2008-01-01から1年間の記事一覧

Embrace me.

「なんだ?」 「…いえ。何も?」 微かに柳眉を寄せながら、彼女は手にした書類へと視線を戻した。 いつもなら、何だかんだと理由を付けてはサボりたがる癖に… こうも真面目に仕事に専念されると、却って妙な感じがする。 定位置に座り耳を澄ませれば、積み上…

sunflower 3

「何よりサボりませんし、さすが、できる殿方は違いますね」 言葉の端々にリザへの気遣いを滲ませる様に感謝しながらも、あえて彼女がしらっとした表情でそう言ってやると、ロイは心の底から嫌そうな顔をして 「……面白くない話になりそうだ」 と言ってサンド…

sunflower2

「リザ、何作ってるんだい?」 珍しく夕食の支度中に台所にやってきたマスタングが尋ねる。 「お夕飯の時間まで内緒です」 振り向いて悪戯っぽく笑ったリザは、再び彼に背を向けお玉で鍋をかき混ぜている。 ぶかぶかのエプロンを着た姿が可愛らしく、マスタ…

sunflower

ホークアイ家のダイニングテーブルの一角で、マスタングは師匠から借り受けた本を片手にペンを走らせている。 この週末は、いつもにも増してホークアイ師匠とマスタングの議論は白熱し、マスタングは夕食後ダイニングテーブルから移動することなく何かを考え…

mignight blue 後編

不意に、リザの気管を圧迫していたロイの手が緩んだ。 身体は反射的に流れ込んだ新鮮な空気を貪り、ひゅうひゅうと喉を鳴らしてリザはよろめく。 そんなリザをしっかりと抱き止め、ロイは強張ったリザの指をゆっくりと開いてその汗ばんだ手から銃をもぎ取っ…

mignight blue 中編

「何の真似だ?」 不思議なものを見るような目つきで、ロイはリザを見る。 その視線にリザは衝動を抑えきれなかった己の未熟さを恥じたが、勢いづいた言葉は止まるタイミングを失っていた。 「冗談でも言って良いことと悪いことがあります!」 「ふむ、お気…

mignight blue 前編

夜中にふと何がしかの寂寥感を感じ目覚めれば、隣で眠っているはずのロイは姿を消していた。 ベッドに横たわったまま、リザは目を瞬かせて闇に目を凝らす。 サイドボードの上の時計は午前2時を少し回ったばかりだった。 自分の拍動が不愉快にこめかみに響き…

cherry pink

気持ちの良い青空の下、リザは洗濯したばかりの真っ白なシーツを両手いっぱいに広げた。 強い風でロープに干したシーツがパタパタとひらめいて太陽光を眩しく反射させ、庭のアーモンドの花が濃いピンクの花弁を風に舞わせている。 リザは手に持ったシーツを…

4月バカ 跡地

すみません、そんなタイトルのお話はありません。 エイプリルフールです。 怒んないでやってください。。。。 騙されて下さった貴方に、お詫びに『aqua』の没バージョンを。 明日の夜には削除します。 削除いたしました、楽しんでいただけましたなら光栄です♪

憩いの掌

昨夜書類を作っている時から感じ始めた膝関節の痛みは、今や立っている事が苦痛に思えるほど酷くなっていた。 おそらく夕方になり、陽が落ちて冷え込みが強くなってきたせいだろう。 だるさを伴う関節の痛みは、高熱が出る予兆に違いない。 そんなことを考え…

hangover

hangover:【名】残存物、〔興奮の後の〕失望感、意気消沈 * 「御苦労だった」 ピシリと敬礼の姿勢を崩さぬリザを前に、ロイは鷹揚に頷いた。 「こちらこそ無理を聞いて頂き、申し訳ありませんでした」 律儀に礼を言うリザに、ロイは手を振ってみせる。 「君…

