Twitter Nobel log 33

1601.
物凄い金額の請求書が届いた時に、夜遊びの付けだとか高級品への散財を疑う前に、また本が増えたのかと溜め息をつく私は、ある意味彼に教育されてしまっているのだろうと思う。そしてそれを疑う必要の無いことは、ある意味とても幸せなのだろな、とも思う。

1602.
ただ今帰りましたと言われて、お帰りと返す。そんな堅い挨拶ではなくて、ハグやキスを交わす気安さを君に。他人の温もりを感じ、肩の力を抜いて、座り込む場所だって時には必要だろう。張り詰めた糸ほど切れやすいことを、君は知らない。そんな未来を私は見たくない。だから暖かな場所を君に。お帰り。

1603.
「どうした?」と聞かれ、自分が知らぬうちに彼を呼んだことを知る。分かりませんと返せば、貴方は困った顔をする。夢を見たのかもしれません、そんな答えに貴方はただ私の頭を撫でた。悪夢でもただの夢でも、いつでも呼べばいい。そんな言葉と共に与えられる温もりに、私はまた目を閉じる。

1604.
私の両親の馴れ初めを話した時の、彼の驚愕の表情が忘れられない。面白いから、父の若い頃の写真を見せた時の、彼の絶望的な表情もまた忘れられない。ついでに言っておくならば、いろんな意味で私は母にそっくりだと思う。血は争えないって本当だ。

1605.
悪夢を嫌い眠ることを放棄した君は、私を道連れにしようとする。明日の職務とぎこちない誘惑とを天秤にかけ、私は理性で後者を選ぶ。忘れたいのなら、溺れさせてあげよう。冷静に、計算尽くに、女を抱く。そんな夜は、苦く、長い。

1606.
プライベートで会って、一緒にご飯を食べて、ベッドまで共にしたのに、去り際にわざわざ手紙を渡していく彼が可笑しい。暗号ですか? お仕事ですか? それとも本当に恋文だとでも? 家に帰り着くまで中身はおあずけ。寂しいはずの夜道に小さな笑みがこぼれ、雨だって私を濡らすことは出来なくなる。

1607.
スコープに注ぐ眼差しで、一秒の三分の一の世界を見る。喜びも哀しみも置き去り、冷徹に、無機質に、事象のみを見る。貴方が私に求める『鷹の目』には温度も湿度も不要。なのにこの目は、今日も心臓と同じ温度で貴方を見つめてしまう。 彼が私に背を向けた時だけよ? 出ておいで。私の『女の目』

1608.
研究に夢中で飯をパスした私の唇に、甘い砂糖菓子が押し込まれる。お仕置きならともかくも君の指先と甘味を同時に味わうなんてご褒美だろう。そのまま白い指先に舌を絡めれば、視界から本が、口中から指先が消える。ご飯を食べたら、もっと差し上げますよ? 一枚上手の彼女はそう言って艶然と笑った。

1609.
思い出にしようと思っていたのだ。二度と手の届かない、綺麗な思い出に。なのに彼女は肉体を持った現実として、私の前に現れた。お陰で私はぐちゃぐちゃの劣情や、どろどろの感情を道連れに生きる羽目に陥っている。綺麗事だけでは生きていけないと私に教えた人生の師は、彼女なのかもしれない。

1610.
愛してるだとかそんな商売女に吐くような台詞、気持ちが悪いので止めて下さい。そんなこと、言われなくてもずっと知っていましたし、返事もとっくにした筈ですよ? 地獄までついていくくらい、私は貴方と人生を共にすると言ったのに。いくら退官する年齢になったからと言って、貴方、朦朧し過ぎです。(生涯ツンデレ

1611.
憎まれ口が君の感情の揺れに比例することくらい知っている。耄碌したのはお互い様。口ではそんなことを言いながら、素直な涙を浮かべるのだから詰めが甘いよ、君。涙腺が緩くなったのは、君も私と同じく年を取った証拠だろう。こんな日くらいは素直な涙だけじゃなくて、素直な言葉も吐いてみなさい。(生涯気障男)

