Twitter Nobel log 47

2301.
子供の頃、犬を飼いたいと言ったことがあったのを、彼は覚えているらしい。うちの躾は厳しいわよと言った背後から、十年越しの成就だなと笑う上官の小声が憎らしい。それでも彼がそんな些細なことさえ覚えていてくれたことが私の口元を綻ばせてしまう事実が、とても小憎らしい。

2302.
政治の世界で言葉にする重みを知っているからこそ、貴方はすべてを言葉にしたがる。端的な命令さえ貰えれば後は黙々と任務を遂行するだけの、スナイパーの私に言葉は不要。私たちの未来まで言葉で縛らないで。その時が来たら私は黙って貴方の決定を受け入れる、きっと。

2303.
真面目な顔した大将様のポケットの中にはチョコレイトが一つ。疲れた時の気付け薬と真面目な顔でチョコレイトを囓る。例え理論的だとしても、チョコレイトを囓るおじさんは可愛らしいだけですよ。そう教えて差し上げようか迷う、長い付き合いの副官のポケットには予備のチョコレイトがもう一つ。

2304.
ジャムの瓶を開けられない、そんな可愛い女にはならない。自分のことは自分で出来る、一人で立っていられる女でいなくてはならない。そんな私の決めつけを軽々と飛び越えて、わざと瓶の蓋をギュウギュウに締める悪戯な男は私を少しだけ自由にする。仕方ないという言い訳を許すのが、また口惜しい。

2305.
歳の差はさほど無いはずなのに、懐かしいと思う流行歌は違う。彼が口ずさむラジオから流れる曲を、私が知らないこともある。それでも同じ曲に同じ過去を思い出すこともある。深夜のラジオに耳をそばだて、彼もこれを聞いているだろうかと密やかに思う。

2306.
地図を見るのは旅行の為ではなく、国を作る為。そんな視点で世界を見る贅沢を私は知ってしまった。人生を懸ける壮大な旅の終着点を貴方と共に迎える為、私は彼の人生の時刻表を共に覗き込む。そこに広がる青臭い未来を信じて。

2307.
嘘を吐くのはお手の物。貴方も私も二枚舌。傷付けたくないそう思い、嘘で包んでいることを、互いが互いに知っている。嘘吐き二人で想い合い、騙し騙され共に往く。互いの嘘には敏感で、騙されたふりもお手の物。離れず生きていきたいと思う真実隠す為、嘘ばっかりで生きていく。

2308.
待てが出来る分だけ、仔犬の方が賢いと彼女に言われた。ならば駄犬は好き放題に噛み付いたり舐めたりするだけだ。素敵な駄犬の烙印をありがとうと笑えば、返事がないのもご愛敬。上官の躾は出来ても男の躾を怠る彼女の脇の甘さが、私を増長させることに彼女は未だ気付いていない。

2309.
貴方に秘伝を渡さなければ、私は後悔したのだろうか。貴方に秘伝を渡したことを、私は後悔しているだろうか。立ち止まり、振り向いて、自分に問う。答えなんてないことは、最初から分かっている。ただ振り返り、確認するだけ。その答えを見つける為に、私は貴方と歩いているのだから。

2310.
ホットチョコレートにお酒を入れることを私に教えたのは、あの男。暖まると笑う若者を大人だと憧れの眼差しで見たのも、今は昔。今は無様に酔い潰れる彼を冷ややかな眼差しで見下ろす。それでも、放っておけないのが私の駄目なところだと諦めの溜め息一つ零し、突っ伏す男のつむじをつつく。

2311.
静かに差し伸べた手は、にべもなく払い落とされた。それでも、もう一度ゆっくりと彼女を怯えさせないように、そっと手を差し伸べる。この手を取ることを躊躇する彼女に、ただこの手が彼女の為だけにここに在ることを伝えられれば、それだけでいい。空を握る手の意味は、ただそれだけ。

2312.
ものすごく涼しい顔をしている貴方が、自分の出した火の粉を被ってちょっともみあげが燃えていることに私だけが気付いている。士気を上げるべく頑張って精悍な表情を作る貴方をフォローすべく、私は笑いを堪えものすごい無表情を作って貴方の背を守る。誰も近寄ってはならない、彼の名誉と努力の為に。

