hangover

hangover:【名】残存物、〔興奮の後の〕失望感、意気消沈
 
       *
 
「御苦労だった」
ピシリと敬礼の姿勢を崩さぬリザを前に、ロイは鷹揚に頷いた。
「こちらこそ無理を聞いて頂き、申し訳ありませんでした」
律儀に礼を言うリザに、ロイは手を振ってみせる。
「君の恩師の頼みとあっては、無下には出来んからな」
 
東部の外れに開校する士官学校の落成式は、後は到着が遅れている大総統を待つばかりだった。
式典に出席するため堅苦しい礼装に身を包んだロイも、この学校の開校の準備のために出向していたリザと久しぶりの四方山話で時間を潰しているところだった。
礼装に合わせて薄く化粧を施したリザの表情は、いつもの厳しさがやや形を潜め凛とした美しさが際立っている。
普段はほとんど化粧っ気のない彼女が軍の礼装を着た時にだけ見せるこの独特の雰囲気が、ロイは何とも言えず好きだった。
 
「成果はあったのか?」
「お陰様で。素晴らしい学校になると思います」
リザはそう言って挙手を下ろして微笑むと、ホールの方へと目を向けた。
ホール周辺には関係者が忙しげに行き来し、時間を持て余した将校が談笑している姿も見受けられた。
本部からの情報では、大総統の乗った列車は土砂崩れの影響であと1時間は遅れそうだとの話だった。
 
「しかし、一週間も君を貸し出したは良いが、こちらの業務が大変だった。司令部は酷い状態だ、覚悟して戻ってくるんだな」
「元より承知です」
苦笑を浮かべながらもリザは、嬉しそうな様子を隠そうともしない。
「なんだか嬉しそうだな」
「こちらでの業務もなかなか興味深くはありましたが、やはり慣れた職場が一番です」
「君ならこういった業務も得意かと思っていたのだが」
「政治が絡むとなかなか大変で、我ながら性格が悪くなった気がします。どなたかのお守りをしている方が、よっぽど気が楽です」
ロイは参ったとばかりに頭を掻くと、その表情のままそっと声のトーンを落とした。
「で、例の件は?」
リザは自然な様子で周囲を確認すると、傍らのスチール製の扉を開けてロイを促すと中へ入り込んだ。
 
物置とおぼしき小さな空間で、リザは幾本かのフィルムをロイに手渡す。
「証拠品です。私は疑われている可能性もありますので、先にお渡ししておきます」
「確かに預かった」
「詳細は報告書で」
「む、御苦労だった」
ロイは無造作にフィルムをポケットに突っ込むと、嘆息した。
 
「内部調査とは相変わらず嫌なものだな」
「仕方ありません、巨額の賄賂が動いていますから」
士官学校開設の準備の補佐という仕事の裏で同時に、リザは学校建設をめぐる闇カルテルの調査もしていたのだった。
「気が重いのは確かですけれどね」
リザは少し笑って答える。
「全くどなたかのお守りをしている方が、本当に気が楽です」
ロイは苦笑しつつもいたずらっぽい表情になり、リザの耳元に唇を寄せた。
 
「私に会えて嬉しいのか?」
「御冗談を」
リザはにこりと笑って身を翻す。
しかし狭い空間では無駄な足掻きに過ぎず、たちまちロイはリザの腰に手を回して抱き寄せた。
 「私は会いたかったのだがね」
抱き寄せたリザの髪を梳くように撫で、ロイはその生え際に口付けを落とした。
 
「大佐の礼装を化粧で汚してしまいます」
そう言って身を捩るリザは、自分の手をロイの胸に添え、頬がロイの礼装に触れないようにしている。
その姿はまるで彼女の方から寄り添ってきているように見え、ロイは微笑んで彼女のおとがいに手をかけて柔らかな唇にキスをした。
「大佐、化粧が落ちてしまいます」
今度はそう文句を言って、リザはロイの唇に付いた自分の口紅を人差し指の先で拭う。
 
全く化粧とは愛でるのは良いが、面倒なものだ。
そう思いながらロイは自分の唇に触れた指先を捕まえようとするが、あっという間に逃げられてしまう。
「自分から挑発しておいて逃げるのか」
不満げに言うロイに、リザはすました顔で答える。
「いい加減にしておかれないと、大総統が来られた時に困りますよ?」
「大丈夫だ」
「何が大丈夫なんですか」
そう問い返すリザの尻を撫でながら、ロイは非論理的な返答をする。
「何、これだけ遅れているのだから、そう直ぐには始まるまい」
「まったく理由になっていません」
ロイの言葉をすっぱり切って捨てるリザの胸に指を這わせ、ロイは甘い声で彼女の耳元で囁く。
「久しぶりの逢瀬なのにつれないな、リザ」
「全く聞き分けのない方ですね」
大きく溜め息をついたリザは仕方がないといった表情で、いきなりクタリと柔らかな身体をロイに預け、自分の右足でロイの膝を割った。
 
何事かと目を見開くロイに構わず、リザは己の太股をロイの両足の間に滑り込ませ、ロイの片足に跨るような姿勢になると、ぐいぐいと豊かな胸をロイの身体に押し付ける。
密着する下半身と重量感のある胸の圧迫は非常に刺激的で、突然のリザの積極的な変貌に驚くより先に、ロイは自然に身体が反応してしまう。
正直な身体の欲望に従い、ロイはリザの行為に応えるべく、彼女を抱く手を緩め、捲れ上がったスカートの裾から手を入れようとした。
と、いきなりリザは解かれた腕の間からスルリと逃げ出してしまう。
 
宙ぶらりんにされた欲望にポカンとするロイを、少し離れた所からリザは艶やかに微笑んで見詰めた。
「さて大佐。今、大総統がいらしたら、どうなさるおつもりですか?」
どうするもこうするも、こんなズボンの前を膨らませた状態で人前に出られる訳がない。
「お分かりいただけたようですね」
憮然とするロイに向かってニッコリ微笑むと、リザは淡々と言い放つ。
 
「リザ!」
悲痛なロイの呼びかけを無視して、リザは後ろ手にスチールの扉のドアノブを掴んだ。
「証拠フィルムの件はお願いいたします。私は恩師が探していると思いますので、式典の準備に戻ります」
リザはしらっとした顔でそれだけ言うと、扉を開いた。
「中尉!」
ロイの縋るような呼びかけも虚しく、リザは踵を返すとさっさと小部屋を出て行ってしまった。
 
パタン
無情にも閉じられた扉の前でがっくりと膝をつき、ロイは元気過ぎる己の分身を持て余し、深い深い溜め息と唸り声を同時に吐き出したのだった。
 
 
 
Fin.
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【後書きの様なもの】
たまには、ヘタレロイ&一枚上手なリザさん。
続きは1年ぶりのR18エロイアイ予定。
久々、えろす〜。