1612.
少しの整髪料と焔と雄の匂いが混じり、貴方の香りがブレンドされる。どんな調香師にも作り出せないその香りを、私は休日の朝にだけこの身に纏う。贈り主本人さえ気付かない移り香のパフューム、私を酔わせるただひとつの魔法。

1613.
うっかり薬缶に触れて、小さな火傷をしてしまった。火傷の痛みは私に悔恨と恐怖と同時に、小さな甘い感情をもたらす。苦くても、重くても、絆は絆。貴方と私を縛る運命の痛みなら、私は幾度だってそれを受け入れよう。

1614.
服くらい何枚だって買ってやるというお言葉に甘えますわ、サー。貴方の命を守るにはこのドレスは華美に過ぎて、立ち回りの際に自分で大きなスリットを作ってしまいましたの。また、新しいのを買って下さいますか? サー。また破ってしまうかもしれませんけれど、それでもよろしければ。

1615.
贈られたドレスだって、必要とあらば君は膝を裂いて走り出す。まったく、困ったものだ。やんちゃなレディには、ドレスより男もののスーツが似合いそうだな。襤褸になったドレスさえ着こなす君が他人の目を楽しませる前に、私のジャケットを着ておきたまえ。

1616.
忘れてしまっても、無かったことにしても構わないのに、律儀な貴方は幼い少女の残酷な願いを未だ叶えようとしている。見出だした本人さえ使いこなせなかった秘伝に責任を持とうなど、莫迦正直にも程がある。でも、だからこそあの少女は貴方にそれを託した。あの日の、少女だった頃の私は。

1617.
気付かぬうちに彼は私の風上に立っていた。木枯らしが黒いコートの裾をなびかせ、風から守られた小さな空間で、私は冬の到来を知る。

1618.
何もかもを忘れて静かに本を読む彼の横顔を眺めながら、珈琲を飲む一時が好きだ。私が守りたいのは、単純に上官としての彼の命だけでなく、きっとこんな些細な幸福を彼が享受できる小さな余裕なのだと思う。静かな時間はそれを守った私への褒賞でもある。だから、自分の為に美味しい珈琲をもう一杯。

1619.
親友の視線の先にいる男は、あの子と出会った時からずっと変わらない。サボリ魔で手の掛かる上官で嫌になるとあの子は溜め息をつくけれど、その溜め息の意味は本当は別の場所にあることくらいお見通し。嬉々として上官の世話を焼くあの子の背中を、私は時々無性に押したくなる。

1620.
我々は共に在るだけで互いに与えた罪や傷を思い出してしまう互いにとっての刃だけれど、我々が共に在るのは互いに傷つけあう為ではなく、ましてや傷を舐めあう為でもなく、互いの傷を癒す為だと思っている。抱き合って優しい言葉で誤魔化すくらいなら、素足で荊の中を共に歩こう。

1621.
査察から直帰の別れ道、角を曲がる際に何気なく振り向けば、同じように振り向いた彼と目があった。いつも通りのシンクロ、振り向く想いは同じ。それでも私たちの帰る道は同じにならない。パッと目をそらし歩き出す彼の大きな背中を見送って、私は四つ辻で冷たい風に吹かれる。

1622.
歴史に名を刻むなど、大それたことは考えてはいない。ただ、君が眠る隣の墓石に名を刻めれば、私にはそれが一番の褒賞。

1623.
研究の為なら寝食を忘れる貴方。どんな時でも貴方を守る為しっかり食べて寝る私。こんな変なバランスは取れなくて良いのにと思いながら、読書中の貴方の分のタルトタタンに手を出してみる。

1624.
愛しているだとか、好きだとか、そんな言葉では表せないのだ。少女時代の憧憬や、裏切られた恨み、救われた感謝だとか、だらしない劣情、背負わせた罪への謝罪に、上官としての尊敬。貴方に向かう想いには様々な感情が混ざり過ぎている。だから私はこの眼差しに全てを乗せて、ただ貴方を見るのです。

