Twitter Nobel log 42

2051.
ふしだら淫ら私の身体。触れたらそばから蕩けてたわわ。さながら焔(ほむら)の貴方の手から、ひたすら貪る夜はすがらに。

2052.
ずっと君とは過去ばかり見てきた。これからふたり未来を見ていいのかと少し面映ゆく思う。どちらにしても向かう眼差しの先が同じであることを信じていいかな。そう言えば君は何を今更と笑うのだろう。今までも、これからも。

2053.
研究に関連したことなら些末なデータまで覚えているくせに、自分のお腹が空いていることは忘れてしまう。そんな男の食生活を守ることは、敵の弾丸から彼を守ることより難しい。

2054.
拳にものを言わせて照れ隠しをするのは女性の特権。君の華麗な鳩尾への一撃だって文句も言わずに受け止めよう。鍛えたシックスパックの用とが時々迷子になるくらい、どうってことない。耳まで紅くなった君のそんな顔を毎度見せられてはね。

2055.
お前が眉間にシワを刻む理由が戦場の焔を見下ろす為ではなく、愛しい女に贈るピアスを悩む為に刻まれることに安堵する。お前の悪友として、彼女にそれを受け取り拒否されて眉間にシワを刻んだ時のアフターケアに酒くらいは付き合ってやるから、まぁ、とりあえず行ってこい。

2056.
希望を分かち合うより、絶望を分かり合う。飛べない翼は、身を寄せ合う為に。私たちはそうやって生きてきた。

2057.
嫉妬という感情を知らない。貴方がどんな女と一緒に過ごそうと、必ず私の元に帰ってくると知っている。それを思い込みと笑われても、私にはそれが太陽が東から昇るのと同じくらいに当たり前のことなのだからどうしようもない。私の欠けた感情。

2058.
それを歪だと思うことも誉れだと思うことも、どちらも私には真実。君の信頼はあまりに重い。だが、それを背中に負うことも私の務めであり、枷であり、悦びであることもまた真実なのだ。

2059.
人は死の瞬間、体重が21g減るというレポートがあるのだと貴方は言う。魂の重さが21gというのなら、貴方を失う時、私の体重はきっと21g減るのだろう。他愛もない蘊蓄に耳を傾けながら、埒もなくそんなことを考える私がいる。

2060.
若い時に一緒に出来なかったことをしよう。のんびり当てもなく散歩したり、ただ空を眺めたり、パン屋に行く為に早起きをしよう。君はスケジュール帳とにらめっこをする必要も、ましてや銃を携帯する必要もない。私の手袋は防寒の為だけに存在し、空を染める赤は夕焼けの色だけ。そんな未来を夢見る。

2061.
君の存在を当たり前にしない為の私の小さな儀式。傍らに君が存在する奇跡に感謝する日々の祈り。些細なことにも告げる。「ありがとう」

2062.
貴方の家のどこに何があるかを貴方よりも知っている。無秩序の中に存在する秩序に呆れながら散らかった部屋に足の踏み場を作る。使われない台所はいつしか私の領分になった。本棚にかけられた脚立の上から見下ろす貴方の部屋の間取りに、私は着々と進む領土侵攻を眺めクスリと笑った。

2063.
台所に立つ理由が食に無頓着な上官の健康管理の為、というのは嘘ではない。だが、それ以上に隠した仄暗い悦びがあることもまた事実。私の手が作り出すものが、彼の血となり肉となる。貴方を構成する全てを私の手が作り出す。そんな征服欲に血を踊らせながら、私は熱い鉄板で肉を焼く。

2064.
君が私より年下で良かった。君が私のこの世に残したものを君が見届けてくれるなら、こんな安心なことはないのだから。君の泣き顔は見たくはないのだが、これも自然の摂理なら仕方のないことと諦めてくれ。何しろ私は君より随分と早く生まれてしまったのだから。

2065.
無意識に伸ばされた指先が、私の髪を弄ぶ。貴方の指先で回る毛先と同じ速度で私の心もくるくる回る。ああ、眩暈がするわ。

2066.
眠る貴方の無精髭の頬に触れる。指先に刺さる痛み、それは小さな棘のようで、私にとっての貴方の存在を暗示する。刺さって抜けない棘は、いつしか私の人生の一部になった。ザリザリと指先でその頬を撫で上げる。この刺激が病みつきになったのはいつからだっただろうと思いながら。

2067.
決意も新たに交わす「おはよう」の挨拶を新年の祝辞の代わりに、敢えていつも通りを過ごす。少しだけの特別に珈琲をいつもより丁寧に淹れる。一年の区切りの日も、二人で過ごす日常の延長であることが私には嬉しい。

2068.
すまないと笑う貴方が満ち足りた顔をしているから、私は何も言えなくなった。最期までズルい男だと思いながら、最後までそれを受け入れる覚悟を貴方へと贈る。それが私の想いの全て。

