Twitter Nobel log 35

1701.
囁くのは愛の言葉ではなく、陰謀策略。非情な言葉で、君は私に命を捧ぐ。甘くない愛だってあるのだと、私は振り向かず彼女の言葉を受け取る。背中を向けることが想いに応えることだなんて、君は誰よりズルい女だよ。

1702.
背中に熱量を感じた。彼女の額が肩の下に押し当てられたのだ。何も言わない、表情さえ見せない、そんな彼女の小さな甘えを抱き締めることさえ拒む背後からの熱量。私に出来ることは、その熱量が離れていくまでこの場に立ち尽くすことだけ。

1703.
家を出た時、故郷は失ったと思った。身寄りのない私に帰る場所はないと。だがすぐに私は知る。帰る場所はなくとも帰る胸があることを。彼のいる場所が、私の帰る場所であることを。

1704.
すれ違い様の視線が交差する。時にパーティーの最中、侵入者への警戒を促す上官の無言の命令が下される。時に勤務中、今夜の逢い引きを目線だけで約束する。私たちの視線は、時に唇よりお喋り。

1705.
疲れきりソファーで眠る男を見下ろす。このまま毛布をかけるか、仮眠室に追いやるか考える。新しい政策に没頭する彼が望むのは、叩き起こし仕事に追いやることなのは分かっているのだけれど。私に選択を委ねる困った男(ひと)に苦笑して、私は彼の目の下の隈を指先でなぞった。

1706.
彼は知っている、私の沈黙が言葉より意味を持つことを。言葉の少ない私が黙り込む時。向き合った視線を逸らす時。きっと面倒な女だろうに、彼は的確に私をすくい上げる。彼が甘やかすから、私はどんどん言葉が少なくなる。

1707.
化粧直しの口紅は忘れても、予備の弾丸は忘れない。機関銃のようにお喋りな唇の代わりに、一撃必殺のライフルを持っている。そんな女に惚れた私のポケットには、彼女の予備の口紅が預けられている。まったく、光栄だね。

1708.
化粧気の欠片もないくせに、靴を脱がせた爪の先だけが紅いだなんて、君もとんだ食わせもの。

1709.
隠しても分かる仄かな煙草の臭いのように、彼の苛立ちや苦悩は何となく分かる。抑え込む苦悩と一服の煙草のどちらが身体に悪いのだろうと考えながら、私は彼の隠したものに手を伸ばせずにいる。

1710.
同じ場所で足踏みしているような気がする日もある。伸ばしても未来に手が届くのか疑問に思う日もある。それでも振り向けば、彼女は必ず私の後ろにいて、ただ頷いてくれる。私が立ち止まらず歩くには十分な理由を得、私はまた歩き出す。

1711.
寒い朝、朝食を作ってくれる少女の為に錬金術で湯を作る。真っ赤な頬を綻ばせる彼女を見ていると、少し幸せになる。“錬金術は大衆の為に”それは、本当はこんなささやかなことなのかもしれないと、思う瞬間。

1712.
深夜、わき腹の瘢痕が疼いて目覚める。あの頃、彼女にもこんな風に背中の痛みに眠れぬ夜があったのだろうか。きっと答えてはくれぬであろう、傍らに眠る彼女を見下ろす。せめて今は彼女の眠りを妨げぬよう、私は痛みをかみ殺す。

1713.
他人の普通なんて知らない。私たちの普通は、階級で呼び合い、デートの約束などせず、命令と敬語で話す。何かあれば互いに命を預け、どこにいても駆けつけ、生涯傍らに在ることを信じて疑わない。これが私たちの普通。何を幸福と呼ぶかは人によって違うということと同じ、私たちの普通。

1714.
どちらが車道側を歩くかで、彼と言い争いになった。埒が明かないので、足払いをかけて勝利した。本末顛倒な気もするが、気にしないことにする。

1715.
銃声を耳にした瞬間、二人同時に傘を飛ばした。久々の逢瀬に寄り添う私たちは、雨に濡れることなど厭わぬ軍人へと表情を変える。オンとオフの切り替えは得意中の得意。だから、さっさと事件を解決して、元の甘い顔を取り戻そう。雨の日に事件はノーサンキュー。

1716.
好戦的な訳ではなく、口外出来ぬ想いの行き場に、肯定的な未来を語れないだけ。後悔は先に立たず、行動で示すしかないと、好意を隠した行為の効果に交渉の余地を見いだす。口論をしたいのではないのです。ただこういう時、なんと言えば良いか知らぬだけなのです。

1717.
朝の最初の光が美しくて、無意識にあの人に見せたいと思っていた。夜勤明けのぼろぼろな顔で、そんなことを考えている私はやはり女なのだろう。窓を開けて冷たい空気を招き入れ、頭を冷やし呟く。いいえ、私は軍人。