1625.
普段は気障なことばかり言ってくるクセに、据え膳には手を出さない優しい紳士面。踏み込む勇気がないなら、何も言わないでください。私にもポーカーフェイスを保てない夜があるのです。

1626.
気の強い女のふり。感情を封じたふり。アルコールで綻びた君の仮面は痛々し過ぎて、私は上官のふりしか出来なくなってしまう。私を逃げ場にしても構わないが、君がそれを後悔する未来しか見えない私には、差し出す手を堪えることしか出来ないのだ。酒精が生んだ隙は、君にも私にもただ苦いだけ。

1627.
多分、そこらを歩く男より余程私の方が格闘術に覚えがあることは、彼だって分かっている。それでも「夜道は危ないから」と言う男の過保護さが面映ゆい。上官の面目を保つ為と自分に言い訳し、三歩後ろを歩く木枯らしの夜。

1628.
綺麗な花には棘があるというが、この花の棘は致死レベル。手加減を三億光年の彼方に吹き飛ばした酔っ払いからか弱い加害者を守る為、副官と夜道を歩く木枯らしの夜。

1629.
貴方の指で口いっぱいに詰め込まれたキャンディ。閉じられぬ唇から甘い唾液が滴って、胸元からずっと下までベタベタと流れていく。舐め取って、味わって。酷い悪戯に溺れる、私は甘い砂糖菓子。TrickもTreatも同時に与えられ、私はいつしか貴方へのご馳走に成り果てる。

1630.
人生は楽しい。そう思っていいのだと彼は言う。どうすればそう思えるのかと問えば、例えば美味い食事などどうかね? と夕食に誘われた。莫迦言ってないで仕事して下さいと言いながら、私は他愛ない会話を楽しんでいる自分に気付く。そうね、人生は少し楽しい。

1631.
急に冷え込んだ夜の帰路、無言のままマフラーでぐるぐる巻きにされた。普段は軽口ばかりのくせに、こういう時だけ何も言わないなんてズルい男。気持ちを落ち着けようと深呼吸をしたら、白いマフラーから彼が香った。

1632.
昔から物を大事にする人で、偉い人になっても十年以上使い込んだ傷だらけのデスクを捨てられない。山のように積まれた古書も、愛用の万年筆も、私より長く彼と共にある。そんなものたちと同じように、彼の傍らで古びていきたい。当たり前のように傍らに在る、そんな存在になれれば。

1633.
手首を反らせた時、ワイシャツと手袋の隙間から僅かに肌が覗く。鎧った筈の彼が覗かせる隙に一瞬惑わされ、再び一分の隙もなくなった姿に平静を取り戻す。貴方の隙が私にも隙を作る。誰にも言えない小さな私のフェティシズム

1634.
私の人生は私のもので、君と分かち合えない日がいつか来るかもしれない。それでも、君と共に歩みたいと願う我が儘な私を、君は赦してくれるだろうか。君を守りたいと思う気持ちは出逢った日から変わらぬまま、こんな歳まで歩いてきてしまったんだ。

1635.
背中を預けたあの日から、彼が私の運命の人だと思っていた。父の決めた人生のレールの上の、運命の人。彼の背中を預かった時、やっぱりこの人が運命の人だと思った。私が選んだ人生を導く、運命の人。お人形みたいな人生はいらない。そう思った時に見た彼の笑顔が、今でも胸の中に眩しい。

1636.
私と貴方が絡み合い、ドックタグも絡み合う。絡んだチェーンが外せないから、私も貴方と離れられない。ドックタグに縛られて、貴方に縛られる。貴方の狗だから仕方ない。そう言い訳した唇に甘いご褒美。

1637.
遥か二〇〇キロを細いケーブルで繋ぎ、電話越しの彼女の声が私の元へと届けられる。錬金術は電気化学に負けてはいないと自負しているが、こんな時には素直に敗北を認めよう。優しい化学が私を満たす夜、私は錬金術師ではなく、電話からの声に微笑むただの男になる。

1638.
火急の連絡が必要な訳ではなく、業務上の確認がある訳でもない。ただ声が聞きたいなんて、そんな理由は可愛らし過ぎて私には似合わない。受話器を握る理由を探しあぐねて、私は彼の出張先の電話番号を睨む。その時、私の心を読んだように電話のベルが鳴った。

