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ベッドに潜り込むと、リザの足先が遠慮がちに私の足に触れてきた。
あまりにも冷たい足の指が不憫で、私はその爪先を自分の足でサンドイッチにして暖めてやる。
常は甘えることのない彼女が、こうやってすり寄ってきてくれる冬が、私は好きだ。
 
白いシーツに包まった彼女を抱き寄せると、軽い抵抗にあう。
「何を今更」
彼女の十八番の台詞を奪ってやると、膨れっ面をしてみせる何時にない可愛さに、私は思わず笑み崩れる。
 
「大佐、何をにやけてらっしゃるんです?」
「君はいつ見ても可愛いな、と思って」
「誉めても何も出ませんよ」
素直じゃない所も可愛い、と思うのは、惚れた贔屓目だろうか。
まぁ、何でもいい。
私が良ければ、いいのだ。
 
「寒いなら、おいで」
そう言って改めて抱き寄せると、今度は素直に彼女は身を寄せる。
「全く、相変わらず冷え症なんだな」
「昔に比べれば、マシにはなったのですが」
彼女の冷えた手を温めようと両の手でそっと包み込むと、悪戯な指はスルリと逃げ出し、私のシャツの背に潜り込む。
冷たい手を背中に当てられ、私は思わずうめき声をあげる。
 
クスクスと笑うリザを怒ったふりで捕まえて、私は彼女を思い切り抱きしめた。
「悪い子にはお仕置きが必要だな」
そう言いながら、私は彼女の上にキスの雨を降らせる。
くすぐったいと笑う彼女を押さえ込み、私はその唇に口付ける。
 
「久しぶりだな、こんな風に新しい年を迎えるのは」
豊かな金の髪に顔を埋め、私は感慨深く言う。
「そうですね。去年はどなたかのおかげで、執務室で新年を迎えましたから」
「あれはだな」
「忘年会などと称して少尉たちとお出かけになったのは、どなたでしたっけ」
どうやら形勢が不利になってきた。
私は慌てて話題を変える。
 
「去年は去年、今年は今年だ。ほら、今年はきちんと全部終わらせてきた」
「そうでなくては、この部屋の敷居は跨がせませんもの」
物騒な顔で笑うリザの両手を捉まえて、改めて軽く両手で擦って温めながら私は言う。
「何といっても君と一緒に休みを取れるニュー・イヤー・ホリデーなんて、何年ぶりか分からないからな」
「本当ですね。でも、本当に今日中にあの量の書類を片付けられるとは思いませんでした」
「いざとなったら私もやるさ……、と言いたい所だが」
温まってきたリザの両手を離し、私は両手を広げておどけてみせる。
「実は結構必死だった」
笑いながら本音を言うと、リザは幸福そうに微笑む。
 
いつもこんな顔で君が笑っていてくれたなら。
そんなことを考えながらも、この先に続く戦いを思い、私は甘い考えを振り払う。
 
その時、枕元の時計が〇時を刻んだ。
「また新しい年が始まりましたね」
「今年も、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。昨年よりは、もう少し書類の期日を守っていただけると有り難いのですが」
「今は仕事の話はなしだ、リザ」
そう言って、私はリザの唇を塞ぐ。
 
ニコリと微笑んだリザが、私の背後に目をやり不意に声を上げた。
「あ」
その声に振り向けば、カーテンの隙間に白くちらつくものが見える。
「雪か。道理で寒いわけだ」
この調子なら、朝までに外は銀世界になっているだろう。
せめてこの雪が止むまでは、血に塗れた我々2人も白い世界で小さな幸せに酔う事を許されても良いだろうか。
 
白いシーツの間で抱き合いながら、我々は束の間の安らぎを貪り、お互いの存在に己を委ねたのだった。
 
 
 
 
  
Fin.
 
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【後書きのような物】
明けましておめでとうございます。
本年も、お暇がございましたら、どうぞお付き合い下さいませ。
よろしくお願いいたします。
 
極甘ほろ苦の新年SS。
次回更新は、リクエストいただきましたパラレルです♪