2313.
甘い甘い恋はしたことがない。ほろ苦く甘さなんて殆ど無い、それでもどこかに甘みを隠している、そんな中毒性の高い想いなら抱いたことがある。それを恋だとか愛だとかそんな名前で呼んだりはしない。ビターなチョコみたいなそんな想いを抱え、広い背中をそっと見つめる。

2314.
君に初めて作ってもらった夜食は、ライ麦パンに胡瓜とハムを挟んだ豪快なサンドイッチだった。質実剛健、大胆不敵、そんな形容詞の似合うサンドイッチを運んでくれた君の可憐な少女ッぷりとサンドイッチの酷いギャップは、未だに私の頬を綻ばせる。あの頃から君は変わらないと、懐かしむ深夜の食卓。

2315.
読書が好き。珈琲が好き。チョコレートが好き。犬が好き。これほど簡単に唇から零す二文字の言葉が、たった一人の人の前では口に出すことすら出来ない。臆病になったのはいつから? ずっと昔は胸の奥でそっと呟いていたというのに。

2316.
いつからか、あまり小説を読まなくなった。忙しくて時間がないというのもあるけれど、一番の理由が現実の方が余程スリリングだから。予測不可能、急転直下、波瀾万丈、危機一髪。大団円を迎えられるか、すべては自分自身にかかっているのだから、力も入るというもの。彼と二人で歴史の1ページを綴る。

2317.
もしもさいごの日が来たなら、貴方は何と言っていくのだろう。道半ばでも「出来る限りのことは為した」と微笑むのか。夢を成し遂げても「まだ足りない。あと五年、せめてもう一年」と悔しがるのか。どちらも貴方らしいと思えるそんな情景を見送るのは私でありたいと思う。ちゃんと見送りたいと願う。

2318.
君には随分と我が儘を言ってきたが、さいごにもう一つ聞いて欲しいことがある。君に膝枕をして欲し……、こら、さいごまで言わせたまえ。だから、膝枕を……痛い、殴るな、威嚇するな、そして泣かないでくれ。さいごまで撃鉄を起こして、莫迦ですかって言って、そして笑ってくれないか。

2319.
映画に出て来た魔法使いの弟子は師匠の言いつけを破って、好き勝手に魔法を使って叱られていた。叱ってくれる師匠を亡くした私を叱るのは、魔法使いの娘であった。叱ってくれる人の存在に救われる私がいることを、今の彼女は知っているだろうか。

2320.
責任を取るだなんてバカを言わないで下さい。ついていくと決めたのは私。秘伝を渡すと決めたのも私。私の決断はすべて私自身が責任をもって行い、結末を見届けるべきもの。だから、貴方になんて背負わせてあげません。貴方が背負うのはこの国なのでしょう? そう言って彼女は壮絶に美しい顔で笑った。

2321.
食事が美味しいと思えるなら人間は健全だと彼女は言うが、彼女が作る食事だから美味いと思える私はある意味不健全だと思う。口に出しては言わないけれど、幾度その手が作り出した食事に救われたことがあるか。君はきっと知らない。

2322.
特別美味しい時、普通に美味しい時、疲れに沁みている時、ぼんやり無心な時、ただ咀嚼している時、私が作ったものを食べる様々な場面で必ずこの人が言う「美味い」という言葉が、私に沁みる。心に効く食事が作れたら、きっと幸福なのだと思う。例え一杯の珈琲だとしても。

2323.
それは内乱の終わりではなく、償いの始まりだった。昇る煙は消えゆく戦火ではなく、燻る罪の燠火であった。後悔も痛みも飲み込むには我々は若すぎて、不甲斐なくも情けない顔を並べて焼け野原に立つことしか出来なかった。それでも、ここまで共に歩いてきた。歩いて来られたのだ。それで十分だと嘯く。

