Twitter Nobel log 25

1201.
「先程オレオレ詐偽と思われる電話が掛かって参りました」「何!」「大佐が列車内で痴漢行為を働き示談金が必要だと」「何だと! それで君はどうした?」「大佐の一人称は“私”です、と言って切りました」「……信用されている訳ではないのか」「何を今更」 (もし、あの世界に「オレオレ詐偽」があったなら)

1202.
「先程オレオレ詐偽と思われる電話が掛かって参りました」「何!」「大佐が列車内で痴漢行為を働き示談金が必要だと」「何だと! それで君はどうした?」「大佐は私の尻以外の尻には興味を示しません、と言って切りました」「……私はどう反応すれば良いのかね」「お好きにどうぞ」 (もし、あの世界に「オレオレ詐偽」があったなら)

1203.
君の優しい言葉は小さくて早口でとても聞き取りにくいから、だから私は君のそばに近付くしかないのだよ。だから、この距離を諦めるか、もう少し大きな声で言ってくれないか? そんな甘い言葉をくれるなら、結末は分かっているのだろう?

1204.
軍服に腕を通せば、切り忘れた爪が袖口に引っ掛かる。駄々をこねる私のように、二人の時間の終わりを拒む小さな抵抗に見える。爪を摘むのと同じ容易さで、この心もコントロール出来れば良いのにと思いながら週明けの朝、出勤の為に貴方に背を向ける。

1205.
ベッドに潜り込み眠りにおちるまで五秒、疲労困憊の夜の瞬殺カウントダウン。無意識に伸ばした指先が温もりに触れる残り三秒、殺伐とした一日の終わりに思い出す生きている意味。カウントゼロのおやすみなさいが、私を明日へ導く。

1206.
「死なない」と「死ねない」は、僅か一文字の違いで大きく意味を変える。望まれて生きること、想いに義務付けられた生、不死身よりも強い心が私を動かす。貴方のオーダーが私の命だと知り、何を今更と自分を笑い飛ばす。そう、出会った日から私は貴方と共に生きてきた。

1207.
私の銃が撃ち抜くものは酷く即物的で視覚に基づくものばかり。貴方の思考が見据える遠い未来にまでは、私の照準は届かない。足元から立つ鳥を打ち続ける私の銃の照準は、私が望むよりも短すぎる。(高村光太郎リスペクト)

1208.
愛だとか恋だとかを恥ずかしげもなく語るほど若くはないし、言葉がなくとも通じるものがあると信じるほど初でもない。だから節目節目で私は後ろを振り返り何度でも問い直す、「ついて来るか?」と。「何を今更」という返事に己の行く先を確認しながら。

1209.
君と並んで人生を歩く。君の横に並んで手を繋ぐ人生ではないけれど、君の前に立ち背中を預ける人生ではあるけれど。目と目を見交わし微笑み交わす人生ではないけれど、その厳しい瞳にジャッジを委ねる人生ではあるけれど。私は、君と並んで人生を歩いている。

1210.
抱きあって当たる腰骨に、男の人だなぁと思う。触れる肌の無精髭に、男の人だなぁと思う。視線の先にある喉仏に、男の人だなぁと思う。抱擁を交わすだけで肉体が、彼と私が違う生き物だと主張する。何となく突き放されたような気がして抱擁が私を少し寂しくさせるなんて、男である彼はきっと知らない。

1211.
日付が変わるまで五分。今日一日を君なしで過ごす物足りなさ。電話をするにも深夜のこの時間。遠慮するべきか、君も私を待っていると自惚れるべきか、柄になく惑う。夜が明ければまた一日嫌でも顔を合わせるというのに。一日に少し足りない時間に気付いてしまった。君という存在が足りない私の人生の一日。

1212.
多分二人の間には、口に出さない言葉の方が多い。それを不自由と思うか、気楽だと思うか、そんなものは二人の心の在処次第であるらしい。過去には苦しかったそれが、今はこんなに穏やかな心を私にもたらす。言葉なんて、少しでいい。本心からそう言えるまでに十年かかった。十年もかかってしまった。

1213.
私はいつも、貴方との距離を間違える。射撃訓練で的の中心を射抜く方がまだ容易く思える程に。どれだけ近付いても、どれだけ遠ざかっても、間違えてしまったと思う。いっそ常に傍らにある必要などない関係であれば良かったのかもしれない。私は一体どこで間違えたのだろう?

