Twitter Nobel log 26

1251.
それは恐怖。それは誘惑。それは罪悪。それは情熱。それは無垢。時に銃を握り、時に愛を語り、時に私を叱り、時に泥を被る。それが君の手。私を守る、君の手。

1252.
寒がりの彼女の背もたれ役を拝領する。普段は甘えてくれない彼女が寒さに負ける冬が、私には幸福である。幸福の理由はささやかで下らないもので良い。大義名分を忘れる人生の隙間。

1253.
抱き締めることには理由がある。この汚泥を分かち合う相手がいることを、この腕の中に確認する為。それでも最後には、沈むのは私一人でいい。だから、私の背に君の手が回されないのは好都合。抱き合うのではなく、抱き締めるだけで私が満足する理由。

1254.
顔を洗う水が冷たいと、彼は寝惚け眼で錬成陣を描く。そんなヨレヨレの線を引いているくらいなら、お湯を沸かした方が早いのに。紙を3枚無駄にした彼に、私は笑ってやかんのお湯を差し出した。さっさとこれで目を覚まして、綺麗な円を描いては如何?

1255.
中指に口付ける。深い意味は無い。それに意味を持たせるのは、彼女の心。だから彼女の動揺を誘う為、私は意味もなく彼女のの手を取り、その中指に口付ける。

1256.
ビューラーが冷たいと呟けば、気障な男はいつも通り彼の手の内でそれを温めてくれるつもりで、私の手からそれを取り上げた。だが、小さな道具は彼の掌で包むには複雑過ぎて、彼は眉間に皺を寄せる。微妙に困った顔が可愛くて、私は朝の寒さを忘れる。

1257.
風邪などここ八年引いたことがない。貴方の言葉のなんとも具体的で中途半端な数字に首を傾げ、それが貴方が軍人になってからの年月であることに気付く。そんなところまで己を律す貴方が哀しくて、「莫迦は風邪を引かないとは本当なのですね」と、私は憎まれ口で様々な感情を隠した。

1258.
「珍しいな、君が友人と白熱した論議を繰り広げるとは」「下らないことです」「どうした?」「ツインテールは何歳までOKかという話で」「………………うむ。君なら何歳まででも大丈夫だ」「何をどこからどこまで想像されたんですか!」「ふっ」「笑わないで下さい!」「問題ない」「だから何が!」

1259.
読書の邪魔という程積極的ではなく、無関心という程距離が開いているわけでもなく、扉の陰から様子を窺う猫のような彼女の視線がくすぐったい。気付かないふりでもう一ページ。どちらが先に痺れを切らして動き出すか、我慢比べの冬の夜。

1260.
暴く君の身体、暴かれる私の心。触れた先から想いが零れた。蹂躙する君の性(せい)、狂っていく私の性(さが)。かけ違った釦を再び戻す術を、この指は知らない。

1261.
貴女の本心は、だとか。本当の貴女は、だとか。他人の言葉は無責任に、薄っぺらく私を分析しようとする。本当の私はあなたの目の前にいる、この女。あなたに見えないものがあるとしても、私には何の支障もない。あなたの言うところの「本当の私」を把握している人がこの世に一人いる、それが私の真実。

1262.
当たり前過ぎて言わなかった言葉も、言えなかった言葉も、忘れず私の中にある。全てが終わったら伝えられる日が来るのだろうか。自分の中に溜め込んだ言葉の多さと、残された時間とを考える昼休み。見上げる青空が莫迦皮算用を笑う。

1263.
鞄の中には林檎が3つ。一人で食べるか、仔犬にやるか、3つの林檎をもて余す。ふと思い出す帰りの間際、林檎をかじるシルエット。デスクを汚しちゃ駄目ですと、言った言葉も馬耳東風。届け、届くな、蜜の味。私は彼を思いつつ、赤い林檎にキスをした。

1264.
路傍の花がいい。咲くことなく朽ちていい。そう言って凛と笑う彼女は、既に自分が咲き誇る花であることを知らない。摘み取る手を、私が迷っていることを知らない。

1265.
世界には、知らなくて良いことが数多ある。たとえば甘い蜜の味。私を蝕む貴方の影。虫歯どころではすまない、底なしの飢餓と欠落。知らなければ、もう少し幸福でいられた。知らなければ、もう少し鈍感でいられた。それでも、分かっていても、私は何度でも繰り返すだろう。たとえば甘い蜜の味。

1266.
眼鏡をかけると別人。前髪をあげると別人。中身は同じ筈なのに、私の心の温度が上がる。別人なら甘えても良いのだと、心が言い訳をする。伸ばす指先の熱量に応える唇もまた別人。だから私は私を騙す為、目を閉じる。

1267.
嘘をついても良いなんて言ってやらない。真実をその唇が紡ぐまで、解放してやらない。意地が悪いと君は言うが、そんなことはない。詭弁でも何でもない、君しか見たくない。それで恨まれても構わない。だって私にはきみしか居ない。

