後書きに代えて

 半月も経って本当にもう何を今更なのですが、言ったからには書いておく、後書きのようなものです。自己満足と備忘に。
 
 えー、今回の611祭り、正直なところ体力的には死ぬかと思ったけど(笑)、この疾走感とお祭り気分は死ぬほど楽しかったです。お付き合い下さった皆様に、心からの感謝と愛を。ありがとうございました。
 コメントとか拍手とかいっぱい戴いて、最後だからみんなでお祭り! って感じがするのが嬉しくて楽しくて、最後まで頑張れました。特に最終日は拍手が大台に乗るというウチのBlogでは記録的大事件が起こりまして、いやはや、もう感無量です。本当にありがとうございました。
 
 6月11日が鋼の最終回掲載号の発売日と分かってから、何かしたいなと思っていたのですが、通販作業など色々あって手が空いたのが六月になってから。無理かなぁと思いながら、でもある意味「最後のお祭り」に乗らないでどうするという思いが先行しました。
 やはり私は彼らの中にストイックな姿しか見ることができないとしみじみ感じ、テーマはそのまま「上司部下」。四年前、このBlogを開いた時に書きたいと思っていたお題をそのまま使用できることに、結局あまりブレなかったんだなぁと、またしみじみしました。
 しかし、一発書きの毎日ぶっつけ本番は、さすがにキツかったです。<ドM(笑)
 
 以下、「上司部下、十の事情」各話つれづれです。また、三夜目以降、翌日にTwitter上でおまけを付けてたので、それもこちらに再録しときます。向こうは流れてしまうんで。
 
01.少しばかり有能すぎる部下
 リザが副官になったばかりの頃のイメージで書きました。無意識に意識してる、まだ仔リザの延長線上。でも、だからこそ鋭くて、大人は参ってしまうのだと思います。
 
ひどく楽しそうに笑い転げるあの男と、苦虫を噛み潰したような表情の彼とが、親友だという事実が未だに私は解せないでいる。やはり笑顔というものが、彼を惹き付けるのだろうか。慣れぬ角度に口角を上げかけ、ふと我に返った私は、自分の莫迦な考えに口角を自嘲の角度に上げ直した。
 
02.サボタージュ
 大袈裟でもドラマティックでもなく、当たり前の日常の延長のようにさりげないことが、すごいんじゃないかと思います。お互いに分かっていて気遣って感謝して、それでも日常を貫く大人な感じが、好きです。
 そして、たとえ全てがギリギリでも、ここで王道に大佐がサボる話を書きたくない自分が笑えます。
 
03.…少しくらい敬いたまえ
 意地っ張りで莫迦で愛おしい二人も好きです。実は、お互い相手が聞いてるのを前提に呟いてて、聞こえない振りとかも切なくていいと思います。
 それと、中尉はちゃんと大佐のことを敬ってるからこそ、意見できるんですよね。部下の苦言を取り入れる度量のある上官、いいじゃないですか。<ロイスキー
 
「くそ、昨夜の事が何も思い出せん!」宿酔いの頭を押さえて私が喚けば、彼女は呆れたように水を差し出す。「いい加減みっともないですよ」「相変わらずキツいな」昨夜の全てをなかった事にする二人の儀式は、今日も円滑に我々の心の一部を殺す。そうやって生きる道を我々は選んだ。選んでしまった。
 
04.望まない確執
 ウチのBlogらしい話だと言うお言葉をたくさん戴いたSS。結局、彼らの中には譲るところと譲れないところのキチンとした線引きがあって、その狭間で保つ微妙な均衡の危うさから目が離せない気がします。一番大切なことは、きっとブレないでしょうし。
 
部屋を出る彼女の後ろ姿の、細い肩が震えていた。相変わらず嘘が下手だなと思いながら、私は切り裂かれた胸を押さえる。おそらく彼女の方がもっと痛む胸を抱えているのだろうが、彼女の振るった刃の本当の意味が分からぬバカな男に彼女の後を追う資格はない。私は何もなかった振りで、ペンを取った。
 
05.追う者、追われる者
 あんまり切な目が続くと自分も辛いので、休憩。これも別の意味での若ロイ仔リザの延長。幼い頃の思い出があるからこその絆、書くの好きです。
 
秘密の隠れ家、と言っても使い古された倉庫だが、の片隅で読書に専念する幸福に自然と私の頬は緩む。仕事が嫌いな訳ではない。ただ、血塗れの己の手を見たくない日があるだけだ。過去に遊ぶ私を現実に連れ戻すのは、彼女。だから、人前では決して見せぬ緩んだ頬を、私は隠さずノックに答える。
 
06.ご褒美
 「大佐のご趣味」っぽい感じでしょうか。オリキャラ出す気はなかったのですが、切羽詰まってすみません。気障ロイも欠かすわけにはいかない、大好き要素です。おまけのすれ違いっぷりも気にいってます。
 
