Twitter Nobel log 30

========= ロイアイの日お題 続き =========

1451.
「君に言っておかなければならないことがあるんだ」「実は、私もなんです」「君のお気に入りのマグカップを割ってしまった」「実は昨夜のお料理に使った缶詰、仔犬の餌だったんです」「……うん、私の負けだ。いろんな意味で」(お題:告白)

1452.
眦に浮かんだ水滴がゆらゆらと揺れて、行き場を無くしたかのように榛の瞳へと戻っていく。それさえ見せてくれなかった過去から比べればずっとマシだと私は嘯き、その水滴にいつか私の指先が触れることを許される日をただ待ち続ける。(お題:水滴)

1453.
貴方のうなじの無防備さに震える。男の人の襟足を見下ろすなんて滅多にないし、高い軍服の襟を寛げる貴方を間近に見ることも珍しい。開襟シャツの余計に外した釦が見せる、貴方の急所。それを掻き斬ることさえ許される私は、空想の八重歯で甘くて辛い貴方を味わう。(お題:開襟)

1454.
さくらんぼの柄を舌で結べる人はキスが上手いという。そんなエロティックな筈の会話が何故だろう、今私の目の前で『舌で柄を結ぶ選手権』が開催されている。彼女が負けず嫌いなことを忘れていた私の失点。今夜はキスすらお預けで、私たちはひたすら甘酸っぱい果実を食べ続ける。(お題:さくらんぼ)

1455.
ガーデニングなんてお上品な言葉が似合わない我が家の庭に、綺麗な白い花が咲く。白くて小さな甘い香りの花が咲く樹をくれたのは、父のお弟子さん。いつかオレンジがなるのだと笑った彼は、今はもういない。ただ今年も白い花が咲き、私の記憶を呼び覚ます。(お題:ガーデニング

========= 以上、ロイアイの日お題 =========

1456.
別にお洒落が嫌いな訳ではない。細いヒールや甘いスカートが、私の想いの邪魔をするのだ。紅いルージュに気付いた貴方に賛辞をもらうより、この手に残る銃の反動さえ気付かれず、密やかに貴方に降り注ぐ敵意を闇に葬れればいい。だから今日も私はアクセサリーの代わりに、ガンホルダーを身に付ける。

1457.
バスタブの泡の中から覗く爪が、淡い紅に彩られている。人に見せぬ場所を飾る無意味を問えば、貴方に見せる為にと答えが返る。そんな小さな特別扱いが嬉しいと、私は泡に浮かぶ足先に服従の口づけを落とす。今だけは、単純で莫迦な男でいさせてくれ。

1458.
単純でも莫迦でも構いませんから、不意打ちに足をつかまないでください、サー。バスルームで溺死はしたくありません。バスタブの底で爪先に感じたものが、致命傷になるところでした……とは流石に言えず、私は泡まみれの顔で貴方にお返しのキスをする。泡での呼吸困難も一緒にお返しする為に。

1459.
沢山のペーパーが私の下敷きになって、貴方が動くたび、私が動くたび、さりさりと悲鳴を上げる。きっと私の背中には、貴方の筆跡の鏡文字が転写されていることだろう。貴方の研究をこの身に刻むのは、昔からの私の特権。私は皮肉な笑みを浮かべ、貴方の黒髪に己の指を絡める。

1460.
軍人がサボっていられるなんて平和の証だと、私の小言に彼は嘯く。屁理屈の中に一片の真理を含ませる彼の手元の新聞に、今日も戦死者の影が踊る。君が気兼ねなく昼寝が出来るくらいになれば良いのだが。呟いて放り出された新聞の重さが、また一つ彼の重責になる瞬間を、私は見つめることしか出来ない。

1461.
貴方は私を「優しい人だ」と言う。貴方の言葉に引き摺られ、私は優しい人になる。貴方は私を「優秀な副官だ」という。だから、私は優秀な副官の顔をする。言葉は言祝ぎ。言葉は呪い。貴方の言葉に私は縛られる。だから、貴方が口に出さないものには私はなれないの。貴方がその眼差しの中で望むものには。

1462.
弾丸込めて、的決めて、君は勝利の女神の如し。唇舐めて、頬染めて、輝く瞳で我を見る。優しく誉めて、手袋はめて、君に続きて我も出ん。攻めて、殺めて、鬼神の如し。覚悟を決めて、想いを秘めて、二人で走る修羅の道。