2069.
「今夜は帰しませんよ」
「もう少し色気のある状況で言ってもらいたいものだな」
莫迦なことを」
深夜の執務室で交わされる会話。机上に残された書類を数えながら、言葉の裏に隠されたものを探る。机上で触れた指先が絡むまで、あと五秒。言葉が消えた部屋に残るのは、吐息か溜め息か。

2070.
貴方は太陽のように人の中心にいて光を振りまくようだと言えば、君は月のように静かに君臨するようだと返された。昼の空に浮かぶものと夜の空に浮かぶものは同時に存在出来ないのだと微かに笑えば、青天に月を照らし出すのも太陽の仕事だと貴方はうそぶく。苦笑する私は、きっと真昼の月

2071.
「貴方には幸せになって頂きたいのです」
私がそう言うと、男は困ったように笑った。
「私の幸福は君が幸せであることなんだが」
そう言って言葉を切った男は、更に困った顔で言う。
「そうなると二人で幸せになるしかないか」
彼の困った笑顔が更に深くなり、それを見た私は確かに幸福を覚えた。

2072.
贖罪は確かに大事だ。だが、それだけに視野を狭くするのも考えものだ。
「いいか? 大事なことだから一回しか言わないからな」
俺は頭の堅い悪友とその彼女に言い放つ。
「それはそれ、これはこれ、だ」
こんな簡単なことなんだ。幸福になれ莫迦共よ。

2073.
私たちが何かを始めるには、過去を終わらせなければならない。いろいろなことを同時進行出来るほどには、貴方も私も器用ではないのだ。だから、青い軍服の背中を見つめ、私は今日も貴方の背を守る。私たちの明日を守る為に。

2074.
声なき声を聞き取る為に、そっと肩を寄せる。君の小さな頭が遠慮がちに私の肩章に触れた。僅かな重みさえ感じないその行為に君を受け止める。夜の中、ただ無言で寄り添う。私に出来るのはその程度のこと。

2075.
親友に『もしも軍人になっていなかったら』と聞かれ、返答に困る。今の私を形作る総てが、この道を示していたから。せめてあの人に出逢わなければ他の道もあったかもしれないが、あの人のいない人生なんて想像さえしたくないから、やはり私にはこれ以外の選択肢はあり得ないと思い知る。

2076.
手紙の日付は過去のものだった。本の間に挟まれたまま、出されなかった手紙。見間違えるはずのない筆跡が、宛名に私を指名する。届くはずの無かった手紙が今、時を超え私の手の中にある。読むべきか読まざるべきか逡巡し、私は手紙を本の間に戻した。過去ではなく、現在の貴方を私は必要とする。

2077.
見ないふりをしている方が生き易いこともあるのに、貴方は莫迦正直に真正面から真実を見つめようとする。過去も国も民も贖罪も。弟子としての責任も錬金術師としての生き様も。そして。私の想いも。もっと楽な生き方もあるというのに、貴方は。

2078.
眠れない夜、君に特別な飲み物を作ってあげよう。苦くて甘い禁断の飲み物。ダークなカカオの香りの誘惑、深夜に考えるも恐ろしいカロリー。真夜中の誘惑、ショコラ・ショー。思い出すのはきっと我々の子供の頃の眠れぬ夜。幼い君に幾度も作った。懐かしさと想いが溢れてしまう、真夜中の禁断の飲み物。

2079.
恋とはどんなものか知らないまま大人になった。ずっと貴方は家族のように我が家に存在し、私を妹のように扱ったから。それがどれほど残酷な行為だったかを大人になった今、私は思い知る。恋とはこんな身近に、気付かないほど当たり前に存在していた。気付かぬままこんな歳になってしまったなんて。

2080.
足りないのは覚悟だけだった。貴方はこの背も、この引き金も、あの父も、あの内乱も含めて私を受け止める覚悟を見せてくれていたというのに。私に必要なのは、その胸にこの身を預ける覚悟だけだった。

2081.
手を繋いで、助走をつけて、跳ぶ。子供みたいだと呆れ顔の君の足が、うずうずと次のステップを待っていることを私は知っている。闇に隠れ、子供の頃のようにただ駆ける。意味なんて無い、息を切らせ莫迦みたいに夜に戯れる。昼間の様々を忘れる時間が時に我々には必要なんだ。

2082.
暗い家の中にいた私を救ってくれたあの人は、私だけの英雄から国の英雄になってしまった。それは誇らしくあると同時に哀しくもあり、私は揺れる二律背反の理由から目を逸らすべく、ラジオのボリュームを静かに絞る。あの人は置いていったラジオからですら、私をこうして揺らす。

2083.
部下の前では常に自信家でワンマンな上官の顔を作る貴方をベッドの中で崩していく。苦しげな眉間の皺、奥歯で噛み殺す声、快楽と苦さを表す顔は紙一重に似ている。夜の褥の中に弱い貴方を吐き出させる、明日も傲岸不遜な顔で皆の前に立てるように。それもまた私の特権と自負し、私は二重の快楽に酔う。