1268.
私にとって良い父ではなかったあの人に未だ敬意を持っていられるのは、彼のお陰かもしれない。研究者として優秀だったあの人に微かな恐怖を感じるのは、彼にも原因があるかもしれない。私の人生は、多分二人の錬金術師によって作られた錬成物。

1269.
朝靄の中を一歩。前が見えにくくても一歩。光さす明るさを信じ一歩。貴方と共に一歩。

1270.
私は銃。引き金を引くのは、貴方の指。貴方の思うままに、私は熱い弾丸を幾度だって吐き出す。でも、貴方の手には冷たい鉄の塊。熱量の欠片も残さない、私は貴方だけの銃。

1271.
私を待つ運転手を窓から鑑賞する。約束の時間までまだ十五分の猶予があるというのに背筋を伸ばし前を見つめる姿は謹厳で、そんなに堅苦しくなくても良いものを、と私は苦笑せざるを得ない。欠伸の一つでもしないだろうかと、飽かず彼女を眺める十五分。

1272.
名を呼ぶことはないけれど、あなたの名前は私の甘露。甘くて苦くて痺れるように、私の舌を弄ぶ。音に出したりしないけど、そっと名を呼ぶ口の中。

1273.
いぬを飼う。彼女が犬を飼う。私が狗を飼う。音律が同じでも意味が違う。大人しく言うことを聞くことなど無い、生意気で綺麗な狗をこの手で躾けて従わせ、そして、私は狗を飼う。

1274.
眠ったふりが得意なのは、貴方の前でだけ。髪を撫でる掌にも、触れあう肩にも、気付かないふり。無防備を装う二十五時、眠って見る夢よりも夢に近い現(うつつ)。

1275.
無くした過去を取り戻したいのだと思っていた。だから私は罪に囚われて、差し伸べられた貴方の手をとることが出来なかった。貴方が求めていたのが新しい未来だと知った今、私は躊躇いながらもその手を掴む。私達の間にも新たな関係が存在する可能性を、信じさせて。

1276.
その眼差しが狂っていくのなら、それを糺す鏡でありたい。溺れるのではなく、澄み通る芯があることを思い出すきっかけを守る私でありたい。共に狂い溺れることは容易い。だからこそ、黒を白と追従するのではなく、黒を黒と言い切れる私でありたい。

1277.
私の為に命を捨てて欲しいと言われる方が、死ぬなと言われるより、私には気楽だ。まったく難しい命令ばかりする男だから、困ったものだと、私は血を流して笑う。こんな時でも私を支配する男と視線を交わし、笑う。

1278.
うっかりうたた寝をした私の肩にかけられたブランケットは、彼女がここに来た証。痕跡を残さぬことが上手な筈の彼女が、その主義を破って示してくれる優しさに私の頬は緩む。風邪を引かれたら困るだけ、という現実的な理由は置いておいて、自分に都合の良い解釈に私は心の暖をとる。

1279.
吐く息の白さに冬を確認する。はぁっと吐き出す吐息の音が背後から聞こえるタイミングと揃い、我々は小さなシンクロナイズに顔を見合わせ破顔する。寒さがくれる小さな幸福、こんな小さな幸福に 支えられて私達は生きている。

1280.
来世などという不確かなものにすがるくらいなら、私は今この手で君を強引にでも抱き寄せよう。神などいないと知ったこの不毛の大地で、己の信念さえ信じられなくなった。それでも私を青臭い夢に繋ぎ止める君が私には光。

1281.
寒さに震える私の首もとに、無言で巻き付けられた彼の白いマフラー。化粧が付いて汚れますと突き返せば、私の為にしてくれた化粧だからと気障な台詞が返る。開き直ってルージュを一筋、マフラーにではなくその唇に。たまには貴方も照れればいいと、飼い犬は手を噛んでみる。

1282.
文字を見るのももう嫌だとデスクワークを投げ出せば、目の前に差し出される一冊の錬金術の専門書。目を輝かせて飛び付けば、文字を見るのもお嫌なのではなかったのですか? と冷たい君の声。私の操縦法を熟知する君の飴と鞭。ご褒美目指して、馬車馬は走る。

1283.
面倒だからと皮も剥かずに彼は林檎を食べる。一瞬の間さえ惜しいのかと苦笑しかけ、私は昨夜の玄関先での出来事を思い出す。赤面する私の目の前で、彼の掌から手首へと果汁が滴る。シンクロする、昨日と今日。シンクロする、私と果実。淫らな罪の果実。

1284.
起床を促す君の声が「睡眠と朝食、どちらを選ばれますか!」と強く私に問う。「睡眠」と即答すれば、撃鉄を起こす剣呑な目覚ましがなり、私は渋々起床する。『睡眠と“私の作った”朝食、どちらを選ばれますか!』と言えば、私は一発で起きざるを得ないのになぁ。そんな莫迦を考える虚しい仮眠室の朝。