1463.
背骨を撓めて、抱きしめて、獣の如き夜の中。指先舐めて、耳朶染めて、伏せた瞳の君を見る。舌を絡めて、指を沈めて、言葉も交わさず君の中。攻めて、苛めて、噛みしめる。互いに求めて、嘘で固めて、二人で眠る刹那の夜。

1464.
貴方と私の境界線。例えば階級、上官と部下の一線。例えば過去、父の弟子と師匠の娘の一線。例えば罪、加害者で被害者である者と被害者で加害者である者の一線。例えば欲望、男と女の一線。全ては貴方と私の心が引いたライン。なんの効力も持たぬそれを、私達は未だ踏み越せないでいる。

1465.
あの人の顎の下に剃り残した髭を発見する。休みの日以外には見ることのない短い髭は、意外に強くていつだってチクチクと私の肌を刺す。記憶の中の感覚に、私はそっと胸の内に己の欲望を呟く。ああ、あの髭を掌で思う存分ジョリジョリ撫で回したい……。

1466.
髪を切って、ショートカットは寝癖を直すのが面倒なことを思い出す。貴方の背中を追うだけで必死だった過去から一歩を踏み出して、朝の身支度に時間をとる。まるで貴方に会う為にめかし込んでいるみたいだと笑い、私は毎日会う人の顔を思い浮かべ、毎日世話になったバレッタを引き出しに眠らせた。

1467.
私たちは幸せになることを恐れているのではなく、私たちが心置きなく幸せになる為に、私たちの心が付けた枷を外せる日を追い求めているのだと思う。中途半端で幸せに手を伸ばしたら、私の心が私を傷付けるであろうから。そんな面倒を許し合えるあなたが相手であることが、また私たちの幸せなのだろう。

1468.
私が不要になったならと言うと、要不要で傍に置いていないと叱られた。では何ですか? と問えば、聞くのは野暮だと照れられた。民衆に言葉を尽くすことは上手なくせに、こんな時は口下手になる貴方が愛しくて、私はこの国で一番偉いひとの横顔を眺める。

1469.
五秒で言って下さらないと撃ちますよ。そう言った君は笑っていたが、微かに声は震えていた。ずっと伝えさせてくれなかったくせに、こんな時に狡いひとだと私は笑い、更に君を怒らせる。ねずみ算の天辺に上り詰めた就任のスピーチの間くらいは、君も待ちたまえ。まったく、私が何年待ったと思っている?

1470.
貴方と私の間に様々なしがらみがあって、私達はなかなか互いに手を伸ばせない。そんな時、何も知らない仔犬が私達の間で昼寝を始めたりするものだから、私達は仔犬に手を伸ばし、その延長に互いに触れる。無垢なるものの力に甘え、私達の夜は始まる。

1471.
ここはゴールではなく、出発点。この国の天辺に立った貴方はそう言って笑う。何処に向かう出発点なのですかと問えば、道端で塵のように死んでも構わないと言ったあの日の自分へと、貴方はまた笑う。出発点に還る為の出発点から、私達はまた歩き出す。今度は道を誤らぬように。

1472.
ポーカーフェイスの作り方を伝授して欲しいのだが。私の周りで君ほど常に冷静な人間はいないからね。なに、顔が近過ぎるって? 大丈夫だ、私は気にしない。おや、顔が赤いがどうした? これではポーカーフェイスどころじゃないな。何? ああ、もちろん確信犯だよ。息抜きくらい、付き合いたまえ。

1473.
花を贈ろうとして迷う。ヒマワリほどの派手さは要らず、薔薇ほど自己主張の強さを持たず、アザミの棘ほど嫌味を含まず、シロツメクサほど幼くなく。そう考え気付く。彼女に似合う花を探すことは、彼女を分析することに似ている。潔く凛と咲く、そんな花を私は探す。

1474.
プラットホームに二人立つ。朝靄の駅には人影もなく、貴方と私きりだ。もしも世界に二人きりで、体面も贖罪も克己心も必要なくなって、ただの貴方と私になったら、私は貴方に何を言うだろう。そんな夢想をする私の耳に始発の汽笛が響き、現実に戻った私の唇からはただ今日の出張の行き先が零れた。

