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1851.
やけ酒なんてらしくないのに
さい終的にアルコールに負けた君を
しかたないと言い訳し
いえに連れ帰る。
うっかり関係を持ってしまったとしても
それは酒のせい。ただ酒の見せた幻。
つたない口付けに
きみが隠した想いを受け取る。

1852.
ひきつる顔を隠し
どうどうといつものポーカーフェイス。
いつも通りに過ごすのが、貴方に報いる答え。
うっかり飲み過ぎたなんて嘘。
そう、本当は胸の奥で望んでいたのだ。
つまらない意地を張る私なのに
きすさえ無かったことにしてくれる貴方の優しさが痛い。

1853.
国の命運を左右する戦いと言われても、それがどうしたと彼は笑う。別にそんなもの懸かろうが懸かるまいが、彼はいつだって全力を尽くす。士気を上げる道具としての余裕の笑みを支える為、私は私のベストを尽くすべく、ポーカーフェイスで撃鉄を起こす。

1854.
昔、凄まじい美女を食事に誘ったら、破産するまで食べてやると言われたことがあった。そんな話をしたら、それ普通に振られてますよと彼女は素っ気なく私に背を向ける。あの方なら本気で破産させられかねなかったのだがと苦笑し、私は可愛い美女を食事に誘う。

1855.
私の嫉妬を煽ろうとしても無駄です、と言いたいところだが過去にさえ胸を刺されるのが実情。情けない私に貴方は種明かしをし、過去を懐かしむ。確かにあの女傑ならと納得する一方で、相手が誰であれ嫉妬心に変わりはないのだと思い知る。貴方のことに関しては、特に。

1856.
綺麗な花には棘がある。私の花は棘だらけ。棘ごと包んで宥めよう。だって私の花だから。棘があっての花だから。

1857.
大それた願いを望むなら。人民が私を忘れさり、この国が初めから民主制をとっていたかのように思い込む時代が来ることを願う。もう少し贅沢を言うならば、ただ一人の女がそれを胸の片隅で誇ってくれたなら、それが本望。

1858.
この国のトップに立ち何千万という人間を動かす男のくせに、たった一人の女の心を動かすことを躊躇する。そんな男(ひと)だから、付いて来たのだと思う。そんな男だから、心揺れるのだと思う。
(ロイの日)

1859.
忙しさにかまけ帰らずにいた故郷は、まるで私の知らない街になっていた。老夫婦の営む花屋も気のいいパン屋もなくなり、私は愕然と立ち尽くす。私の寂寥を察した彼は、私の肩にそっと手を置く。振り向き見上げるその瞳は、お弟子さんだった頃と変わらない。ああ、私の故郷は彼の中にある。

1860.
悪い男のふりをする。貴方の悪いくせ。夜遊びしても、気を張りつめて情報の欠片を拾い集めているくせに、朝帰りの伊達男を気取る。溜め息くらい零しても構いませんよ? 私の前でなら。

1861.
彼と私の関係を分かり易い言葉で表すならば。『珈琲を淹れる時は必ず二杯、朝も昼も夜も』この言葉をどう捉えるかは、聞いた相手の想像にお任せ。一日中仕事をしているワーカホリック? 或いは、公私ともに過ごすパートナー? 答えは誰にも教えない。

1862.
私の足元でピシリとお座りをする仔犬の姿に、飼い主の姿を重ねて苦笑する。直れと言っても通じないから、好物のジャーキーで釣って腹を見せさせる。さて、飼い主の方を釣るには何が必要か。さしあたって思い当たる物がないので、捕まえてキスで釣る。

1863.
ふと気付いて、在るべきものが無い不安に狼狽える。本当は最初から私が持つべきものではなかったのかもしれないけれど、一度手に入れたら、手元にないと不安で落ち着かなくなってしまう。銃然り、貴方然り。

1864.
あまり笑わないひとが笑うと、もっと笑わせたくなる。だが、元来のその笑顔を奪ったのは私でもあるわけで、だから、私にはその資格もないかと首を振る。仔犬ですら出来ることが出来ない私は、軍の狗。青い軍服が私と彼女を繋ぎ、そして隔てる。

1865.
これは人生の岐路だ。故郷を捨て、あの人の後を追い、士官学校に入る時にそう考えた。不安も恐怖もあったけれど、あの人を思えば迷いはなかった。多分、その時点で私は気付くべきだったのだ。私にそんな強い想いをくれるあの人に出逢った日が、私の人生の分岐点だったのだと。

1866.
彼の頭頂部に白い毛を見つけた。白黒はっきりつけたがる青臭い彼も曖昧なグレーに染まる日が来るのかと、感慨深く共に重ねた月日を思う。この髪が真っ白になる日まで、こうして日々を重ねられたらと願う。

1867.
彼の頭頂部に白い毛を見つけた。彼は薄くなる方ではなく、白くなる方らしい。少し安心すると共に、ツルツルなったらなったで毎日撫でてあげたくなって困るだろうなと別な意味でまた安心する。どんな彼でも、私には変わらず愛しい男。

