SSS集 2

  Rouge another



「ほら、リザ。こっちを向いて口を開ける」
 ロイにそう促がされ、リザは言われるままに口を開いた。ロイは左手に持った口紅のキャップをその形のいい唇で無造作に銜えて開けると、右手の薬指の腹に深紅の色を取りリザの唇の上にのせていく。
 くすぐったいような面映い想いで、リザは男の顔を見る。吃驚するほど真剣な顔でリザに化粧を施す彼の唇は、きっと後でこのルージュと同じ色に染まるのだろう。リザは半分開いた誘うような男の唇に惑わされ、そんなことを考える。
「出来た」
 そう言って満足げにパチリとルージュの蓋を閉じたロイは不意に表情を曇らせ、しまったなと呟いた。
「口紅を塗る前にキスをするのを忘れた」
 そう言って男は悪戯な表情で、先程までリザの唇に触れていた仄かに紅の色を残した己の薬指に口付け、リザを赤面させたのだった。
 
(Rouge原形 攻めタングではなく気障タング)
 
  空耳と

 電話のベルが鳴った気がした。勿論、空耳であることは自分でも分かっている。まるで、定時報告のように掛かってきていた電話がない。それだけのことが、恐ろしいほどの空白と永遠に続く友の不在をロイに突きつける。
 あれだけ鬱陶しいと思っていた親バカ自慢が、今となっては聞きたくて仕方がない。そんな自分にロイは苦笑して、己のデスクに向き直る。
 その時、不意に彼の目の前に湯気の上がる珈琲カップが差し出された。驚いたロイが目線を上げると、哀しげに眉根を下げたリザが小さなトレイを持って立っていた。
「そろそろ休憩のお時間かと思いまして」
 そう言って彼女は、コトリとカップを机上に置く。
 ああ、そうだった。いつもヤツの電話を取り次いでいたのは彼女だったのだ。掛かってくるはずのない電話を待っていたのは、自分だけではなかった。そう思い、ロイは熱い珈琲を口に運ぶ。
 心の空白にリザが淹れてくれた温かな液体を流し込むことで、少しだけその隙間をを埋められる気がして、彼はそっと瞳を閉じた。
 
(ヒューズ追悼)
 
  Team? or Family?

 己の持ち場に向かおうと踵を返したリザは、ふと思い出したように立ち止まって振り向いた。
「ハボック少尉」
「I,Mam」
「駄目だと思ったら、大佐の襟首ひっ掴んで逃げてちょうだい」
「Yes,Mam!」
 当然のことのようにサラリと言ってのけるリザに、ハボックはくわえ煙草を揺らしてニヤリと笑って敬礼で返す。
「おい! ハボックお前どっちが上官だと思っている!」
 憤然と文句を言うロイを歯牙にもかけず、リザはさっさと彼らに背を向け、先に行ったレベッカを追いかけた。追いついてきたリザを見て、レベッカはたまらないといった風にクスクスと笑って言った。
「アンタんとこってさ、軍のチームって言うよりファミリーって感じよね、マフィアの」
「もう、レベッカったら莫迦は止して。ほら、さっさと行くわよ」
 そう言いながらリザは男の副官という顔を消し、ただのスナイパーの顔になると現場へと足を早めたのだった。
 
(オフ本pp没ネタその1 要はこんな活劇シーンがあるという事です)
 
  Wスナイパー

 フィールドスコープをのぞくレベッカは、愉快そうな口調でリザに報告する。
「あんたの男、先頭きって走ってるわよ」
「止めてよ、その『あんたの男』って言うの。『あんたのボス』くらいにしてちょうだい」
「ボスっていうか、ドンよね。マスタング・ファミリーなんてマフィアみたいで面白いじゃない」
 レベッカは他人事だと言わんばかりに、ゲラゲラと笑った。リザは澄ました顔で、それに答える。
「じゃ、スナイパーが必要になったら雇ってあげるわ」
 レベッカは笑いすぎで目尻に滲んだ涙を、指先で拭った。
「今より高給くれるなら、考えてあげてもいいわ。それにしても、こんな美人スナイパーが二人もいる贅沢なマフィアってないわよ?」
 二人は無事に作戦が終わった安堵の中、くだらないやり取りにクスクスと女学生のように笑いながら、それぞれの銃を分解し片づけ始めた。
 
(オフ本pp没ネタその2 よっぽどマフィア言わせたかったらしい……)
 
  太腿

「だからロングスカートのスリットというものは、その位置が重要なんだ。斜め前に入ったスリットというのは、セクシーに見えて意外に腿の前面しか見えず、面白味が少ない。後背面は、膝裏が見えるという事がポイントだが、やはり前面中央に入ったスリットが最も素晴らしい。歩いた時に内腿のチラリズムがあることは最大の……」
 リザの新しいスカートを見て、太腿フェチとして訳の分からぬ主張を始めたロイをねめつけ、リザはガツリと膝蹴りを彼の鳩尾に喰らわせた。腹を押さえうずくまるロイに、リザはにっこりと笑って言い放つ。
「ロングスカートのスリットというものは、こういう時によく膝が上がるように入っているのです。大佐、お分かりになりまして?」
「……ああ、身を持って」
「結構なことです」
 リザは大きな溜め息をつくと、どうしようもない上官をおいてさっさと歩きだした。
 
(ヘンタイサ。当Blogには希少種(笑))