1475.
貴方の髪に白いものを見つけ、少し切なくなる。貴方の地位に応じた重責や心労だとか、先に老いる貴方に置いていかれる感覚だとか、分かち合えぬものをそんなところに見つけてしまう。『ついてくるか?』といつまで貴方は言ってくれるのだろう。そんな感傷を紛らわそうと、私は無言白い毛を引っこ抜く。

1476.
「ハゲと総白髪とどっちがいいかね」「貴方ならどちらでもお似合いになられるかと。サー」「ならば、私の頭も自然に任せてくれないか?」「グルーミングです」「君のグルーミングは親愛の表現にしては、多分に刺激的過ぎる」「ですが」「あのね。痛いから、止めなさい」「あ、すみません」

1477.
演習の後のビールが美味いと男達が騒ぐ。私はその一員として貴方の傍に侍るため、苦い麦酒を飲み干す。喉を焼くアルコールが貴方との距離を縮めることだけが酒のおいしさだと理解し、可愛らしいカクテルの名を覚える代わりに酒豪の名を得た私は、未だその本当の味を理解出来ないでいる。

1478.
あまりに長過ぎる曖昧な関係が、いつか腐っていくことを恐れている。正直にそう言えば、時間をかけて熟成させていると思えと悪友は笑う。ヴィンテージのようにいつか喉を鳴らし至福を味わう日が来るのだろうか。私は楽天家の言葉をあてに、オークの香りのする蒸留酒と共に不安と信念を飲み干す。

1479.
疑ったことはない。そんな余地さえない。なのに小さな闇が消えない。それほどに我々は幼い。そんなこと今更言っても詮無い。我々の決めた贖い。それを果たすまでは考えない。それまでは我々は互いの道案内。光差す未来を諦めない。

1480.
別に何も生み出さぬ人生でも構わない。これ以上何かを壊す人生でなければ。それでいい。それが、いい。

1481.
ブランケットにくるまって、心の嵐をやり過ごす。部屋を出ていく貴方の手が、何も言わずブランケットの上から私の頭を撫でていく。孤独を分け合うことも、嵐を癒すこともないその掌の温度は、それでも僅かに私に朝陽を感じさせる。一番暗いのは夜明け前。

1482.
言葉にしないと伝わらない。そんな当たり前のことさえ私たちは、眼差しの熱の中に秘めて生きてきてしまった。心を言葉に変換する作業は、一キロ先の的に弾を当てるより私には難しい。だから、理解・分解・再構築の上手な貴方に教えて欲しい。優しい言葉の作り方。

1483.
多分、君が傍にいてずっと私を見ていてくれるなら、どんな結末を迎えてもきっと私は笑って死んでいける気がする。私の人生における君の意味合いは、そのくらいのものだよ。

1484.
唇に当てた人差し指が私に静寂を強いる。静寂を守ったご褒美に、その人差し指が私へと与えられる。ご褒美に震えそれでも静寂を守った時さらに与えられるものを期待して、私は貴方の眼差しの前に従順を差し出した。

1485.
たとえ電話の前にいたとしてもスリーコール待つ彼女のクセは、きっと私が作ったもの。深夜の電話、待っていないふりのスリーコール、それでもトーンの高い声。重ねた幾つもの夜を数え、軍人の顔の下に女を隠した彼女の手から、私は業務連絡の受話器を受け取る。

1486.
彼の蘊蓄は迸る学問への愛情故の暴走であり、彼が私に気を許している証なのは分かってはいるが、それでも鬱陶しいものは鬱陶しい。話し半分にクロスワードを解く私を分かっているのかいないのか、今日も彼の蘊蓄は止まらない。互いの趣味に没頭する不干渉。これもまた、大人の平和の形。

1487.
彼女が右から左へ私の語る学術的思考を聞き流すどころか、碌に聞いていないことさえ承知の上。それでも席を立たず、この空間を共有してくれている、私にはそれで十分。ただ思考をまとめる為の一人語りが、彼女の忍耐で二人寛ぐ時間に変わる。彼女は私専属の錬金術師、まったく頭が上がらない。