2324.
また明日。未来を約束する言葉を容易く吐く我々は、明日が当たり前にあると信じているわけではなく、その明日を叶える為に日々を生きている。また明日。積み重ねた日々の向こう、約束を叶える日まで、我々は何度も当たり前の言葉に万感の想いを込める。また明日。

2325.
財布を預けられる程度には信頼されている。寝顔をさらされる程度には気を許されている。背中を預けられる程度には認められている。これ以上、私は彼に何を求めるのかと自問する。答えを出してはいけないと頭の中で警報が鳴る。私は何も見ない振りで、彼に与えられたもので自分を満足させるふりをする。

2326.
唇はキスをする為ではなく、威嚇する為にあるの。甘い言葉を紡ぐ暇があるなら、生きる為レーションを咀嚼する。そんな私に血の色のルージュを贈る男の為に、私は深紅の色で武装する。

2327.
二人重なって眠る。
重ねるのは互いの心音だけ、それだけでいい。
このひとの隣で生きている。
このひとが隣で生きていてくれる。
それだけで、それだけでいいのだ。

2328.
意気地なしと意地っ張り、言い訳ばかりで生きていく。いつも一緒にいる癖に、未だに一歩が踏み出せない。戦場(いくさば)ばかりに入り浸り、命を預けて幾星霜。一途な想いを胸に秘め、共に居る意味噛みしめて、いつかの夢へといざ行かん。
(“いろは”の“い”)

2329.
失恋の苦さがどんなものか知らない。私の恋は叶いも敗れもしないから。私が口に出さない限り、彼は見ない振りをしてくれるから。彼の傍に居る時間は愛おしく、狂おしく、切なくて、苦しく、離れられないことが幸福なのか、不幸なのか分からなくなる。回転木馬を追いかけるよう、終わりのない堂々巡り。

2330.
テロにも屈さぬ碌でなし、彼が吐露する疲労の色も風呂で流して濾過をして、ピロートークで昇華する。貴方を慰労するプロと自負する心の置き所。
(“いろは”の“ろ”)

2331.
ハードな状況鼻で笑って鼻歌ハミングする彼は、判断力にものを言わせて腹の据わったはかりごと。采配ふるって敗走避けて、武闘派気取り覇者気取り、這いずってでも生き残る。そんな貴方の背後に侍り、約束果たすその日まで、私は彼から離れない。
(“いろは”の“は”)

2332.
ハヤテとハボックはべらせて、敗者の大佐の歯ぎしり聞いて、ハーレム築くハプニング
(“いろは”の“は”派生)
 
2333.
部下から取り上げた煙草を一服。童顔の眉間に皺を寄せ、似合わない紫煙を吐く。感情を隠すのが下手だからって、そんな小道具に逃げるなんて貴方らしくない。そう思っても口には出さず、私は紫煙が目に沁みた振りで貴方と同じ顔で眉間に皺を刻む。

2334.
ガラスの靴を落として王子様を待つなんて柄じゃない。ガラスの靴なんて脱ぎ捨てて裸足で走ってくるようなじゃじゃ馬娘。荒野の野生馬には、きっとその方が似合い。軍靴を鳴らし、死の足音を撒き、ひたすらに前だけを見て、走れ。

2335.
「今、何してる?」「貴方からの電話がなければ眠っているところでした」そんな堅い口調の奥に眠れぬ夜の気配が漂う。この季節は思い出すことが多すぎて、君も私も夜の長さを持て余す。それでも互いに素知らぬ顔で、いつも通りの上官と副官ごっこ。いつもより長い電話が二人を繋ぐ事にも気付かぬふり。

2336.
時折、日常が何か分からなくなることがある。ヒールを履いて街を歩き、笑顔で露店の林檎を買う。軍靴の踵を鳴らし街を見回り、険しい顔で銃把を握る。私の一日の時間の中で占める時間が多いのはどちらだろう。ただ一つ言えるのは、どちらの状況においても貴方が隣にいる。私の日常は貴方の隣に。

2337.
愛だとか恋だとか名前を付けるから面倒になる。名前が無ければ呼びようがないし、認識のしようもない。それが逃げだと言うなら言えばいい。他人の評価ほど、どうでもいいものはないのだから。きちんとそれと向き合う日は、私と彼が決める。その日までは簡潔に上官と部下で。