1285.
今、私がここに軍人として存在する理由。軍服、銃、過去への贖罪、秘伝、無垢なる未来、幼い日の恋情、託された背中、エトセトラ、エトセトラ。どれだけ理由を並べ立てたところで、それら全ては貴方へと繋がる。でも、貴方の為にここにいるなんて、死んでも言えない。

1286.
あまり優しくしないで下さい。心が弱くなって、私が私でいられなくなります。副官として、毅然と厳しく扱って下さい。情の欠片も湧かないようにして下さい。それでも、片時も傍から離さないで下さい。けして決して片時でさえも。それが私の我が儘です。

1287.
答えが欲しいのではない。答えは知っている。ただ伝えておきたいだけなのだ、明日何がおきても良いように。知っておいてさえくれれば、それでいい。だから、そんな困った顔をしないで、無言で私に背を向けていい。私はずるい男なのだよ、知っているだろう?

1288.
静かで優しい夜の音楽、それは隣で眠る貴方の寝息。穏やかに、力強く、私の隣で貴方が生きている証。私が安心して眠りにつく為のおまじない、Eine kleine Nachtmusik

1289.
理由が必要なら、どんな言葉でもあげよう。アルコールだとか寝不足だとか、不可抗力のお膳立ても悪くない。例えば一本の煙草が私を別人に見せた、そんな理由にもならない理由でいい。夜が明ければ全て無かったことになる我々の暗黙の了解の前では、何もかもが莫迦莫迦しいまやかしなのだから。

1290.
意地汚くベッドにしがみつく私のシャツの中に、氷のように冷たい手が忍び込む。声にならない悲鳴をあげ飛び起きる私と、笑いを隠しきれないしかめ面の君。ひどい仕打ちの報復に私は冷たい手を捕まえ、掌の間に連行する。朝食にベーコンをつけてくれたら、情状酌量の上執行猶予をつけよう。どうするね?

1291.
手の冷たい人は心が暖かい、なんて非科学的な俗説を信じる訳もない。だが彼にしみじみそう言われると、嬉しくて走って逃げたくなる。彼に上手い返事も出来ない私は、黙って彼の夜食を父の分の倍盛ってみたりする。暖かい手の持ち主の彼が、私の心を暖かくしてくれる。

1292.
異なる世界で、異なる状況で君と出逢っていれば、我々はもっと異なった関係を築けていただろうか。それは、今よりもっと単純で、気楽で、楽しいことだけの関係かもしれないけれど、それでも私は今の二人を選ぶ気がする。今の我々を、私は人生を懸けて肯定する。

1293.
一年とは人間が勝手に決めた時間の区切りで、そこに感慨を覚えたり意味付けをするのはナンセンスだと貴方は言う。当直に当たった不運への莫迦な負け惜しみを笑い、二人で明かす新しい年の為に、私はいつもと同じ薄い珈琲を淹れる。いつもと同じ貴方の傍ら、特別は要らない。

1294.
「ついてくるか?」と貴方は私の意思を尊重し、「ついてきてくれるか?」と貴方の意思を私に呈示してくれることはない。それはきっと貴方の私への思いやりなのだろうけれど、その表現は少しだけ私を寂しくさせる。どちらの言葉に対しても、私の答えは同じなのだから。

1295.
この手が抱くのは、黒い拳銃と黒い仔犬。貴方の黒髪を抱き締めたい心はあるけれど、朱にまみれたこの手が漆黒を汚すことを恐れ、私はこの手を躊躇する。偽物の黒を抱き、私は届かぬ黒髪を遠く眺める。

1296.
真夜中のアイスクリーム、指先ですくって押し付ける柔肌。舐め取って、味わって、熱いのか冷たいのか分からない君の味。冷えた舌先に熱量、広がる甘味はどこから香る? 真夜中のアイスクリーム、すべてを貪り尽くすまで夜明けは来ない。甘く冷たく儚い、深夜だけ、二人だけの秘密。

1297.
これだけ返事をくれない女を待ち続けるとは、我ながら気の長い男だと思う。諦めが悪いと笑われるかもしれないが、背中に感じるその視線がある限り、諦めることなど出来るわけもなく。ただ私は君の声を待ち、粛々と前を向き歩き続ける。

1298.
君が望む言葉を与えたら、私の心が壊れてしまうから、私は黙っていることを選ぶ。私が望む言葉を受け取ったら、君の生き様がぶれてしまうから、君は聞こえないふりを選ぶ。似た者同士の私たち、多分本当に望む言葉は同じ。ただ一つの真実があまりに遠い。

1299.
流れる夕焼け雲を眺める眼差しは、甘い感傷ではなく風向きと風速を見つめている。美しい夕焼け空さえ、君にとっては弾道への影響を読む為のただの道具。そんな女だと分かっていて愛した。そんな女だからこそ、愛した。

1300.
夢の残滓が貴方の手の形をして、私の手首を掴む。現実には存在し得ない幻の温度は酷く甘くて、私は微かに眉をひそめる。その感情に意味を持たせない為、私は夢の続きを見たがる脳を叩き起こし、冷たい空気に身体を晒した。

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