1488.
いつまでも私が真っ白なままでいると思っていたら、大間違い。私は貴方の知っていた少女ではなく、貴方の世界に勝手に踏み込み人殺しまで覚え、それを理由に貴方の傍から離れない狡い女。弾丸の代わりに貴方を口紅で殺す術も知っている。だから、そんな目で懐かしい目で私を見ないで。

1489.
歯磨きをして、キスをして、ルージュを塗る。彼女の朝の身支度のルール。ルージュを塗ったらキスはお預け。タイミングを逃さぬように髭を剃る。私の朝は忙しい。

1490.
人間兵器の孤独、そんなものがあると言えば笑われよう。兵器に感情は存在しない。破壊し、殺し、焼き尽くすだけの存在。それでも痛む心はあるのだと、人を焼きながら言っても笑われよう。笑われ涙を殺す、そんな私を君なら殺してくれよう。それが救済だと言えば、きっと。だから、私は生きていける。

1491.
深夜のそぞろ歩き。月がついてくる、君がついてくる。控えめに、それでもそこにいると私に感じさせる距離で。太陽ほどには明るくはない、かそけき光の心地よさは、私に素の男に還ることを許す。何も言わず、立ち止まって振り向く。月を映す瞳が私を見返す。こんな夜に言葉は要らない。

1492.
楽天家のふりをする貴方が、どれだけ綿密にこの作戦を練ってきたか知っている。「出たとこ勝負だ」と部下を呆れさせる貴方が、不測の事態を排除する用意周到さを知っている。私に見せる男の表裏とは違う意味の、司令官の裏表。どの貴方も嫌いじゃないわ。

1493.
結局、最期の時に満足を得る為には、私には彼女の笑顔が必要で、その為には青臭い夢を叶えることが必要で、その為にはこの国を平和に治めることが必要で、『全は一、一は全』の法則はこんなところにも生きている。循環の輪に組み込まれ生きる、歯車の一つである平凡の幸福。

1494.
たとえば小さな賭けをしよう。朝一の電話の相手が男か女か。ランチのメインがポークかチキンか。他愛ないゲームを言い訳にすれば、悪い顔の男と仕方がないという顔をした女が出来上がる。コインの裏表を賭けて、私達の表裏を変えて、ようやく私達は裏表なく夜に向き合う。朝までは世界は逆しま。

1495.
寝不足の頭にまとまらぬ言葉や構築式が浮かんでは消えていく。捉まえる集中力もない私を君は笑ってベッドに投げ込む。また明日、為さればいいでしょう? ああ、そうか。我々には明日があるのだ。君の言葉に安堵し、私は大人しくベッドで目を閉じる。また明日。なんと素晴らしく、未来を約束する言葉。

1496.
政治家になること。それはたとえば、三百人を救うために一人を殺すことを選ぶこと、或いはその逆を選ぶこと。己が正しいと信じる道を行くが、己が正義だとは思わない。それでも、私の背中を見るあの眼差しに赦される限り、私は己の道を信じることが出来る。

1497.
出張の帰り道は、珍しく長いドライブになった。単調な道に飽きぬようにと私の話し相手をしてくれる貴方の声が、静かにフェードアウトしていく。疲れた貴方を運ぶ揺りかごを揺らすように、私は子守唄をハミングし、ハンドルを右に切る。

1498.
「昨日、彼氏と喧嘩しちゃって。うっかり投げ飛ばしちゃったわよー。軍人って駄目ね」「まぁ、大変ね」「あんたのとこなら互角なんじゃない?」「そんなことないわ」「なに、喧嘩なんかしないって?」「いいえ、彼が投げ飛ばされてくれるから」「結局投げてんじゃない。赤くなってんじゃないわよ!」

1499.
一瞬、振り上げかけられた手は彼の意志の力で元の位置に収められてしまった。いくら私が軍隊格闘に秀でていても、彼は私を女だと認識している事実を私は再認識させられる。怒りに任せて殴ってくれれば良いのに。そんな怒りに任せ彼の胸ぐらを掴む私を、彼はただ諦めの眼差しで見ていた。

1500.
可哀想? 私が? ご冗談を。軍服に身を包み愛する男と二〇年、共に泣き、共に苦しみ、共に笑い、同じ目的の為に共に生きてきた。私の人生を否定する権利なんて、誰にもないわ。それを決めるのは、ただ私の心ひとつ。


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