overdose

overdose【名】〔薬剤・麻薬の〕過剰摂取【自動】〔薬剤・麻薬を〕過剰摂取する、麻薬をやり過ぎて死ぬ * 「腕をぶった切ったまま下水道を歩いただぁ!? 破傷風になっても知らんぞ!」 大佐がノックスと呼んだ医者は怒鳴るようにそう言うと、乱暴な言葉とは裏…

overnight

overnight:【形】夜間の、夜通しの、夜を徹しての * 気のせいだと思うことにしよう。ケホケホと乾いた咳をしながら、リザは鞄の中に教科書を仕舞う。朝からちょっと頭が重たく感じるのも、鼻水が出てくるのも、気のせい。だって帰りにお夕飯の買い物をしなく…

overwork

overwork:【名】働き過ぎ、過労、余分の仕事 * 「こちらが来月分の練兵場の使用許可申請書です。希望日が重なっているのは二件のみですから、大佐の裁量で判断していただいて問題ありません。それから、こちらは先月の実弾の使用数の報告書です。実数と報告…

chocolate

chocolate:【名】チョコレート【形】チョコレート色の、チョコレートでできた * 深夜の台所からガタガタと音がする。リザは読みかけの本をパタリと閉じ、部屋着にカーディガンを羽織るとベッドから立ち上がった。明日は学校がお休みなので、珍しく夜更かしし…

何と言う 試作版(またの名をVer.小悪魔)

※注意 このお話は、十万回転リクエスト「09.何と言う」の試作ストーリーです。 その為、前半のアスタリスク(*)までの部分は、「09.何と言う」と全く同じ文章になっております。(後半の展開は、全く違います。) その辺りを踏まえた上で、よろしければお…

後書きに変えて

これで、頂きました九つのリクエストすべて終了です。ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。 自分には思い付かないテーマ、敢えて避けてきたテーマ(笑)など、この2ヶ月、書いている私も楽しませていただきました。 普段、SS以外は何も書かな…

何と言う

「欲しいもの、、、か」 リザの質問に、ロイは僅かに首を傾げ虚空に視線を泳がせた。 「君が選んでくれたものなら、何でも嬉しいのだが」 “誕生日に何が欲しいか”と本人に単刀直入に聞くリザの飾らなさに、ロイは苦笑しながらも、答えにならない答えを返す。…

愛で死ぬなら キスで殺して

表に車が停まった音がした。 男の来訪を思い、リザは急いで窓辺に立ち車種を確認する。 違う。 誰が見ている訳でもないが自分が惨めなるような気がして、リザは背筋を伸ばして落胆した様子を表に出すまいと努め、ダイニングテーブルに戻る。 約束があるわけ…

煙が目にしみる

扉を開けると、紫煙と酒精で飽和した空気が溢れ出る。 ドッと笑い声の上がる酒場の喧騒の中に、ロイは頭一つ飛び出た部下の金髪を見つけ、不機嫌な顔で歩み寄っていく。 「大佐ぁ、すんません」 目敏く(めざとく)上官の姿を見つけ小さく敬礼するハボックを…

あたりまえのように そばにいて

休日明けの朝、ハボック少尉が実家から送ってきたと言って、大量の林檎を持って出勤してきた。 何でも彼の地元の名産だそうで、司令部はたちまち甘酸っぱい香りでいっぱいになってしまう。 出荷できない分ですから、と少尉が言うように、大きさも形も不揃い…

シーソーゲーム

「おい、増田〜。今日も図書室寄ってくのかよ?一歩間違ったらストーカーだぞ?」 「うるさい。黙れ、日渦」 放課後の廊下を悪友にからかわれながらも、増田は足早に図書室を目指して歩いていた。 「一途だよなぁ、お前」 「放っておけ。てか、なんでお前が…

White

ベッドに潜り込むと、リザの足先が遠慮がちに私の足に触れてきた。 あまりにも冷たい足の指が不憫で、私はその爪先を自分の足でサンドイッチにして暖めてやる。 常は甘えることのない彼女が、こうやってすり寄ってきてくれる冬が、私は好きだ。 白いシーツに…