Twitter Nobel log 40

1951. 彼女が淹れる珈琲の濃さに、舌が慣れている。もう、私好みに淹れられたらものか、彼女に慣らされたものか、分からないほどに。月日を共に重ねるとは、こんな何でもない日常の積み重ねなのかもしれない。1952. 他の男も見てから決めれば良かったのに、…

Twitter Nobel log 39

1901. 今は灯りを付けないで。こんな表情、貴方には見せられない。ただの女みたいに下らないことで涙を隠せないなんて。涙の気配を感じても何も言わないでくれる優しさに、今は救われる。闇の中に零した弱音は、闇の中に隠したまま。貴方のシャツの胸元の生…

Twitter Nobel log 38

1851. やけ酒なんてらしくないのに さい終的にアルコールに負けた君を しかたないと言い訳し いえに連れ帰る。 うっかり関係を持ってしまったとしても それは酒のせい。ただ酒の見せた幻。 つたない口付けに きみが隠した想いを受け取る。1852. ひきつる顔を…

Vermillion

カタリ、と小さな物音が聞こえた。 それは、とてもとても小さな物音であったけれど、軍人である彼女の眠りを覚ますには十分な大きさを持っていた。 リザは心地好いベッドの温もりの狭間でうっすらと目を開き、寝ぼけ眼のまま、そっと白いシーツの中に指先を…

夏コミ御礼

気付けば夏コミから早一週間、お礼が遅くなってしまって申し訳ありませんでした。改めまして、夏コミにお運び下さった皆様、どうもありがとうございました。 二年ぶりの夏コミは流石に一昨年よりはマシでしたが、やっぱり暑かったです。そんな中いらしていた…

blue-black 【前編】

夜の執務室は静けさに満ちている。 深夜の残業の効率の悪さにロイは、いったん作業を諦め仮眠を取ろうと試みていた。 疲労は彼の肉体を蝕んでいたが、頭脳は奇妙に冴え渡り、今日に限って彼の意識を眠りへと導いてはくれない。 しかし、眠ろうとすればするほ…

C88サンプル

涙は凍り花と散る 火曜日の三時間目と四時間目の間の休み時間、梨紗はいつものように、窓際の自分の席から窓の外を眺める。 今日は通るだろうか? 駄目元なんだから、期待はしない方がいい。 偶然。そう、偶然姿が見られたらいいな、そのくらいにしておかな…

carmine

スリーコールを待たずに出た電話の向こうに、聞き慣れた声が響いた。 「どうも。ご贔屓の花屋ですが」 リザは、一瞬、何も聞かずにふざけた電話を切ろうかと考えた。 些細な言い争いに二人が大人げない喧嘩別れをしたのは、ほんの三〇分ほど前のことであった…

overcome

怪談。 怖い話。 七不思議。 何故、そんな話題になったのか誰も覚えていない。 酒の席での他愛のない話など、大抵がそんなものだ。 強いて言うならば、夏を思わせる蒸し暑い夜の空気が、夏には少し早いその話題を呼び寄せたのかもしれなかった。 しかし、こ…

flat-topped

「ああ」 鞄を開けた増田は、少し哀しい声を上げた。彼はペタンコになった購買部の紙袋を鞄の中から取り出すと、そっとその中に手を入れた。 「あー」 袋の中身を取り出しながら、増田は諦めと悲哀の声を上げる。紙袋から出て来た彼の掌の上には、無残にもス…

軍帽十番勝負! 番外編

「おめでとうございます」 リザはそう言うと、部屋に入ってきた礼装の男に向かい堅苦しい敬礼をしてみせた。 軍帽のつば越しに彼女を見たロイは、疲れた顔に困ったような、くすぐったいような表情を浮かべ、彼女の敬礼を片手でいなした。 「ああ、もう堅苦し…

as like as peas

※ 先日Twitterで参加した「#深夜の真剣文字書き60分一本勝負」のお清書版です。1.5倍くらいになってます。 ***** 「突入決行は二〇一五、計画に変更はない。先陣は私が率いる。各隊は部隊長の指示に従うように。以上だ」 ロイは簡潔に全部隊にそれだけを伝え…

Twitter Nobel log 37

1801. 久々に残業のない夜、解放感に友人と飲みに行く約束をしながら、少しの寂寥感が胸をよぎる。『彼と共にいる時間が減ってしまったからだ』そう呟く心を騙し、私はワーカホリックな自分を笑う。1802. 彼女の小言をBGMに仕事をこなす方が、効率が上がる。…

over shoot

週明けの当直ほど憂鬱なものはない。 それが、出動を伴うものであれば尚更だ。 リザは仮眠室の硬いベッドに半身を起こし、小さなあくびを噛み殺しながら、思う。 深夜〇二四五に叩き起こされ、小さな事件の解決に当たった彼女が再び仮眠室に戻ったのは〇五三…

