13.花一輪【05.Side.Roy】

刹那を見る女 未来を見る男
どちらの胸にも散って消えた 花一輪
 
     *
 
なるべく冷静に振る舞おうと心がけてはいたが、私の心中は様々な思いで溢れかえっていた。
 
私には彼女の言う所の幸せが、理解出来なかった。
好きな男に抱かれる事、確かにそれはそうなのだろう。
錬金術が生んだ孤独や悲しみを私が埋められるのなら、私は何度でも彼女を抱こう。
しかし、それは一時のものでしかない。
出来る事なら、彼女には真っ当に幸せになって欲しい。
それには私は何が出来るだろう。
いつ何があるかも分からない軍人である自分が、彼女を支えることが出来るのだろうか。
 
そして、もう一点。
非常に現実的な問題として。
私は彼女を上手く抱けるだろうか。
私とて男だ。女を抱いた事が無い訳ではない。
だが、それもヒューズらと娼館に繰り出した経験がほとんどだ。
おそらく初めてのリザをリードしてやる事が出来るか、それまで私は自分を抑えていられるか。
これは男の沽券に関わる問題だ。いや、なんとかしなければ。
 
そんなことを考えているとは、おくびにも出さず、私はリザを横たえたベッドに座った。
彼女にしがみつかれた時から、欲情の兆候が私の身体に現れている。
真面目に色々考えていても、身体は正直過ぎる程に正直だ。
 
緊張しているリザに一声かけようかと彼女の耳元に口を寄せると、ふっくらした耳朶が目に止まる。
可愛いなぁと思うと、つい口に含みたくなった。
ついでに柔らかく噛んでやると、リザがびくりと身を堅くするのが分かった。
 
「止めるなら今だよ、リザ。これから先は、私にも止められそうもない」
一応の警告を投げかけると、リザは驚いたことに自分から唇を重ねて来た。
彼女にしては精一杯であろう、乾いた唇の硬いキス。
ぎこちないその振る舞いの初々しさに、私は自分を抑えられなくなって、彼女の上にのし掛かる。
 
性急にシャツを脱ぎながら、私は言葉を添える。
彼女をこの部屋に連れて来る途中にも話したが、どうも彼女には伝わっていない気がした言葉を。
「リザ。君の背中も、君の想いも決して無駄にはしない。だから」
どうか自分を粗末にしてくれるな。どんな形を取ろうとも、君を恒久的に幸せにしてやりたい。
 
既に半分露わになっている白い肌に目を奪われ、私は喪服を引き下ろす。
柔らかな胸元に唇を近づけながら、万感の思いを込めて言う。
「君は君の幸せを、きっと見つけて欲しい」
私では、役者不足なのだ。
君を幸せにしたい気持ちはあっても、軍に入ったばかりの上に、錬金術の修行の道半ばの私にはその力がまだ無い。情けないことだが。
 
そんな思いを抱えて、リザの細い首筋をそろりと舐めると、更に彼女は身体を強ばらせた。
眉間に皺を寄せ唇を噛むリザは何かに耐えているようで、その表情にそそられた私は、胸元を隠そうとする彼女の両の手首を抑えつけ、その瑞々しい胸を啄(ついば)んだ。
彼女の四肢にこれ以上ないほど、力が入ったのが伝わってくる。
唇を噛んだまま目を閉じている苦しそうな表情は変わらず、私は一抹の不安を感じる。気持ち良くないのか?
私は何とか彼女を感じさせようと、更に舌先で柔らかな先端を転がし、反対の乳房をなぶる。
四肢だけでなく、全身の強張りが強くなっていく。
 
私はなんとか彼女の強張りをほぐそうと、柔らかく滑らかな肌のそこかしこに唇を寄せ、指先を這わせた。
耳、首筋、鎖骨、脇腹、胸、臍、下腹部。舐めてなぞり、甘噛みし、強く吸い、私の舌が触れていないのは、もう彼女の最後の砦だけになっていた。
私の我慢は限界に近いというのに、リザの顔はうっすらと上気しているものの、表情は変わらず声すらあげない。
私は内心焦りを感じていた。
 