1718.
ソファーの端と端で眠った。目覚めたら、二人とも座面に横たわっていて、彼女の髪が頬に触れていた。寄り添わない二人の無意識の妥協点。指先に髪を絡め、一瞬で手離す。彼女が目覚める前にソファーを立ち、私は上官の顔で軍服の皺を伸ばした。

1719.
少し難しい顔をする時、貴方は眉尻を少し下げる。錬金術のことだけ考えて眉を下げていた貴方を思い出し、同じ表情でもその肩に背負った荷の重さの違いに、少し泣きたくなる。今も昔も私に出来るのは、傍らにいることだけ。

1720.
私を押さえつけていた手が私から離れ、私の耳元でシーツを掴んだ。組み敷かれる。荒い息が降る。それでも、その手は私を傷付けることを恐れるように、何かを堪えるように、ぎゅっとシーツを握り締めている。そんなに怖がらなくても、私は貴方に何をされても貴方を嫌いになんてなれないのに。莫迦ね。

1721.
いつでも手放す覚悟はある。だが、彼女にはいつまでもついて来る覚悟があって、きっとそこだけは我々の永遠の平行線なのかと思う。相手を想う気持ちは同じだというのに、皮肉なものだと思う。

1722.
好きよと言ったら嘘になる。嫌いと言うのも本心じゃない。言葉で表そうとするから、齟齬が生じる。ならば黙っている方が得策というもの。伝える必要が生じたら、その時になってから考える。今はただ、その背を守る為に引き金を引く。

1723.
幼い頃、父のお弟子さんにプレゼントしたくて、手袋を編んだことがあった。上手に親指が編めなくて、渡せずじまいになった贈り物。あれから十年、私が彼に贈ってしまった特別な紋様の描かれた手袋は、今日も彼の心を殺している。砂漠には不似合いな紅い手袋が燃えている。

1724.
「どうも疲れているようです。大佐がキラキラして見えます」「大丈夫だ。私はいつだって輝いている……という冗談は置いておいて、塗料を被ってしまった」「あ、冗談でしたか。あまりに通常通りだったので本気かと」「君ねぇ……」

1725.
「ってことがあったのよ、莫迦だと思わない? でも、あんな特殊な塗料使いこなせる人、他にいないのよね」「……あんたの話す大佐って、だいたい現物より三割増しにキラキラフィルター掛かってるわよ? 自覚ないって末期よ?」「え……」

1726.
銃後ではなく、背後を守る。生きて帰る理由は、故郷で待つ彼女の元へ帰る為でなく、彼女を共に生還させる為。勝手にいくなんて許しませんよと笑う彼女の課すハードルは、いつも高い。

1727.
おいて行かないでと、私の中の少女が泣く。おいて逝かないでと、私の中の女が泣く。そんな幾人もの“私”を抱え、私は彼を追い戦場を往く。置いていかれない為に。共にいく為に。

1728.
彼女の睫毛に雪が積もる。長い睫毛を彩る白を指先で拭えば、彼女の頬が紅くなる。良い発熱運動だなとからかうと、溶けた雪の雫の残る睫毛が伏せられた。もっと暖めてやりたくなるじゃないか、無意識の小悪魔め。

1729.
貴方の背を追いかけて、ワインも美味しいと思う大人になった。それなのに、貴方がくれるのは、子供騙しのチョコレート。苦味も渋味もスパイスだと知った。だから、過保護は止めて。

1730.
ピアスを開けたのはシンプルな理由だったけれど、貴方に贈られる石がそれに意味を持たせてしまった。貴方のマーキングは焔の深紅。彼の耳朶に噛み付いて、この深紅の色を分け合って、私は自己を主張する。鉄の味がする唇を貪って、貴方は私と同化する。

1731.
不意打ちに背後から抱きしめられて、鼓動が跳ねる。無意識に動く身体は彼を投げ飛ばし、彼は華麗に受け身を取った。「うむ、今日も失敗か」「申し訳ありません。鋭意努力致します」格闘訓練より、照れずに抱きしめられる練習の方が私には余程難しい、嗚呼。

1732.
冗談めかしてはいるけれど、野生動物並みの彼女の警戒心の理由に概ね見当はついている。戦場の夜、背後から忍び寄るのは死、消えない記憶の残滓。怯えずとも良いのだと包み込む手を諦めたくなくて、私は今日も投げ飛ばされることを止めない。

1733.
連日の残業、珈琲の飲み過ぎで胃がガボガボする。美味い酒を飲んで帰りたいと思って視線を上げれば、彼女と目があった。以心伝心に苦笑いをし、我々は残業を切り上げた。私のお目付役を自認しながら時々甘い顔をしてくれる彼女に、きっと私はずっと頭が上がらないだろう。