1868.
いっそ君に駄目出しをされたら楽になるのかと、いつになく弱気な貴方は私のホルスターを見る。私はこの上なく優しく笑い、貴方の頭を胸に抱く。殺してなんか差し上げません。だって、貴方はとても真っ当に生きておいでですもの。真っ当に生きておいでだからこそ、生きるのが辛いのです。貴方も、私も。

1869.
日差しと火薬に荒れた手を、君は恥じらう。グリップを握り反動を殺す武張った手を、私は愛しいと感じる。お手をどうぞ、レディ。戦場の死のワルツは、君としか踊れないのだ。

1870.
記念日だ何だと騒がしい世間が苦手だ。大切な日はただ静かに二人過ごせれば、それでいい。目と目を交わし、互いがそこに在る事実に幸福を噛み締めたら、満ち足りる。記念日という点ではなく、共に積み重ねた日々の全てを愛おしむ。笑顔も怒りも哀しみも、二人で重ねた全てを。
(6/11!)

1871.
背負った荷は重いが、二人で背負えば半分になる、……などということはない。互いが背負った荷は各々のもの。分かち合うことなど出来ない。ただ、互いが背負ったものを理解し、その重さに共感することが出来る相手がいることが救い。それでさえ奇跡であることを、私達は知っている。

1872.
寝返りと共に零した無意識の小さな溜め息を聞き咎め、「眠れないのか?」と私を抱き寄せる腕のある幸福。傍らにこの腕の主がいる夜が私を包んでくれるから、昼間の私は真っ直ぐ前を見て歩いていられるのだと思う。

1873.
彼女の窓を見上げ、手の中の小銭を弄ぶ。百戦錬磨の軍人の筈が、こんな時にはダイヤルを回す指が緊張に躊躇う。どんな敵より手強いのは、背中を預ける私の副官。

1874.
もしも貴方から『最期の命令』を与えられる日が来たなら、きっと貴方は私に「生き延びろ」と言うだろう。それがどれだけ残酷な命令か分かっていても、貴方は必ずそう言うだろう。私はその時、その命令に従えるだろうか。貴方の副官になってから、ずっとそんな命題を胸に抱えて生きている。

1875.
この人は、何故私の頭の上に顎を載せているのだろう。嫌がらせなのだろうか。親愛の表現なのだろうか。巫山戯ているのだろうか。休憩なのだろうか。混乱したせいで、うっかり撃鉄を起こすこタイミングを逃してしまった。首を傾げることも出来ず、私はよく分からない距離に溜め息をこぼす。

1876.
非常階段の真ん中でキスをした。触れるだけのキスがあまりに微かに震えていたから、確かに今は非常事態なのだ。弱音も涙も零さぬ君の感情を引き出す。怒っても甘えても、構わない。上がるも下がるも、後は君次第。だから、非常階段の真ん中でキスをする。

1877.
余すことなく私を味わう貴方は、私の涙の味まで知っている。貴方に女である私をさらけ出すことは受け入れられるけれど、私の弱さをさらけ出すことは絶対に避けたかったというのに。私の弱さを知ったら、貴方は私を置いていくでしょう。私にはそれが一番の恐怖。

1878.
決して手放さないという私の言葉を、君は信じていないらしい。この国の未来と私の命と全てを懸けた場所にまで、君を連れて行ったというのに。約束の日、それは私にとっての決意の日。見えない景色の中で君だけを感じたあの日を、私は生涯忘れない。

1879.
アルコールは便利だ。見詰め合う眼差しも、求め合う言葉も、欲し合う身体も、全部さらけ出す口実に出来る。アフターケアも万全。覚えていないふり、何もなかったふり、酒の席の過ちのふり、でなかったことに出来る。そんな意味で、私達はアルコール依存性。

1880.
珈琲を持ってきた彼女が、何の脈絡もなく「ありがとうございます」と言って、去っていった。珈琲の礼を言うのは私の筈だが、私は何かをしたのだろうか。追究しようか考え、私は野暮を諦める。何も言わない彼女なのだ、役に立てたなら、それで重畳。

1881.
共に昼食を食いっぱぐれた激務の午後、気付けば机上にカラフルな飴玉が転がっていた。こんなところは女の子なのだと、私は笑みと共に糖の塊を口に放り込む。腹は満ちぬが、心は充ちる。馳走には馳走を返すべく、ディナーまでの解決を目指し、私は午後を走る。

1882.
共に昼食を食べ損ねた激務の午後、珍しく上官の淹れてくれた珈琲に砂糖がたっぷり入っていた。脳みその栄養なのかと私は笑い、甘ったるい珈琲を胃に流し込む。ぽかぽかと熱量が充ちる。甘いものには甘いものを返すべく、私は残業回避の為、サボり魔に向けて撃鉄を起こす。

1883.
愛だとか恋だとか、上司だとか部下だとか、言葉に変換すると、何かが違う。過不足なく私たちを表す言葉が見つけられないから、私たちはこの関係に名前をつけないでいる。多分、それが私たちにとって一番自然で、一番心地好い関係なのだと思う。そうである限り、私たちの関係は無限であるのだから。

