Twitter Nobel log 36

1751.
シャツを羽織る広い背中を、ベッドの中から見送る。私の視線を感じても、彼は振り向かないし、私も何も言わない。そのくらいの温度で別れないと、明日が辛い。だから、顔は見ないで、名残は残さず、証拠は肌に残る移り香だけでいい。私たちが私たちを保つ為の暗黙のルール。

1752.
寒い夜に二人で作るサンドイッチ。君と私、毛布の狭間に爪先重ね合わせて。君の爪先のあまりの冷たさに、震え上がることもしばしば。それでも懲りずに重ね合わせ作る、甘い甘い冬のサンドイッチ。

1753.
君と私が組んで負けるわけがない。そう言って不敵に貴方は笑う。貴方がそう言うのなら、私はそれを実現するのみ。命令なら全て叶えてあげる。だから、私たちはけして負けない。

1754.
置き手紙にさえ甘い言葉を並べることのない君が、珍しく最後に並べたXXX。独り寝の夜の小さなSOS、私は出張からの帰宅ルートを西へと変える。

1755.
シンプルな部屋に住む彼女は、物を持たない女だと勝手に思っていた。身軽だと不意にどこかに消えてしまいそうで、少し不安になる。引っ越しの大荷物を見て、さほど身軽ではない彼女に安堵する。彼女のことが絡む限り、意外に私は女々しいらしい。

1756.
理想の死に方なんてない。軍人であるからには、野垂れ死にも覚悟している。でも、もしも退役まで生き延びて、もしも許されるなら。貴方と同じ日、同じ時に眠れたら幸せだと思う。残すこともなく、残されることもなく、逝けたら幸せだと思う。

1757.
「大きな仕事が終わった直後に体調を崩すのは、気が緩むからではない。脳内ホルモンバランスの崩れが……」「何でもいいから寝て下さい。蘊蓄は治ってから聞きます」「聞いてくれるのか!」「四百字にまとめて下さったら」「鋭意努力しよう」「だから寝て下さい!」

1758.
おでこに触れる熱。小さな接触点はキスほどの面積。キスほどの距離で見つめ合い、難しい顔の君。早く治させたいなら、体温計をくれ。ますます発熱してしまうよ。

1759.
田舎への査察は、牧歌的デンジャラス。さっきから道路を横断する羊の群れに行く手を阻まれて、運転手の君はご機嫌斜め。「ジンギスカン、お好きですか?」と聞かれた私はどう答えるべきか考えながら、平和的解決を模索し、偶蹄目の海を眺める。(多分あの世界には「ジンギスカン」という名称はないけど、「羊料理」だと怖すぎるから仕方ない。)

1760.
飲み会は上官への愚痴の山が出来る場所。一番文句を言っている副官が、最終的には何やかやフォローしている姿が可笑しい。あんた、もっと飲んで吐き出しちまえばいいと思うよ。俺達、意外と見ない振りは得意だから。

1761.
ワイシャツの前をはだけた後に、手袋を脱ぐ貴方。隙間が沢山あると、隙が多いように見える。白い手袋の隙間から指先を差し入れ、手の甲にひっかき傷を作る。貴方が隙を見せるのも、傷を作らせるのも、私だけ。癒すのも、私だけ。だから、全部脱いで下さい。

1762.
私の腹筋を指先でなぞる彼女は不満げ。どうやら彼女はシックスパックが欲しいらしい。今で十分だから、それで満足したまえ。私の指先は、割れた腹筋よりも柔らかな肉を愛す。

1763.
下腹の柔らかいところを指先でぷにぷにされて腹が立ったので、寝技をかけてみた。後から聞いてみると、愛情表現だったらしい。下腹の肉なんて、女の敵なのに。……解せない。

1764.
私が当たり前だと思ってやっていることに、貴方は礼を言う。貴方に向かう複雑な感情を抱えながら、単純な言葉に癒やされる。愛してるがなくても、ありがとうで生きていける。それでいいと自分に言い聞かせる私は、今日も貴方からの不意打ちのご褒美に心揺らされている。

1765.
狗にお預けを喰らわすのは、意地悪でするのではない。その方が、後のご馳走がより甘美になるからだ。そう、夜の褥の狭間では特に。涎を垂れ流す狗を眺め、私は極点の刹那を待ちわびる。

1766.
知らないことを知るのが楽しいと、沢山の専門書を手に入れた貴方は私に言う。他意のない無邪気な視線の前で、私は手元の書類にかこつけて視線を落とし思う。知らない方が幸せなこともありますよ、例えば、私が今貴方に向けてどれほど邪な想いを抱えているかだとか。

1767.
稀少な専門書を手に入れ喜ぶ私を、君は醒めた目で見ている。私が本当に欲しいものに手を伸ばしたら、君はもっと醒めた目で私を見るだろうか。それとも。詮無き妄想に、私は立ち去る背中をただ視線でなぞった。