1214.
髪を上げる仕草が、彼女を無防備にする。両手をふさいで腋を見せて、そんなに無防備で大丈夫かと危惧する程に。私の前でなら無防備でも大丈夫と思われているのなら、それは喜ばしくもあり、哀しくもあり、我ながら面倒なことだと、彼女の軍服の高い襟に守られた項を見て私は笑った。

1215.
外し損ねたネクタイがリードの如く彼女の手に引かれる。職務においてはいつも飼い犬扱いの彼女の意趣返しに、私は諾々と笑って従う。犬ならば舐め回して飼い主に愛情を示すのも必定。さて、覚悟は良いかね、ご主人様?

1216.
石畳に重なって響く足音が、私が一人ではないことを教えてくれる。だから、私は振り向かない。だから、私は振り向けない。愛しく切ない二律背反、私はただひたすらに前を向く。

1217.
人殺しの指先が、こんなに震えているなんて、きっと誰も知らない。兵器と呼ばれる指先が、こんなに躊躇っているなんて、きっと誰も知らない。きっと貴方自身でさえ。だから私は、その震えも、躊躇も、哀しみも、決意も、すべてを私の中に刻みつける。共に歩くとは、多分そういうこと。

1218.
久しぶりに軍服姿ではない君を見るオフの日、珍しく普通のデートのように映画でも見てみるかと入った暗闇で二人して眠りこけラストシーンを知らないという失態をおかすとは。切れ切れの記憶を二人パズルのように繋げあい、二人で一本の物語を紡ぐ。まるでいつも通り、補完しあい生きる私達。

1219.
時は容赦なく流れ、季節は移る。住まなくなった家は古び、軍服の袖も擦り切れる。戦場は廃墟と化し、父が死に、朋友が死に、ただ呆然と取り残される。皺が増える、髪が減る。時は容赦なく流れる。変わらぬものなど何もない。貴方の傍らにあるという事実以外は。たったひとつの、私の人生の、真実。

1220.
時々、二人どろどろに溶け合ってひとつになってしまえれば良いのに、と思う。でもひとつになってしまったら、貴方と手を繋いでもそれは私の手になってしまって、私の好きな私より高い体温を感じることが出来なくなってしまう。だから、二人はふたりのままで良いのだと思う。ふたりのままが良いのだと思う。

1221.
「中尉、今の私には魂かけて叶えたい夢がある」「何ですか。起き抜けから、藪から棒に。またミニスカですか?」「違う! もっと人類の根元的な望みだ!」「朝から壮大ですね。何ですか?」「仕事を休んで、このまま好きなだけ寝ていたい」「……永遠に眠らせて差し上げましょうか?」

1222.
泣いても良いですか? と聞かれても困る。私はそれに上官の顔で答えて良いのか、男の顔で答えて良いのか、分からないのだから。よしんば許可を与えたとして、私の手にその涙を拭う資格はあるのか。そんなことを考える程度には私も莫迦な男であるのだ。君に答えを与えない、ただの卑怯な男であるのだ。

1223.
綺麗な世界だけを見ていたら、幸せになるのだろうか。あまり綺麗ではない世界ばかり見てきたけれど、それなりに幸せだと思えるのは、きっと望む人の傍らに望まれて生きているからだろう。汚れた手に掴むただ一つの温もりがあれば、私の世界は満たされる。美しくなくても良い、私の世界は貴方のもの。

1224.
私の手が彼女の軍服を剥ぐ。彼女の手が私のオールバックを崩す。互いを昔の名で呼びあう為に必要な私達の武装解除を行って、いい加減いい歳になった筈の私はまた今日も生真面目に彼女に問う。「君に触れても、構わないかな?」

