SSS集 5

  品定め



「ねぇねぇ、リザ!」
「どうしたのよ、レベッカ。そんな嬉しそうな顔して」
「そりゃそうよ〜。あんた、新しい射撃の教官、見た?」
「見たけど……それがどうかした?」
「分っかんない子ね〜。スッゴい男前だと思わない? 俳優の○○みたいで」
「そうかしら?」
「あんた実はまだ見てないんじゃないの?」
「見たわよ! えーっと、身長180cm前後、やや筋肉質で、金髪碧眼垂れ目気味。唇は薄めで彫り深し。眉濃くややエラが張り、右こめかみに小豆大の黒子あり」
「……あのねぇ……容疑者のモンタージュ作ってんじゃないんだからさぁ〜。全く、あんたにとっちゃ大佐以外の男は畑のカボチャと同列ってわけね」
「まさか! 大佐なんてカボチャ以下よ! 今日だってサボって何処にいるかと思ったら、受付のメアリーを口説いてるし、査察に出たら街角でいきなり花束買ってくるし、ランチのサンドイッチに入ってる胡瓜こっそり残してるし」
「あ〜、はいはい、分かった分かった。ご馳走さま」
 
(リザとレベッカのコンビが大好きです)
  以心伝心 1

「今日は早いですね、マスタングさん」
「ああ、でもその分師匠から課題のペーパーを山のように貰ったからね。ところでリザ、すごくいい匂いがするんだけど」
「ふふ、分かります?」
「ひょっとして、今日の夕食……」
「はい、ミートローフですよ」
「ちょうど食べたいな、って思ってたんだ。凄いな、リザ。まるで私たち通じ合ってるみたいだね」
「え! いえ、そんな、あの!」
「どうした、リザ? 顔赤いよ?」
「な、何でもありません!!」
「?」
 
(若ロイ仔リザ、過剰反応する仔リザがたまらなく可愛いと思うのです)
  以心伝心 2

「大佐、今日はお早いお帰りですね」
「ああ、君が非番だと書類の山がなかなか片付かないからな、キリの良いところで切り上げてきた。ところでリザ、さっきから非常にいい匂いがするのだが」
「夕食の準備中ですから」
「ひょっとして、今日の夕食は……」
「ミートローフです」
「凄いな、リザ。私も道すがらミートローフが食べたいと思っていたんだ。やはり我々は通じ合ってるのだな。そうは思わないか?」
「ご冗談を。まったく目を開けたまま寝言をおっしゃってないで、早く着替えていらして下さい」
「……つれないな、リザ……」
「何を今更」
 
(どうすれば、アレがコレに成長するのか(笑))
  New Year Eve

「出掛ける訳でもないのにドレスアップというのも、無駄な気がするのですが」
「今年最後の君の艶姿を他人に見せるなんて、そんな勿体無いこと誰がするものか」
 黒のスリーピースが絵のように決まる男は、そう言って気障な顔で笑う。リザは溜め息をつくと贈られたドレスに包んだ身のやり場に困ったように、窓辺に立って外を見る振りをした。
「綺麗だ、リザ。どんなドレスも君の美しさを引き立てるには力不足だ」
 背後から抱きすくめられ、リザは息が止まるような想いがする。
「そうやって、褒め殺される身にもなって下さい」
「それを言うなら、私は何度君のその密やかな熱を込めた視線に撃ち殺されたことか」
 リザは答える言葉もなく俯いた。そんなリザの頭頂に、ロイは口付けを落とす。
「君の瞳に殺されるなら本望だ」
莫迦なことを」
 やっと絞り出した言葉は、奪われた彼女自身の口癖で殺される。
「何を今更」
 続いて奪われた唇の中で密やかに呟かれた甘い言葉は、見えない焔でリザを焼き尽くす。リザは全面降伏の白旗を掲げ、男の胸に己の全てを預けたのだった。 
(オンリー用カレンダー、11-12月SSS没ver.)
  聞き茶

 珍しくロイが残業をしている執務室に、胡散臭い笑いを浮かべたヤニ臭い部下が大きなマグカップを持ってやって来た。
「大佐ぁ、茶ぁ淹れてもらったんスけど、大佐もいかがっスか?」
「何だ気持ち悪い。お前、悪いもんでも食ったのか」
「人聞きの悪い事言わないで下さい、単に人数分のお茶貰ったから持って来ただけッス」
 そう言ってハボックが差し出したカップを不承不承受け取ったロイは、一口そのお茶を口に含むと、あからさまに眉間に皺を寄せた。
「不味い。おい、ハボック、まだ中尉がその辺に残ってるだろう。彼女に茶を淹れてくるよう言ってこい」
「え! 俺が行くんすか?」
「当たり前だ、さっさと行ってこい!」
 不服そうに執務室を出ていくハボックの後ろ姿を見送って、ロイは不機嫌な顔でマグカップを脇に押しやった。
 
「おい、どうだった?」
「百発百中、今日も『不味い』の一言でバッサリ。で『中尉に茶を淹れさせて来い』、と来たもんだ」
「すげ〜な〜、事務のお茶淹れ名人・マリアちゃんの茶ぁなのになぁ」
 ロイの部屋の前でハボックを待ち構えていたブレダは、感心したように言う。
「今まで他部署の27人の女の子に茶ぁ淹れてもらって30回大佐に茶ぁ持ってったけど、大佐が『美味い』っつって飲み干したの、中尉の淹れた3回だけだもんな」
「俺にゃ、全部一緒の味にしか思えんが」
 呆れた口調のハボックに、ブレダが相槌を打つ。
「なんつーか、ちょっと偏執的だよな」
「流石にな」
「で、お前,中尉探して大佐の言葉伝える気か?」
「まさか」
「だよな」
「放っといても、そのうち大佐の望み通りになんだから、バカバカしくてやってられっかよ」
「なんつーか、な」
「全くだ」
 男二人は肩を竦めると、夜の東方司令部の廊下をドカドカと足音も荒く立ち去っていった。
 
(帰宅したら三日天下さんの素敵な参加証が! うはっ!楽しみ!)