Twitter Nobel log 41

2001.
私が怪我をすると怒るくせに、自分の命は省みない。相手を守って怪我をするなら本望だと思っているが、相手が同じことをすることは許せない。似たもの同士の逆しまの鏡。映っているのは、私と同じかおをした恋人。

2002.
飴玉を強請る程の気安さで、私を強請ればいい。冬の毛布のように穏やかで暖かな眠りでも、疲れ果て気を失うように引きずり込まれる眠りでも、君の望む夜をあげよう。悪夢を忘れる夜を。

2003.
どんな刃からも、どんな弾丸からも、貴方を守る。貴方を傷付けて良いのは、私だけ。

2004.
真夜中にお腹が空いたと台所を漁る貴方の姿は、十年前と変わらない。台所のあり合わせで作れるものをと思う私の手は、十年前と変わらぬパンケーキを焼く。深夜に甘いお菓子をこんなおじさんに作ってあげるのも可笑しな話だけれど、変わらない笑顔がそこにあるから。理由はその程度で構わないの。

2005.
童顔の頬に生えた髭が、あどけなくさえ見える寝顔の裏にある、貴方の本性を教えてくれる。手を出したら戻れない。そう分かっているのに、私の指先は仮眠中の貴方の頬に触れてしまう。ザリザリと指先を引っ掻く棘のような無精髭。痛みを伴うと分かっているのに味わってしまう莫迦な女、それが私。

2006.
なんだかんだ言ったところで、結局のところ思考は似ているのだから、次の貴方の一手が分かってしまう。貴方がとる無謀な行動は、私の自制の裏返し。だから、私は文句を言いつつも、貴方の無謀に付き合ってしまうのだ。つくづく困ったものだと思う。貴方も、私も。

2007.
なんだかんだ言ったところで、結局のところ思考は似ているのだから、次の貴方の一手が分かってしまう。封じられた唇、開かれた襟元、次に貴方の指先が触れる場所まで分かっているのに。どうして私の身体は逃げ出さないのだろう。貴方の与えるから。女である私から。

2008.
懺悔をして赦されることを望まず、罪を腹に抱えたまま修羅の道を征く。そんな男だから、危なっかしくて傍を離れられずにいる。そんな言葉で身を鎧い、貴方を殺すかもしれない弾丸を胸に、私は今日も生きていく。

2009.
君が眠るソファーの背に触れる。「おやすみ」と囁いたり、その髪に触れたりしようものなら、優秀な軍人の君はきっと飛び起きてしまうだろう。だから私は、僅かに君が心許して眠るこの時を守るべく、ただ静かにこの場を立ち去ろう。足音を殺して告げる、おやすみ。

2010.
別に貴方の一番になれなくていい。ただ、何となくで良いから、忘れないでいてくれたらいい。そう自分に言い聞かせて、旅立つ人を見送る冬の朝。

2011.
殺した声と吐息の狭間、首に巻き付いた手が私の髪に指を埋める。私の耳のふちをそっと撫でる指先は、いつだって感情を見せない君のおねだりの合図。褥の中、君のほしがるものは全てあげよう。闇が全てを隠すから、今だけは。

2012.
撃鉄を起こす、指をすりあわせる。発火する。シンクロする二人の動作。
頬に手を添える。首を右に傾ける。シンクロする二人の動作。
苦いも甘いもお手のもの。シンクロする二人の人生を、私達は甘受する。

2013.
貴方を呼ぶ。呼んだのが私だと認識してこちらを振り向く時の、貴方の少し無防備な表情を無意識に見つめる。他の誰の声を聞いた時とも違う貴方の表情は、私を貴方の特別だと思わせる罠。貴方が無意識だからこそ、余計によく効く甘い罠。すっかり当てられてしまった私は、今日も不意打ちに貴方を呼ぶ。

2014.
命果てるまで、なんて軽々しく口に出せるほど平和な人生は送って来なかった。みっともないほど必死に生にしがみつく人生を美しいと思わせる貴方の隣で生きている。だから、最期がくるまで私は眼差しを上げ続ける。

2015.
闇に囁く、手放せないのだと。私が話しかけた相手は闇だから、返事がないのは当たり前。そう自分に言い聞かせた筈が、背中に添えられた小さな手がギュッと私の軍服の裾を掴んだ。それだけで十分だと、私は声なき闇に微かな笑みを送る。

2016.
街角のデリで珈琲を奢り合う程度の仲。
でも、珈琲に幾つ砂糖を入れるのかを知っている。
珈琲を飲んだ後の吐く息が白くなっていく。 重ねる季節を二杯の珈琲が告げる。
それでも、私たちの距離はカップの受け渡しで触れる指先に怯えるまま。

2017.
手袋を装着する瞬間に変わる貴方の眼差し。オンとオフの切り替えは軍服にあると思っているけれど、もっと厳密に貴方が心を切り換える瞬間が、そこにはある。見守るしかない私は、そっと心の撃鉄を起こす。

