2010カレンダー SSS集 

  First (パラレル注意)



「よりにもよって、何故その格好なんですか!」
 梨紗が怒るのも無理はない。折角の初詣だというのに増田は部活のジャージ姿で神社に現れたのだ。
「仕方ないだろう? 俺は陸上部の顧問だし、初日の出耐久走は我が部の伝統行事なんだから!」
「着替えてくるとか、何とかあるじゃないですか!」
 エキサイトする梨紗に、増田は子供のように頬を膨らませる。
「遅刻して君を待たせるのが嫌だったんだよ!……今年最初の君との約束なんだから」
 少し照れた増田のぶっきらぼうな言葉に、梨紗は思わず絶句する。まったく、この男はまた臆面もなく……
 
 どうやらお神籤を引くまでもなく、今年も目の前の男に翻弄される事は、既に決まっているらしい。梨紗は紅くなる頬を隠そうと、不機嫌な顔で襟元を直すふりで俯いた。
(1−2月 先生×先生パラレル)
  Two of us

例えば、壁に貼られた二枚のポスターのように二人は
例えば、向き合う事のない背中合わせの定めの二人は
例えば、嵐の様な運命に晒されても寄り添えぬ二人は
 
それでも、凛と前を向き決して下を向く事なき二人で
それでも、互いの存在を確かに背後に感じ合う二人で
それでも、共に運命と闘う道を歩み続けている二人で
 
だから、道行く人が思わず視線を奪われる二人なのだ
だから、風雨に晒されようとも色褪せない二人なのだ
だから、別々に在る様でいて常に共に在る二人なのだ
(3−4月 相方の絵が素敵すぎ、そして自分縛り強すぎ。(笑))
  War in the bathroom

 朝の洗面所はまるで戦場だ。
「大佐、お髭を剃られるのに何分かかっていらっしゃるんですか!」
「君、歯磨きは済んでるだろう?」
「女には化粧というものがあるんです!」
「君、そのままで可愛いのに」
「すっぴんで仕事に行けますか!」
「……うん、確かにクール・ビューティーの君のすっぴんの可愛いさを、他の男に見せてやるのは癪だな」
 そんな言葉と共に落とされたキスに、しばしの沈黙が生まれる。
 
「……せ、せっかく顔を洗ったのに、シェービングクリームが付いてしまったじゃないですか!」
「耳まで紅くなって可愛いな、まったく……あ!こら! 人のシャツで泡を拭くんじゃない!」
 さて、このバカバカしい戦争の結末は如何に!?

 続きは東方司令部にて!
(5−6月 相方の絵に萌え転がるロイスキー。パジャマ半分ことは!)
  Vacation

 パラソルの影から空を見上げ、ロイは言う。
「君、入道雲の出来る原理を知っているかね」
「確か空気の対流がどうとか、以前大佐が仰っていたかと」
「そう、特に海上ではその循環が著しく……」
 いつもの如く蘊蓄を傾け始めたロイに、リザは苦笑する。
「大佐 せめて休暇の間くらいは、理屈っぽいお話はご遠慮申し上げたいのですが?」
 悪戯っぽいリザの笑顔に、一瞬呆気にとられたロイは『確かに』と頷いて、眩しい青空に目を細めた。
「では、こういうのはどうかね? ……あの雲はブラックハヤテ号に似ている」
 くすりと笑ってリザは、ロイの視線の先を見る。
「では、その隣の入道雲はハヤテ号から逃げるブレダ少尉、と言ったところでしょうか?」
「奴の腹もあそこまで大きくはないだろう、けっこう君ヒドいこと言うな」
 二人は顔を見合わせて笑い、束の間の休暇の莫迦な遊びに子供のように没頭した。
(7−8月 夏はお気楽に)
  One mere order

「状況を報告しろ」
 朱に染まった彼が言う。
「第十七師団、撤退完了しました。我々が最後尾です」
 私の答えに彼は満足そうに笑った。
「大佐、お怪我は?」
「こんなもの、舐めときゃ治る」
 私の問いをさらりと流し、彼は私の顔を見て返す。
「君こそ出血が酷いぞ、顔色も悪い」
「頭部の創傷は小さくても、出血量が多く見えますので」
 そう答えれば、彼の唇に不敵な笑みが浮かぶ。
 
 私は彼の笑顔につりあうように、己の口角を上げてみせた。
「大佐、ご命令を」
「生きて帰るぞ。君も私も、だ」
「サー、イエス、サー!」
 彼の焔が、私の銃が、戦場を引き裂く。
 我々が二人である限り、何も恐れるものはない。

 進め。
(9−10月 かっこいい軍服を所望)
  New year eve

 男に贈られたドレスは、背中に小さな釦が沢山並んだ凝ったデザインで、とても一人では着られそうもないものだった。戸惑うリザを鏡の前に立たせ、ロイはそのしなやかな指で一つ一つ、釦を留めていく。
 男の気配を背後に感じながら、リザはこれを自分に贈った男の真意を思う。これは何でも一人で解決せずにもっと彼に依存しろ、と言う意味でもあるのだろうか? と。
 そんなリザの想いも知らず、全ての釦を留め終えたロイは満足げにリザの姿を眺め、そして背後から彼女を抱いた。
「やはり私の見立てに間違いは無かったな」
「自分で着られないのは、少し困りますが」
「何、男なんてその為に存在する様なものだ。その度に呼びつけたまえ」
 おどけたロイの台詞に、リザはクスリと笑って鏡越しに彼を見詰め、そして自分を甘やかす唯一無二の存在にその身を預ける幸せを噛み締めた。
(11−12月 彼らの幸福を祈って)
  ちょっと一言

 2010年用のカレンダーとして、相方のサクラ嬢と作り上げた絵+SSS集のSSSの方です。彼女の絵に、私のSSSと背景(写真素材)とデザインを合体させる形で作りました。絵先行のものとSSS先行のものが、混在しています。作るのはとても大変で、でもとても楽しかったです。
 一年が終わったので私のSSSの方も公開させていただきます。カレンダー用のサクラ嬢の絵も彼女のサイトで見られますが、全てが融合した完成形はカレンダーを買って下さった方だけのお楽しみということで。今でも1+1が3にも4にもなったものだと、自負しています。
 
  おまけ:Physical contact

「おや?」
 ふと振り向いたリザの後ろ姿を確認し、ロイは意外そうな声を上げた。
「どうかいたしましたか?」
「少尉。君、髪が伸びた気がするのだが」
「はい、少し伸ばしてみようかと思いまして」
 リザの返答に、ロイは肩をすくめた。
「それは勿体無いな。君の美しい項が見えなくなってしまう」
 そう言ってロイはリザの方へと手を伸ばし、その長い指でゆっくりと彼女の首筋をなぞった。
「まったく。セクハラで訴えますよ? 中佐」
「ほぅ。では、君は上官にこんな事……や、こんな事……をされていると、人事局に訴え出るのか。それは大変だ」
「!?」
 ニヤニヤと笑う上官の此処が職場であることを鑑みない傍若無人な甘い振る舞いに、リザは握りしめた拳のやり場に困ったまま、間近に迫る男の顔を睨み付けた。

('09年11−12月 サンプルとしてWebにアップした画像付き.こんな感じで、全部編集してました。)