2084.
指を噛む。貴方の指を噛む。約束を守らずすぐに負傷する悪い男の指を噛む。
指を噛む。私の指を噛む。約束を守れず貴方を守れなかった自分の指を噛む。
そんな私を笑い、貴方はそっと小指の先に口付けをくれる。ゆっくりと指先から上へと這う唇に、私は甘い声を堪える為にもう一度指を噛む。

2085.
彼女には白馬に乗った英雄なんて必要ない。彼の人は戦場で夢を叶えているだろう。彼女は王子様を待つお姫様じゃない。だから彼女は自分の足でこの家を出る。勇ましく、潔く。彼女はまだ知らない、彼女を見るであろう英雄の暗い眼差しを。彼女はまだ知らない、お伽話の結末は残酷なものであることを。

2086.
其を蛮勇と汝は言う。ならば問う。果たして戦場に理非は在るや無しや。其に在るは狂気。人殺しが英雄と呼ばるる世界にて正邪曲直を求むる滑稽。なれば吾はただ吾の信ずる道を往くのみ。

2087.
多分、あの時私は己のよすがとなることものを失った。それは父の遺言であったり、共感した青臭い夢であったり、小さな初恋であったり、様々な有形無形の私を縛り付けるものでもあった。荒野に立つ彼を見、私は思う。失ったのではなく、捨てたのだと思えばいいと。本当に大事なものはたった一人なのだ。

2088.
もう一度私を抱く勇気がありますか? あの頃の何も知らない少女だった私ではない、言葉の裏を読むことも駆け引きをすることも知った女である私を、貴方はもう一度真正面から見つめ抱く勇気をお持ちですか? 貴方を糾弾する瞳を持つ女を抱くことが出来ますか?

2089.
時折、君と共にいる意味を考える。これは私のエゴなのではないかと。君を手放し野に放ち、背を向けるのが私の義務なのではないかと。君には告げられぬ葛藤を胸に抱き、この腕に君を抱く矛盾をひとり嗤う。

2090.
人生なんて山と谷で出来ていて、概ね谷の方が多いものなのだ。だったらずっと共に同じ人生の谷を渡り続けた貴方と一緒に生きたい。美味しいところだけ一緒に生きようなんて男、信用出来ないでしょう?

2091.
言葉だけもらっても、何の意味もないわ。それよりも日々受け取る眼差しの熱量の方が、余程私を滾らせる。
そんな貴方が相手だから、言葉には出さない。貴方だって私のこの眼差しの意味を受け取っていることを、私は知っている。
雄弁なのは瞳だけ。

2092.
ん、と鼻の奥で唸るような音を立てた男は無表情にそっぽを向いた。しかし私に向けられた広い肩は、何でも受け止めると彼の代わりに私に言っていた。私は空を見上げ、俯き、そして静かに観念し、彼の肩口に額をつけた。やはり言葉はなかった。ただ、大きく無骨な手が私の髪をくしゃりとかきまぜた。

2093.
女の前ではヘラヘラと笑っている伊達男の俯いた頭を撫でる特権を私は持っている。それで十分。

2094.
それでも、彼は笑った。満身創痍で痛みに苛まれているであろうこの状況で、それでも笑ってみせる男だからこそ、私はきちんと副官の顔で彼の傍らに立つ。無表情を貫くことが、私の彼への答礼。

2095.
もしも記憶に封をされたとしても、力尽くで貴方のことは思い出すくらいの気構えは持っているので、いろいろ諦めてください。手放されてなんてやりませんから。

2096.
跪いた貴方の指先が太腿を這った。そっと吐き出した細い息を聞き咎め、貴方は微かに笑う。なのに、その指が奪うのはガーターベルトから外したストッキングだけ。貴方はそれでご満足かもしれないけれど、火を点けられた私は堪ったものではない。責任の在処を求め、私は裸足の爪先を貴方へと延ばす。

2097.
伸ばした指先に噛み付かれた。行儀の悪い犬だと笑えば、咥えた指先から手袋を奪われる。白い生地が君の紅の色に染まり、君はご満悦で喉を鳴らす。代替品で満足するはしたない狗の躾をし直す為に、私は優しく白いおとがいを掴む。

2098.
これ以上彼女を哀しませない為に今日も嘘を準備する。真実を見通す鷹の目が騙されたふりをしていることは別っている。それでも、私は常備した嘘を重ね、二人の真実を見ないふりで生きていく。青い軍服が全てを覆い隠している内は。

2099.
こんな時間から夕食を摂るのもどうかと考え珈琲だけで済ませようと思っていたのに、目の前であんまりにも美味しそうに貴方がサンドイッチを頬張るものだから、ついうっかり私まで手を出してしまったじゃないですか。ええ、作ったのは私ですけれど、私ですけれど。貴方のせいです、どうしてくれますか!

2100.
理不尽に叱られ、サンドイッチが五切れしか喉を通らない。というか、残りは君に取られた。やるせない。

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