2009-01-01から1年間の記事一覧

SSS集 2

Rouge another 「ほら、リザ。こっちを向いて口を開ける」 ロイにそう促がされ、リザは言われるままに口を開いた。ロイは左手に持った口紅のキャップをその形のいい唇で無造作に銜えて開けると、右手の薬指の腹に深紅の色を取りリザの唇の上にのせていく。 …

Chocolate Bar

今日も相変わらずの残業だった。時刻はすでに十時をまわっており、司令部内には夜勤のもの以外は残っている人もほとんどおらず、静まり返っている。ロイの今日中に行うべき仕事の目処が立ったのを確認したリザは帰宅後のことを考えていたが、ふと思い立って…

Topaz

夕食後、ロイがようやく落ち着いて読書でもしようとソファに腰を落ち着けた時、「あ」と、ドアの向こうからリザの小さな叫びが聞こえた。「どうした?」ロイは開いたばかりの本を置くと身軽に立ち上がり、彼女の声のした方へ歩いていく。いつも冷静で滅多な…

Alice Blue

真夜中にふと目が覚める事がある。別に嫌な夢を見ただとか、うっかり昼寝をしてしまっただとか、何か明確な理由があるわけではない。本当にただ深夜に眠りの空白が出来てしまったような、そんな風に目が覚めてしまうことがある。そんな時、リザは自分が世界…

ウォーターリリィのバタフライ

ちゃぷり。音を立てて、池の鯉が跳ねた。穏やかな水面にゆらゆらと同心円の波が広がり、うららかな新緑を映す水面を彩っていく。 ジャブン!音を立てて、池の水が跳ねた。穏やかな水面にざぶさぶと跳ね上がる波が泡立ち、静かな初夏の午後を乱していく。 増…

SSS集

宿酔 「ですから! あれほど着替えてからお休み下さいと申し上げましたでしょう?」 「だから! 少し仮眠をとるだけのつもりだったと言っているだろう!」 くだらない朝の喧嘩の高い声が、二日酔いの頭にキンキンと響く。ロイは苛々しながら酒で焼けた喉に手…

Milktea

夜の静けさが、落ち着いたライトに照らされた部屋を満たしている。ロイは部屋の片隅のカウチに陣取り、取り寄せた論文に目を通していた。肘掛けにゆったりと頬杖をつき、パラリパラリとペーパーをめくるロイの隣りでは、リザが同じように雑誌に目を走らせて…

Lavender

静かな部屋に、ペンを走らせる音だけが響く。 真夜中にはまだ少し早い、新月の夜。 マスタングは師匠に説かれた理論を反芻し、新たな構築式を組み立てていた。 持ち前の集中力を発揮し、師匠の家の客間に籠もって昼間の復習に夢中になっている彼は、組み立て…

OliveDrab

大佐のオーダーは至ってシンプルなものだった。 「死ぬな」絶対に。 「殺すな」可能な限り。 バカバカしいほど甘い、しかし彼の信念のこもったオーダーを、我々は苦笑とともに拝命した。 出世街道をひた走り四十の声を聞く前には将軍職に腰を据えていたであ…

mist over

遠くから、怯えた子犬の鳴き声が聞こえる。 徹夜明けで痛む頭を抱えたリザは、ふらりと執務室を出た。 期日ギリギリまで溜め込まれた上官の書類を片付けるのに結局朝までかかった彼女は、尻を叩いて夜明けまで働かせた上官を仮眠室に送り出し、ようやく一息…

四月ばか 跡地

すみません、そんなタイトルのお話はありません。 エイプリルフールです。 怒んないでやってください…… と言う訳で、今年のおまけSSは書下ろしパラレルでした♪ *********** 【後書きのようなもの】 本年もエイプリルフールに、お付き合い下さって有り難うご…

Pink

久し振りに太陽が顔を出したある日の午後、非番のリザは一人で家中を片付けていた。 ロイがいないと家事がいつもの倍は効率良く片付くのは気のせいではないだろうと、リザは苦笑しながら黙々と洗濯物を干し続ける。 干し終わった洗濯物がベランダにはためく…

Feast Opera

「あ〜。疲れた、疲れた」「まったくだ」「ホントに超過勤務手当、出ますかね?」「ま、大佐の事ですから、言った事はやって下さるでしょう」早々に控え室を退散した男達は、口々に好き勝手を喋りながら劇場の廊下を歩いて行く。元々緩めていた襟元のタイを…

Rouge

コツコツと性急にドアをノックする音がする。付けかけていたピアスを手の中に握りしめ、リザはカツカツとヒールの踵を鳴らしながら玄関へと向かった。着慣れない身体のラインを強調するタイトなドレスのせいで動きにくい事この上ないと、リザは不満顔を隠さ…

Orange

1305(ヒトサンマルゴ)、そのトラブルは起こった。 焔の錬金術師と呼ばれる一人の男が、イーストシティからセントラルに赴任した数日後のことだった。 トラブル、と言っても大した事ではない。 ある会議室で彼と別の佐官の出した二件の使用申請がオーバーブ…

One Drop of Magic

修行の合間の夜食を漁ろうとマスタングは鼻歌を歌いながら、勝手知ったる師匠の家のキッチンの扉に手をかけた。 今日は師匠の家に泊まらせてもらったので、思う存分錬金術に没頭出来る。 ご機嫌なマスタングは扉を開けた瞬間、目の前の光景に吃驚する。 なん…

分水嶺

笑わない女だな。 彼女の第一印象は、その一言に尽きた。別にお高くとまっているとか、表情に乏しいだとかいうのではない。ただ文字通り、笑った顔を見たことがなかった。多くの女を見てきた増田の目からしてもかなりの美人の部類に入る彼女に興味を持てない…

Slit Opera

「案外、早く片が付きましたね」「そりゃぁ、俺たちが有能だからな」そんな軽口を叩きながら、フュリーとブレダは控え室の扉を開ける。開演前に全員が集まっていたその部屋には、既にファルマンと彼らの上官ロイ・マスタングの姿があった。一幕が終わり幕間…

Bullet Opera

「これで丁度ワシの五〇勝ね。マスタング君、キミ、スジは悪くないけど詰めが甘い」 黒のポーンで白のビショップをカツンと倒し、東方司令部の最高司令官・グラマン中将はタヌキのような顔で笑った。 その向かい側で、己の手を読みキングの逃げ場がないと悟…

00.後書きに変えて

このBlog開設時より細々書き続けて参りました『ロイアイスキーに20のお題』(配布元は閉鎖されました)が、漸くこの度「17.国家錬金術師」の完結をもって完成致しました。 記念にちょっと各話簡易解説(書いた順)と阿呆な徒然など。お暇がありましたなら、…

三十万回転御礼企画アンケート結果です

どうも、辺境Blog「Invierno Azul」へお運びいただき、ありがとうございます。 おかげ様で、リロードどころか頁移動で回るなんちゃってカウンターが30万回転いたしました。年越すと思ってたのに、本当に吃驚です。ま、暮れの私の更新頻度が異常だったせいも…

dawn purple

午前5時。 いつもなら眠っている夜と朝の境界の時間、小さな灯火のともる部屋でリザは冷えた手を擦りながら時計に目をやった。 窓の外に広がる冬の闇は重く、時計の秒針さえ凍り付いてその動きを鈍くしているのかと思う程だった。 と、その時。 カツン、と窓…