1639.
本と酒があればそれでいいと貴方は言う。望めば大抵のものは手に入る地位とお金を持っているくせに。そう思う私の心を見透かし、貴方は笑う。私が本当に望むものが金でも権力でも手に入れられないことは、君が一番よく知っているくせに。目を逸らすしかない私は、身を鎧う軍服の合わせをきつく握った。

1640.
本と酒があればそれでいいと貴方は言う。望めば大抵のものは手に入る地位とお金を持っているくせに。そう思う私の心を見透かし、貴方は笑う。私が本当に望むものが金でも権力でも手に入れられない、君がいないことにはね。苦笑するしかない私は、未来を見据え小さな敬礼を作った。

1641.
「何故キスをするのに焼き菓子を介する必要があるの?」綺麗な上官に真顔で聞かれ、俺は答えに窮する。そうでもしないとキスするタイミングが掴めないなんて、死んでも言えない。己の情けなさに涙目になる俺を不思議そうに見た彼女は意味深にこの部屋で一番偉い男を見上げ、細い焼き菓子を口にした。(ポッ○ー・プリッ●の日 その1)

1642.
細い菓子を端から食べあってキスをする、そんな他愛のないゲームにボスが真顔で言う。「菓子が口の中にある状態で女とキスをするなんて、バカのすることだ」そりゃ俺たちはアンタほど女に恵まれちゃいない、そう反論する前に大将は言う。「彼女の味が分からなくなる」ちょっと顎が外れるかと思った。(ポッ○ー・プリッ●の日 その2)

1643.
多分、最期を迎える時にも、貴方の名ではなく階級を呼びそうな気がする。それでもきっと最期に呼ぶのは貴方のことだと思う。そんなことを真顔で言えば、貴方は照れたような困ったような顔で、とりあえず死ぬことが前提なのは止めてくれと言った。私たちのピロートークは物騒で幸福で愛しい。

1644.
そんな可愛らしい目をしても無駄よ、優男。貴方の心に住む女の存在なんて、この界隈の夜の女なら皆知っている。勝てない戦いに挑む程、私たちは軍人さんみたいに莫迦じゃないの。悪いけどあげられるのは情報だけ。慰めが欲しいなら、彼女の元に行きなさい。貴方たちの事情なんて、私たちは知らないわ。

1645.
掌に隠れてしまうサイズの手鏡の中で紅を直す君の姿を、うっかり見てしまった。まるで盗み見をしてしまったような背徳感に、私は慌てて目を逸らす。女を隠しきれぬ君の色は、私の目には甘い毒。

1646.
執務室で目を閉じていると、大抵彼女が寄ってくる。基本的にはさぼるなと叱られるのがオチだが、時々熱い視線と困った沈黙が私を包むことがある。眠ったふりのまま、気付かぬふりのまま、私たちは伝えあうことのない想いを日溜まりの沈黙の中に味わう。

1647.
日溜まりの猫みたいに呑気な寝顔が私を癒やしてくれるから、非番の日の朝はいつもより少し早起きをする。無防備で穏やかな眠りに安堵して二度寝する幸福は、休日の私への小さなご褒美。

1648.
黒い革の手帳を見る貴方の横顔を眺める。小さな手帳にびっしりと書かれた沢山の女の名は、貴方にとって大切な研究の化身。何に対して妬けばいいのか、私は時々分からなくなる。

1649.
別に私がいなくても、世界は回っていくけれど。私がいないと貴方の世界は回っていかないと、その程度の自惚れは持っている。キスも約束もなくても、貴方の目が私にそう告げる。だから私は、未だこの世界に生きている。

1650.
「私は貴方の護衛ですから」ああ、確かに君は優秀な護衛官だ。だがしかし、この状況で引き倒されたら私の男としての面子は木っ端微塵だとは思わないか? 押し倒そうとして、引き倒される。悲劇的な喜劇に私はただただ苦笑して、彼女の銃撃戦を見守る。

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