Twitter Nobel log 29

1401.
無駄な自意識過剰。莫迦な自尊心。そんなもので貴方が何から自分を守ろうとしているか、私は知っている。莫迦な自意識過剰。無駄な自尊心。そんなものが私に素直になることを阻むから、貴方は知らないふりをする。無駄で莫迦な平行線を引き続ける私達。

1402.
知らなくて良い事を知ってしまった。君の眼差しが、私にそれを教えてしまった。ずっと抑えてきたこの情動の扉を開く鍵を、君は私に与えてしまった。その眼差しの中に隠された熱量を、私はこの身をもって知ってしまった。鷹の目の鋭さが隠してたはずの、それを。

1403.
焦がした鍋を隠し損ねた君は、怒ったような、困ったような、なんとも言えぬ表情をしている。完全無欠の副官殿も、プライベートではただの女の子。ここはひとつ、私の上官扱いを止めないか? 鍋磨きに男手は有用だと思うのだがね。

1405.
見えなかったものが見えるようになったら、少し怖くなった。見えないままでいた方が良かったかもしれないとさえ、思ってしまった。君がそんな真っ直ぐな眼差しで私を見ていたことなんかずっと知っていた筈なのに、久しぶりに見るとあまりに眩しすぎて、私は困り果ててしまう。暖かで厳しい私の鷹の目。

1406.
待てど暮らせど来ぬ文に、今日も焦がれて待ちぼうけ。世界を私に知らしめた、貴方が消えて、世界も消えた。知らない方が良かったたと、淡い恋さえ恨めしく、それでも貴方の指先は、今だに私の背に疼く。

1407.
喧嘩の後の険悪な雰囲気の執務室、いつもなら私が頼まれる書棚の資料を取ろうとした彼女の脳天に、将軍に貰ったこけしが落下した。笑うに笑えない私と、怒るに怒れない彼女と、身を震わせる意地っ張り二人。休戦の合図は、結局笑ってしまった私の声だった。彼女の天然とハプニングに感謝する徹夜明け。

1408.
台所の片隅で、ノートを広げた彼女が一心にペンを動かしている。珍しいなと覗き込めば、宿題のかけ算の横に今日の夕飯のメニューを書いている。私の視線に気付いた彼女は赤面し、私は彼女の豆のスープの隠し味がベーコンであることを知る。算数より興味深い、台所の錬金術

1409.
太陽が沈まねば月が昇らぬように、軍人である私と女である私は同時には存在しない。でもそんなことを言えば、あの人は真昼の月の存在を笑って指摘するだろう。そんな屁理屈をこねる男の為に、真昼の月というものは青い軍服の中に隠されているのだと、笑えるようになった三十路の春。

1410.
朝食にはフルーツを少し、等と嘯くラジオの中の女優の話を聞きながら、朝から三段重ねのBLTを頬張る君が好きだ。体力勝負の軍人稼業、デザートのオレンジまでしっかりと、私の分まで。

1411.
言葉が私たちを切り裂くことを知ったから、私は無口な女になった。この世界のすべてが「Yes,sir」か「No,sir」で返事が事足りるほど、単純ならば良かったのに。自分の感情が「Yes,sir」か「No,sir」で表せるほど、単純であったなら良かったのに。

1412.
気障な言葉で完全武装した貴方が、私の素直な涙をねだるなんて、おかしな話だと私は思うのです。素直な言葉を下されば、或いは。

1413.
幼年期への憧憬という濡れ衣を貴方は私に着せている。私たちの過去は極在り来たりで、そんなに綺麗なものではないと、いつになったら貴方は気付くのでしょう。あの日の私はもういない。汚れた今の私を、見て。

1414.
君が思う程には私は清廉な男ではないし、時に邪に過ぎることだってある。憧憬の眼差しは、昔はこそばゆく嬉しいものであったが、今の私には痛みをもって突き刺さるだけだ。そんな無防備な顔で、そんな真っ直ぐな眼差しで、私を見るな。何度でも言う、私は邪なただの男なのだ。