2018.
秋が来たと君がはしゃぐ。エプロンのポケットにいっぱい詰め込まれたどんぐりが、君と一緒にかちゃかちゃ騒ぐ。部屋を出て、カサカサと落ち葉を踏んで、吹き抜ける冷たい風に首を竦める私を見上げ、小さな君は笑った。そんな夢を見た。懐かしい、今よりも秋が温もりをくれた日々の記憶を。

2019.
貴方の不機嫌の理由が『期待して読んだ本が面白くなかった』なんていう、この平和。空気を読まず、私は少し笑ってしまう。眉間のしわの理由なんて、その程度で十分だ。

2020.
貴方の汗の匂いをしばらく忘れていたのは、冷たい外気と忙しい日常のせい。二人の時間、暖かい室内、指を伸ばせば届く体温。こんなささやかな条件が揃うのに、二週間かかった。部屋の鍵を後ろ手に閉めて、穏やかな笑みに手を伸ばす。かき上げた黒髪のこめかみに滴る汗を予感し、私はそっと目を閉じる。

2021.
誓ったのは、貴方にではなく父にの筈だった。なのに、いつしか父の面影は薄れ、貴方の面差しだけが私を導く標となった。死者の冷たい手を離し、私は暖かな生きている貴方へと手を伸ばす。父の死から十五年目の冬。

2022.
気付けば部屋の片隅で膝を抱えて座っている少女がいる。私は彼女に何もしてあげられない、ただの弟子であるというのに。それでも彼女は私のいる場所が彼女の安らげる場所なのだと言う。世界を救う力があれば、彼女を救うことも出来るのだろうか。漠然とそうではないことを感じながら、私は秘伝を欲す。

2023.
書類の説明を受けている時に、睫毛長いなとぼんやり眺めていたら叱られた。君、書類見てたんじゃなかったのか。

2024.
書類の説明をするだけにしては、近寄りすぎただろうか。近すぎる距離を気にしているのは、私だけなのだろうか。涼しい顔の貴方を叱り、少しだけ火照る頬を隠す。

2025.
誰も立っている者ののいない戦場に独り、夕映えに燃えるシルエット。確認しなくても、あの人だと分かる焔を帯びた影は勝者には見えぬ憂いを帯びている。戦場の雨は荒野にではなくあの人の胸の内に降る。

2026.
君の涙の味をしばらく忘れていたのは、意地っ張りの強がりと忙しい日常のせい。二人の時間、少しのアルコール、指を伸ばせば届く体温。君の緊張を解く条件を揃えるのに、夜までかかった。部屋の鍵を後ろ手に閉め、潤んだ瞳に手を伸ばす。指先に零れる雫を予感し、私はそっと君を抱きしめる。

2027.
遠くで音楽が聞こえる。昔、滅びかけた民族の作った楽器が奏でるもの哀しいメロディ。懐かしいような、愛しいような、不思議と耳に残るその音楽が私たちの足を止めるのは、私たちが守ったと胸を張れる数少ないもののひとつであるから。私たちに笑みを生む、優しい音楽。

2028.
滅び行く街の入り口に独り佇む。気付けば背後に人の気配が立つ。私の時間を邪魔せぬよう、君は声も立てず惨状の跡地を眺む。私の作り出した景色は、今の君を生み出した景色でもある。様々な痛みを胸に仕舞い込み、私はただ目を細め、強い風に吹かれ立つ。離れて立つ君の存在を感じながら。

2029.
自分だけ加害者みたいな顔をするなんて、そんなことは赦さない。私たちは共犯者。罪も、痛みも、分かち合いなさい。

2030.
眠りに落ちる寸前、くっつきそうな瞼を開けて隣にで眠る貴方を見る。穏やかな寝顔に安堵し、深い眠りに落ちゆく瞬間の幸福は、真冬の毛布よりも私を芯から暖めてくれる。

2031.
貴方が世界を敵に回しても、私だけはいつでも味方でいるなんて甘いことは言わない。貴方が世界を敵に回す理由に納得がいかなければ、私は貴方を撃つだろう。貴方に預けられた見定める目。それが私のレーゾンデートル。でも、納得すれば、世界だって何だって相手にする覚悟はある。貴方の為なら。

2032.
冬が嫌いだ。君が、私より毛布を愛する季節が。

2033.
「後悔?」
書類から顔を上げ、ペンを持った手で頬杖をつきながら男はオウム返しに私の言葉を繰り返した。そして、その頬に微かな苦い笑みを浮かべると、呟くように言葉を続けた。
「そんなもの、してばかりに決まっているじゃないか」
私は莫迦な質問をした自分を殴りたくなった。

2034.
だが、そんな私の内心を読んだかのように、男は書類に再びペン先を落としながら言う。
「だからこそ、次は後悔しないように前に進むしかないんだろうが」
まるで、私の頭を撫でるように柔らかな声音が私の鼓膜を撫でた。そして、穏やかな沈黙が再び私たちの間を満たしたのだった。