1225.
貴方に向かうこの気持ちに名前をつけよう。尊敬。感謝。憧憬。執着。羞恥。哀憐。悲哀。焦燥。緊張。安心。依存。狂気。信頼。肉欲。母性。それら全てをまとめると、たぶん愛情という感情になるのだろう。人生かけて積み上げた眼差しの温度の名。

1226.
世界に探究すべき真理は数多あるけれど、最も不可思議は君という存在。分解する訳にもいかないし、再構築しても謎は謎のままだろうし、さて、どうしたものかと私は思案する。全て分かってしまったら、つまらないでしょうと君は笑う。そのくせ理解しないと怒る。まったく不可思議で、目が離せない。

1227.
朝、ベッドの中で嗅ぐ珈琲の香りは、幸福のひとつの代名詞だと思う。いつもは横柄にカップを差し出す男が、私の為に珈琲を淹れてくれている。きっと錬金術の実験みたいに、難しい顔で黄金比が何とか言いながら。少しの面映ゆさが私の頬を緩ませる。だから、もう少し眠ったふり。

1228.
流行りの鞄やチェックのストールなんて、自分で買うくらいの甲斐性はあります。豪華なアクセサリーやドレスは、使う場所がないので要りません。私が貴方から欲しいものは、お金で買えないものなので、気にしないでください。では。

1229.
切れた電話はプープーと不快な音をたて、何百キロも離れた土地にいる彼の存在を隠した。私はそれでも繋がっている空気を手放したくなくて、受話器を置けずにいる。「会いたいです」と呟いてみるのは、届かないと安堵しているから。たった二日の出張がもたらす孤独すら、私はもて余す。

1230.
正直な言葉がふたりを切り裂くから、貴方が嘘を吐く箇所はいつも決まっている。嘘で作ったルールが私たちの本当を守るなら、私たちにとっては嘘さえ正義。手足をぼろぼろにして、痛い嘘で切り刻まれて、それでも守りたいのは心の臓の在処。私の中の貴方が住まう場所。

1231.
嵐が来るとラジオが喚く。私の装備が倍になる。たとえ二丁拳銃だろうが、実質彼の手袋一枚に私の火力が到底敵わないことは分かっている。それでも私は私の為すべきことを為す。嵐の中だって、傘があるとないでは少しは違う。その程度の私でいいと、曇天を見上げる。

1232.
寝不足の頭の中はひどく乱雑で、整合性の欠片も残っていないように思えた。それなのに、仮眠室に入って来る副官の姿を見た次の瞬間、私の口は自分でも驚くほど滑らかに命令を羅列する。彼女は私のスイッチなのかと、私は青い軍服に袖を通しながら明瞭になった思考の中で笑った。

1233.
夢を語ったのは彼で、夢を見たのは私。叶えられなかった夢は、二人の間で悪夢になった。自分たちの手で真っ黒に塗り潰してしまった夢を捨てられないまま、私たちは大人になった。もう一度夢を語った彼、もう一度夢を見る私。あの砂礫の大地に今度こそと、私たちは未だ幼い夢を見続けている。

1234.
転んだところで大人は自分の力で立ち上がるより他はなく、痛みというものは何でもない顔をしてやり過ごす。そんな莫迦な痩せ我慢を貫く時、昔と変わらず同じ痩せ我慢のひとが隣にいることに救われる。大人なんて、その程度。変わったのは、珈琲をブラックで飲むようになったことくらい。

1235.
忙しさにかまけ、自分の誕生日すら忘れる。彼が無言で私のデスクに置く贈り物の小箱が、私にそれを思い出させる。毎年ひとつずつ増えていくピアスに、私たちが共に重ねた年月を数える。触れられぬ硬質の輝きが、彼の代わりに私に触れた。

1236.
欲していないものは簡単に手に入る。知識も経験も女も。人殺しの技術、戦争のトラウマ、情報通の娼婦。渇望するものには手が届かない。夢も希望も女も。国の平和、友と共に夢見た未来、副官の彼女。それでも私は望むことを止めない。諦念のスマートさより、執念の泥臭さを私は愛そう。