1734.
美しいと言えば、スルーする。勇ましいと言えば、当然という顔をする。有能と言えば、謙遜する。だが、どの言葉にも君の鼻は反応しピコピコ動くから、褒め甲斐があって私は楽しい。

1735.
真紅の薔薇より、野に咲く白詰草の方が似合う控えめな女だろう。だが、金で解決せず、自分の手で花を手折りに行かねばならぬとは、どんな女より手の掛かる女だろう。こんな二面性なら歓迎するしかないだろう。

1736.
英雄という伝説が過去になり、誰も彼の顔を覚えておらず、彼が市井に埋没する日がくれば良いと思う。普通の女は逆を望むものだろうと彼は笑う。その目尻の皺の深さに、私はただ微笑んだ。

1737.
「一応聞いておくが、休む気は無いんだな?」「念の為に申し上げておきますが、休むわけには参りません」「休め。これは命令だ」そんないつも通りのやり取りを交わすことで、冬を感じる。そう言えば、子供の頃から君はそうだった。長い付き合いに変わらぬ二人の形を見る。

1738.
顔に傷を作っても平気な顔をしているなんて、と貴方は呆れた口調で言うけれど、貴方がそんなもの気にせずに私を見てくれる男(ひと)だと分かっているから、私は平気な顔でいられるのです。

1739.
モヤモヤとした気持ちを抱えて、電話を掛ける。もしもしと言う返事が聞こえた瞬間、靄がふわりと晴れる。悶々と貴方の夜の動態に悩むより、確認する方が早いのは分かっているけれど、それが容易くは出来ないのが私。元々約束なんて無い二人、それでも束縛したい気持ちは消えない。

1740.
厳しい眼差しで、毒を吐く。クールを装い、誘いを断る。優しい眼差しも切ない瞳も貴方の背中にだけ向ける。裏表のない性格と自負する私の裏表。

1741.
あれだけ幼い日の時間を長く一緒に過ごしたというのに、私達は共に写真を撮ることなどなかった。今だってさほど変わらぬ私達は、秘めた想い同様に、思い出だって他人には見せることはないのだ。

1742.
お金持ちの出世頭だから、彼に惹かれる人もいるだろう。私は逆に貧乏で研究三昧な彼の方が、惹かれるかもしれない。平和な意味で、彼の役に立っていたと自負していた過去が懐かしい。

1743.
栄光や報奨は、誰か他の人達と分かち合えばいい。哀しみは、私に分けてくれればいい。大の男の頭を撫でる特権。私はただ貴方の感情の雨を受ける傘でありたい。

1744.
安堵出来る場所が一つあれば、生きていける。別にその場所を実際に使うことがなくても、あの眼差しが私を受け止めてくれるから、私はその厚い胸元ではなく、あの広い背中を見つめ歩く。

1745.
私達の間には沢山の嘘がある。上官と部下の顔をして生きていく為に必要なそれで、私達は自分さえも騙そうとするけれど、互いに瞳を交わせば伝わってしまうただ一つの真実が、それを阻む。それが幸福なことなのか、不幸なことなのか、私達は分からないまま共に生きている。

1746.
珍しく高いヒールで待ち合わせの場に登場した君は、足音を殺すのに四苦八苦している。今日は私がエスコート。護衛は必要ないというのに。どうぞお手を、レディ。支えがある方が静かに歩けるかもしれないが、どうだね?

1747.
弾丸込めて、想い込め、撃った標的数知れず。賞賛よりも、何よりも、欲しいものは貴方の勝利。報いてくれると言うならば、ただひたすらに前を見て。想いは背中に宿るから、私はそれを見て進む。

1748.
素直に今すぐ会いたいと言えば、君はどんな顔をするだろうか。怒るだろうか。照れるだろうか。それとも、いつものクールビューティーを貫くだろうか。何にしても、私の声の調子一つで彼女は私を見抜くから、なるべく弱った音色は滲ませぬように受話器に向かおう。君に会いたい。

1749.
いつもは素気ないくせに、今日はどういう風の吹き回しだ? 貴方はそう言って笑う。貴方が冗談めかすこともなく真っ直ぐに私を誘う時、私は貴方を拒否出来ないことなんて知っているくせに。その真っ直ぐな目が好きだと、他の女には言わせないで。

1750.
二つ目の路地を入ると、そこで日常が消える。高いヒール、紅いルージュ、私の日常も消える。別の名を纏う私の前に現れる貴方だけが、いつもと変わらない。揺るがぬ存在に心揺らされ、ストッキングのシームを直す夜の街角。

Twitterにて20150103〜20150226)