何と言う 試作版(またの名をVer.小悪魔)

※注意
 このお話は、十万回転リクエスト「09.何と言う」の試作ストーリーです。
 その為、前半のアスタリスク(*)までの部分は、「09.何と言う」と全く同じ文章になっております。(後半の展開は、全く違います。)
 その辺りを踏まえた上で、よろしければお読み下さいませ。
 
 
 
 
 
 
 
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「欲しいもの、、、か」
リザの質問に、ロイは僅かに首を傾げ虚空に視線を泳がせた。
「君が選んでくれたものなら、何でも嬉しいのだが」
“誕生日に何が欲しいか”と本人に単刀直入に聞くリザの飾らなさに、ロイは苦笑しながらも、答えにならない答えを返す。
 
事実、過去にリザに貰ったものは、ロイの趣味を踏まえたセンスの良いものがほとんどだった。
現に今、身に着けている銀のカフス・ボタンも、数年前にリザから貰って愛用している品の一つだ。
元々、身の回りの物には無頓着な方だし、誕生日に錬金術の本が欲しいなどと無粋な事を言う気もない。
となると、自然にそういう答えになってしまうのだ。
 
自分の答えにリザが不服そうな顔をしているのに気付き、ロイは我ながら能のない答えだったと笑って付け加える。
「いや、、、そうだな。こうして君とゆっくり過ごせれば、それだけでいい」
そう言うと、ロイはぬるくなってしまった紅茶を一息に飲み干した。
 
ロイの返事に拍子抜けしたらしいリザは、副官の顔をして言った。
「しばらく同じ日に休みは取れませんよ?大佐」
プライベートでも大佐呼ばわりの上、そのスケジュールを読み上げるような口調は止めて欲しいのだが。
いつもの事ながらそう思い、ロイは穏やかに答える。
「そんなことは知っている。別に今日のように君を非番にして、私が早めに仕事を切り上げてくれば良いではないか」
「それでは普段と変わりません」
リザは不満げにそう言うと、ロイのカップを取るとキッチンへと姿を消した。
 
リザが熱い紅茶を持って戻ってくるのを待って、ロイは更に言う。
「それにだな。もういい加減、誕生日が来たからと言ってめでたい歳でもあるまい」
「まぁ、四捨五入すれば三十路でいらっしゃいますからね」
カップを受け取りながら可愛げのない科白をロイが付け加えると、リザは更に可愛くない返事を返してくる。
 
流石にロイがショックを受けた顔をするのを見て、リザはくすりと笑って反論した。
「でもそう仰って、私の誕生日にはいつも贈り物を下さるじゃないですか」
「君はまだ四捨五入しても、三十路ではないからな」
そう拗ねてみせて、ロイは形勢を立て直す。
「私が贈りたいから、贈るんだ。好きにさせておけ。まぁ、贈ったところで使ってもらえないのだがね」
ニヤリと笑うロイに、リザは更に反論してくる。
「お気持ちは有り難いのですが、大佐の下さるものは余りに華美に過ぎます」
 
確かにリザの言い分はもっともだった。
これだけの美人に地味な格好をさせておくのは勿体無いと常々考えているロイは、リザに似合いそうな、きらびやかな衣装やアクセサリーや様々なものを贈っているのだ。
身に付けては貰えないのは分かっている。それらがリザの趣味とはかけ離れている事は、百も承知なのだから。
だから、それらと共に仕事中も付けられるシンプルなピアスを贈ってバランスを取っている。
言わば、全くのロイの自己満足なのだ。
 
その時、ロイの悪戯心がふと頭をもたげる。
「では、こうしよう。君がいつも一蹴する私のリクエストを何か一つでも良いから、叶えて貰おうか」
リザは露骨に嫌そうな顔をした。
 
「何でも構わない。ミニスカートを履いてくれても良いし、サボリを1日見逃してくれても良い」
「公私混同は、お止め下さい」
「去年贈ったベビードールを着てくれても構わないぞ?」
「変態ですか」
タルトタタンのホール食いはどうだ」
「成人病になりたいのでしたら」
 
呆れ顔のリザは、わざとらしく溜め息をついてみせる。
「大佐にお伺いした私が莫迦でした。忘れて下さい」
「ははは、期待しているよ」
リザの返事を無視して、ロイは機嫌良く笑って2杯目の紅茶を飲み干したのだった。
 
       *
 
結局、ロイの誕生日は、当初のささやかな希望すら叶えられなかった。
当日の午後、銀行強盗の立て籠もりが発生したのだ。
事件は膠着し、終業時刻を過ぎても何の進展もみられなかった。
 
「全く、とんだ誕生日だ」
ブツブツとボヤくロイを見て、ハボックが笑う。
「大佐ぁ、偶には男同士で過ごすムサい誕生日もオツなもんっすよ」
「うるさい、燃やすぞ」
「お〜、怖。ですから、さっさと突入しちまいましょうよ」
実動部隊のハボックは、好戦的に笑う。
「逸(はや)るな、待て。ちゃんと暴れさせてやるから」
「へ〜い」
ハボックの後ろで彼の部下が、一緒になって笑っている。
緊迫した現場に気負いが入り過ぎないのは、悪くない。
ロイは状況を見ながら、本部に戻ろうとした。
 
