look-over

look-over:【名】点検、検査、チェック、吟味 
 
       *
 
「よくもまぁ、飽きないものだな」
 
錬金術の本から顔を上げ呆れたように言う大佐に、私は黙って笑顔を向けた。
そして再び視線を机上に戻して、作業に没頭する。
見慣れた我々のいつもの休日の光景だ。
 
ゆっくりと細部を確認しながら各部を組み上げ、最後にガチリとスライサーを引く。
そうして組み上がった手の中の黒く光る銃を眺め、私はその重みを利き手でしっかりと受け止めた。
 
軽過ぎず重過ぎないそれは掌に寄り添うようにしっとりと馴染み、その心地よさに私は訳もなく手の中でクルリと銃を一回転させる。
先ほど行った分解と組み立ての行程で確認した内部の合理的な構造と品の良い改造は、制作者の確かな腕を控えめに伝え、工房での試し撃ちの時に抱いていた私のこの銃への満足度は更に増したのだった。
 
    *
 
新しい銃を手に入れた時、必ず私は自分でそれを分解し、また組み立て、全てを確認してから使い始める。
それは品定めを兼ねたある種の儀式で、気障な言い方をするのならば自分の命を預ける相棒への挨拶のようなものだと思っている。
 
銃はただの道具に過ぎない。
だがその道具を使うことで、人の命を奪い、人の命を守り、挙げ句この国の命運を決めることさえ出来るのだ。
極端な話、一発の凶弾が指導者の胸を貫けば、それだけで国が滅びることすらある。
 
今、私はその極めて“極端な話”に近い状況の為に、こうやって銃の手入れをしているのかもしれないと時々考える。
たった一人でこの国を変えようする男の為に、この銃の力を振るっているのだから。
 
大佐の目指す道が最良のものかどうかは、誰にも分からない。
しかし、私はそれを信じてこの道を歩いている。
万が一、副官になったあの日の約束の為に、私が大佐にこの銃を向ける日が来たならば、後世の歴史家は何と言うのだろう。
『不世出の野心家ロイ・マスタング、部下の凶弾に倒れる』
そんな見出しが付くのだろうか。
何を言われても大佐が分かってくれていれば、私はそれで構わないのだが。
 
そんなことを考えて手の中の銃を見ていると、背後から声がした。
「君は銃というものを愛しているのか憎んでいるのか時々分からなくなるな」
それほど難しい顔をしていたのだろうか?
私は銃を置き、私の作業を面白そうに眺めている大佐を振り向いて、今度は自分で思う所の最上級の笑顔を浮かべてみせた。
「大佐の錬金術と同じです」
そう返事を返せば、大佐はどうにも仕方ないと微笑を浮かべた。
 
必要不可欠の力でありながら使う人間の心を穿つもの、この両刃の剣を手に私達は進むしかないことなど、大佐も私もとっくの昔に承知している。
信じた未来の為に。
その未来で、私の撃った銃弾の中の一発が“凶弾”と呼ばれるのか、そうでないかは後の世の人が結果を見て決める事だ。
 
その日が来るまで、己の刃(やいば)で傷ついた彼の心を守り続ける事が出来れば、私はそれで良い。
そして、いつかその日が来た時に、生きていようが死んでいようが大佐の隣にいられる事を切に願う。
その方が歴史を動かすことよりも、ずっと大切なことだと思う。
少なくとも、私にとっては。
 
「お待たせして、すみません。お茶でも淹れましょうか」
私は立ち上がって座ったままの大佐の元へ歩み寄り、そっと身を屈めると万感の想いを込めて、その唇に口付けを落とした。
 
 
 
Fin.
 
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【後書きの様なもの】
3ヶ月ぶりのSeries of “Over”。私のSSにしては、短い方?
歴史を動かすことよりも、一人の人間を幸せにすることの方が案外難しいのではないかと思うのです、きっと。