「何ですか? これ」「残業の差し入れだ」出張から直帰で夜中のオフィスに現れ私を死ぬ程驚かせた男は、子供騙しの様なクッキーを差し出し、更に私を驚かせる。何か悪い物でも食べたのかしら? そう考えつつ、私は二日ぶりに見る彼の無事な姿に心の平安を感じ、珈琲を淹れる為に立ち上がった。
 
07.ちょっと言い過ぎたかも
 共闘する二人好きとしては、軍人としての信頼と絆は書いておかなくては。共に戦う理由、捨てられないロイの強さと弱さ、それに応えるリザのプライド、前を見続ける二人の強さが書きたかったのです。ちょっとタイトルと内容のリンクが苦しいんですが、ご容赦下さい。
 
「やっぱり莫迦ですね、貴方。指揮官として最低です」結局、先頭きって危険を引き受け、やっぱり受傷した男を私は見下ろす。「莫迦は君だ。そんな顔で憎まれ口を叩いても、全く説得力がない」と彼は笑い、すまないと酷く優しい声を残して運ばれて行った。私は唇を噛み、声もなくただ彼を見送った。
 
08.夜・オフィス・山積みの書類
 ブレダ好きな相方がニヤニヤすると思いながら、ニヤニヤして書きました。(笑)ブレダ、好きです。頭良い人なので、ロイの信頼厚めだろうなとか、見てない振りで色々見てるんだろうなとか。
 楽な生き方はある。それでも、それを選ばない彼らの生真面目さは、25巻のぎゅうの局面ですら階級呼びしかしない彼らへの愛おしさに繋がるな〜と。
 
彼に渡された軍服をハンガーに掛けようとして、私はその胸ポケットに自分の筆跡を見つける。一週間前、躊躇いながら置いた出張を労う簡易なメモ。それを未だに持っている彼に淡い期待を抱き、私は苦笑する。諦めてしまえれば良いのに。そうすれば、こんなメモ一枚に胸を掻き乱される事もないものを。
 
09.異動辞令
 最初はリザさんが大総統補佐になった時の話を書いてたんですが、「アウェー・イン・ザ・ライフ」を観てテンション上がりまくって全消しで書き直しました。あれはあれで消さなきゃ良かったと、今更後悔。(苦笑)
 でも、このホームとアウェイの比喩はすごく好きなので、書き直して良かったです。人生なんて所詮アウェイ、その中で自分の居場所がある幸福、それで十分じゃないですかね?
 
「今、戻った」「お疲れ様でした。査察はいかがでした?」「相変わらずだ」私の答えに苦笑した彼女は、私の機嫌をとる為に熱い紅茶を淹れてくれる。ただいまを言っても返事のもらえない少年時代を過ごした私には、このささやかなやり取りすら眩しい。彼女はいつも、知らない内に私の心をを照らす。
 
10.上司としての顔、部下としての顔
 読み手さんを吃驚させようとあの書き出しを書いた時、実は結末は決まっていませんでした。それでも、最後の夜にふさわしいお話になったと自画自賛です。(笑)自分の思うところを余すことなく書けたとすごく満足し、拍手たくさんいただけて賛同して下さる方も多いのかなと嬉しく思いました。そして、本当に余裕がなかったので、これだけ後から加筆しました、実は。
 よく戴いたコメントを読んでいて考えるのが、「結婚=唯一絶対の幸福なのか?」「幸福じゃない=不幸なのか?」ということでした。世の中には100%の幸福も、100%の不幸も存在しないと思っています。80%の幸福と20%の不具合、50%の幸福と50%の不具合、いろいろあって、結婚という幸福だけが人生の100%の幸福ではないでしょう。少なくとも愛する人と共にある幸福は彼らの上にあるし、その上で自分たちの過去を縛る罪を償う努力は愛する人の魂の救済にも繋がるという幸福だってある。ベクトルの違う幸福が幾つもあって、どれを選ぶかはその人の考え方と価値観次第。そんな中であえて職業軍人の道を選んだ彼らの幸福、それは結婚してぬるま湯の幸福の中で、全てを忘れることではないと私は感じました。紙切れ一枚で誰にでも保証される幸福と同じものを、彼らの上に当てはめる必要があるのかな? と。彼らの絆はそんなものを必要としないほどに強く、そんなものが与える幸福に良心の呵責を覚えて揺らぐほど危うく、だからこそ彼らは今手の中にある幸福の大切さを本当によく知っている。字書きのくせに上手く文章化できないのがもどかしいですが、そこが彼らの魅力だと私の目には映るのです。偏った意見なのは重々承知ですが、まぁ、最後なので熱く語らせといて下さい。こんな考え方もあるんだよーという感じで。
 
「あんたにとって、あの男って何?」酔った親友の明け透けな問いに、私は苦笑する。「昔は憧れのお兄さん、裏切り者、サボり魔の上司、後……」「愛しい恋人?」「まさか! あり得ない」彼女の茶々を私は即座に笑い飛ばす。彼はそんな単純な言葉で表せる存在ではないの。彼は私の全てなのだから。
 
 十の夜と十のお話におつきあい下さった皆様、どうもありがとうございました。