その時、街角の電話ボックスがロイの目に入った。
多分、事件で遅くなっているのは分かってはいるだろうが、一応リザに連絡しておくか。
そう考えてロイは、ポケットから小銭をとりだした。
ジャラジャラと手の中で小銭を遊ばせながら、ロイはかけなれた番号を回す。
呼び出し音が鳴り、3コールもしないうちにカチャリと受話器が取り上げられた。
 
『はい』
『私だ』
いつも通りの素っ気ないやり取り。
次いで放たれたリザの台詞は、更に愛想の欠片もないものだった。
『作戦中に指揮官が現場を離れて、そんな所で油を売っていて良いのですか』
 
やはり、ラジオのニュースで聞いていたのだろう。面倒な説明が要らないのは、ありがたい。
いつもながらの有能な副官ぶりに、ロイは表情を緩める。
『今は膠着状態で何ともならん。このまま行くと、日付が変わるまで動けん可能性もある』
懐の銀時計を開いてみると、時刻はもうすぐ23時を回ろうとしていた。今日中に解決をみるのは、かなり難しそうだった。
 
『仕方ありませんね。強攻策で何かあっては、元も子もありませんから』
『そうだな、すまない』
受話器の向こうから返事が来るまでに、ほんの少しの間があった。
『お気になさらないで下さい』
きっとリザは、ロイの為に料理やプレゼントを用意して待っていてくれたのだろうに。
ロイは申し訳ない思いで、胸が痛んだ。
ところが、そんなロイの耳に思いがけないリザの言葉が飛び込んできた。
 
『では、折角着ましたが、これは脱いでしまいましょう』
『は?』
『いえ、先日大佐が“リクエストを何か一つ叶えて欲しい”と仰いましたでしょう?』
『ああ、言ったが。。。』
何やら胸騒ぎがして、ロイはゴクリと喉を鳴らした。
 
『あの時ミニスカートを、と仰っていたので、昨年の誕生日にいただいたワンピースを着てみたのですが』
『なにぃぃぃぃ!!!』
 
思わずロイは受話器を持ったまま、大声で叫ぶ。
キーンと音がして、電話の向こうでリザが抗議しているのが聞こえた。
『大佐、電話口で叫ばないで下さい!耳が痛いです!』
『いや。それより、リザ。本当に着てくれたのか?』
『こんな事で喜んで下さるのでしたら、と思いまして。しかし、本当に短いですね、このスカート。全く、、、』
溜め息混じりのリザの台詞を遮って、ロイは勢い込んで聞く。
『いやいやいやいや、そんな事はどうでもいい。一緒に入っていたガータベルトは?』
『つけています。でも、帰っていらっしゃらないのでしたら、もう脱ぎます』
『いや、待て。待ってくれ、リザ』
ロイはもう必死だった。
 
『今日中に片付けて帰る。だから、だから、そのまま待っていてくれ!』
この機会を逃せば、こんなチャンスはもう二度とないのは分かりきった事であった。
リザのどんな気まぐれか分からないが、あの肩周りにボアをあしらった、清楚な白のミニのワンピースを着てくれたのだ。
ロイは一気に色々な所が元気になる。
 
『仕方ありませんね、日付が変わるまで待ちます。それ以降は、、』
『分かった!分かったから!必ず帰る!』
ロイは叫ぶように言うと、リザの返事も聞かず一方的に電話を切り、現場へ風のように走って戻った。
 
「ハボック、どこだ!」
「yes,sir」
のんびり煙草を吸いながら立ち上がった部下に、ロイは厳しい表情で告げる。
「突入するぞ」
「はい?」
「一個中隊を率いて、お前は私と正面からだ。裏はブレダに固めさせておけ」
「大佐、さっき“待て”と」
「状況が変わった。行けるか?」
「i,sir!」
ロイの剣幕に、ハボックは跳ね上がって部隊をまとめにかかる。
 
「急げ!」
そう言って表情をキリリと引き締め、錬成陣の記された手袋を装着する指揮官の姿は、誰が見ても頼もしいものだった。
「総員配置につけ!」
闇に潜む戦闘員に向かい、ロイは不敵な顔でニヤリと笑って言った。
「待っていろ、今夜の火力はちょっとスゴいぞ」
その言葉の真の意味を知らず、ハボック達は発奮し、闘志を滲ませる。
 
“後30分で片付けて、必ず帰る!”
ロイは銀時計を握りしめ、心に硬く誓う。
 
“待っていろ、ミニスカート”
呪文のように腹の中でそう唱え、ロイは先陣を切って敵地へと乗り込んでいった。
 
 
 
Fin.

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【後書きの様なもの】
えと、こちらはお持ち帰り不可でございます。。。ってか、人様に差し上げられるようなものではありません、すみません。(笑)
 
『リザさんの言動に思いっきり慌てさせられるロイ』というリクエストに、先にこれが出来たのですが、「『発熱』のような」というお言葉があったのをハッと思い出し、慌てて進路変更した次第です。ディテールや科白に共通する点は多いですが、こちらだとエロバカ大佐万歳になってしまいます。(笑)
莫迦な増田も愛おしいのですけれど。(にっこり)