1415.
残業にうつつを抜かしている間に、苺の季節が終わろうとしている。苺を見ると思い出す別れの情景を今年は夢に見ずに済んだと、私は前を行く上官の背中を見る。あの日見送った背中も、やっぱり今と同じ青い背中だった。

1416.
「いいか、覚えておけ! フェティシズムとは対象を選ばずパーツを見るものではない! フェティシズム故に対象には厳選に厳選を重ねるものなのだ! つまり、君でなくては駄目なのだ! ……皆まで言わすな」「どうお返事すれば良いものか、皆目見当もつきません」

1417.
胸だとか太腿だとか、男は柔らかいものが好きらしい。硬い胸板の方が射撃の反動を止め易いし、走っても疲れないから、私は良いと思うのだけれど。そう考えて、膝の上の彼の嬉しそうな顔を見て、諦める。過去に囚われるこの男がこんな脂肪の塊で安らげるなら、それもまた。

1418.
彼の本棚の片隅に、ぼろぼろになった子供向けの自然図鑑があるのを知っている。読み癖のついた、置いたら開きっぱなしになってしまう本の中に、キラキラ目を輝かせていた子供の頃の彼がいる。罪を知らぬ、私の知らない彼がいる。少し寂しくて、少し眩しくて、私はそっと本棚から視線を逸らした。

1419.
君がもし、私を昔のように名前で呼んだりしたならば、あの時封印した感情が嵐のように溢れてしまうだろう。だから、そんなのは最期の時でいい。それまでは、ただの階級で私を呼んでくれ。

1420.
『意外にリボンも似合うのだ』と言われ、『意外』という言葉にカチンと来る自分の衝動に驚く。多分、貴方に言われたから私は腹立たしく思うのだと気付き、更に驚きを感じる。そんな感情たちが、まだ私の中に眠っていただなんて。私は不機嫌に、休暇中の装いからするりとリボンを追い出した。

1421.
りに付けてあげたルージュの色は
エスト通りの筈よ。
わめく心を隠し、夜遊び上手なふり。
つ人になれば、貴方とこんな事も出来る。
ーツの下、一夜芝居の指で貴方を強請る。

1422.
上官殿が逃げ出した。私が新たな書類の山を積み上げている隙に。ただ先伸ばしになるだけで、逃げることなど出来ないと解っているくせに。仕方のない人と私は苦く笑い、撃鉄を起こす。逃げ切れないことだって解っているくせに、貴方が仕掛ける鬼ごっこ

1423.
副官殿が逃げ出した。口づけをしようと私が抱いた手を少し緩めた隙に。先伸ばしになるだけで、逃げることなど出来ないと解っているくせに。仕方のないひとだと私は苦く笑い、ネクタイを解く。どうせ受け入れてしまう自身を解っているくせに、君が仕掛ける鬼ごっこ

========= 以下、キスの日 =========

1424.
『キス』と言うよりも『口付け』と言った方が、自然な気がする。などと言ったら、君は気障だと笑うだろうか。それとも、莫迦だと呆れるだろうか。そう考えていたのに、ロマンチストなのですねと真面目に返されて、照れてしまった。やっぱり君には私は敵わないと思いながら、君と口付けを交わす。

1425.
キスの数だけ銃を撃つ。的の数には困らない。貴方のくれた愛情を、私は人殺しの熱量に変える。貴方の未来の為ならば、そんなことさえ私には当然。キスの雨が降る。銃弾の雨が降る。血の雨が降る。私たちの上に。私たちの人生の上に。

1426.
私から、ネクタイを掴んでキス。下を向かせ引き寄せ、衝動的に。貴方から、顎を掴んでキス。上を向かせ奪う、攻撃的に。愛らしいキスなんか知らない。私たちは奪い合い、押し付け合い、相手が自分を欲する衝動に互いに満足するだけ。愛らしいキスなんかいらない。