2035.
スケジュールに半年先の遠征の予定を書き込んで、ふっと半年先も生きているのだろうかと思う。視線を上げ、あの人の背中を見つめ、再び私は未来の日付に視線を落とす。あの背中がある限り、私は未来を信じる生き方を選択する。

2036.
深夜に目が覚めて台所に水を飲みに行ったら、林檎を囓る君の姿があった。ぼんやりと彷徨う視線。無心に動く唇。誰の視線も気にしない、素のままの姿を見つめる。私の領域に君が無防備になる瞬間があることが、自然と私の口元を緩ませる。

2037.
喰われそうだ。
彼はそう思った。彼女の熱は繊細で大胆で、今にも彼自身を食い千切りそうな勢いさえ秘めている。彼は彼女の内と同じくらい熱い吐息を零し、舌なめずりをした。
喰われるのはどちらか、きちんと分からせておく必要があるな。
そう考え、彼は形勢を逆転させる。

2038.
視界がくるりと回った。 彼女は見下ろしていた黒髪が自分の上に落ちるのを眺め、内側を抉る刺激に喘ぎながら微かに笑った。 どうしてこの男は自分が上位にいないと気が済まないのだ。大人しく転がっていれば、天国に連れて行ってやるというものを。 そう考え、彼女は強い刺激に肉体を戦慄かせる。

2039.
私の眠り姫は銃を抱いて眠る姫。起こす勇気のない私は、未だ口付け一つ彼女の唇に落とせずにいる。悪夢から覚ましてやりたいのに、その悪夢の源が己にあることを知る私は、今日もただ眠る彼女の傍らに立つことしか出来ずにいる。二人を包む茨が蜥蜴の尾の様にうねり、私を嘲笑う。

2040.
たぶん、私は一人で生きていける人間だと思う。淡々と地に足つけて、社会的に自立して。でも、あの人と出会ってしまった。魂が依存してしまった。それでも、私は一人で生きていけると言っていいのだろうか。

2041.
背中に君の重みを受け止める。甘えたい時だって、けしてその表情を見せてはくれない君だから、私は黙して君の気が済むまでこの背中を貸すだけ。君が立ち去ったあと少し冷たく感じる背中は、その分君が某かの温もりを得ていった結果だと良いのにと思う。

2042.
君の爪の形が好きだと言うと、君は不審な顔をする。短く摘んで少し歪なその爪に、私が歪めた君の人生を思う。君の美しい部分を愛でることは誰にでも出来る。私だけが愛しく思う、君の身体の部分。

2043.
私は貴方を必要以上に敬いはしない。私は貴方を叱り、足払いをかけ、貴方の愚行を叱る。私は貴方に向けて誓いの言葉を捧げはしない。私は私の意志で生き、私の力で闘い、私自身の願いを叶える。貴方が人間でいられるように。英雄という名の神に崇め奉られてしまわぬように。

2044.
人間の寿命が善行によって決まるなら、私は長生きは望めそうもない。それでも祈りにも似た生への渇望を覚えるのは、この贖罪を途中で終わらせたくはないから。たとえ偽善でもそれで何かが変わるのなら。私にそう思わせる背中が私を傍に置く限り、私は生を渇望する。

2045.
こめかみに銃口を突きつけられるような口づけ。背中も生き様も預けたのだと語る眼差し。言葉にしない君を感じると、男を試されるようで甘い痺れと高揚が背筋を走る。これもまた一つの快楽かと笑い、私は全てを受けとめる。

2046.
副官という立場は、個を主張しないもの。上官の添え物であり、狗と呼ばれ固有名詞さえ認識されないこともある。それでも私がこの地位を誇りに思うのは、彼が唯一私にだけ許す役割だから。誰にも預けられぬものを預かる自負に、私は胸を張る。

2047.
神ではなく君自身に祈る。どうかこの手を離すことがあっても、君が幸福になる道を生きて欲しい。義理も意地も張りすぎると毒になる。その日が来たならば、己の為に生きろ。

2048.
ただ素直に心の欲するままに眼差しを伸ばせば、貴方の背に触れる。触れられぬ手をそっと握りしめれば、影さえ遠く。

2049.
真夜中のチョコレート。甘くて苦くて刹那の多幸感。蕩けて止められない。翌朝になれば後を引く罪悪感に苛まれる。まるで真夜中の貴方。甘くて苦い漆黒の嗜好。

2050.
二人同じ空を見ていた。初めて星座を知った夜の空を。新年を迎える初日の出を。父の死んだ日の星のない闇を。戦場の焔燃ゆる虚空を。雨音に明日を憂う作戦前夜の黒雲を。約束の日の日蝕の闇を。再び射す太陽の光の希望を。懐かしの故郷の上に広がる空を。どんな日も共に同じ空を見てきた、貴方と。

Twitterにて20151020〜20151216)