2338.
「雨の日は無能なんですから」土砂降りの中、濡れ鼠の彼女が挑発的に笑う。下など向いている暇のない私は、シニカルな笑みを浮かべ彼女を迎え撃つ。「ならば試してみればいい」噛み付く様な口付けに掴んだ手が震えていることなど最初から気付いている。どんな手段を使っても、我々は前を向いて生きる。

2339.
暖めて欲しいなんて言わない。寄り添いたいなんて柄じゃない。背中合わせ守る背中が一瞬の熱を交わし、交差する視線が互いの命運を見極める。私たちの想いの表現は戦場の中にある。命の限り。比喩でも、大袈裟でもなく、ただ文字通りに。

2340.
馴れ馴れしく呼びかける言葉は知らない。命令、諫言、報告、暗号、敬語も文語もモールスも自在に使いこなすのに、想いを伝える言葉は知らない。それが軍人として生きると決めた私の言語。

2341.
女の扱いはお手の物、出世頭のエリートで、沢山の学術書を読み漁り、錬金術を理解する優秀な国家錬金術師が、たった一つの言葉を扱いあぐねているなんて、世の誰が思うだろうか。もう何年も胸の内に温め続けた言葉を口に出す日は来るのか、それは彼本人にすら分からないことなのだから。

2342.
忘れられない人がいるの。幼い頃、父と二人きりの生活に薫風を吹き込んでくれた黒髪のお弟子さん。真っ直ぐで熱い瞳をした若者はもうどこにもいない。そう、それは貴方じゃないの。

2343.
目覚めれば貴方はいなかった。やっぱりね、と自分に言い聞かせる様に呟き、体温すら残さぬ男の残り香に捕らわれ手、朝の手前で立ち止まる。いつもの朝の支度を始める前に、もう少しだけとシーツに頬を埋める。

2344.
私の前に銃を錬成を行える男が、正しく銃の仕組みと構造を理解していることは自明。物理学も熱力学も理解している筈なのに、何故あれほどまでに的に当てると言う行為が下手なのか。私には理解出来ない。「じゃあ、君はどうやって当てている?」「狙って撃つだけです」「ああ、その通りだね……」

2345.
執務室のソファで仮眠する上官の軍靴の汚れ。伊達男の隙、上官の不備、余裕の無い事情。明日の朝にはきっと磨き上げられてしまう、彼の綻び。副官の顔で少し笑って毛布で覆い、自分の軍靴を磨く。

2346.
朝まで一緒に過ごした事なんて、数え切れないほどあるわ。仕上がらない書類の山。緊迫したテロリストとの対峙。夜汽車での移動。バカ騒ぎの飲み会。触れもせで、ただ同じ時を同じ空間で過ごす、朝まで。青い軍服が隔てる貴方と私の夜は、ひとりにすらなれない孤独。

2347.
信じているものは、この銃とそれを扱う自分の腕一本。彼を信じて良いかどうかは、未だ見定める道半ば。上官として、錬金術師として、一人の男として、私は彼の中に何を求めるのだろう。己の心さえ見定められない私には、神様の居場所すらない。

2348.
父の遺したそれは、彼にとってはまさに聖遺物。
私にとっては、身に刻まれたただの異物。
私たちの間に生まれた最初の齟齬。
それが意味を失う日を、私達は血の河を渡り汚泥を啜りながら待ち侘びている。

2349.
心はあの日に置いてきた。感情を殺して生きれば、現状を生き抜くことは容易い。頭ではそう考えたとしても、胸の内で跳ね回る想いは消えることなく私の中で甘い過去を反芻する。その度に私は私の中に住まう小さな私を撃ち殺し、砂礫の大地に埋める。あの日、私が埋めた異種族の子供と同じように。

2350.
嘘をつく時の君の癖。子供の頃から変わらない小さな癖。大人になってから頻繁に見る様になった癖。知らない方が私は幸せだったのかもしれない君の癖。それでも、きちんと受け止めたい君の癖、君の嘘。

(20161202〜20170518)