1427.
挨拶や親愛の表現ではなく、所有と欲望と劣情や熱情や様々なものを込めて、粘膜という器官を合わせる行為を、キスなどという簡単な文字に背負わせて良いものか。私たちの間にあるものを、そんな優しい舌触りの言葉に任せて良いものか。見つめ合い、交わす、その深さ。私たちの唇の間にあるものとは。

========= 以上、キスの日 =========

1428.
さを撒いて、時を待つ。
せいを盾に抵抗しても
んねんながら、今の君は別人。
んりな言い訳を用意したものだと笑い
なおになった君に手を出す私は悪党。

1429.
りを正した軍人の顔をしている時よりも
アルな感情が二人の間に存在する逢瀬。
い悪感を覚えないように
ッドの中でさえ、商売女の顔を貫く。だから、貴方も
マートに立ち去って。私が眠ったふりをしている間に。

1430.
みを無理に浮かべた顔は
ラックスとは程遠いもので、君の
んがいしか手に入れられなかった私は、電話の
ルに助けられ、ようようその場を逃げ出した。君の
べてを手に入れようとした、私が莫迦だったのだ。

1431.
カレンダーに付けた、誰にも分からぬ小さな印。それは私が貴方から副官の職を拝命した日。一言一句忘れ得ぬあの日の貴方の言葉が、今の私を作っている。だからそれは、私のもうひとつの誕生日。自分で選んだ、貴方と生きる人生が生まれた日を、ひとり祝う大切な記念日。

1432.
朝の仔犬の散歩コースをたどる。一つの窓を見上げ、通り過ぎることが私の日課。窓の様子は毎日違う。徹夜研究のランプの光。訳もなく早朝から開くガラス。夜勤明けの閉ざされた雨戸。姿は見なくていい。ただ彼のリズムを見上げ、私はその傍らを通り過ぎる。

1433.
「女性は得だな」「なんのことですか?」「全裸に靴下でも、全裸に手袋でも、それなりに様になる。男ならただの間抜けだ」「そう思われるのでしたら、脱いで下さい。靴下」「君は脱がなくて良いぞ? 靴下」「変態ですか莫迦ですか」「フェティシズムと言って貰いたいね」「それを変態と言うのです」

1434.
女にマメだと言われているけれど、案外私が髪を少し切っても気付かないでいる。少しがっかりしていると、思いがけない時に指摘され、不意をつかれたりする。このタイムラグは分析と検証の為の時差らしい。面倒な科学者、だけど嫌いじゃない。

1435.
少し手が震えた。手に残る銃の反動のせいだと思った。人の死に行く感触が残らないから、と選んだ筈なのに、死は目をそらすことを私に許さない。見上げた視線が貴方と合った。互いの欺瞞を知る貴方の手が、微かに私に触れた。それだけで、私の震えは止まる。死を共に見つめる貴方の手が、私を救う。

1436.
状況に応じて仕方のないこともあるが、なるべく怪我などしたくもないのだ。痛いのは嫌だし、小言を食らうのも嫌だし、何より彼女に不安な顔をさせることが嫌だ。彼女は隠しているつもりでも、突き刺さる温度が違う。すまないと胸の内で呟き、それでも繰り返すのが私の性分。痛いのは自業自得か。

1437.
いとも軽やかに髪を切った彼女は、すぐ伸びるものに何の意味が? と問う。そういうところに重きを置かない人だから、多分、我々はこの複雑な関係を続けられたのだろう。新しい彼女の髪型に過去を思いながら、私は無駄になった新しいバレッタを隠した。

1438.
彼の手の甲に張られた三枚の絆創膏が気になる。怪我にしても三枚は多いし、利き手の手の甲にあの不器用な人があんなに綺麗に絆創膏を張れるわけがないし、怪我ではない何かを隠しているなら更に剣呑。しかし、さりげなく理由を尋ねるタイミングは逃してしまった。たかが絆創膏に翻弄される、初夏の朝。

