、ヒューズ少佐。ご無沙汰しております」
「元気だったか?」
「黙れ、ヒューズ! 指揮の邪魔をするな」
こめかみに青筋を立てて怒鳴るロイに肩をすくめ、ヒューズはくわばらくわばらと呪文のように唱えた。
ヒューズの存在を無視し、ロイは彼女に報告を促す。
「第三部隊はどうなった?」
「目下、Bブロックで応戦中です」
「Bブロックの敵の人数は?」
「それが、未だ把握出来ておりません」
「勘弁してくれ、戦闘開始から何時間経っていると思ってるんだ! この隊は無能ぞろいか!」
空を仰いで大袈裟に嘆いてみせるロイに、リザはすみませんと謝って報告を続けた。
「Bブロックに出た斥候隊が、相手方のロケットランチャーの暴発で通信不能となってしまったものですから」
ロケットランチャーの暴発と聞いて、最悪部隊全滅の可能性もある酷い報告にロイは内心で肝を冷やす。
自分の作戦で死者を出すのはもうごめんだ。
しかし、そんな想いをぐっと飲み込んで、彼は冷静な顔で副官に言う。
「言い訳は不要だ。詳しい情報が入り次第すぐ報告しろ。それと斥候隊の救出を最優先に実行、被害内容の詳細をすぐに報告させろ」
「アイ、サー!」
 
びしりとロイに敬礼をし踵を返しかけたリザは、ふと思い出したかのように立ち止まる。
「中佐」
「なんだ、まだ何かあったか」
「いえ、差し出た事とは思いますが、一言申し上げます。味方の被害報告に指揮官がいちいち顔色を変えておられては、士気に響きます。どうぞ、泰然となさっていらして下さい」
真面目な顔でそう言ったリザは、では、と頭を下げ、思いもかけぬ彼女の言葉に毒気を抜かれたロイが何か言う前に前線に向かって走り出した。
 
小さくなっていく彼女の後ろ姿を複雑な思いで見送り、ロイは隣りで腹を抱えて笑っているヒューズにムッとした顔で問い掛けた。
「なぁ、ヒューズよ」
「なんだ?」
「私はそんなに顔に何でも出ているだろうか?」
ヒューズはひぃひぃと苦しげに息を整え、笑ったまま答えた。
「いーや、昔に比べたら随分ポーカーフェイスも様になってきたと感心して見てたんだが、流石に“鷹の目”は誤摩化せんというわけか」
「バカ、笑ってる場合か」
「いいじゃねーか、優秀な副官殿で」
ロイは増々苦虫をかみつぶしたような表情になると、独り言のように言った。
「少しばかり有能すぎるさ。まったく、彼女にだけは弱いところを見せたくないと言うのに。それすら許されないとなると、私は非常に困ってしまうのだがね」
ヒューズはガハハと大口を開けてもう一度笑うと、この贅沢者めとロイがよろめく程にその背をドンと力任せにひっぱたいたのだった。
 
Fin.
 
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