1768.
前大総統時代のクーデターを覚えている人間も少なくなった。平和が当たり前の時代に、この手が銃を撃つ反動を覚えていることを、彼は笑い話にしてくれる。そんな彼が、英雄だったことを覚えている人間も少なくなった。英雄も銃も必要としない世界よ、私たちがもう少し二人ここにとどまることを許して。

1769.
躊躇なくその辺のソファーで仮眠を取る君の、無防備な寝顔を見つめる。苦労ばかりかける割に、なかなか目的に近づけぬ己がもどかしい。労いを込めて、目の下の隈をそっと指先でなぞる。君が目覚めるまでに机上の書類だけでも片付けるのが、せめて私に出来ること。

1770.
躊躇なくその辺のソファーで仮眠を取る君の、無防備な寝顔を見つめる。君にとって、私は異性ですらないのだろう。苦い笑いですべてを飲み込んで、私は君に向かう自分勝手な想いを封じる。その背を焼いたこの手で、どうして君に触れられようか。

1771.
躊躇なくその辺のソファーで仮眠を取る君の、無防備な寝顔を見つめる。分かり易い眠ったふりは、消極的な君の誘い。私は騙されたふりで、そっと跪いてその唇に触れる。深夜の二人きりの残業だけが、私たちの心の奥底を露呈する場。

1772.
躊躇なくその辺のソファーで仮眠を取る君の、無防備な寝顔を見つめる。据え膳食わぬは男の恥と言うだろう? 獣の前で腹を見せる君が悪いのだと偽悪的な笑みを浮かべ、目覚めた君の抵抗を私は己の唇の中に封じる。

1773.
ひとりで夜明けを待っている。隣には眠る君がいるけれど、起こすのは忍びない。黒と白の境の黎明の空を窓越しに見上げ、ただ夜明けをひとり待ち続ける。

1774.
貴方は時々とても遠い目をする。貴方が何を見ているか私には分からないけれど、その場所には私にはついて行けないのだと漠然と感じることは出来る。近くにいるからこそ、貴方が遠いことが分かってしまう。『鷹の目』なんて、持たなければ良かった。

1775.
覚悟を決めて銃口を向ける。私のその仕草だけで、貴方は観念したように目を閉じる。生きることを諦めるなと言うクセに、私のジャッジだけは無条件に受け入れるのだ。狡いのか潔いのか分からない男の命を預かる私は、その生き様を預かっている。副官という生き方は、重く切ない狂った悦び。

1776.
花の咲きそうな気配に浮かれ、夜の散歩を遠回り。子犬も私も足取り軽く、花待ち月の下を行く。花が咲いたら見せたいと思う相手の窓を見て、漏れる灯りを見るだけで、満たされ帰る夜の道。

1777.
林檎の皮を剥くことくらい、さしたる手間ではないのだけれど、貴方が林檎をかじる口元や、林檎を持つ指に節や、滴る果汁を舐める舌先を眺める誘惑に勝てず、私は机の上に林檎をそのまま置いておく。

1778.
銃を構えた手が寒風に冷えていく。不意に貴方は私の手を掴み、コートの懐に導いた。いざという時、それでは困るだろうと苦笑する貴方の心臓の上に私の銃が重なる。守らねばならないその鼓動を掌に重ね、貴方の存在を噛み締める。

1779.
「暗殺者の視線には敏感なくせに、私の視線には鈍感なのだな」貴方はそう言って、かこち顔で溜め息をつく。貴方が殺されない為に、貴方に殺されない為に、どちらも私には必要なスキル。でも、そんな理由は口に出さず、私はいつものポーカーフェイスを貫く。

1780.
君が選べばいい。貴方はそう言って、私に選択権を投げる。覚悟を決めた貴方についていくだけの私に、何が選べるというのだろう。莫迦なことを、と取り合わぬポーズが逃げであることは、きっと貴方は知っている。

1781.
新聞を広げ昨日を読む父のお弟子さんの、今朝の状況を読む。卵は黄身が硬めのサニーサイドアップ、目覚ましの特別濃い珈琲、朝の講義が長引くだろうからトーストは厚めに。ありがとう、その一言が聞きたい為だけに。

1782.
口付けをした時にポーカーフェイスを保とうとして保てず、ほんの少し表情が歪む瞬間。悦びか、苦悩か、その表情の意味を知りたくて、私は彼女を深追いしてしまう。

1783.
撃った敵の数を武勲として誇るのではなく、何の為に撃ったかを考える。軍人とは守護者であると同時に大量殺戮者なのだと、貴方の背中が嗤うから。そうでないと狂ってしまいそうな時がある。そう、こんな恐ろしいほど空の綺麗な朝には。

1784.
自分の存在意義を彼に重ねて生きてきた。二人で生きればいいと彼が私に手を差し出した退官の日、何をすればいいか分からなくなった。彼は私と手を繋ぐと、まずはここからと笑った。重ねた手が、並んで生きる人生を連れてきた。