1439.
腹に一物ある顔、という時点で相手に某かはあることはばれている訳だから、まだまだ修行が足りないと思う。そんなことを呟くと、いつもそんな顔ですから大丈夫ですよ、と彼女に言われた。フォローしてもらった筈なのに、何だろう? このそこはかとないやるせなさは。

1440.
ピアスに洋服、髪飾り。靴に鞄にシャンパン、苺。ディナーに映画、三文芝居。ソファーに車、十字架、弾丸。君を埋め尽くす程にモノを贈ろう。君が本当に欲しているであろうものは、私が本当に贈りたいものは、渡すことも受け取ってもらうことも出来ないのなら、何の意味も持たぬ物質を贈ろう。

1441.
一番欲しいものは、欲してはならないもの。そう自分で決めた。一番欲しいものが手に入らないなら、何もいらない。それなのに、貴方が私の前に積み上げたモノ達は私を揺らす。モノが私を揺らすのではない、『貴方がくれた』という形容詞が私を揺らす。一番欲しいものは、一番遠いというのに。

1442.
雨の気配に、君に話しかけようと振り向きかけ、煙草の臭いに思いとどまる。そうか、今日は休みだったかと独り言ち、常に共に在る当たり前の贅沢を改めて思い知る。振り向けば君がいる、望んだ形ではなくとも。今はそれでいい、雨は降ってもいつか止む。

1443.
くわえドーナツで両手を空けてお仕事なんて、くわえ煙草より様にならないけれど、貴方にはそれも似合って見えるのだから、私の目はどうかしている。鷹の目も落ちたものねと笑い、私は可愛らしいひとを愛でながら、甘いドーナツをかじる。

1444.
「そんなすごい寝癖で出勤なさるなんて、だらしないですよ」「君だって、バレッタを外したら人のことは言えないだろうが」「隠すことも技のひとつです」「仕方ない。私もバレッタが使えるほど髪を伸ばすか」「どうして早起きするという方向に考えられないんですか!」

1445.
「ビールの美味い季節になった。帰ったらキンキンに冷えたビールが飲みたいのに、うっかり出張前に冷蔵庫を空にしてしまったという口実で、君の家に行くからよろしく頼む。それでは三日後」申し送りを頼んだ筈の彼の机上に残されたメモに脱力感と同時に喉の乾きを覚える私は、すっかり彼の思うツボ。

1446.
雨上がり、サボるひとを探す。概ねの見当はついている。木漏れ陽の中庭。資料室の南向きの窓辺。空に近い屋上。お陽様を探して、貴方を探す。

1447.
初めての二人きりの出張、汽車での移動にさえ緊張していた就任時。今では居眠りの横顔さえ、珍しくはない。警戒心の強い猫を十年かけて手懐けな気分がする。この猫が毛を逆立てず、平和に昼寝を楽しめる日が来るといい。夢見る彼女に夢を託し、私もしばしの休息と枕木の振動に身を委ねる。

========= 以下、ロイアイの日お題 =========

1448.
貴方の肩が濡れている。相合い傘だなんて言いながら、実は私の雨避けになる狡い貴方。ならば、傘で防げぬ銃弾の雨から私は貴方を守ろう。雨に濡れても血に濡れた軍服は見ずに済むように、雨の日は。(お題:相合い傘)

1449.
いつだってクールな彼女は、記念日になんか拘らないものとばかり思っていた。それなのに、覚えておかなければならない日が多すぎて、記念日が決められ無いだとか、そんな可愛らしいことを言うのだから堪ったものではない。天然の彼女に殺される、今日はツンデレ記念日。(お題:記念日)

1450.
芋を剥かずに指を剥く、不器用な貴方が唯一上手に作れるものがコーヒー。何故かと聞けば、実験と同じで手順さえ踏めば問題ないと貴方は答える。ビーカーにフラスコに薬匙で作られるコーヒーは、私の為だけに作られる実験室の魔法の産物。(お題:コーヒー)

Twitterにて20140501〜20140611)