flat-topped

「ああ」
 鞄を開けた増田は、少し哀しい声を上げた。彼はペタンコになった購買部の紙袋を鞄の中から取り出すと、そっとその中に手を入れた。
「あー」
 袋の中身を取り出しながら、増田は諦めと悲哀の声を上げる。紙袋から出て来た彼の掌の上には、無残にもスマホと同じくらいの厚さになった焼きそばパンが乗せられていた。

 この日の昼休み、購買部で焼きそばパンを買った増田は、進路に悩む生徒の話を聞くうち昼ご飯を食べ損ねてしまった。部活の前に食べてしまえと思っていたそれは、放課後に立ち寄った生物室でツンデレな彼女に昼食を食べ損なった話をしたせいで、彼女のおやつ攻撃にあい出番を更に失った。しかも、この日の夜は梨紗とのデート。というわけで、彼は一日焼きそばパンを持ち歩く羽目になっていたのだ。
 しかし、さほど荷物も入っていないメッセンジャーバッグの中で、彼の好物がペタンコに潰れてしまった理由はなんだろう。増田は下らない推理に眉間に皺を寄せる。
 増田はほんの少し頭の中で時間を巻き戻し、そして赤面した。
 彼女だ。
 増田は思い当たった理由に、思わず平たい焼きそばパンを握りしめた。

 デートの帰り道。彼はいつも通り、梨紗を彼女の家までバイクの後ろに乗せて送っていった。その途中、急に左折のウィンカーを出した乗用車を避けようと、彼は急ブレーキをかけたのだ。その弾みでいつもお行儀良く彼のジャケットの裾を握ってバイクに乗る梨紗は、彼の背中に衝突した。きっと、その時に彼と彼女の間に挟まれたバッグが潰れ、必然的に焼きそばパンも潰れてしまったに違いない。
 鞄を背負っている間は走ったり、何処かにもたれかかったりはしていない。ならば、おそらく理由はそれしかないだろう。
 増田はそう思いながら、握りしめた焼きそばパンをじっと見る。
「まぁ、あの胸に潰されたらひとたまりもないか」
 掌に焼きそばパンを握りながら、増田はその掌に豊かな彼女の山岳地帯の感触を思い出す。
 もし、彼女の胸がペタンコなら、きっと彼の焼きそばパンは無事であったことだろう。だが、そうではなかったからこそ、彼の焼きそばパンの方がペタンコになってしまったのだ。だからきっと、これは喜ぶべきことなのだ。
 しかし、そう考えてしまうと、色々な意味でもうこの焼きそばパンは食べられない。だが、食べられなくても、何だか捨てられない。さて、どうしたものだろう。
 様々な意味で莫迦なことを考えながら、増田は複雑な思いで平たい焼きそばパンを見つめた。

 Fin.

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【あとがきのようなもの】
 駅のホームでペタンコになった焼きそばパンを哀しそうに見つめる男子高校生の姿を見て、ふっと莫迦話が降りてきました。(笑)
 増田先生も男の子なので、まぁ、いろいろ莫迦なところもあっていいかなと思います。(笑)
 

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