1785.
雨が降るとラジオが明日の天気を告げる。花が散ると貴方は呟く。自分の錬金術より花を案じる貴方の暢気さに苦笑し、私は花吹雪も綺麗ですよと呟く。貴方の暢気は、私への信頼の裏返し。そんな小さな自惚れの花が私の胸に咲く。

1786.
新入隊者の初々しい姿に過去を思う。貴方の前に立った私の手は、内戦で既に血で汚れていたけれど、今思えば堅苦しく青臭くはあったのだろう。何年経っても、貴方の背を任されたあの日を私は忘れないだろう。そう考えながら、私は春の風に背筋を伸ばす。

1787.
彼女の爪先に淡い春の色が咲く。誰も知らない場所に落とされた色彩は、私の為に施されたものだと自惚れても構わないだろう。控えめな挑発に、脱がせたヒールを放り出す。夜にだけ咲く徒花、せめて私の手の中で散ればいい。

1788.
愛されたいなどと、不遜なことを考えているわけではない。赦されたいと、ひどく驕傲なことを望んでしまっているのだ。与えた力が貴方の心を削ぐたび、握る拳に刺さる爪が掌に後悔を刻む。

1789.
甘い言葉を並べながら近寄ってくる夜の女が見ているのは、私の肩の星の数。苦いお小言を並べながら迫ってくる彼女見ているのは、机に溜まった書類の数。逃げ出すべきはどちらかなんて、自明の理。副官に頭の上がらない上官の方が、私には似合い。

1790.
人が人に焦がれるように、兵器である私が君に焦がれても良いのだろうか? 発火布の手袋を装着した掌は砂漠の太陽の下で見るには白過ぎて、そんな私の自問さえはね返す。雨でも降れば何もかもを消し去れる気がして、私は雲一つ無い乾いた空にひび割れた唇を晒し、空を見上げる。

1791.
人の前で平気で着替えるくせに、紅を指す姿を見られることを恥じらう。彼女の基準は私には理解不能だが、軍人と女の狭間で揺れる姿はプライベートより艶めかしい。隠したいものが垣間見える瞬間を彼女は恥じらうのかと、ぼんやりと考えながら指先に残った紅を見る。

1792.
最前線に出てくる上官を叱れば、言うだけで何もしない上官よりはマシだろうと開き直られた。腹が立ったので担ぎ上げて、連れ戻した。部下達の顔が引きつっているが気にしない。男のプライドなんて犬に喰わせてしまえ。まったく、人の気も知らないで! 新兵の代わりに負傷するなんて!

1793.
シーツの上に落とす黒髪くらいしか痕跡を残さぬ男が、カフスボタンを忘れていった。どういう風の吹き回しだろうと思いながら、私はサイドボードに置かれた小さな装身具を手の中に握りしめる。独り寝の夜、少しだけ私の唇に浮かぶ笑みを知るのは物言わぬ釦だけ。

1794.
師匠から譲り受けた古書の間から、愛らしい赤ん坊の写真を偶然見つけた。私は師匠から様々なものを託されたのだったと改めて実感し、私は窓辺に立つ成長した彼女の姿を見つめる。私は写真の赤ん坊に囁く。君は今、幸せか? と。

1795.
幸せか? と問われる莫迦莫迦しさに、私は彼の言葉を鼻で笑う。私は幸せになる為に、貴方と共にいるのではない。貴方と共にいることが、私の幸せなのだ。

1796.
翻ったスカートの裾に子犬がじゃれつく。それを見て、貴方はビールを飲みながら笑う。そんな夢を見た。胸を抉られるという意味ではこれも一種の悪夢なのかと苦く笑い、私は夢の中の男と同じように苦いビールをあおった。

1797.
電話番号なんて、指先が覚えている。私から電話をすることなんて、職務上の連絡事項を伝える以外ないのに。深夜に回した架空のダイヤル、知っているのは指先だけ。

1798.
私のサボリに怒り、子犬の躾に銃をぶっ放す彼女は、気短だと思われているらしい。こんな私の行く末を見守ろうというのだから、相当気が長いと私は思うのだがね。

1799.
野に咲く花の名は知らないけれど、食べられる野草の識別はパーフェクト。彼女らしいと言えば彼女らしいスキルの披露に喝采し、私は草原で大の字に寝転ぶ。これほど長く共に居ても新たな彼女を発見する驚きを楽しむ、休日のピクニック。

1800.
深夜のキッチンで電話を抱え込んだ私は、頭から毛布に包まれて熱い珈琲を口に運ぶ。小さな椅子に座り、昔を思い出す。幼かった頃の私のお城は、今も私に軍人の顔を忘れさせる力を持っている。だから今、私が話す相手は上官ではなく、父のお弟子さん。懐かしく、愛おしい、初恋の思い出。

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