通販のお知らせ

今年の夏コミで発行した本の自家通販の受付をさせていただきます。在庫が終了次第、申込の受付を終了させていただきます。(多分、今回では無くなりませんが。) 下記の事項をよく読んでいただいた上でご了承いただける方のみ、ご利用下さい。 通販の流れ ■…

if 【case 13】

もし、中佐時代のロイが女慣れしていなかったら §「いよう、鷹の目ちゃん」 書類を抱えて東方司令部の廊下を歩いていたリザは、聞いたことのある慣れ慣れしい声に呼び止められた。 鷹の目と呼ばれることには慣れてはいたが、この司令部の中でリザのことを“ち…

Twitter Nobel log 36

1751. シャツを羽織る広い背中を、ベッドの中から見送る。私の視線を感じても、彼は振り向かないし、私も何も言わない。そのくらいの温度で別れないと、明日が辛い。だから、顔は見ないで、名残は残さず、証拠は肌に残る移り香だけでいい。私たちが私たちを…

SCC御礼

本日お運び下さった皆様、ありがとうございました! お菓子やお差し入れ、沢山いつもありがとうございます! ありがたく頂戴させて頂きます。やっぱり、直接お話出来るイベントは楽しいです。頂いたお言葉、嬉しく、ありがたく噛みしめています。お届けした…

Fetish サンプル

甘 い 指「すまない。少し、寄り道をしても構わないか?」 夕闇に染まり始めた街路で立ち止まったロイは、リザに向かってそう言った。彼女は微かに小首を傾げてみせた。 市井の様子を自身の目で見回るという彼のポリシーに則った、金曜日の定例の巡回の帰り…

Twitter Nobel log 35

1701. 囁くのは愛の言葉ではなく、陰謀策略。非情な言葉で、君は私に命を捧ぐ。甘くない愛だってあるのだと、私は振り向かず彼女の言葉を受け取る。背中を向けることが想いに応えることだなんて、君は誰よりズルい女だよ。1702. 背中に熱量を感じた。彼女の…

寒夜に霜を聞く如く サンプル

第一夜 寒い夜は酷く感傷的になることがある。 そう、例えばこんな風に眠れない夜には。 リザは冷たいシーツの中ですっかり冷えてしまった爪先を丸め、ころりと寝返りを打った。 いつもと同じデスクワークや会議に加え、今日は遠方への上官の査察の運転手を…

Twitter Nobel log 34

1651. 任務の為に眼鏡を壊されるのは構わないのですが、上官二人がどちらが弁償するかで揉めて困っています。経費で良いんじゃないかなぁと僕は思うのですが、馬に蹴られるのは困るので、子犬と遊んで待つことにします。早く終わると良いのですが。1652. 「…

HARUの没原稿(未完)

注意:未完です。 「なぁ、中尉」 「何でしょうか、大佐」 双眼鏡を目に当てたロイは、視線を遠方に固定したまま傍らにリザに問う。 「今回のこの事件、何故これ程までに事態が面倒な方向に転がっていっているのかね」 「運とタイミングが悪い方へ重なったと…

overprotectiveness

「目標七五〇メートル。標的、射程内に捉えました」 「了解した。引き続き待機を命じる」 「ラジャー」 必要事項だけを告げる短い通信は、了承の言葉と共に素っ気なくぷつりと切られた。 「さすが、大尉ですね。簡潔にも程がある」 「状況は聞かずとも、スコ…

Twitter Nobel log 33

1601. 物凄い金額の請求書が届いた時に、夜遊びの付けだとか高級品への散財を疑う前に、また本が増えたのかと溜め息をつく私は、ある意味彼に教育されてしまっているのだろうと思う。そしてそれを疑う必要の無いことは、ある意味とても幸せなのだろな、とも…

通販のお知らせ

今までに発行した本の自家通販の受付をさせていただきます。各頒布物とも在庫が終了次第、申込の受付を終了させていただきます。各頒布物共に、現時点におきましては在庫終了後の再販予定はありません。 下記の事項をよく読んでいただいた上でご了承いただけ…

中尉両親馴れ初め妄想 【1】

Twitterで中尉両親の馴れ初めみたいなのを書いた流れで、中尉両親馴れ初め妄想。考察と言うほどのものでもなく、ただ妄想垂れ流しです。一応、パーフェクトガイドブック2の『グラマン中将が中尉の母方の祖父』設定が生きてるものとして(作中には全く出なか…

あれから三年経ちまして(私的なこととWeb再録)

Caution! 以下、現実のとても重たい話です。(サクラちゃんのことです) で、その後に過去のゲスト原稿のWeb再録ありますが、伝奇ファンタジーパラレルの三次創作の上にロイアイが夫婦です。 その辺踏まえた上で、OKな方のみどうぞ。 相方・サクラチハルさ…

Twitter Nobel log 32

1551. 君なら二口、私は一口、皿の上には莓が三粒。食べる速度を合わせるならば、君に一粒、私が二粒。そんな簡単な算数よりも、私は三粒を君に譲る。莓が三粒、笑顔が一つ、少し気障な等価交換。珈琲を飲みながら、私は台所の錬金術を楽しむ。1552. 前、開…

秋の風物詩

『もしもし』 三コールを数える前に取られた電話の向こうから、彼女の好きな甘い声が聞こえた。 「もしもし、こんばんは」 『こんばんは。どうした? 珍しいな、君からこんな時間に』 「御迷惑でしたか?」 『いや。ネットを見ながら飲んでいただけだから、…