Twitter Nobel log 22

1051.
それは私にだけ見せる顔なのか。それは私にだけ伝える言葉なのか。イライラする。ムカムカする。腹立たしいのは嫉妬のせいだと分かっているから余計に。私だけのものになってはくれないなら、私はただの副官でいい。

1052.
君の足の爪に色がついていることを知っている。薄化粧の素っ気ない君の隠された爪先が、可愛らしい春の色に染められる行程を知っている。私だけに君が許す、ささやかな秘密の漏洩。

1053.
言葉を欲しがるのは、駄目なことだと思っていた。約束を欲しがるのは、自分が弱いからだと思っていた。何故、与えられていることに気付かなかったのか。振り返りもせず全てを私に預けてくれる背中の雄弁さを。約束なんて、とっくに交わしていたことを。

1054.
眠り姫の誘惑は、私を憂鬱にさせる。潤んだ睫毛、濡れた唇、肩に流れる長い髪。無防備な彼女の全てが私の目の前に投げ出されているというのに、軍服という名の荊が私を阻む。青い棘が胸に刺さり、王子になれぬ私は心臓から血を流し、ただ黙してお伽噺の舞台を去る。望んでも届かぬ過去に背を向け。

1055.
ヒーローになりたかった訳ではない。では何だと問われれば、平和を見つけたかったのだと思う。平和の為の殺戮とは何だと自問する。たった一人の少女の笑顔さえ壊す、それの何が平和か。望まなかった英雄(ヒーロー)の称号を得、己が失ったものの大きさに掌を見詰める。

1056.
世間ではクールで上官を適当にあしらっているのが私のイメージらしいが、本当は逆だ。彼の死を臭わされれば、真偽を確かめる余裕さえ無くし泣き喚く。それが私、愚かな女。貴方に相応しくない、隠し続けた私の本当の顔。

1057.
広い背中に口付けの痕跡を残す。紅い私の唇の形は、貴方が私の背中に残したものよりはずっとささやかで、ずっと貪欲で、あまりに呆気なく消えていく所有印。

1058.
軍服の飾り紐を引っ張られ、よろける私を膝の上に受け止め悪い男は笑う。「この紐は、そんな悪戯の為に付けられているのではありません」と抗議すれば、「では、他の悪戯に使おうか」と彼の笑いが顔いっぱいに広がる。ああ、酷い男だわ。そんなもの使わなくても、私はその笑みだけで逃げられないのに。

1059.
眠ることにも精神力がいる戦場で、何を思うでもなく彼の顔が浮かぶ。裏切られたと思う寂寥と、自分も同類だと思う嫌悪感と、同じ地獄にはまり込んだ安堵が胸に満ちる。眠る前に数えるもの、それは羊ではなく殺した人間の数。その数だけ私は彼に近付き、離れられなくなっていく。

1060.
ソファーはベッドではないと、何度口を酸っぱくしても聞き入れない男は、今日も着替えもせずに柔らかなクッションを抱いて読書灯の下に沈んだ。私はそんな男を見下ろし、愚痴と溜め息とやり場のない寂寥を胸に溜め、黙り込む。そのクッションの代わりになりたい日が、私だってあるというのに。

1061.
構築式を描く私の手元を覗き込む君の瞳は、少しの畏怖と憧憬と恋しさを秘めている。間違ってはいけないよ、私は師匠ではない。君に向ける愛情は代替えの品ではないのだと、幼い日のやり直しは出来ないのだと、君は分かっているクセに見ないふりをする。残酷なのは、一体どちらだろうね。

1062.
中合わせは、戦闘の為のフォーメーション。背中合わせは、互いの表情を見ない為の逃げ。背中合わせは、もたれ合うひと時の安らぎの姿勢。背中合わせは、深夜のベッドの寂寥。背中合わせは、命を預け合う信頼の形。
人生のさまざまな感情を分かち合う、背中合わせの私たち。