とりあえず、挿れてしまおうか。
往生した私は、固く閉じられた膝に阻まれながらも、彼女の深部に指先を伸ばした。
ズルリと奥へ潜り込むと、驚いた事に彼女の幼いそこはしっかりと潤いを生じていた。
私は思わずリザの顔を見つめた。こんなになっているのに、声もたてずに我慢していたのか!
あまりの初心(うぶ)さに、我知らず顔がほころぶ。
 
私は彼女の内に通ずる湿った入り口を指で撫でながら、片手で彼女を抱き寄せた。
「リザ、我慢してるのかい?」
途端に彼女の顔が真っ赤になる。
「我慢なんて。。。ただ」
「ただ?」
「どうしたら良いのか分からなくて。。。」
消え入りそうな声で答える彼女の可愛さに思わず口付け、私は答える。
「力を抜いて、リザ。後は自然に任せれば良い」
リザの身体から少しずつ強張りが抜けていく。
頃合いを見計らって、私はゆるりと彼女の蕾を撫で上げる。
不意を突かれ、可愛いらしい声を上げたリザの身体がのけぞる。
 
もう駄目だ。限界だ。
私はリザの膝の間に入ると、彼女の中に自分を埋め込もうとした。
固く閉じられた未踏の場所は、なかなか私を受け入れず、リザの顔が苦悶に歪む。
苦労してようよう彼女の中に入りこんだ私は、狭いリザの中ではあまり動けず、それ程は保たずに果ててしまった。
少々決まりが悪いが、リザはそれどころではない様子だ。
破瓜(はか)の紅がシーツに散っているのが、目に入った。
また泣いているのではないだろうか。
そう思ってリザを見ると、彼女の榛色の瞳は乾いたまま静かに天井を見上げているだけだった。
 
丸1日、私たちは幾度となく交わった。
彼女の背中を描き写しながら、合間にどちらからともなく求め合った。
ぎこちなかったリザが徐々に反応を示し始め、小さな唇から漏れる吐息が私の劣情を刺激する。
 
私は際限なく彼女を求めた。
その身体を。
その背中の秘伝を。
 
彼女の背中の紋様を写し取り終わった時、私は決心していた。
リザとともに生きていこうと。
自分の手で女にした彼女を手放したくなくなっていた
私は軍人でまだ駆け出しの下っ端で、これからどうにも難解な師匠の置き土産を解読しなくてはならなくて、私の将来は海の物とも山の物ともつかないけれど。
しかし、まぁ、二人でいればなんとかなるだろう。
 
「私は明朝、軍に戻らなければならない。準備に少し時間がかかるかもしれないが、必ず迎えに戻るから。待っていてくれるね?」
何度目かなどともう分からないくらい彼女を抱いた後、私がそう伝えると腕の中のリザが身を堅くするのが分かった。
彼女も私と離れるのが淋しいのだろう。
手前勝手にそう思っていた私を、意外な言葉が切り裂いた。
 
「何を仰っているのですか?マスタングさん」
きょとんとした無邪気な瞳が私を見つめる。
「え。。。?」
訳が分からない私にリザは平然と言葉を返す。
「貴方に父の秘伝をお渡しした今、私の役目は終わりました。どうぞ、大衆の為にその研究を役立てて下さい。この国の民に幸せを。きっと成し遂げて下さいね」
「リザ?」
「私に“幸せ”をありがとうございました。これで、一人でも生きていけますから」
「リザ、いったい何を言っているんだ?」
「だって、マスタングさんが欲していらっしゃったのは『秘伝を持った師匠の娘』であって、私『リザ・ホークアイ個人』ではないのでしょう?秘伝を手にされた今、私はもう必要ないでしょう」
「何を莫迦な!!」
「。。。だったら、何故」
 
リザの唇が笑いの形を作り、その後の言葉は呆然とする私の元に届く前に、シーツの間に落ちて消えた。
 
 
To be Continued...
  
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【後書きの様なもの】
すみません、終わりませんでした。orz
エロは微妙に自粛してはおります、R15くらいですかね。
【04.Side Riza】でリザちゃんが絶望していた時、マスタングは呑気にこんな風だったり。
若いね、余裕がないね、そんなマスタング莫迦で愛らしいかな。
 
もうしばらくお付き合い下さると、有り難いです。
次回は【06.Side Riza】です、もちろん。