1884.
幼い頃から、あの広い背中を追いかけてきた。あの背を追って士官学校に入り、あの背を守るため撃鉄を起こしてきた。正面から抱き合う勇気を持たない私に寄り添うことを許させる貴方の広い背中に、私は全てを預ける。

1885.
彼は無能ではない。ただ少し血気に逸り過ぎて、時々迂闊なことをしてしまうだけなのだ。その分を私がフォローするのだから、他人に文句は言わせない。彼を無能呼ばわりして良いのは、背中を預かる私だけなのだ。

1886.
職務で緊急に呼び出されて、化粧さえしていない顔を見られることもしばしば。寝不足の隈も、夜勤明けの寝起きも、酷い姿を山ほど見られている。それでも貴方は飽きずに美辞麗句をくれるから、うっかり信じそうになる。困った人間だ、貴方も、私も。

1887.
寝顔も素顔も全て平気で見せてきたし、見られてもきた。それでいて、一緒に住んでさえいないという私たちなのだ。この不可思議な関係を成り立たせる上官と部下という距離が、今の我々にはちょうどいいのかもしれない。そう思いながら、顎の無精髭に彼女の視線を感じる。

1888.
荒れ模様の天気と言うが、雨が降ったら無能扱い、晴れたら晴れたで前線に出るなと煩い。君に守られて後方でふんぞり返っていろとでも言うなら、大間違い。君に背を任せる理由は、そんなところにはないことを知っているクセに。君が荒れようが、空が荒れようが、私のいるべき場所は常に最前線なのだ。

1889.
頭の痛いもの。荒れる空、我を通す男、それをフォローしてしまう自分。仕方ない、何を今更。自分を騙す呪文を唱える私は、雨の中を今日も広い背中を追いかけ走る。

1890.
嘘を吐けばいいなんて、酷い男だ。今の時点で、私がどれだけの嘘を重ねているのか知っているくせに。だから、私は笑って「嘘は嫌いです」と言う。それすら嘘なのだから、もう私は笑うしかないのだ。嘘に縋って、私は貴方の隣に立っている。

1891.
走り出す一歩の幅は、貴方の三分の二。それでも、私が遅れず付いて来ることを疑わぬ貴方の信頼が私を熱くする。走れ、走れ、私は貴方の狙ったものを撃つ弾丸。

1892.
忘れて欲しいと言われても、目の前にいる人間をどうやったら忘れられるというのか。無茶なことを言うものだと思わず笑うと、どうやら真面目にそう言ったらしい彼女は少し怒って、そして自分でも可笑しくなったらしく少し笑った。その程度の気楽さで、私の傍に居てくれればいいのだがね。

1893.
塵のように路傍で死んでも構わないと思う気持ちは変わらない。ただ、今はその傍らに塵のように死んでも、抱き締めてくれる腕があることを知っている。背中を任せた筈が甘えた話だ。だが、だからこそ私は青臭いままで、前を向いていられる。それが我々の愛情なのかもしれない。

1894.
楽天家の顔をしているけれど、いつも失敗した時の対応策は二つ三つ持っている。自信家の顔の裏に、眼差しを眇める瞬間があることを知っている。そんな風に、少しずつ刻まれた貴方の眉間の皺の理由を、ずっと見てきた。今度はその皺が緩む時間を見守れれば良いなと思う。

1895.
疲れたと言いかけて、背後の気配に言葉を飲み込む。弱いところは見せたくないと思う私は、意地っ張りなのだろうか。だが、分かち合う罪が多い分、これ以上の負担はかけたくないのだ。それが私のせめてもの矜持。

1896.
今日だけは抱き合って眠るひと時を許して欲しい。ただ、温もりが腕の中にあるだけでいい。互いに口には出さないが、胸に溜まった哀しみは消せない。ならば、せめて今だけは、この温もりで私の全てを埋め尽くしたいのです。たとえそれが嘘でも、幻でも。

1897.
ベッドに寝転がって本を読んでいたら、お行儀が悪いですよとお小言が降る。無視していたら、いつの間にか枕にされていた。男の腰など硬いだけのものだろうに、へこみ具合が丁度いいらしい。物好きにも程があると笑い、私は大人しく読書しながらの枕役に徹する。読書灯に照らされる淡いオレンジの幸福。

1898.
二人で共有出来るもの。ベッド、パジャマ、カップはOK。歯ブラシは無理。ブラシはOK。夢、希望、償いはOK。人生は? ……少し考えさせて欲しい。未だ私は私に自信がないんだ。

1899.
少し愚痴をこぼしたいなと思う。貴方の疲れた顔を見て、結局飲み込む。疲れたと素直に言ってくれて、私を腕に抱く貴方がいる。言葉で埋まらないものを埋める温もりに、何となくそれだけで満足してしまう自分が口惜しいと思う。

1900.
今は灯りを付けないで。こんな表情、貴方には見せられない。ただの女みたいに、たかがキス一つで頬に上る朱の色を消せなくなってしまうなんて。暗闇で仕掛けられた駆け引きならば、このまま闇の中に隠したまま終わらせて。

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