2002-01-01から1年間の記事一覧

Desert Rose サンプル

1.出立 「大尉、旅に出ないか?」 聞き慣れた男の声が紡いだ思いもかけない言葉が、リザを呼び止めた。 昼下がりの東方司令部は穏やかな陽射しに包まれ、珍しくロイのスケジュールには会議の予定も面談のアポイントメントも入っていなかった。これ幸いとリ…

アマイメマイ サンプル

1.言葉は宙に舞い、想いは地に残る まるで白い闇のようだ。 ロイはそう考えながら、僅かに皮膚の上に残ったぐらぐらと己の輪郭が揺らぐよう不安定さに眉を顰めた。二度目とは言え、自身の肉体が分解、再構築されるという経験には、どうにも慣れることが出…

閉じた世界に囚われた君を救い出す為の連立方程式 サンプル

火曜日の三時限目と四時限目の間の休み時間、梨紗はいつものように窓際の自分の席から窓の外を眺める。今日は通るだろうか? いや、ダメもとなんだから、期待はしない方がいい。偶然。そう、偶然姿が見られたらいいな、そのくらいにしておかないと。 中庭に…

Lettersサンプル

前略 元気にしているだろうか? 君に何の説明も出来ないまま、突然姿を消すような事態になってしまって、本当にすまないと思っている。 いろいろ考えたのだが、やはり、ずっと世話になってきた君に一言もなくあの家を出たことは心苦しく、今更ながらきちんと…

分水嶺 サンプル

サンプル1 驚くほど声の良い男だ。 それが、梨紗の増田への第一印象だった。 こうして職員会議で何てことのない発言をしている時でさえ、無駄に朗々と響く声が耳に心地好い。 梨紗は学年末考査の時間割が書かれた手元の書類をぱらりとめくって、少しだけ思考…

ただいま おかえり いってきます サンプル

1.ファースト・インプレッション 仕事に疲れ帰宅した彼がドアを開けると、暖かい部屋の中は緩やかなリズムで満ちていた。 まな板の上で野菜が刻まれていく音は、四分音符の軽やかさで彼を迎える。それは彼が少年の頃から聞きなれた、彼女が奏でる音楽の一つ…

Carpe diem サンプル

1.始まりの夜 霧のように細かな雨に煙る街に、駅前の広場の時計が二十時を告げる鐘が鳴り響いた。 リザはその音に一瞬立ち止まり、傘の縁越しに星の欠片も見えない真っ黒な夜空を見上げた。そして彼女は、少しだけ歩くスピードを上げる。 特に時間の約束を…