1237.
手が空かない彼が私が受け取るべき書類をくわえて、忙しなく手帳をめくる。他の男なら嫌悪感を抱く行為が、相手が彼であるというだけで、私には揺らぎになる。一瞬の夢想を己に許し、私は乾いた唇の痕跡に触れ、幻の口づけに酔う。

1238.
渡しそびれた薔薇は他の女に贈られると勘違いされ、立ち去る彼女の心に棘を刺し、それを見送るしかない私の握った掌に穴を開け、薔薇の存在意義を消した。三者三様の痛みに関する罪を私は背負い夜の街を歩く。痛みは掌よりも胸を刺す。薔薇の復讐、刺さった棘は抜けない。

1239.
手紙の封を開くのに、こんなに胸が騒ぐのは、あの人の字が私の名を綴っているから。優しく私の名を呼んでくれた、数年前までは見知らぬ人だったあの人の声を思い出し、私は彼が書いた私の名を指先でなぞる。「はい」と返事をしても、あの人の声が聞こえないことは、分かってはいるけれど。

1240.
派手なネイル。高いヒール。繊細なストール。大粒のパール。貴方が私に仕掛ける趣味の悪い人形遊び。副官のルール。軍人というレール。だから私はクール。なのに貴方はフール。私に必要なのは、この青い血塗れの軍服だという事実から目を逸らさないで。

1241.
私があの男に抱かれること。それは、かさぶたが気になってめくってしまうのと同じこと。その時はちょっと痛くて、でも快感で、後からジクジク痛んで後悔する。痛くって、ちょっと泣いてしまったりすることもあるけれど、やっぱり止められない。そんな小さな自罰的な中毒。ああ、また血が出ちゃったわ。

1242.
気安く愛を語る人間を見て笑う。それが嘲笑ではなく、自嘲であることは人には分からないだろう。この手を伸ばせば掴めるものに手を伸ばせない私の、自嘲の笑みは妬みの笑み。

1243.
目覚ましにとびきり熱い珈琲をご所望。冬の始まりを告げる、私の中の風物詩。そろそろカシミアのセーターを、引っ張り出してきましょうか。一迅の風よりも彼を見て季節を感じる私は、きっと莫迦だけれど幸福だ。

1244.
少し猫舌の君が私に淹れてくれる熱い珈琲。熱量の差分は、どうやらミルクで埋めるらしい。君が毎日カフェオレを飲む理由が愛しい。

1245.
私に制御出来るもの。上官のデスクワーク、銃の弾道、副官としての私。私に制御出来ないもの。上官の現場での暴走、私の眼差しの行方。この指先が眼差しに追従しないよう、私は私自身を律す。

1246.
夜が明けることに恐怖を感じる。己が兵器になり下がる恐怖。それを割り切る己の心への恐怖。彼女の目がそれを見る恐怖。彼女の手も血に染まる恐怖。その事態を招いたのが己の言葉であるかもしれない恐怖。全てを赤裸々に照らす太陽が私を追い詰める。

1247.
夕焼けが綺麗だと、そんな理由でキスをする。明日生きているか分からない。だから、そんな些細なことすら理由にし、言い訳にし、私たちは唇を重ねる。粘膜に刻み込む感情は、刹那の体温と同義。愛していると言わないで互いの思いを確かめあう為の方法を、私たちはそれしか知らない。

1248.
雨を見ていたのだと、ずぶ濡れで言われても笑えもしない。無能になるだけなんですからいい加減にして下さいと小言を垂れる私は、貴方の闇に触れることも出来ない。捨てられた仔犬みたいな目をするくせに、手出しを拒む狡い男。差し出したタオルの水滴が冷たい。

1249.
夜更かしの読書の理由が、この本を読破してしまいたいからという単純なものと、彼女の寝顔を見たいからという邪なものと、二つあることは私だけの秘密。夜にだけ我々の間に訪れる平穏の確認方法。穏やか彼女の寝顔に、私は日中の苦悩を忘れる。

1250.
「すなまい」「助かる」「ありがとう」そんな一言を素直にくれる人だから、ついそれで満足してしまう。それで十分なのだと思う自分の奥底に隠したもう一つの感情は、見ないふり。

Twitterにて20130913〜20131107)