1063.
たとえ君の命が懸かっていようとも、私は己の目指すものだけを見る。それが君と私が共に見詰め続けたものだから、それこそが君への想いと信じ。独りにはしない。我々が我々である理由を、私は守る。

1064.
目を開き、目の前にある背中に『生きている』ことを思う。この背中を守る為、私は生きる。この背中が私の前にあるから、私は生きられる。彼には見えない彼の背中、だから私はここにいる。朝の光の中、弛緩した暢気な彼の背中が規則正しい呼吸のリズムに上下する景色を私は飽きず眺める。

1065.
丸まって眠っている顔に苦悩はなく、私は安心して彼の寝顔を眺める。丸まっても男の人のお尻は四角いのだなと、莫迦なことを考える程度には私も呑気で、穏やかな夜に私はそっと眠る彼の邪魔をしないように腰掛ける。頭の四角い女とお尻の四角い男、二人並ぶ四角いソファーの端と端。

1066.
その未来が明るいのかと問われれば、素直にYesと言える訳ではない。ただ、その道々ふと振り向いた時に私を見上げる榛色の眼差しが、私の光となる。私の人生を照らす小さな光に背中を押され、私は己の焔を未来を照らす灯火と為すべく、ただひたすらに前を行く。

1067.
いつもスーツばかりの伊達男が、ラフな黒のセーターを着ているだけで、何故だか不意討ちを喰らった気分になる。髪も目も洋服も何もかも黒いのはスリーピーススーツと同じ筈なのに、柔らかな素材の隙が私を惑わせる。硬質の黒、軟質の黒。貴方の本質はどっち?

1068.
知らなくてもよいことを知ってしまった代償に、私が失ったのは冷静な心。振り向く眼差しを待ってしまう程度に、それでもその心を隠す自尊心は保てる程度に、私を揺るがすもの。それは、堅い口調で命令を下す、その唇の柔らかさ。

1069.
それは恋情か、或いは病に似て、どちらも己の意志に関係なくずぶりずぶりと落ちていく。その感覚だけが私の性別を私に知らしめ、私は闇にひとり笑う。落ちていくのなら、ひとりでは無くふたりの方が落下の速度は増すのだと、貴方は知っているのだろうか? そう心に問い、私はその背に爪を立てる。

1070.
ハイヒールの踵が石畳の隙間に挟まって、君がよろける。普段は見せない間抜けな横顔が可愛くて、私は笑う。笑われて怒るのか、拗ねてそっぽを向くのか、それとも知らぬ顔でクールビューティーを貫くのか。胸の内で三択の賭けをする私の肩を君の手が掴む。エスコートを要求される喜びに私はまた笑った。

1071
シャワーの音にかき消される慟哭は、流れる湯に消される涙と共に、この湿気た小さなバスルームの中だけで、私が私に許す弱さの破片。一片も残さず排水溝に流してしまおう、汚れも弱音も、弱さも想いも、劣情も恋情も。バスルームは私の全てを洗い流す場所。

1072.
飲み過ぎた翌朝の頭痛の酷さに辟易しなから、ベッドで寝返りを打つ。こんな朝を迎えると分かっていても、アルコールに逃げなければならない夜がある。この手を血に染めた日から、覚悟は決めた筈なのに。きっと同じ酷い朝を迎える彼を想い、私は髪をかきあげる。

1073.
可愛いと言われて怒る女を、君以外に知らない。だからと言って、それが不快なわけではない。可愛いと言われて怒る君さえ、可愛いと思う。堂々巡りで怒られ続ける理不尽すら、私に笑みを運ぶ。感情を露わにする君を愛でる私を、君は悪趣味という。分かっていないね、君は。

1074.
デスクワークが嫌いな訳ではない。ただ、時々全てがバカバカしく、平和と言う欺瞞と嘘を隠す道具に見えるだけ。こんな私の青臭さに、彼女はサボタージュという単純な名をつけ一刀両断に切り捨てる。名前をつけられた思いは行き場を得、私は職務に戻る口実を得る。まったく優秀な副官殿だ、君は。

