シンデレラは自動小銃の夢を見るか【前編】

Caution!:ナンセンス・コメディ的、ちょっと文体がウルサいです。
 
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 むかしむかし、あるところにリザ(シンデレラ)という娘が住んでいました。リザ(シンデレラ)は早くに両親を亡くした天涯孤独の身であり、父と縁故のあった者の家に引き取られたのでした。
 彼女は引き取られた先で、家事手伝いその他の雑用を一手に引き受け、人使いの荒いその家の住人に毎日こき使われる日々を過ごしていました。無口な彼女は黙々と仕事をこなし、その有能さは誰にも文句を言わせないほどでした。
 今日も今日とてリザ(シンデレラ)は、朝から大忙しで家中を走り回っています。
 
「リザ(シンデレラ)!」
「何でしょう? マスタング(義姉その1)さん」
「私の発火布がどこに行ったか知らないかね」
「昨夜、マントルピースの上でお見かけいたしましたが」
「そうか」
 
「リザ(シンデレラ)! 私の礼服はどこだ?」
「クリーニングに出して、マスタング(義姉その2)さんのお部屋の右側のタンスにしまってあります」
「編み上げ靴はどうしたね」
「靴箱の最上段中央に入っていたかと。ご確認をお願いいたします」
「む、分かった」
 
「リザ(シンデレラ)! 昨日頼んだ書類はどうなっている?」
マスタング(義母)さん、すでに郵便屋が今朝回収していきました。馬車便に事故がなければ、明朝にはセントラルに到着する予定です」
「それから今日の昼食だが」
「1215からパワーランチの予定が」
「それが中止になった。何か昼飯を用意してくれたまえ」
「承りました」
 
 ただでさえ手の掛かる大佐が三人もいるわけですから、リザ(シンデレラ)の苦労も並大抵のものではありません。彼女は『もうちょっと、何とかならないものかしら?』と思いながらも、毎日律儀に仕事をこなし続けていました。
 しかも、リザ(シンデレラ)の苦労は、これだけではありません。昼間、家事や仕事で疲れ果てた彼女がようやく寝床につこうという頃になると、また一騒動が持ち上がるのです。
 
 トントン、ガチャ。リザ(シンデレラ)の部屋の扉が開きます。
「リザ(シンデレラ)、今日は私のベッドに来てくれる約束ではなかったのかね」
マスタング(義姉その2)さん、そのようなお約束をした覚えはございません」
「つれないな、リザ(シンデレラ)」
 トントン、ガチャ。また、扉が開きます。
「リザ(シンデレラ)、今夜は……む、マスタング(義姉その2)、抜け駆けとは卑怯だな」
マスタング(義母)こそ、人の事を言えた義理か」
 トントン、ガチャ。さらに、扉が開きます。
「リザ(シンデレラ)、今夜は……む、マスタング(義姉その2)とマスタング(義母)!」
マスタング(義姉その1)! お前もか!」
マスタング(義姉その2)さんも、マスタング(義母)さんも、マスタング(義姉その1)さんも、どうぞご自分のベッドにお戻り下さい」
「だが、リザ(シンデレラ)」
「三人ともいい加減にして下さい! 明日も早いんですから、司令官が遅刻したらいい笑いものでしょうが!」
 ガチャリ。リザ(シンデレラ)は枕の下に隠した銃を目にも留まらぬ早さで取り出し、撃鉄を起こします。
「撃ちますよ?」
 リザ(シンデレラ)の本気の威嚇に、三者三様にマスタング達は肩を落とし唱和しました。
「……おやすみ、リザ(シンデレラ)」
 すごすごと退散するマスタング×3の後ろ姿を見送りながら、リザ(シンデレラ)は複数を相手に威嚇するなら自動小銃の方が有効かしら、などと考えながら眠りにつくのでした。
 
