if【case 03】

if【case 03】:もしも、リザの酒癖が非常に悪かったならば
 
     *
 
「ただいま」
 
そう言ってドアを開ければ、部屋が酒臭い。
先に帰して正解だった。そう思ってロイはパチリと電気をつけた。
玄関には、余程酔っていたのだろう、彼女の私物があさっての方向に転がっている。
ハンドバッグ、パンプス、……片方だけのストッキング?
ああ、そう言えば飲んでいる最中に伝線がいったと騒いでいたんだった。
ロイは小さな茶色いナイロンをつまみ上げて、ダイニングキッチンの扉を開ける。
 
ダイニングのゴミ箱にストッキングを捨て、ロイはコートを脱いだ。
同じくここでコートを脱いだであろう彼女は、当然椅子の背にコートを掛けっぱなしだ。
ロイはそっとそれを手に取った。
さっきまでいたパブと同じ煙草と酒の臭いの染み付いたそれは、当たり前なのだが東方司令部忘年会に参加した全員がお揃いでまとっている臭いだろう、全然嬉しくない。
ロイは溜め息とともに二つのコートを手に、キッチンに足を踏み入れる。
 
キッチンには脱ぎ捨てられたスカートが落ちていた。
ロイも気に入っている、スレンダーなリザの肢体を引き立たせるのには似合いのスカート。
脱ぎ捨てられたそれを見下ろし、ロイは再び溜め息をつく。
そう言えば、前回彼女がここまで泥酔するまで飲んだのはいつだったっけ。
記憶を呼び起こしながら、ロイは辺りを見回した。
シンクには彼女が喉を潤したであろうコップが浮き、ブラウスとブラジャーが仲良くスカートの下に隠れている。
あと残っているのは、一枚だけか。
どうにもならない脱力感を胸に、コートを手にしたロイはリビングへと向かう。
 
リビングのハンガーに二つの大きさの違うコートを並べてかけたロイは、足下に絡み付く子犬にただいまの挨拶の代わりに頭を撫でてやる。
部屋の片隅には、シルクのレースに縁取られた彼女の身を隠していた筈の最終布が落ちている。
キュウキュウ喜ぶ子犬に向かって、がっくりと肩を落としてロイは尋ねる。
「お前のご主人はどこだ? ハヤテ号」
ブラックハヤテ号は、尻尾を振ってとことこと歩き出す。
子犬の足の向かう先、そこは二人のベッドルームだった。
 
「リザ?」
カーテンも引かぬベッドルームは、凄まじいアルコール臭に満たされて、ロイは思わず鼻を摘む。
返事のない部屋にロイは静かに入り込み、闇に目を凝らした。
ゆっくりと暗闇に慣れてくる瞳に映ったのは。
ほぼ一糸纏わぬ状態で、力尽きたようにベッドの隅で眠りこけるリザの姿だった。
 
いつもながら悩ましいその肉体を惜しげもなく晒し、外した髪留めは右手に握りしめている。
酒気を帯びたその裸体は薄桃色に染まり、脱ぎ忘れたのであろうガーターベルトと右足にストッキングをつけただけの姿は全裸よりも激しく扇情的であった。
「リザ?」
再度呼びかけても返ってくるのは、規則正しい寝息だけ。
ロイは生唾を飲み込んで、眠る彼女の傍に腰を下ろす。
 
普段ならこんな据え膳は絶対に有り得ないのに。
この状態でお預けを喰らうなんて、私も我慢の限界だ。
ロイは一人ジタジタと身悶え、なけなしの理性を振り絞って、自分の上衣を脱いでリザの上にそっと掛ける。
願わくは、ここまで完璧に潰れるまで飲まないでくれていれば、と言っても、まぁ、今更なのだが。
ロイは躊躇を胸に抱えながら、我慢しきれず彼女の身体に手を伸ばす。
  
さて、起きるまで我慢するか、このままいただいてしまおうか、どうしたものだろう。
その悩ましい肢体を見下ろしつつ、ロイはゆっくりとリザの太腿に指を這わせた。
 
 
Fin.

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【後書きの様なもの】
いただいた拍手コメントに書いていただいたネタから「そのネタ頂き!」で思わず湧いて出たセルフパロディ
watch over折角良いお話だったのに。
責任取って下さいヨ! てか、ごめんなさい、微エロになっちゃった!(爆笑)
 
即興で書いたので、粗は見逃してって、粗どころじゃないって。
1日に2つもSS上げるなんて初めてです。(ハテナのシステムの都合上23日標記になってしまいますが)やれば出来るもんですねぇ。折角だから、【おまけ】(隔離)も書いてしまいましょうか。流石に今日は無理ですが(笑)
 

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