1075.
共に撮った写真など数える程しかなく、その全てが青い軍服に身を包んだものだなんて。我々らしいと笑うその笑みが、苦いものなのか、幸福なものなのか、私にはまだ判断がつかない。ただ今は、たとえそんなものでも共有することの出来る人生に笑みを浮かべる。常に、共に。

1076.
政敵に対する不敵な笑み。構築式を見つけた時の少年の様な笑み。サボタージュを見つかった時のきまり悪げな笑み。親友の娘を見る寂しげな笑み。私を追い詰める時の意地の悪い笑み。後朝の朝陽にも似た柔らかな笑み。ほんの僅かな口角の動きで、私を翻弄する貴方。

1077.
笑っていて欲しい。ただ、それだけのことが、何と難しいのだろう。彼女は表情を殺し、難しい顔をして、じっと未来と私の背を見据える。その表情を作るのは軍人の私であり、私はそれを当然のこととと受け止めるしかないのだ。それでも、心の片隅で私の一部が囁く。欲するのは、ささやかで小さな笑顔。

1079.
本棚の影で隠れてキスをする。父に隠れて。部下に隠れて。昔から変わらない私たちの秘密を隠す場所。本棚の影に隠れてキスをする。

1080.
正気と狂気のボーダーライン。紙一重で私の袖口を掴む君は、やはり私と同じ目の色をしている。きっと彼女のボーダーラインでその手首を握っているのは、私であるのだろう。共に落ちるのは簡単。それでも。

1081.
お天気が崩れそうな不安定な晴れの日、干したままの洗濯物より気になることがある。雨が降らなければ良いのだけれど。そう祈る理由は、私以外の人間には理解されない、私だけの悩みの種。きっとそれは贅沢なことなのだと、私は隣に立つ男の横顔を見上げる。

1082.
いってらっしゃいと毎朝妻君の声を背に受ける男の隣で、無言の彼女の眼差しを背に受けて立つ私がいる。世の中にはその幸福を比較するバカもいるが、結局のところ、幸福など当人の物差し次第なのだ。他人の尺度で私の幸福を計られても困ると、私は苦笑いで彼女を振り向く。

1083.
引っ越しの準備に意外なほど時間のかかる自分に驚く。持ち物はそう多い方ではないと思う。ただ、使っていないのに捨てられないものに困っている。 我々の間には、思い出が多過ぎる。

1084.
積み重ねたものは、すべて墓場まで持っていくと決めた。あまりに強欲だと七つの大罪にも笑われるかもしれないが。ああ、ただひとつだけ、手放すものは決めている。それは君の手。生きてくれ。

1085.
幾千の空を共に見てきた。寂しい夕暮れもあれば、燃え上がる空もあった。夏の夕立を見上げ、冬の青い夜明けに目を細める。同じ空を見、似たような言葉を吐き、また同じ方角へと歩き出す。そんな君と共にある喜びを噛みしめ、その後ろ姿にそっと心のシャッターを切る。

1086.
心が手に入らぬなら,手折ってしまえばいいと思った。手折った花はますます遠く、肉を重ねる度に冷ややかな空気だけが満ちていく。それでも何も手に入らぬよりはましと、猿のように独りよがりの夜を重ねる。濡れた掌を独り見つめる。

1087.
朝は紅茶。一日中珈琲を飲んでいる私の唯一のイレギュラー。同居人の趣味に合わせるのも、知らない世界の扉に繋がる醍醐味。今朝も見知らぬ国の茶が、私の新しい朝を迎える。錬金術と軍務に重きを置く私に、美しい世界を見せてくれる君に感謝を込めて「いただきます」を言おう。

1088.
今、私の手が触れているものは、軍が支給する何の変哲もないただの軍服の生地だ。君自身ではないのだ。そう考えれば、何の問題も生じないだろう。詭弁だと、笑うなら笑えばいい。それほどまでに私を追い詰めたのは、君だ。