 そんなある日、お城からすべての国民に招待状が届きました。王子様の結婚相手を見つける、大切な舞踏会の招待状です。
 マスタング達は何やら額を集めて相談をすると、リザ(シンデレラ)を家に閉じこめると出かけていってしまいました。万が一リザ(シンデレラ)がお妃候補になってマスタング家から出ていってしまうような事は、絶対にあってはならないからです。
 当のリザ(シンデレラ)は、そんな面倒くさいものに行くくらいなら、書類の一枚も決済していた方がよほどましだと思っていましたが、そんなことはおくびにも出しませんでした。リザ(シンデレラ)は一人、黙々とたまった書類を片づけていきました。
 やがて陽も落ち、舞踏会の時間になりました。相変わらずせっせと書類を片付け続けるリザ(シンデレラ)の前に、一人の人物が突然姿を現しました。不法侵入者かととっさに傍らの銃を構えるリザ(シンデレラ)に向かい、人影は言いました。
「舞踏会に行きたくはないかい?」
 リザ(シンデレラ)は自分の目の前に立つ人物が誰かを認識すると、銃をおろして溜め息をつきました。
「えーっと、あなたの今回の役どころは……」
「ああ、お察しの通りだよ」
 ちょっと力の抜けたリザ(シンデレラ)の前でマスタング(魔法使い)は、小さなお星様のついた魔法の杖をぶらぶらさせながら答えます。
「私は今夜中にこの書類の山をすべて片付けてしまいたいのです。舞踏会などで踊っている暇は、全くございません」
「そうは言うがね」
 マスタング(魔法使い)は、気怠げな様子でリザ(シンデレラ)の反論に答えます。
「シンデレラが舞踏会に行かなきゃ、『シンデレラ』というおとぎ話はここから一歩も先に進めなくなって、バカな青井(作者)が立ち往生してしまうんだよ。すまないが、協力してやってくれないかね。でなきゃ、いつまで経ってもパラレルから足を洗えない」
「それは困ります」
 リザ(シンデレラ)は、渋々手に持った書類を置くと立ち上がりました。
「じゃぁ、大至急、かぼちゃとネズミを持っておいで。馬と馬車に変えてあげよう」
「きちんと掃除をしておりますので、ネズミはおりません」
「じゃぁ、ブラハ(犬)でいい」
「でしたら、私は馬車は結構ですので、直接ブラックハヤテ号(馬)に乗って参ります」
「ドレスはどうするんだい」
「軍の礼装で十分です」
「王子様が泣くと思うがね」
 マスタング(魔法使い)の言葉に、リザ(シンデレラ)は天を仰ぎ盛大な溜め息をつきました。
「ひょっとして王子様は……」
「ああ、お察しの通りだよ」
 リザ(シンデレラ)はがっくりと肩を落とし、マスタング(魔法使い)はポンポンとその肩を叩いてやりました。
「それはつまり、おとぎ話がどう進行しようと、根本的に私の苦労は変わらない、と」
「まぁ、あれを上官に選んだ時点でどうしようもない、ということさ」
 他人事のようにしらっと言うマスタング(魔法使い)を恨めしそうに見つめ、リザは足下に絡みつくブラックハヤテ号(犬)を抱き上げ、マスタング(魔法使い)に押しつけました。
「どうにもならないのでしたら、さっさと全てを片付けてしまうのが一番ですね。私、着替えて参りますので、その間にブラックハヤテ号(犬)をお願いいたします」
「しかし、魔法で作ったドレスでないと12時に帰る口実がなくなってしまうよ」
 マスタング(魔法使い)の言葉に、リザ(シンデレラ)はまた大きな溜め息をつきました。
「……では、魔法で軍の礼装を作って下さい。華美な物は好みません」
「やれやれ、頑固だね」
 そう言って苦笑したマスタング(魔法使い)は、お星様のついた可愛らしい杖を振ると、ブラックハヤテ号(犬)をあっと言う間にブラックハヤテ号(馬)に変えてしまいました。そして、もう一度杖を振ると、リザ(シンデレラ)の軍服を軍の礼装の変形バージョンに変えてくれました。
「流石に足の見えるスカート丈ではワルツのステップは踏めないだろう? それに、ブラックハヤテ号(馬)に乗っていくなら、タイトスカートじゃ跨がれない」
「お心遣い、いたみいります」
 ふわりとしたラインを描くスカートの裾を踏まないようにそっとつまみ上げ、リザ(シンデレラ)はマスタング(魔法使い)に頭を下げました。マスタング(魔法使い)は、やっぱり気怠げに構わないというように手を振りました。
「さっさと行って、さっさと片付けてくるんだね」
「はい」
 リザ(シンデレラ)はマスタング(魔法使い)にもう一度頭を下げると、颯爽とブラックハヤテ号(馬)に跨りました。そして、額の白い黒馬に鞭を当て、お城に向かってまっしぐらに駈けだしたのでした。
 
 To be Continued...
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【後書きの様なもの】
  大変お待たせいたしました。
 深雪様からのリクエストで「パラレルで“シンデレラ”」です。パラレルと言うより、ナンセンス・コメディになってます。いただいたリクエストと微妙にズレてる気もするのですが、すみません、このまま行きます、続きます。ごめんなさい〜。
 
追記:聞かれる前に書いておきますが、P.K.DィックもBレードRンナーも大好きです。