1089.
夜通しの読書の目の下の隈を咎めたところで、屁理屈を捏ねられるのが関の山。それで職務中に居眠りをして私に叱られる堂々巡り。それでも、どちらも手放さない彼とそれを叱りながら許してしまう私がいる。仕方ないのはどちらかしらと、ひとり私は苦笑する。彼には見せられない甘い顔。

1090.
赦しを乞う言葉とは、誰の為に発されるのか。赦され、楽になりたいと思う自分がいる。だが、過去の己を赦すことの出来ぬ自分もいる。その天秤を裁く女神が私の背中を見ている。だから私は安堵して、幾度でも贖罪の路を這う。赦されずとも、この背に注がれる眼差しに恥じぬ生の為に。

1091.
思ったことを口に出すのが下手な私が、貴方に何かを伝えようとする時、急かすことなく私の言葉を待ってくれる貴方がいる。その間に注がれる眼差しに私は満ち足りてしまい、結局何も言わないから、私はますます口下手になる。困った幸福な堂々巡り。

1092.
私の部屋に花瓶があるかないかさえ覚えていないくせに、毎度花を贈ってくれる貴方に呆れてさえいた。女は花束を貰えば喜ぶと思う単純さに、苦笑していた。それなのに、その単純さに救われる夜が来るなんて。影に怯え受話器にすがる夜の魔法。

1093.
旅先の記念に写真を撮るように、我々の貴重な日常のシーンを残しておきたいと言ったら、君は笑うだろうか。ただ穏やかにシチューが煮込まれる台所や、真夜中の何もない時間をだらだらと過ごすソファーや、そっと笑って振り向く君や、例えばそんな風景を私は残したいと思うのだよ。

1094.
守るのではなく、守られるのでもなく、ただ共にある手段を模索する。その為に必要なのが銃であれば私は銃を取るし、そうでなければそれ以外の手段を探すだけ。そう言い切れるようになるまで、何年かかっただろう。この手に馴染む銃に頼らずとも、貴方に必要とされていると信じられるまで。

1095.
事件が解決した夜のビールが美味いのは、達成感と安堵と充足と、ようやく二人で過ごすプライベートが戻ってくる喜びのせいだろう。ひとときの平和に乾杯をして、二人で揃いの白い泡の髭を作る大人げない大人が二人。そんな夜を時には自分たちに許そうか。

1096.
彼女のジョークのセンスは、時折そのネーミングセンス並みにシュール。意表を突かれ過ぎて、彼女の意図せぬ意味合いで笑ってしまう自分が悔しい。いや、面白いのは君のジョークではなく、君の生真面目さと大胆な発想のギャップなのだなんて、とても言えない。

1097.
何故あの人が困っているのか、私にはさっぱり分からないのだけれど、困った男の人というものはどうにも可愛らしくて、優しくしてあげたくなって、こちらまで困ってしまう。また何か面白いことを言ってあげればいいのかしら?

1098.
雨の日の君は過保護。私とて射撃の心得も軍隊格闘の腕もあるというのに、君は傘を持たない子供のように私を扱う。どうせ子供扱いするのなら、手でも繋いでくれたらどうかね? そうすれば、私も喜んで君に引き倒されよう。勿論、君を巻き込んで。マウントポジションは譲ってあげよう、どうかね?

1099.
祈る言葉を持たない私と、振り上げた拳の行き場を無くした貴方が、戦場で再会したのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。死と生と、血と焔と弾丸と、国と民族と、そんな重たいものばかりが転がった戦場は、貴方と私を男と女にする余地を内包していなかった。そこが戦場で救われる私達がいた。

1100.
だらだらと昼寝をする私の番犬は、私の足元で丸まる黒い毛の小さな子と、私を抱き枕のように背後から抱き締める黒い髪の大きな人。普段は小さな子が働き者だけれど、いざと言う時に頼りになるのは大きな人の方。だから私は安心して、午睡を貪る

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